著者
李 賢京
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.15, pp.43-65, 2009-06-06

近年、韓国系教会においては、聖霊体験や現世利益を求める日本人信者たちと、「韓流」との接触を目的とする日本人たちが存在するようになり、過去に例のない教会参加者の多様性を見せている。そのため、韓国系教会では、教会への帰属意識を持つ「信者」と信者になることに抵抗感を持つ「非信者」、そして信者と非信者の間に位置する「信者周辺」というメンバーの複層化が顕在化している。このような複層化は、韓国人および韓国文化に接したい「韓流」ファンたちの強いニーズだけでなく、韓国系教会の宣教方法と韓国人信者の協力が重なり合うことによって生じている。一方で、こうした複層化の背景には、日本での「韓国」に対するイメージの変化があるのではないかと考えられる。本稿は、こうした韓国系教会におけるメンバーの複層的構成を明らかにすることで、現代日本社会における韓国系教会の宣教活動を検討するものである。
著者
矢野 秀武
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.7, pp.111-131, 2001-06-17

本稿は、タイにおいて巨大な寺院組織(教団)へと拡大してきたタンマカーイ寺およびタンマカーイ財団をとりあげている。1970年代初頭より活動を展開しているこの教団は、独特な瞑想実践の思想、マスメディアの使用、大規模な建造物の建立、大々的な教団イベントの実施、過剰な献金要求などから問題視され、1998年末から批判が高まり、タイ仏教史上重大な社会問題となっている。本稿では、そのようなタンマカーイ問題を直接は扱わないが、この問題の背後にある消費社会と宗教の接点からタンマカーイ寺と財団の特質を明らかにする。対象としては、瞑想実践、教団イベント、マスメディアの介在と、消費的な宗教行為の連関を取り上げる。そして彼らの宗教的な自己構築と自己表象の営みが、都市部の高学歴層が直面している、生産と消費の心性の急速な形成、消費社会と公的な仏教道徳の矛盾等の問題を、独自の形で乗り越える試みであることを明らかにする。
著者
五十嵐 真子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.10, pp.25-45, 2004-06-12

本論文は、佛光山を具体例に挙げながら、現在の台湾の仏教と社会との関係を分析するものである。佛光山は1967年に高雄県に開山され、台湾を代表する仏教聖地と言われている。壮麗な寺院や巨大な仏像に加え、博物館やギャラリー、宿泊施設なども有しており、単なる宗教施設というよりは、快適な観光地としての機能も兼ね備えている。また、台湾各地の施設では、多種多様な講座が提供され、社会教育活動が活発に行われている。さらに1998年と2002年には2つの仏舎利を迎えた。その際には、大規模な法会やパレードが挙行され、非常にアトラクティブなイベントとして演出されていた。これらは近年台湾において顕著になってきた文化観光や教養志向と呼応するものであり、宗教が信仰の対象だけでなく、教養や娯楽の対象としても注目されるようになってきたことを示している。しかし、そこで仏教が重要であり続けるのは、台湾の人々にとって佛光山が示す仏教が中国との文化的なつながりを示しており、そこに人々を引き付ける強い求心性を見ることができる。