著者
山根 仁 金原 伸大 江田 慧子 中村 寛志
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.8, pp.29-39, 2010-03

本研究は長野県松本市にある上高地において,チョウ類群集の季節変動や種構成を明らかにするとともに,チョウ類群集を用いて環境評価を行った。調査は2009年5月26日,6月23日,7月24日,7月30日,8月20日,10月16日の計6回のチョウ類のトランセクト調査を行い,また2009年7月24日と7月30日には定点観測を実施した。その結果,トランセクト調査では7科41種554個体が,また,定点観測では6科24種152個体が確認された。上高地の種構成は高原性種の割合が53.7%で最も高く,またクモマツマキチョウ北アルプス・戸隠亜種Anthocharis cardamines isshikii,オオイチモンジLimenitis populi jezoensis,コヒオドシAglaisurticae esakii の3種の高山チョウが確認された。上位優占3種は,ヤマキマダラヒカゲNeope niphonicaniphonica,コムラサキApatura metis substituta,スジグロシロチョウPieris melete meleteであった。Simpson の多様度指数の値は,平均8.22で6月23日以外は安定した値を示した。EI 指数は100となり,「良好な林や草原」と判定され,環境階級存在比(ER)による環境評価では,天然更新林といった環境の1次段階と判定された。また,過去の上高地や近隣の島々谷のチョウ類群集との比較から,現在の上高地のチョウ類群集はタテハチョウ科や高原性種が増加傾向にあり,それらの種の生息に特に適した環境になりつつあることが示唆された。
著者
江田 慧子 中村 寛志
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.121-126, 2011-10-11
被引用文献数
2

ミヤマシジミの食草は在来のコマツナギであるが,近年中国産コマツナギが道路法面の緑化に使われるようになってきた.本研究では,ミヤマシジミ幼虫が中国産コマツナギを摂食して正常に成長するかどうかを確認し,その生存率と発育状態を在来コマツナギを食べた個体と比較した.孵化直後のミヤマシジミの幼虫を在来コマツナギ食43個体と中国産コマツナギ食65個体のグループに分け,25℃,16L:8Dの恒温器で成虫まで飼育した.♂の発育期間は♀より約2日ほど早かった.生存率,羽化不全率,発育期間に関しては,在来コマツナギ食と中国産コマツナギ食では差がみられなかった.蛹体重と前翅長の平均値は,在来コマツナギ食より中国産コマツナギ食の方が大きかった.これらの結果から,ミヤマシジミが中国産コマツナギを食草にする可能性を考察した.
著者
市川 哲生 中村 寛志 吉田 利男
出版者
日本環境動物昆虫学会
雑誌
環動昆 (ISSN:09154698)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.169-177, 2004-08-25
参考文献数
13
被引用文献数
1

12月から3月を除く2001年9月から2002年11月にかけて, 長野県の木曽川流域および天竜川流域において, プラスチック・コンテナを用いたカワネズミの生息調査法を確立することを目的に, 食痕による出現種の推定, プラスチック・コンテナ設置期間について調査を行なった. カワネズミの食痕はコンテナ内部に, 餌である生魚の頭部から背骨を残さずに, 半分ほど紛失する状態で残るものや, そのような食痕がついた状態でコンテナの出入り口から糸ごと外に引き出されるといった特徴がみられた. プラスチック・コンテナ設置期間中の降雨などによる中断によって設置期間は長期化する傾向がみられ, 流路幅は設置期間を変化させることはなかった. 非生息地点と判定されるまでに最低限必要なコンテナ設置期間を推定した結果, 17日間であった.
著者
中村 寛志 Chavez F.G.
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
巻号頁・発行日
no.5, pp.77-82, 2007 (Released:2010-04-05)

本調査は、インゲンテントウの原産地とされるグアテマラ高地のチマルテナンゴにおいて、インゲン類の被害実体の明らかにするために、2004年9月に行ったものである。農業研究所ICTAの圃場では、インゲンのGreen bean系統では1200株中、食害痕は11株、Black bean系統では食害痕はみられなかった。栽培農家のインゲンとベニバナインゲンの圃場では、食害痕のあった株の割合は3~18.9%で、幼虫への寄生率が46.7%もある圃場もみられた。採集したマミーから寄生バエの蛹が出てきたが種名は不明であった。卵塊卵粒数は最小27卵、最大50卵で、平均卵粒数は40.3(サンプル数13卵塊)であった。採集した成虫の中に僅かの割合ではあるが、鞘翅斑紋に変異のある個体がみられた。また斑紋の変異個体と正常な斑紋の個体との交尾が観察された。
著者
梅村 信哉 Tayutivutukul J. 中村 寛志
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.31-36, 2005-03

2003年10月19日から2003年10月30日にかけて,タイ国チェンマイにおける6つの調査地(チェンマイ大学,Mae Hia Station, Chang Kien Station, Nong Hoi Station, チェンマイ市郊外)においてスウィーピングとビーディングを用いてハムシ類の定性的調査を行った。調査全体を通じて8亜科24種(チェンマイ大学:11種,Mae Hia Station:3種,Chang Kien Station;2種,Nong Hoi Station:11種,チェンマイ市郊外;4種)のハムシ類を確認した。このうち,ヒメアカクビボソハムシLema coomani,ウリハムシAulacophora indica,ヒメクロウリハムシAulacophora lewisii,キイロクワハムシMonolepta pallidula,ヒメドウガネトビハムシChaetonema (Chaetocnema) concinnicollis,カミナリハムシAltica cyanea,ジンガサハムシAspidomorpha furcataの7種は日本にも分布する種であった。これらのデータをもとにハムシ類の目録を作成した。
著者
江田 慧子 田中 健太 平尾 章 中村 寛志
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.12, pp.47-54, 2014-03

絶滅危惧種であるクモマツマキチョウを保全し絶滅から守るためには,定量的で効率的な飼育体系を確立する必要がある。本報告は2012年に著者らが行った本種の飼育方法と得られた飼育に関する定量的データを記載したものである。卵の採卵にはメス成虫3個体から81卵を採卵することができた。卵は75.9%が孵化した。幼虫の飼育は直方体プラスチックシャーレで行った。餌としてミヤマハタザオを与えて,個別飼育を行った。温度は20℃,日長は12L:12Dと一定にした。幼虫期の生存率は68.2%であった。1~2齢幼虫では死亡する個体が見られたが,3齢幼虫以降は1個体も死亡しなかった。幼虫期の平均日数は18.20日であった。幼虫の体長の平均は緩やかに増加し,5齢幼虫期の25.8㎜が最大であった。蛹体重は蛹化7日目で125.7㎎で時間がたつにつれて軽くなった。蛹化28日後から3つの処理期間(75日,105日,135日)で低温処理(4℃)を行った。その結果,処理期間が短いほど,処理後から羽化までの日数が長くなった。また135日の低温処理では,すべての羽化成虫が口吻が融合していない奇形だった。成虫は最長で47日間生存した。
著者
柳生 将之 中村 寛志 宮崎 敏孝
出版者
日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.187-196, 2007-11-26 (Released:2011-12-02)
参考文献数
32

To develop a method for harmlessly identifying individual Japanese charr, Salvelinus leucomaenis, the distribution and shape of parr marks were examined in fluvial specimens. Fish captured in six markandrecapture samples from a tributary of the Tenryu River (35°41'N, 138°07'E, El. 1, 045m) between June 2005 and May 2006 were photographed, and the linear distance and width of each parr mark on the lateral line measured from digital images. Similarities between and within individuals during growth were analyzed using square Euclidean distances. A photomatching test was also conducted.The number of parr marks and the parr mark ratio increased with body length (BL) up to 50 mm BL. The square Euclidean distance was not correlated with the number of days until recapture, although there was a negative correlation with initial BL (distribution: r=-0.25, P=0.029, width: r=-0.24, P=0.038). The similarity analysis discriminated 74% and 95% of parr mark distribution and width, respectively, in the same individuals. In the photo-matching test, 8 of 10 testers identified 20 individuals from 40 photographs (average accuracy 97%), the exercise requiring about 2 h per tester.This method, utilizing parr marks, enables the identification of individuals with visible parr marks on the base of tail (BL>32 mm) without harming the fish. This should be useful for identifying fish with parr marks, especially in endangered charr populations.
著者
中村 寛志
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.137-144, 1980-08-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
12
被引用文献数
5 10

集合性昆虫の一種であるマツノキハバチの幼虫について集団サイズ別分離飼育を行い集合効果の検証をするとともに,幼虫集団の摂食過程と集合形態の調査を行った。1. 集団サイズ別分離飼育における令期間は1頭区の1, 2令期が他の集団サイズより長くなったが,繭重量に関しては差がみられなかった。また集団サイズと生存率の関係は1, 2, 3, 5頭区で55∼60%,7頭区で77%, 10, 20頭区ではほぼ100%であった。2. 不適な餌による集団サイズ別分離飼育においても10, 20頭区はほとんど死亡がみられず集団サイズが小さくなるにつれて死亡率が高くなった。3. 孵化幼虫はアカマツの枝の先端に集団を形成するが,1令幼虫では1葉につき約8頭の小集団に分かれて摂食した。また脱皮時には葉の基部に多くの個体が集まり密な集団を形成した。4. 以上のことから明らかになった本種幼虫の摂食集団と脱皮集団という2種類の集合形態の生態的意義を考察した。
著者
中山 陽介 江田 慧子 中村 寛志
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.7, pp.29-36, 2009-03

本報告は,信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)西駒ステーション演習林を中心とした地域について,昆虫類のデータベース化の第一歩として,また将来的にシデムシを指標種とした環境モニタリングの基礎データとして利用するため,西駒演習林標高別のシデムシ相を調査しその目録を作成したものである。調査期間は2008年6月19日から同年11月1日にかけて,全5回の調査を実施し,加えて3回の補足調査を実施した。調査には鶏肉を誘引用のベイトとしたピットフォールトラップ法用いた。今回の調査でシデムシ科14種447個体が採集された。内訳はモンシデムシ亜科8種,ヒラタシデムシ亜科5種,ツヤシデムシ亜科1種であった.長野県レッドデータブックにおける絶滅危惧Ⅱ類としてはビロウドヒラタシデムシとベッコウヒラタシデムシの2種,準絶滅危惧種ではマエモンシデムシ,ヒメモンシデムシ,ヒロオビモンシデムシおよびツノグロモンシデムシの4種が確認された。