著者
都築 政起 水谷 誠 伊藤 愼一 小野 珠乙
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

ヒメウズラ(Excalfactoria chinensis)を鳥類最小の実験動物として確立するためのデータ収集を、発生・発生工学的ならびに遺伝学的見地から遂行し、以下の成果を得た。1. 体表各部および骨格系の発達程度を全射卵期間に渡って調査し、それぞれ39および15ステージからなる「ヒメウズラ胚の正常発生における発生段階表」を完成した。2.酵素・タンパク質の多型を検出するための、従来よりも簡便な電気泳動方法の検討を行い、23種類の酵素およびタンパク質を検出するための泳動条件を確立した。また、7種の酵素・タンパク質について、その遺伝様式を明らかにした。3.胚盤葉細胞注入によるキメラ作成を行った。ドナーにヒメウズラを、レシピエントにウズラを用いた場合と、その逆に、ドナーにウズラを、レシピエントにヒメウズラを用いた場合の2種類の異属間移植を行い、いずれの場合もキメラ作出に成功した。しかしながら、後代検定の結果、このキメラの子孫にはドナー由来の形質をもつ個体は出現せず、今回得られたキメラは生殖細胞キメラにはなっていない可能性が示唆された。4.ミトコンドリアDNAのシトクロムb領域に対し、PCR-RFLP解析を行って切断型多型を検出すると共に、シークエンシングを行って、シトクロムb遺伝子の全塩基配列を決定した。5.ニワトリのマイクロサテライトDNA増幅用プライマーセットの内、約20%のものがヒメウズラにも適用可能であることが明らかになった。この事実から、今後、ヒメウズラのゲノムマッピングのためにはヒメウズラ専用のプライマーセットを開発する必要があることが示された。6.各種植物レクチンあるいはウイルス性凝集素により識別される6種の赤血球凝集原を発見し、それぞれの遺伝様式を明らかにした。以上の成果から、ヒメウズラの実験動物化のための第一段階は完遂されたと考えられる。
著者
都築 政起 若杉 昇
出版者
Japanese Association for Laboratory Animal Science
雑誌
Experimental Animals (ISSN:00075124)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.137-144, 1988-04-01 (Released:2010-08-25)
参考文献数
9
被引用文献数
3 3

ニホンウズラの新しい突然変異「back-drawer」は, 腹部を覗き込むようにして首を腹側に強く曲げ, しゃがみ込んだ姿勢で, 常時後ずさりをする行動を示し, 時折前方に回転する。この異常は, 孵化時から8週齢の間に発症し, 症状は一時的な発作として出現するのではなく, 一定期間持続した。発症個体は3つのタイプに分けられ, 1つは, 孵化時既に症状を示しており5日齢以前に死亡するもので, 他の2つは2週齢時以降に発症し, 発症後早期に死亡するもの, および長期間生存するものであった。後者では, 症状が漸次軽減し, やがて正常個体との区別が困難となるものもあった。雄は, 外見的に性成熟に達した後も, 異常行動を示す期間は繁殖力をもたないが, 回復後は繁殖力をもつようになる。一方, 雌はほとんど産卵せず早期に死亡する傾向がある。後ずさり形質は, 常染色体性の2対の劣性遺伝子によって支配されていると考えられる。
著者
米田 一裕 只野 亮 都築 政起
出版者
日本動物遺伝育種学会
雑誌
動物遺伝育種研究 (ISSN:13459961)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.5-11, 2010 (Released:2012-02-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

岡山県には、和牛の近代的育種が開始される以前の「蔓牛」に由来する系統を、他系統との交配を避けて維持してきた閉鎖集団が残されている。本研究ではこの希少系統の維持保存を目的として、その遺伝的特徴についてマイクロサテライトマーカーを用いて解析した。希少系統39個体および対照として他系統の個体および本希少系統と他系統との交雑個体計33個体について、23座位のマイクロサテライトマーカーの遺伝子型を決定した。その結果、希少系統では対立遺伝子数の平均値は3.22、有効対立遺伝子数の平均値は2.04、ヘテロ接合度の平均値は、実測値で0.4827、推測値で0.4599となり、いずれも対照群よりも低い値を示した。次に、希少系統の各個体を世代毎に分けて近交係数、ヘテロ接合度の平均値、1座位あたりの対立遺伝子数の平均値を算出したところ、世代が進むにしたがって近交係数は7.94から16.79に上昇するとともにヘテロ接合度は0.6273から0.4534に低下し、集団の遺伝的多様性が減少していることが示唆された。さらに各マーカーの遺伝子型をもとに72個体についてのクラスター解析および分子系統樹の作成を行ったところ、いずれの方法においても希少系統は対照群と遺伝的に明確に区別されること、希少系統内では家系に対応した大きく2つのグループに分かれることが明らかとなった。以上の結果は、今後の本希少系統の維持保存と、黒毛和種の育種への利用にあたって、有用な情報を提供するものと考えられた。
著者
米田 一裕 木下 こづえ 林 輝昭 伊藤 修 大峡 芽 奥田 和男 川上 茂久 谷口 敦 奥田 龍太 石川 達也 佐藤 梓 池辺 祐介 只野 亮 都築 政起 国枝 哲夫 楠 比呂志
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.133-141, 2010-05-25

動物園などでの飼育環境下にある動物の遺伝的多様性を維持することは重要な課題である.本研究では,イエネコのマイクロサテライトマーカーを用いて,飼育環境下の62個体のチーターの遺伝的多様性と血縁関係を解析することを試みた.チーターのDNAより17座位のマーカーの増幅を試みた結果,すべてのマーカーで増幅産物が認められ,そのうちの15座位はチーターにおいても多型性が確認された.これらの座位における平均の対立遺伝子数は4.65,ヘテロ接合度は0.6398,多型情報量は0.5932であり,本集団の遺伝的多様性は,野生のチーターの集団と比べて大きな違いは無かった.また,総合父権否定確率は0.999733であり,実際にこれらのマーカーを用いて正確な親子判別が可能であることが確認された.各マーカーの遺伝子型を基に62個体のクラスター解析および分子系統樹の作成を行ったところ,これらの個体は,いくつかの集団に分類され,各集団は基本的に家系と一致していた.以上の結果は,今後わが国のチーター集団の遺伝的多様性を維持する上で重要な知見であると考えられた.
著者
和田 あづみ 柿添(石田) 裕香 加藤 秀樹 六車 香里 江袋 美知 奥本 正昭 都築 政起
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.427-434, 2000-04-25
被引用文献数
3

我々は, 1992年5月に大阪府堺市で捕獲した野生マウス(Mus musculus molossinus)を起源とする近交系の育成を試み, 1998年4月に新たな近交系MSKR系統として確立した.本研究では, この系統の形態学的, 繁殖学的, および遺伝学的基礎特性を明らかにした.MSKRマウスは60日齢時点で, 一般的な近交系マウスC57BL / 6Nの約60%の体重を示すと共に, C57BL / 6Nより小さい尾長 / 頭胴長比および後足長 / 頭胴長比, C57BL / 6Nより大きい耳介長 / 頭胴長比を示した.本系統は, 近親交配20-22世代において, 初産日齢63.20±2.71日, 初産子数6.20±0.37匹という, 優れた繁殖能力を示した.また, 遺伝学的基礎特性調査として, 34マイクロサテライトマーカータイプ, 29生化学的識遺伝子型, 9免疫遺伝学的標識遺伝子型, 3毛色遺伝子型, ならびに8種の制限酵素によるミトコンドリア制限酵素切断長多型を調査した結果, 本系統が従来の系統と異なるユニークなゲノム組成をもつことが明らかになった.