著者
佐々木 閑
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.1025-1019, 2019-03
著者
AMANO Kyoko
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.1161-1167, 2015-03

黒ヤジュルヴェーダ・サンヒター(マイトラーヤニー・サンヒター[MS],カータカ・サンヒター,タイッティリーヤ・サンヒター)の散文部分は,ヴェーダ祭式についての最も古い説明書である.筆者による最近の研究は,MSの各章がそれぞれに示す言語的特徴を明らかにし,同文献において複数の言語層が存在するという可能性を示唆した.これは,MS成立の解明に向かう新たな視点と言える.本研究では,各章の言語や記述意図・記述スタイルの違いを浮き彫りにする数例の言語現象を取り上げる.MSにおける散文章すべてについて考察を行うが,特にIII巻1-5のAgniciti章のMSにおける位置づけに焦点を当てて考察する.その結果,マントラのみを,付随する祭式行為への言及なしに引用する用法,マントラをhi文で説明する用法,そしてyad aha...iti文でマントラを引用する用法が,III巻以降に顕著に頻繁になることが明らかになった.III巻以降,マントラの引用と説明に重点を置く傾向が強くなったと理解される.そして,これらの用法が,I巻4-5に共通して現れることも分かった.しかし,atha+esa-/eta- による祭式説明の導入の用法を見ると,III巻1-5とI巻10-11に共通していることが分かった.III巻以降の章は,I巻に見られるスタイルを選択的に踏襲しており,特にI巻4-5の影響が強く,I巻10-11も影響していることを,本考察の結論として述べた.
著者
手嶋 英貴
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.1143-1150, 2009-03-25

古代インドにおいて行われたヴェーダ祭式のうち,王権に関わりをもつものとして,ヴァージャペーヤ(Vajapeya),ラージャスーヤ(Rajasuya),およびアシュヴァメーダ(Asvamedha,馬犠牲祭)が挙げられる.「戦車走行」は,この三祭式すべてが共有する祭事要素であるが,従来は専ら前二者の間でのみ比較研究がおこなわれ,残るアシュヴァメーダについては詳しい検討がなされていない.そこで本稿は,アシュヴァメーダの戦車走行に的をしぼり,主に『バウダーヤナ・シュラウタ・スートラ』からその記述部分を紹介する.あわせて,同文献のヴァージャペーヤ章とラージャスーヤ章にある戦車走行部分を参照し,それとの比較を通して,三祭式の間にある連続と不連続の両面を確認する.その結果,アシュヴァメーダにおける戦車走行の特徴は,概ね次のように説明されうる:ヴァージャペーヤやラージャスーヤの戦車走行が「祭主の対抗者に勝つこと」や,それを通じた「戦利品(食物,家畜など)の獲得」を表象するのに対し,アシュヴァメーダの戦車走行では,そうした意図がほとんど前面に現れない.しかし一方で,その祭事形式および使用される祭詞が,一年前の「馬放ち」の日に行われた「馬の池入り」祭事とほぼ同じである.このことから,アシュヴァメーダの戦車走行が「馬の池入り」の再現という一面をもち,また「池入り」と同様に馬(祭主の代理)の象徴的再生を意図していることが窺われる.ただし,「池入り」では馬が戦車に繋がれることはなく,戦車走行は,祭馬を他の二頭の馬とともに戦車につなぐ点で固有性を示す.したがって,アシュヴァメーダの戦車走行は全体として,ヴァージャペーヤやラージャスーヤと共通する戦車使用の要素と,アシュヴァメーダ内での先行祭事である「馬の池入り」を再現する要素とが結合したものと推測される.