著者
藤原 久仁子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.67-90, 2003

個人の経験する「マリア出現」は、神が示す一つの「奇跡」として人々に解釈される。しかし、「奇跡」が時の経過とともに「癒し」の「奇跡」に読み替えられ、「マリア出現」を契機とする巡礼地の成立後、「癒し」に関する新たな信仰が広まる場合がある。本稿では、マルタにおけるギルゲンティのマリア巡礼地を対象に、「出現のマリア」に対する崇敬と特定の「場所」や「物」とが結びついた、新たな「癒し」の信仰が巡礼者間に形成される経緯の検討を行う。具体的には、巡礼地で配布される小冊子に掲載された「奇跡」の体験談を分析対象に、ギルゲンティの泉の水、聖像、聖写真、スカプラリオ、「マリア出現」の体験者、ギルゲンティのマリア崇敬集団に着目し検討を行う。そして、巡礼地というさまざまな人が参集する場において、新たな信仰と実践が相互流通する実態を明らかにし、「物」が「癒し」の「奇跡」を物象化した媒体として機能すると同時に、異なる巡礼対象の宣伝媒体としても機能する点を指摘する。
著者
小島 伸之
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-47, 1998-07-06 (Released:2017-07-18)

本稿は、1899年(明治32年)宗教法案の評価を再検討するものである。先行研究における法案の評価は二つに分かれている。すなわち、宗教団体の自治権に変わって政府の直接把握をも射程に入れた宗教統制法だとする立場と、一定の範囲で教派宗派の自治を認め原則として政教分離の主義に立つ法律とする立場の二つである。この評価の違いは、法案の「教会」「寺」「教派」「宗派」規定の理解が鍵になっている。そこで、本稿は「教会」「寺」「教派」「宗派」規定を、条文と議会の議事録の分析によって実証的に検討した。その結果、法案は法人格取得のための許可ないし自治団体としての認可を求めているにすぎず、宗教上の結社一般については許認可を求めていないこと、教派宗派による自治を前提として、「教派」「宗派」と「宗教委員会」規定を置いていることなどを論証した。その結果、前者の立場は取り難いことが明らかになった。
著者
渡辺 光一 黒崎 浩行 弓山 達也
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.47-66, 2011-06-11 (Released:2017-07-18)
被引用文献数
1

100項目の宗教概念について日米の回答者に賛成か反対かを尋ねると、日米共通で信仰者のほうが非信仰者よりも賛成する共通概念が90も検出され、日米共通で生命主義的救済観が信じられているなど意外な点が多かった。教義と実際の信仰のかい離も検出された。さらに、1)人格神への信仰、2)教団宗教的規範、3)超越への働き掛け、4)大生命と魂、5)現世利益、6)感情の制御というお互いに相関する6つの共通概念群からなる日米共通の構造が検出された。それら共通概念群は、実践論的・顕教的か存在論的・密教的かという2つの独立したメタ因子からなるメタ共通構造に包摂され、有機的階層的な構造を成している。このうち、実践論的・顕教的なメタ因子のみが、信仰者の幸福度に対してプラスの効果を持つ。また、神に関する概念と幸福度の関係を調べると、人格的な神概念は幸福度にプラスの効果を、非人格(原理)的な神概念はマイナスの効果を持つ。
著者
古賀 万由里
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.7, pp.91-110, 2001-06-17

不幸の説明原理として用いられる概念や技法には、地域や時代により特色が見られる。アフリカでは妖術・邪術、死霊・悪霊などが多く見られ、特に妖術や邪術の場合は、日常の葛藤や対立関係が顕在化する。インドでは「カルマ」(業)理論が浸透しているのが特色である。南インド・ケーララ州北部では、不幸は「ドーシャム」(障り)によると考え、占星術師を訪れて、その解決法を求める。個人的な問題の場合は呪術(マントラワーダム)を、タラワードやコミュニティに関わる問題の場合は、神霊に捧げる儀礼「テイヤム」を行うように指示される。呪術、儀礼、占星術の担い手はカーストによる世襲であり、霊的なるものに関わる職能者はお互いを正当化し、依存関係にある。人々は不幸の原因を、実際の葛藤ではなく、神の怒りや悪霊などに転嫁し、儀礼の中で霊的な力(シャクティ)を様々な力で操作することにより、間接的な解決を図っているといえる。
著者
横井 桃子 川端 亮
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.79-95, 2013-06-15 (Released:2017-07-18)

従来の国際比較研究では、「教会出席」や「神との関係」といったキリスト教中心につくられた変数が宗教性を測るものとして用いられてきた。グローバル化する現代において、日本の宗教性を欧米のこれらの変数で正しく測ることは喫緊の課題となっている。本稿では、統計数理研究所の国民性調査の中の「宗教的な心は大切か」という質問文を日本人の宗教性を測るものとし、様々な社会意識や行動との関連を検討した。その結果、欧米の先行研究で検証されていたボランティア行動や利他的行動、投票行動、伝統的意識や社会的責任感に「宗教的な心」が影響を及ぼすことが分かった。日本における「宗教的な心」を用いて測定された宗教性が、欧米で用いられてきた従来の変数で測られるそれと操作的に同じはたらきをする可能性が示唆された。今後、「宗教的な心」が欧米の調査データでも検証されることで、さらにこの項目の有効性が明らかになるだろう。
著者
辻井 敦大
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-15, 2018-06-09 (Released:2020-06-30)
参考文献数
34

本稿は、寺院における永代供養墓の建立過程と建立の意図を明らかにすることを通して、日本社会における先祖祭祀の変容の一端を考察する試みである。これまでの先行研究では、先祖祭祀の変容を検討する上で家族変動との関連を検討することに注目が集まり、先祖祭祀の一端を担う寺院に注目したものは限られていた。これに対して本稿では、人口流出地域である兵庫県美方郡新温泉町と人口集中地域である東京都区部の寺院の事例研究を行い、永代供養墓の建立過程とその意図を分析した。その結果から、第一に寺院は「家」に限られない血縁を中心とした家族、親族間の「縁」、および寺院を中心とした寺院と檀家の「縁」を重要視しており、それを支えるために永代供養墓を建立していることを明らかにした。そして第二に、寺院が無縁となった死者の「死後の安寧」を保証するという論理は、戦前期に作られた納骨堂と現代的な永代供養墓の間で大きな違いがないことを示した。
著者
渡辺 光一
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.3-35, 2006

宗教について、組織理念とブランド、交換を通じた価値創造など、コミュニケーションとマーケティングという視点から考察を行った。そして、布教や教団活性化など教団の実践に役立つ実学を念頭に、インターネット利用者を対象とする定量的な実証調査について、「信仰者」と「関心者」を中心とした彼らの特徴を統計的に分析した。まず、宗教へのコミットメントや判断などの宗教的志向性について分析し、またメール相手の種類、相談やアドバイス、ネットコミュニティにおける匿名性や感情効果など、布教にかかわる情報コミュニケーションについて分析した。それを踏まえ、インターネットでのマーケティング手法を考慮してネットコミュニティによる布教の可能性について考察し、その可能性を生かせない教団のインターネット利用の問題点や現状認識について述べ、それらを克服するための望ましい宗教的な情報コミュニケーションのデザインについて提案した。
著者
古澤 健太郎
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.3-23, 2007-06-09 (Released:2017-07-18)

戦前戦後を通じ、沖縄のキリスト教は沖縄土着の信仰との対峙を迫られてきた。「ユタ」と呼ばれる民間シャーマンの影響力が極めて色濃い沖縄で、外来の宗教は常に土着の信仰について考えさせられていた。そのような状況にあって、戦前、戦後を通してバプテスト派の牧師たちには、シャーマニズムに強い関心をもって活動する傾向が多く見られる。土着の信仰をあるいは批判し、あるいはキリスト教に取り入れ、彼らは沖縄と向き合ってきた。これまで、沖縄におけるバプテスト派キリスト教の伝道は根拠の曖昧なままに語られてきた。しかしながら、いつの時代のいかなる出来事が沖縄バプテストの礎を築き上げたのか、いまだ明らかにはされていない。歴史資料、文献などを用いて、戦前、戦後の沖縄バプテスト連盟にアプローチすることで、土着文化の根強い土地に異文化思想が流入する際の1ケースを提示したい。
著者
櫻井 義秀
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.13, pp.255-274, 2007-06-09