著者
小尾 淳
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.19, pp.17-32, 2013

90年代初頭の経済自由化以降、インドは大きな社会変容を遂げつつある。本論文では、社会変動期のインドにおける宗教性を、「宗教のパトロネージ」の概念から捉える。交通インフラの向上に伴い、長距離の移動が格段に容易となったことを受け、都市郊外や海外へ有名寺院の一行が赴き、見世物化した宗教儀礼の巡業など、ダイナミックな宗教的移動が顕著に見られる。本論文の事例となる宗教芸能「バジャナ・サンプラダーヤ」(賛歌の伝統)の巡業や巡礼ツアーも、高い「移動性」に依拠して成立している。これらの需要を生み出し、経済的な受け皿となっているのは宗教活動に寄付を惜しまない中産階級や企業である。現代インドの宗教の特徴の一つとして「移動性」が顕著であること、宗教活動自体が新たな階級表現と捉えられることを指摘する。
著者
小原 克博
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.3-23, 1998

<p>本論文は、フェミニズム思想およびフェミニスト神学と対話しつつ、特にジェンダーの視点から伝統的な神理解の再解釈を試みる考察である。第1章では、最近の英訳聖書において、父なる神という伝統的理解が見直されつつある状況を考慮しながら、聖書が男性中心的であるという批判を解釈学的にどのように受けとめることができるかを論じる。第2章では、フェミニスト神学によって批判されている男性中心的神理解が、「神の像」という概念を媒介にして人間論にまで拡張されていることを考察する。第3章では、聖書的伝統の中には、父なる神、唯一神論という定型的理解に収まらない多様な神理解があることを論述する。第4章では、家父長制的拘束からの解放を模索するフェミニスト神学の試みを類型的および解釈学的に検討する。第5章では、フェミニスト神学の成果が日本の文化の中で、どのように受容されるべきかを示唆する。</p>
著者
白波瀬 達也
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.13, pp.25-49, 2007-06-09

本稿は野宿者が集住する最下層地域、釜ヶ崎において顕著にみられるキリスト教の「ホームレス伝道」とその受容状況について考察する。日雇労働者の街として知られる釜ヶ崎は、1960年代後半から1990年代初頭にかけて、労働運動が大きな影響力をもっており、キリスト教の直接的な伝道が困難な状況にあった。1990年代中頃に釜ヶ崎は大量の野宿者を生むようになるが、それに伴って労働運動の規制力が弛緩し、1990年代後半にホームレス伝道が急増するようになった。現在、10の教会/団体が食事の提供を伴った「伝道集会」を開催するようになり、多くの野宿者が参加しているが、実際に洗礼を受け、特定の教会にコミットメントをもつようになる者は極めて少ない。宗教と社会階層の関係に着目したこれまでの研究では、社会移動の激しい最下層の人々は特定の宗教シンボルとの関係がランダムあるいは希薄だとする議論が一般的であったが、本稿はこの理論的前提を具体的なフィールドデータから検証し、最下層の人々に特徴的な信仰と所属の様態を把握する。
著者
石井 美保
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.5, pp.3-19, 1999-06-03

ラスタファーライはジャマイカの黒人系住民によって形成され、現在アフリカ諸都市で発展している社会宗教運動である。本稿は東アフリカのタンザニアにおけるラスタファーライの展開について論ずる。第一章ではジャマイカにおける運動の歴史と従来の研究について概観する。第二章では、タンザニアにおけるラスタファーライの発展状況を現地調査から紹介する。運動は現在、地方出身の都市出稼ぎ民の間で興隆しており、ジャマイカで形成された信条や生活習慣が継承されている。また彼らは政府援助によってラスタのキャンプ兼農場を建設し、NGO団体として活動している。第三章ではラスタファーライの実践とタンザニアの社会経済状況との関連について考察する。タンザニアにおけるラスタファーライの展開は、現代タンザニアの政治経済状況を社会の基部から照射すると共に、従来ジャマイカや英国を中心としてきたラスタファーライ研究の新たな可能性を提示するものである。
著者
尾堂 修司
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.8, pp.39-58, 2002-06-29

教祖による終末予言が失敗した教団においては、神義論上の対処が要求される。本稿は、終末後の教団における神義論構築の(世界の苦や不完全性の解決を説明する)観点から、オウム真理教が名称変更した宗教団体アレフの終末論とカルマ説の接合という現象に注目した。本教団では、教団と日本を同一視する「アレフ(オウム)日本パラレル理論」や「歴史周期説」が唱えられている。このパラレル理論や歴史周期説と終末予言との関連解明を試みた。本稿では、教団が予型論的思考を用いて、カルマ説と終末予言を接合したと分析した。予型論とは、旧約聖書の記述が新約聖書の雛形、予型として存在するという、聖書解釈上の一つの考え方である。予型論的思考の適用により、予型としての教団(日本)の歴史が、日本(教団)の歴史で再現されると解釈されることになる。この予型論的神義論が、終末予言の失敗を説明し、未来ビジョンを構築する原理になったと考察した。