著者
佐藤 一郎
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.21-44, 2022-12-22 (Released:2022-12-28)

メタバースが話題になっているが、その関心は仮想世界やアバターに集中している。本稿ではメタバースがどのように実装されているかという技術、それもシステム構成の観点から、メタバースの仕組み、課題、可能性を探っていく。実際、メタバースでは、サーバの性能的制約や通信遅延により、現実世界に起きえない問題が起きる。また、メタバースはプラットフォーム化が進んでいることから、メタバースのプラットフォーム、仮想世界などを提供するサードパーティー、そしてユーザの3者の関係についても言及していく。
著者
堀部 政男
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-24, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)

AIやIoTは、グローバルな規模でこれまで経験しなかったような影響を与えている。それは、プライバシー・個人情報保護に新たな問題を投げかけている。これまでにまとめられているAI原則の中にプライバシー保護を揚げるのが通例となっている。それでは実際にどのように保護するのか。プライバシー・個人情報保護の問題は、情報通信技術(Information and Communication Technology : ICT)などの進展との関係でかなり論じてきた。その必要性は、日本の法律(2015年改正個人情報保護法附則第12条第3項)でも認められるようになった。これまでもそうであったが、グローバルな規模でプライバシー・個人情報保護問題を検討する必要性を痛感している。そこで、プライバシー・個人情報保護に日常的に取り組んでいる主要国のデータ保護機関(Data Protection Authority : DPA)で構成されている「データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議」(International Conference of Data Protection and Privacy Commissioners : ICDPPC)における議論が実践的であり、それを参照する意義は極めて大きいと考えるに至った。日本の個人情報保護委員会は2017年にメンバーとして認められた。この会議においては2017年にIoTの具体的な事例である自動化・コネクト(接続)された車両のデータ保護に関する決議(Resolution on data protection in automated and connected vehicles)が採択された。また、2018年には、同会議においてAIにおける倫理及びデータ保護についての宣言(Declaration on Ethics and Data Protection in Artificial Intelligence)が採択された。従来からの研究に加え、個人情報保護委員会の委員長として、これらの国際的文書にコミットしてきた。特に後者については、常設のAI作業部会が設けられ、日本としてもインプットしなければならない。そのためには、英知が結集されるべきである。
著者
三友 仁志
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-31, 2021

<p>2020年6月19日に提供が開始されたわが国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は、陽性者との接触を利用者に通知することにより、利用者の行動変容を促し、感染症対策の一端を担うことが期待された。プライバシーに配慮するため、GoogleとAppleが開発したAPI(アプリ相互のやりとりに必要な接続仕様)を採用し、スマートフォンのBluetooth機能を利用して個人情報を収集しない形で接触確認する仕組みが採用された。多くのスマートフォン利用者がアプリをダウンロードすることにより、感染拡大の防止に貢献するという社会的メリットを政府は強調した。しかし、実際には2021年9月半ば時点で、延べ3千万ダウンロードにとどまっており、陽性登録率に関しては全陽性者の2.3%に過ぎない。</p><p>本稿では、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAに関して、①厚生労働省が発表するデータに基づき、普及の状況とその要因解明の可能性について分析し、②中国の接触確認アプリ「健康コード」および韓国の感染者移動経路管理と比較するとともに、③2021年3月に独自に研究室で実施したCOCOAに関するアンケート調査に基づき、COCOAのダウンロードが感染の拡大状況に感応的でないこと、および信用の欠如がアプリの導入や陽性登録に大きな影響を与えている実態を把握する。社会的便益を強調しても、導入のインセンティブとはならず、個人がアプリから知覚する便益は低く、期待される社会的便益の形成とは大きく乖離していることが効果の発現を妨げていると言える。デジタル技術の活用の恩恵を社会が受けるためには、技術だけでなく、社会にどのように浸透させるかに関する戦略が不可欠であることをCOCOAは示唆している。</p>
著者
斉藤 邦史
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.73-90, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
被引用文献数
1

憲法学説における人格的自律権説を背景として提唱された自己情報コントロール権説では、本来、プライバシーの対象となる情報について、道徳的自律の存在としての個人の実存にかかわる情報(プライバシー固有情報)と、それに直接かかわらない外的事項に関する個別的情報(プライバシー外延情報)が区別されていた。公法における自己情報のコントロールについて、プライバシー外延情報に対するコントロールの正当化を試みる近時の有力説には、人格的自律権の本体とは質的に異なる、公権力の統制に固有の根拠を挙げる傾向がある。そこでは、私人間を含む全方位に主張し得る人格権としての構成からの離陸が生じている。私法における自己情報のコントロールでも、コントロールの自己決定は終局的な目的ではなく、不利益を予防するための手段であることが指摘されている。「信頼としてのプライバシー」という理念は、人格的自律権説では自己情報コントロール権の枠外とされてきたプライバシー外延情報について、私人間における手段的・予防的な保護法益を補完的に提供する指針として有益と考えられる。本稿は、プライバシーの中核にあたる私生活の平穏や、親密な人間関係の構築に対する侵害について、「自律としてのプライバシー」を根拠とする構成を否定するものではない。むしろ、核心としての「自律」の侵害を予防するため、その外延において「信頼」の保護を充実することが望ましい。
著者
林 秀弥
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.9-34, 2017

<p>近年、諸外国の移動通信事業を中心に、「ゼロレーティング」(zero-rating)と呼ばれる手法によるサービスが提供されている。わが国においても一部の格安スマホ事業者(MVNO)により、当該サービスの提供が開始されている。「ゼロレーティング」とは、「特定のコンテンツあるいはアプリケーションの利用に対して、使用データ通信量をカウントしない、したがって、その使用量によって生じる料金を発生させず、あるいはデータキャップがある場合にはデータキャップのための使用量計算から除外するサービス」のことであり、データ料金の一部をエンドユーザーに課金しないビジネスモデルのことである。これは、一種の顧客獲得のためのサービス提供であり、個々の企業の事業戦略に応じて様々な形態をもって行われる。「対象となる音楽・動画ストリーミング・サービスを利用する際、パケット量を月間のデータ通信量にカウントしない」というのがその典型である。本稿は、ゼロレーティングが今後本格化した場合、公正競争と利用者利便を確保する上で、競争政策上、留意すべき点は何かついて、欧米の議論の紹介を通して検討を行うものである。</p>
著者
宍戸 常寿 工藤 郁子 クロサカ タツヤ 庄司 昌彦 山本 龍彦
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.201-224, 2020-12-01 (Released:2021-01-07)

日本が目指すべき未来社会の形としてSociety5.0が提唱されてから数年が経ち、デジタル経済社会においてはサイバー空間とフィジカル空間の融合は深化している。そこでは、Society5.0の名の下にイメージされていた創造性の発揮や利便性の向上が見られる一方で、従来の個人情報保護政策や競争政策の枠では捉えきれないデジタル経済社会における「新たな課題」も出現してきている。このような「新たな課題」を適切に捉えるためには、現在起きている地殻変動を、単にサイバー空間の領域が拡張し、フィジカル空間を侵食しているものとイメージするのではなく、むしろ、サイバー空間における活動とフィジカル空間における活動が、データの流通を介して相互に深く影響を与え合うという関係性・循環性を適切に認識することが重要である。そのようなサイバー空間とフィジカル空間の活動がデータの流通を介して相互に深く影響を与え合う相互の関係性・循環性を含む総体としての「ネットワーク空間」における状況と課題について、大きく4つの議題(「ネットワーク空間の環境変化とその背景」、「環境変化に伴う社会経済的な課題」、「課題解決に向けて採るべき政策、目指すべき姿」、「新型コロナウイルス感染症拡大に係る問題意識」)に分け、それぞれについて話題を提起しつつ、有識者による議論を行った。
著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-72, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
参考文献数
46

本稿では、プライバシー・個人情報保護法と周辺法領域との関わりについて、主に競争法との関係に着目した考察を行った。プライバシー・個人情報保護法が競争法に影響を与える場面では、①プライバシー・個人情報保護の価値を競争法の中で考慮すべきか否か、②規範的尺度としてプライバシーの価値を競争法に取り込む場合の理論的根拠、③ドイツFacebook競争法違反事件の評価(EU一般データ保護規則(GDPR)違反に基づく競争制限禁止法違反の認定、データ保護法の目的としての情報自己決定)、競争法が個人情報保護法に影響を与える場面では、④データ・ポータビリティ、⑤制裁金(課徴金)導入の是非を論点に掲げた。競争法の中で考慮すべきプライバシー・個人情報保護の主たる価値は、本人の同意、選択ないしは情報自己決定と見ることができる。他方、GDPRにおける「同意」と日本の個人情報保護法の「同意」は有効性の要件が異なる。また、企業結合事案では、個人情報保護法に基づく個人データの第三者提供は同意がなくとも適法である一方で、GDPRに同旨の規定は存在しない。GDPRは同意の要件が厳格であるため、同意の有効性が問題とされる競争法違反事件では、GDPR違反の認定がなされやすいと考えられる。GDPRと個人情報保護法の法制度及び解釈上の違いに留意すべきである。企業結合事案及びデータ・ポータビリティ権の文脈では、事業者間でのデータ移転の是非に関して、競争法と個人情報保護法の役割分担が問題となる。EUの議論を概観する限りでは、両法は相互に関連性を有する場合もあるが、原則として独立に評価される。そして、問題となるデータに個人情報が含まれる場合は、個人情報保護に関する適法性を担保した上で、それでもなお競争法上の違法を構成する場合があるか否かを検討すべきといえる。競争法と個人情報保護法は、協調できる場面と対立する場面があり得るため、両者の役割分担には分析的な検討を要する。日本の個人情報保護法改正論議の1つとして課徴金導入の是非が検討されている。課徴金の制裁的色彩を強調するならば、個人情報保護法に課徴金を導入することも不可能ではなく、その際には先行する国内外の競争法の趣旨及び内容から多くの示唆を受けることが予想される。競争法及びプライバシー・個人情報保護法の交錯に関する考察を深めるためには、消費者保護法からの検討も必要である。
著者
岩田 一政
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-18, 2020

<p>現代は「データ駆動型経済」の時代である。本論は、データのもつ特性を踏まえ、日本経済が直面する政策上の課題とその解決策を探ろうとするものである。データは通常の財と異なり、「消費の非競合性」や「外部性」といった特性がある。また、個人データの提供とプラットフォーム企業によるデジタル・サービス提供との交換は、ゼロ価格で行われることが多く、両者の間に情報の非対称性が存在していることもあって、個人データの価値の測定を困難にしている。またデータは、社会財、共有財、公共財としての性格を備えており、社会的課題の解決には、データを共有財、公共財として扱い、活用することが求められる。</p><p>データは、企業による最適技術の選択に対して有用な情報を提供するばかりでなく、生産性向上に寄与するアイデアや知識の投入物として用いられている。データを可能な限り広く流通させることは、経済の効率性を改善させるが、その一方で、個人データに関するプライバシー保護や企業の営業秘密を保護することが求められている。</p><p>日本の政策上の課題の第一は、データの自由な流通とプライバシー保護を両立させることである。民主主義社会において個人データの所有権は個人にあることを前提に、プライバシー保護とデジタル・サービス享受に関する選択をプラットフォーム企業ではなく、個人に委ねることが望ましい。個人が自らのデータをコントロールする権利があることを明確にした上で、データの「ポータビリティ」や「インターオペラビリティ」に関するルール作りが求められている。このルール形成によって、情報仲介機関として情報銀行が有効に機能することになろう。また、巨大テック企業によるデータ共有についても政府によるガイダンス作りが求められる。</p><p>第二の課題は、国境を越えた個人データの自由な移動を可能にすることである。欧米間での個人データの自由な流通を可能にする「プライバシー・シールド原則」は、欧州司法裁判所により欧州連合(EU)の「データ保護一般規則(GDPR)」に違反するとの判断がなされた。この問題解決の鍵は、どのようにしてプライバシー保護と国家安全保障維持との両立を図るかにある。欧米間でこの論点に関する合意形成がなされない場合には、世界は、中国(国家中央集権システム)、アメリカ(「告知―合意(選択)」システム)、EU(プライバシー重視システム)の3つの「デジタル経済圏」に分裂するリスクがある。</p>
著者
甚田 桂
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.187-200, 2020 (Released:2021-01-07)

第201回通常国会において成立した聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律は、聴覚障害者等1による電話の利用の円滑化を図るため、①国等の責務及び総務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、②聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者の指定に関する制度及び当該指定を受けた者の当該業務に要する費用に充てるための交付金に関する制度を創設する等の措置を講ずるものである。①については、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に当たっては、国等の関係主体が政策的意義を共有し、相互に連携した上で、電話リレ-サービスの提供を含む措置を総合的に講ずる必要があることから、国、地方公共団体、電話提供事業者及び国民について、それぞれの役割に応じた責務を課すとともに、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供に加え、音声認識やAI等の技術開発の推進等も含め、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に資する施策全般についての方針を定める観点から、聴覚障害者等による電話の利用を円滑化するための施策に関する基本方針の策定について規定するものである。②については、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供を実現することが重要であることから、電話リレーサービスの提供の業務を適正かつ確実に実施できる者を、その申請により、電話リレーサービス提供機関として指定することができることとし、業務規律及び監督規律に関する規定を整備するとともに、電話リレーサービスの提供の業務に要する費用に充てるための交付金を、電話リレーサービス提供機関に対し交付することとし、当該交付金に係る負担金について、電話提供事業者に納付を義務付ける等の措置を規定するものである。
著者
寺田 麻佑
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.51-62, 2017-11-08 (Released:2019-03-28)

本論考は、無線LAN利用に関する法規制のうち、無線LANを利用して何か法律に抵触する行為がなされた場合、無線LANの提供者が如何なる責任を負うべきかという問いに対して、参考となるEUの規制とドイツの事例を取り上げて、無線LANの利用に関する無線LAN提供者の責任の所在に関する検討を行うものである。無線LANの提供者の責任について検討を行うのは、無線LAN等を利用した何らかの法違反行為について、誰がその違反行為を行ったのかの追求が難しい場合が多く、それゆえ、責任の帰属先の特定が難しいという事態が生じるためである。公衆無線LANの増加にともなう公衆無線LANを利用した犯罪への対応については、我が国に限らずEUにおいても課題とされている。どのような形で公衆無線LANを提供すべきなのか、犯罪等に利用されることをできる限り予防するためにも、無線LAN一般に関する責任の在り方について、最安価損害回避者負担の考え方を取り入れている、EUの関連規制やドイツにおける議論などを参考とすることができる。本論考は、まず、無線LANが犯罪に利用された場合の我が国における刑事裁判の判例の一部をみることによって、実際に被害が発生していて問題の行為者が見つからない場合には無線LAN提供者に関して損害賠償責任が発生する可能性があることをみたうえで、ドイツにおける無線LAN提供者の責任に関する無線LAN利用規制と関連するドイツにおける無線LAN提供者の責任に関係するテレメディア法の法改正を検討している。さらに、EUの無線LANに関する政策をみることによって、目指されている無線LAN活用社会のなかでどのような提供者の責任の在り方が考えられるのかについて検討を行っている。