著者
野村 哲郎
出版者
日本動物遺伝育種学会
雑誌
動物遺伝育種研究 (ISSN:13459961)
巻号頁・発行日
vol.30, no.Supplement, pp.4-15, 2002-11-10 (Released:2010-03-18)
参考文献数
20

2002年8月19-23日にフランス・モンペリエで開催された第7回WCGALP (遺伝学の畜産への応用に関する国際会議) では、Management of genetic diversityのセクションにおいて50題の研究発表が行われた。そのうちのいくつかの研究発表を中心に最新の研究動向についてまとめた。まず、集団内の遺伝的多様性を低下させる要因について考察し、分子遺伝学の技術を取り入れた遺伝的多様性の保全方法について最近の研究動向を解説した。さらに、絶滅に瀕した複数の集団 (品種) を対象とした集団間の遺伝距離の利用方法についても紹介した。
著者
米田 一裕 只野 亮 都築 政起
出版者
日本動物遺伝育種学会
雑誌
動物遺伝育種研究 (ISSN:13459961)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.5-11, 2010 (Released:2012-02-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

岡山県には、和牛の近代的育種が開始される以前の「蔓牛」に由来する系統を、他系統との交配を避けて維持してきた閉鎖集団が残されている。本研究ではこの希少系統の維持保存を目的として、その遺伝的特徴についてマイクロサテライトマーカーを用いて解析した。希少系統39個体および対照として他系統の個体および本希少系統と他系統との交雑個体計33個体について、23座位のマイクロサテライトマーカーの遺伝子型を決定した。その結果、希少系統では対立遺伝子数の平均値は3.22、有効対立遺伝子数の平均値は2.04、ヘテロ接合度の平均値は、実測値で0.4827、推測値で0.4599となり、いずれも対照群よりも低い値を示した。次に、希少系統の各個体を世代毎に分けて近交係数、ヘテロ接合度の平均値、1座位あたりの対立遺伝子数の平均値を算出したところ、世代が進むにしたがって近交係数は7.94から16.79に上昇するとともにヘテロ接合度は0.6273から0.4534に低下し、集団の遺伝的多様性が減少していることが示唆された。さらに各マーカーの遺伝子型をもとに72個体についてのクラスター解析および分子系統樹の作成を行ったところ、いずれの方法においても希少系統は対照群と遺伝的に明確に区別されること、希少系統内では家系に対応した大きく2つのグループに分かれることが明らかとなった。以上の結果は、今後の本希少系統の維持保存と、黒毛和種の育種への利用にあたって、有用な情報を提供するものと考えられた。
著者
石川 俊平
出版者
動物遺伝育種研究
雑誌
動物遺伝育種研究 (ISSN:13449265)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.1-11, 2007

通常ヒトの細胞には遺伝子は2個 (2コピー) あり、片方は父方、もう片方は母方に由来すると考えられてきた。しかし近年、個人によっては1個の細胞あたりに存在する遺伝子が1コピーであったり、あるいは3コピー以上存在するといった遺伝子の数の個人差 (コピー数多型=Copy Number Viariation: CNV用語 (1) ) があることが判明し注目されている。疾患のリスク、様々な薬の治療応答性、副作用の違いといった個人の体質差を生み出す原因として、これまではSNP (一塩基置換多型) に代表される個人間の遺伝子の"配列の違い"が良く知られているが、近年見つかってきたCNVは遺伝子の"数の違い"であり遺伝子をまるごと含むような数Kbp~数Mbpの長さの大きな領域の数が個人間で異なるというものである。