著者
丸山 大輔 東山 哲也
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.380-386, 2014-06-01 (Released:2015-06-01)
参考文献数
24

一つの卵に対して一つの精子が受精すること,これは一部の例外を除き,正しく次世代の個体を形作るうえで必須の条件である.動物の卵は熾烈な競争を勝ち抜いた最初の精子だけを受精させる,多精拒否という仕組みを備えている.植物の生殖においても,卵細胞を内部にもつ胚珠に対して,精細胞を運ぶ花粉管が通常1本しか侵入しないように調節する「多花粉管拒否」現象が存在する.本総説では,この細胞レベルのメカニズムと,受精の成功率を高める植物の戦略について解説する.
著者
井上 謙吾
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.509-513, 2008-07-01 (Released:2011-04-14)
参考文献数
5

筆者は現在,アメリカ・マサチューセッツ州のマサチューセッツ大学アマースト校,Derek R. Lovley 教授のもとで博士研究員として研究活動を行なっている.ここでは,渡米に関するエピソード,Lovley研究室での研究生活,鉄還元細菌Geobacter とこれを利用した微生物燃料電池の研究について紹介する.
著者
五十嵐 圭日子 鮫島 正浩
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.218-222, 2014-04-01 (Released:2015-04-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

植物資源からの燃料や化成品生産を実現するためには,セルロースの効率的な分解が必須であると考えられているが,セルラーゼによるセルロースの加水分解速度は非常に遅く,セルロース系バイオマス変換プロセスのボトルネックとなっている.そこで筆者らは,プロセッシブなセルラーゼによる結晶性セルロースの分解メカニズムを明らかにするために,1秒未満の時間分解能およびナノメートルの空間分解能を有する高速原子間力顕微鏡を用いたセルラーゼの単分子観察を行ったところ,トリコデルマ菌由来セロビオヒドロラーゼIの分子が,結晶セルロースの表面に沿って一方向にスライドするように観察された.また,その動きは活性をなくした変異酵素では見られなかったことから,本酵素がセルロースを加水分解しながらプロセッシブに進んでいるというこれまでの生化学的な結果が,初めて分子レベルで証明された.個々の分子の動きは「動く」ステップと「止まる」ステップを繰り返していたが,時間とともにセルロース表面における酵素分子の渋滞が生じ,セルロースの分解速度が遅くなることが明らかとなった.
著者
黒田 公美
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.745-753, 2013

人間を含め,哺乳類の子は幼弱に生まれるため,哺乳をはじめとして身体をきれいに保つ,保温する,外敵から守るといったさまざまな親からの養育(子育て)を受けなければ成長することができない.そのため親の脳には養育行動に必要な神経回路が生得的に備わっている.一方,子の側も受動的に世話をされるだけの存在ではなく,親を覚え,後を追い,声や表情でシグナルを送るなどの愛着行動を積極的に行って親との絆を維持している.親の養育が不適切な場合でも通常子から親を拒否することはなく,親をなだめ,しがみつき,何とか良い関係を取り戻そうと努力する.社会や自然界でごく当たり前に営まれている親子関係は,実はこのように親子双方の日々の活動によって支えられているのである.親子関係はすべての哺乳類の存続に必須であるため,子の愛着・親の養育本能を司る脳内メカニズムも基本的な部分は進化的に保存されていると考えられる.したがってマウスモデルを用いた愛着・養育行動研究が,将来的にヒトの親子関係とその問題の解明に役立つことは十分期待できる.本稿では,マウスを用いた最近の研究を中心に,養育行動の概要とそれを制御する分子神経機構についてご紹介する.
著者
山田 拓司
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.802-808, 2013-12-01 (Released:2014-12-01)
参考文献数
27

ヒトには1,000種,100兆細胞を超える細菌が共生していると言われている.特に腸管内に共生する腸内細菌叢(腸内マイクロバイオーム)は,もう一つの臓器とも呼ばれており,ヒトの健康状態やさまざまな疾病に関与していることが示唆されている.近年,細菌群集を研究する新たな方法として,メタゲノム解析と呼ばれる新たな研究手法が開発され,ヒト共生細菌研究は大きな飛躍を見せている.特に共生微生物研究が医療分野に与える影響とその可能性には大きな期待が寄せられている.本報ではこれまでの研究成果を踏まえ,①メタゲノム解析と腸内マイクロバイオーム,②近年の国内外の動向や発見,③医療との関係,さらに,④実際の応用に向けての可能性,について紹介していきたい.