著者
山本 龍彦 尾崎 愛美
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.96-107, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
7

現在の人類は,人工知能(Artificial Intelligence, AI)の技術革新に牽引される,第4次産業革命の時代を迎えていると言われている.わが国では,民間企業による採用場面や融資場面などの「適性」評価にAIが利用され始めており,刑事分野においても,AIを用いて犯罪の発生等を予測するシステムの導入が検討されている.米国では,一部の州や地域で,AIを用いた犯罪予測システムを用いた捜査が既に実施されているほか,刑事裁判における量刑判断にもAIが利用されている.その代表例が,COMPASという有罪確定者の再犯リスクを予測するプログラムである.しかし,このプログラムがどのようなアルゴリズムによって再犯予測を行っているのかは明らかにされておらず,このアルゴリズムにはバイアスが混入しているのではないかとの批判がなされている.このような状況下において,ウィスコンシン州最高裁は,COMPASの合憲性を肯定する判断を下した(State v. Loomis判決).本稿は,State v. Loomis判決を手がかりとして,AIを憲法適合的に“公正に”利用するための道筋について検討するものである.
著者
山本 龍彦
出版者
関西学院大学
雑誌
KGPS review : Kwansei Gakuin policy studies review
巻号頁・発行日
vol.1, pp.35-44, 2002-03-31

本論考は,表象文化としての建築と建築写真が,我々の意識と社会に与えている影響を考察すると共に,その次代における,あるべき未来像について言及するものである。建築写真,いや写真とは恣意的にある時間における,ある空間を切り取って定着させた光の一状態である。だが我々は,その写真に真実性を感じてしまう。それは写真に内包された概念,つまり,ある時間のある空間に確かに,その写しだされたものが実際に存在しており,写真という言葉に表されるように真実を写し取ったと信じているからである。そして,その写真が印刷されて,雑誌や新聞などの様々なメディアを媒介として複製化されるときに,さらに我々はその写真への信頼性を増幅させることは,ブーアスティンの主張に見られる擬似イベント」の概念で,すでに指摘されている。建築も建築写真も表象された文化であり,その故に前者と後者に模写説的な認識関係は成立せず,共に時代と社会の暗黙裏の要請一限りなき経済成長という大衆消費社会の構造一によって操作可能な領域に包摂される。このような時代と社会の影響を反映した建築と建築写真の呪縛下に我々は存在しており,それは近現代の市民社会の価値観の影響下にあるということでもある。いま必要なことは,この建築と建築写真を表象文化として,その本質を解明して問題提起することによる近現代の価値観の超克である。それは,近現代の視覚芸術を支配している,遠近法というヒエラルキーを持った視点の解体であり,またそこから自ずと生起する,やさしい触感や,ある種のやすらぎを与える空間の形成,すなわち「癒し系の建築」や「バリアフリーな建築」と,従来の高度な撮影技法を駆使した作画的な建築写真にはない,新たな建築にふさわしい視座と技法から生まれる,建築写真への要請である。
著者
山本 龍彦
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.25-45, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)

EUのGDPR(一般データ保護規則)は、データ保護に関連した様々な権利を保障している。そして、こうした権利の侵害があった場合には、高い制裁金が科されることでも知られる。そうすると、一見、GDPRは、厳格なペナルティをもって権利侵害行為ないし違反行為を直接統制する法令であるように感じられる。ところが、実際上、権利の具体的な内実や範囲はいまだ確定的ではなく、また権利侵害行為ないし違反行為があっても、これを外部から発見することは非常に困難であるという問題を抱えている。GDPRは、かかる法的不確定性と執行困難性の問題を前提に、事業者自らが行動規範等の策定を通じて不確定性の隙間を埋めたり、データ保護影響評価(DPIA)やアルゴリズム監査といった内部統制システムを整備したりして、想定される違反行為等を未然に防ぐガバナンス体制を構築することを、かかる体制構築の努力と制裁金の免除・軽減とを結び付けることで(明示的なインセンティブ設計)実効的に促しているように思われる。本稿は、プロファイリングに関連するGDPRの諸権利、とりわけ、重要事項についてプロファイリング等の結果のみに依拠して決定されない権利(22条)、「説明を受ける権利」(15条)をめぐる解釈論に照準して、上述のようなGDPRの傾向、すなわち、行為ベースの規律(行為統制型規律)からガナバンス・ベースの規律(構造統制型規律)への焦点変動について若干の分析を加えるものである。本稿は、先行して同様の焦点変動が起きた(雇用に関する)反差別法の実践などにも視点を向け、法的不確定性と執行困難性を抱える法領域では「構造統制型規律」が一定程度有効であること、したがって、これらの問題が前景化するであろうAIネットワーク社会において、かかる規律モデルが中心的な法的アプローチとなる可能性についても言及を加える。
著者
山本 龍彦 尾崎 愛美
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.96-107, 2018

<p> 現在の人類は,人工知能(Artificial Intelligence, AI)の技術革新に牽引される,第4次産業革命の時代を迎えていると言われている.わが国では,民間企業による採用場面や融資場面などの「適性」評価にAIが利用され始めており,刑事分野においても,AIを用いて犯罪の発生等を予測するシステムの導入が検討されている.米国では,一部の州や地域で,AIを用いた犯罪予測システムを用いた捜査が既に実施されているほか,刑事裁判における量刑判断にもAIが利用されている.その代表例が,COMPASという有罪確定者の再犯リスクを予測するプログラムである.しかし,このプログラムがどのようなアルゴリズムによって再犯予測を行っているのかは明らかにされておらず,このアルゴリズムにはバイアスが混入しているのではないかとの批判がなされている.このような状況下において,ウィスコンシン州最高裁は,COMPASの合憲性を肯定する判断を下した(State v. Loomis判決).本稿は,State v. Loomis判決を手がかりとして,AIを憲法適合的に"公正に"利用するための道筋について検討するものである.</p>
著者
尾崎 一郎 堀田 秀吾 徐 行 郭 薇 山本 龍彦 町村 泰貴 池田 公博 米田 雅宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、ツイッターやフェイスブックに投稿された愚行に関するいわゆる「炎上」に見られるように、近時ネット上で頻繁に見られるようになっている私人間の相互監視と過激な制裁行動を実証的に分析し、個人の自由やプライバシーや適正な手続といった国家法の理念から乖離した一般人の法意識を明らかにする。現代のネットワーク社会において人々が抱いている秩序意識の構造を解明することで、人権を基軸とした法の理念と安全や道義性を重んじる社会の規範意識とを適切にすり合わせることのできる新しい国家法の役割を示すことができる。情報通信技術が高度に発達した現代社会における法の位置付けを再考する研究である。
著者
宍戸 常寿 工藤 郁子 クロサカ タツヤ 庄司 昌彦 山本 龍彦
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.201-224, 2020-12-01 (Released:2021-01-07)

日本が目指すべき未来社会の形としてSociety5.0が提唱されてから数年が経ち、デジタル経済社会においてはサイバー空間とフィジカル空間の融合は深化している。そこでは、Society5.0の名の下にイメージされていた創造性の発揮や利便性の向上が見られる一方で、従来の個人情報保護政策や競争政策の枠では捉えきれないデジタル経済社会における「新たな課題」も出現してきている。このような「新たな課題」を適切に捉えるためには、現在起きている地殻変動を、単にサイバー空間の領域が拡張し、フィジカル空間を侵食しているものとイメージするのではなく、むしろ、サイバー空間における活動とフィジカル空間における活動が、データの流通を介して相互に深く影響を与え合うという関係性・循環性を適切に認識することが重要である。そのようなサイバー空間とフィジカル空間の活動がデータの流通を介して相互に深く影響を与え合う相互の関係性・循環性を含む総体としての「ネットワーク空間」における状況と課題について、大きく4つの議題(「ネットワーク空間の環境変化とその背景」、「環境変化に伴う社会経済的な課題」、「課題解決に向けて採るべき政策、目指すべき姿」、「新型コロナウイルス感染症拡大に係る問題意識」)に分け、それぞれについて話題を提起しつつ、有識者による議論を行った。
著者
山本 龍彦
出版者
慶應義塾大学法学研究会
雑誌
法學研究 : 法律・政治・社会 (ISSN:03890538)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.87-132, 2014-02

小林節教授退職記念号一 はじめに二 政党間-分極化について三 フィリバスターについて四 結語に代えて