著者
鵜沢 滋 小松 昭彦 小川原 鉄志
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.276-283, 2002-05-20 (Released:2018-02-26)

当社では,アルミ固体電解コンデンサに迫る電気的特性と実用性を有するアルミ電解コンデンサを開発し,1998年にZシリーズとして商品化した.このZシリーズの駆動用電解液には,水を主溶媒とした電解液(水系電解液)を用いている.従来,水系電解液を用いたコンデンサは,低インピーダンス特性が期待できる反面,高温条件下では,アルミニウム電極箔と水との著しい化学反応(水和反応)により短時間で急激な特性変化を起こすという欠点があった.また,開発当初に行った温度加速試験において,このコンデンサの寿命は,寿命推定に適用されるアレニウス則(2倍/10℃加速の法則)が成立せず,アルミ電解コンデンサの信頼性に最も重要な寿命の予測ができないという課題も抱えていた.これらの大きな障害により,従来のアルミ電解コンデンサ駆動用電解液は,水を少量添加することはあっても,主溶媒として使われることはあり得なかった.当社では,これらの課題を克服できれば,水系電解液の持つ高い電気伝導特性を生かして,超低インピーダンスの理想的なコンデンサを製造することができると考え,20年前より研究開発を行ってきた.その結果,溶媒として水を単独で用いた電解液でも,従来の有機溶媒を用いた電解液とほぼ同等のコンデンサ寿命特性を有することを確認した.そして,水の反応性を制御することに成功し,多くのノウハウを集積して実用性の高いアルミ電解コンデンサを開発し商品化するに至ったのである.ここでは,水系電解液を用いたコンデンサの開発について述べる.
著者
堀籠 教夫
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.91-98, 1996-02-10 (Released:2018-03-02)

ベイズの定理そのものは比較的構成が簡単であるが、従来の客観的統計と大きく異なる点は事前分布という分布の導入にそのすべてが凝縮されている。つまり、事前分布に個人の経験等が入るためであり、この定理が主観統計と言われるゆえんである。ここでは指数分布を取り上げて、この分布にベイズの定理を当てはめた2つの場合を取り上げる。1つはアイテムのバーンイン時間の決定についてであり、もう1つはこの定理を指数分布に当てはめて表現した場合について取り上げる。いずれもベイズ特有の計算等が入るがそれらについても詳述し解説する。
著者
喜多 義弘
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.207-210, 2016 (Released:2019-07-22)

近年,IoT(Internet of Things)は様々な分野で採用され,医療分野にも広がりつつある.IoT を実現す るために,それを担うソフトウェアが必要不可欠であり,その品質を保証するには開発の際にソフトウェ アテストを実施しなければならない.しかしながら医療分野においては,ソフトウェアの品質に加えて, 安全性も重視する必要がある.本稿では,ソフトウェアテストの現状に触れつつ,医療 IoT のソフトウェ アテストにおける課題について紹介する.
著者
松野 裕
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.174-179, 2014

様々なシステムが開発と運用を明確に分けられることなく,絶え間なく運用されるようになった.例えばスマートフォンは,常にソフトウエアが更新され日々新しくなっている.これからのシステム保全は,運用の一部分としてではなく,システムのライフサイクル全体で行う必要がある.本稿ではシステム保証の新しい手法であり,筆者が最近研究を行っているアシュアランスケースを説明する.次にシステムライフサイクル全体におけるシステム保全性保証の例として,電気通信大学(以下,電通大)などが提案しているOMG Dependability Assurance Framework for Safety-Sensitive Consumer Devices(SSCD)国際規格について説明する.SSCDは日本のすり合わせ開発をモデル化したプロセスモデル,システムのディペンダビリティに関連する用語モデル,そしてシステムのディペンダビリティを保証するためのアシュアランスケーステンプレートよりなり,日本発のシステムのディペンダビリティ保証の枠組みとしてIPA(独立行政法人情報処理推進機構)を中心に策定中である.SSCDを元に,保守の観点から,システムライフサイクル全般のディペンダビリティ保証について考察する.
著者
高倉 弘喜
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.126-133, 2015

サイバー攻撃の手法は日々進歩している.従来,サイバー攻撃に使用されるプログラムの開発では,有効性確認のためにインターネット上のコンピュータを無差別に攻撃する試し撃ちが世界中で観測された.それを観測・解析することにより攻撃者が狙っている脆弱性の推定,攻撃プログラムの開発状況を把握し,事前に防御策を講じることも可能であった.しかし,2010年代に入り,攻撃者の目的が愉快犯的なものから機密情報や個人情報など価値のある情報窃取に移行したため,試し撃ちの観測は困難となりつつある.攻撃者は事前の綿密な調査を経て,標的とする組織や人物に特化した攻撃プログラムをインターネット上で試用することなく開発し,対象者のPCに直接感染させ乗っ取ることができるようになった.このため,従来の観測手法ではサイバー攻撃の状況を把握しにくくなっている.この問題に対処するため,組織内ネットワークの通信を監視し,基準を超える異常な通信を見つけ出す手法が求められつつある.
著者
真田 克
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.24, no.8, pp.711-729, 2002
被引用文献数
5

ID_DDQ(Quiescent Power Supply Current)異常はLSI内部に物理的欠陥が存在することを知らせるシグナルである.このシグナルは欠陥箇所を介して電源端子より電流異常として検出される.本文はこの現象を用いたCMOS-LSIのテスティング,故障解析,および診断方式の研究動向について述べるものである.まず,テスティングはこのシグナルを電源端子より検出することでLSIの異常と判定する方式である.故障解析は異常電流に起因する物理現象をLSI全体から観察し発生箇所を検出する方式である.そして,故障診断は論理情報とI_DDQ異常を伴うテストベクタ番号を用いてソフトウェア上で異常発生箇所を特定する方式である.さらに,この診断技術は製造ライン上の致命的欠陥箇所特定に適用される.
著者
益田 昭彦 夏目 武 中村 國臣 小野寺 勝重 原田 文明 堤 晴雄 小渋 弘明
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.554-563, 2003

2002年10月IEC総会が中国北京市で開催され,TC56(Dependability)の総会も同時開催された.日本の代表団は7名となり従来になく充実した討議を行うことができた.今回の焦点はIEC 62309の再使用される電子部品の信頼性要求事項に開する規格で,地球環境にディペンダビリティが関わる第一歩となった.すなわち資源循環型社会の構築に不可欠なreuse (再使用)について信頼性の視点から規格を設けることである.またSAG(戦略諮問会議)では,TC56の基本活動範囲の中でディペンダビリティの概念を拡張する方向付けが容認されている.すなわち従来の信頼性・安全性の範囲を拡大してサービスや環境への指向を考慮することになった.その他の案件は審議継続または定期的更新のものであるが,大幅な見直しを行うものも多い.例えばFMEAやRBD(信頼性ブロック図)の規格が見直されている.今回の開催国である中国はWTOへ加入して国際規格の適用をアピールしており,TEC総会への肩入れには多大なものがあった.2003年のIEC/TC56の総会はシドニーでの開催が決まっており,北京会議以降もIEC/TC56国内委員会で日本の意見反映に努力している.
著者
村岡 哲也 池田 弘明
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.220-230, 2014

大都会では,到る所で高層ビルや橋梁などの建設がなされている.例えば,高層ビルの工事現場付近の路上を通りかかった通行人が,突然,建設資材である鉄骨の落下により,不慮の大事故に巻き込まれることがある.しかし稀にではあるが,周囲環境の異変である鉄骨の落下の気配を第六感として感じ取る人もいる.更に瞬時に危機回避行動をとった結果,大事故を回避できた通行人もいる.つまり,たとえ五官の目・耳・皮膚などのセンサが只ならぬ気配を瞬時に第六感として知覚しても,反射的に回避行動が取れなければ意味がないことは分かっている.そこで,本研究では,第六感による知覚から危機回避行動が取れた場合を第六感が機能したと定義する.その定義に基づいて,バーチャルリアリティを取り入れたPCによるモデル実験を採用することによって,被験者の反応を測定し,得られた測定データを比較検討・分析した.全体で回避行動が取れたと評価される被験者は,僅か6%であった.次の6%の被験者は,第六感が機能しても,β波のピークが複数本出力されているので,あまりにも緊張感が強すぎて身体が硬直し,回避行動を取るのは困難であると評価された.その他に,回避行動までとれたと評価される被験者と同様の脳波を示す被験者が9%であった.しかし,建設資材である鉄骨が頭上に落下して致命的な事故が発生した後なので,第六感の機能からは除外した.以上の21%を除く79%の被験者はδ波,θ波,α波,およびβ波の何れの脳波も検出されなかった.そこで「第六感の機能によって危機回避行動が取れた」とする6%の被験者の評価結果を適切に利用すれば,今後,建設工事現場における不慮の事故を含む幅広い労働災害の低減が可能になると考えられる.五官の目・耳・皮膚などのセンサが視覚・聴覚・圧覚(触覚)として作用するので,それらの積集合で周囲環境の異変を瞬時に知覚し,反射的に回避行動が取れたと認められる.
著者
橋本 武
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-48, 1996

1995年1月17日の未明、震度7.2の規模の阪神・淡路大震災が阪神地区に発生した結果、阪神間の海岸地区を走る阪神電鉄の全路線(約40km)も瞬時に多大な被害を被った。6月26日迄の全線復旧過程で、区間路線毎の復旧状況を定量的に評価する過程で3つの復旧期間に分類でき、それ等を残留災害路線長の減少傾向を指数分布に近似できる事を述べる。
著者
山本 渉 高際 竜一 鈴木 和幸
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.63-73, 2003
被引用文献数
3

半導体LSIの配線のエレクトロマイグレーション耐性の信頼性試験には時間がかかるため、サドンデス寿命試験を用いることが提案されている。それは、寿命分布の左裾に当たる、早期故障の観測数が確保できるため、より多くの配線が用いられるようになった今日の半導体LSIの、配線のエレクトロマイグレーションによる信頼性特性を調べるには適している。従来、確率紙を用いて寿命分布を選択することが多かったが故障データの確率分布に関して、本研究では、尤度に基づく方法で検討と選択を行う。実際のデータを解析し、エレクトロマイグレーションによる寿命分布の左裾の部分には、対数正規分布がよくあてはまる、という結論を得た。次いで、改めて対数正規分布に基づくサドンデス寿命試験の推定精度の評価を行い、対数正規分布の尺度母数の推定精度はサドンデス寿命試験の組数を替えてもあまり変化しないが、位置母数の推定精度は一組のアイテム数が多くなると落ちるため、試験に使用する組数を増やすのが良いことを見た。
著者
Coppola Anthony 石森 富太郎
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.4-13, 1995

米国宇宙航空産業界は、国防省(DOD)の調達へのMIL規格の適用に距離を置く旨の国防長官通達の成り行きを、引き続きかたづをのんで見守っている。他方、品質保証プログラム規格集のISO9000番台は、相対的にかつ着実に世界で通用する規格になりつつある。現在取り上げられている問題には、信頼性予測の正確さ;プラスチック累積回路への適用;信頼性向上を目的としたコンピュータ支援技術;ソフトウェアの信頼性に関するものが多い。共同研究およびネットワーク作りが増えており、信頼性に関心を持つグループの結成がインッタネットに基づいて行われる例も多い。数多くの有用なツールが多数入手できるようになったものの、依然として問題を楽に解決するための"特効薬"はない。
著者
鶴田 智久
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.220-226, 2002

中波ラジオ放送は,音声放送の機動性,速報性を兼ね備えた災害時の最も有効なメディアであり,「いつでもどこでも安心ラジオ」として重要な役割を担っている.この"いつでも"と"電波の安定確保"の両立を図るためにNHK菖蒲久喜ラジオ放送所(以下,菖蒲ラジオ)では,ラジオ第2(以下,R2)放送設備からラジオ第1(以下,R1)放送をサービスするための改修整備を実施した.この改修整備と保守・保全の取り組みにより"安心ラジオ"としての24時間放送サービスの提供を可能とした.
著者
土屋 達弘
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.80-85, 2016-03-01 (Released:2018-01-31)

テストはソフトウェアシステムの安全性を確立するために必須の手段である.本稿では,まず,ソフトウェアテストに関連する基本的な用語について簡単に説明する.次に,カバレッジというテストの設計,実行,評価の上で基盤となる概念について触れ,安全規格で言及されることの多いコードカバレッジについて例を用いて説明する.次に,テストケースの生成に関して自動化とモデルベーステストという重要な分野を取り上げ,これらの分野におけるセーフティクリティカルなシステムへの技術の適用事例を紹介する.最後に,テストオラクルについて取り上げる.テストではソフトウェアの動作が期待したものか否かを判定することが必要であり,テストオラクルとはこの判定を行う機構を意味する.安全性をシステム稼働時に実現するフォールトトレランス技術と,テストオラクルの設計方法との興味深い関連性についても紹介する.
著者
鈴木 喜久
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.556-563, 2008
参考文献数
8

事故が発生すると,警察による責任の追求が行われるのが通常であるが,責任を追求しても,事故はなくならないことが多いので,最近は事故調査委員会による調査が優先するようになってきた.しかし,死者が100人を超えるような巨大事故に対しては,事故の直接原因を追求するだけでは不十分なことも判ってきた.即ち,事故の原因だけでなく,事故が拡大した原因を研究し,その対策を検討する必要がある.この場合には,直接原因とは異なった原因が考えられるようになるので,科学技術でなく,社会技術として対策を検討しなければならない.この点を事例により,考察してみた.
著者
阪本 貞夫 大城 壽光
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.571-581, 2003-09-25 (Released:2018-02-26)
被引用文献数
2

1990年以降に製造され、約10年稼動したシリコン結晶系太陽電池モジュール約2,000枚を調査した。そのうち約150枚のモジュールについて初期および10年後の出力特性の測定値をもとに経年変化を解析し、目標とする30年の寿命を達成するための課題を追求した。出力の低下は1年間で平均約0.5%以下と推定される。結晶系モジュールにおいて優勢な三つの劣化モードを検出した。すなわち(1)セル・充填材間の剥離が進行していると考えられる劣化モード、および外観からは分からない(2)F(曲線因子)の低下に伴って出力が低下する劣化モードと、(3)I_<SC>(短絡電流)およびV_<OC>(開放電圧)が共に低下する劣化モードである。更に不良解析により、Fの低下を伴う劣化は電極接合部の劣化に起因している可能性が高いことを見出した。
著者
秋田 雄志 荻野 隆彦
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.71-79, 2005
参考文献数
13
被引用文献数
6

鉄道の安全性を維持し、さらに向上するにはリスクの概念を採り入れた目標管理が必要である。本論文は、最初に過去50年間に発生した日本の鉄道の致死事故を分析し、事故の規模に応じた事故死リスクの実績を示す。次に、鉄道における事故死リスクを、自発的行為の結果を含む事故死リスクR_Aと被災による事故死リスクR_Bに分け、それぞれに対して許容リスク水準R_<A1>とR_<B1>、および広く受容されるリスク水準R_<A2>とR_<B2>の指標値を提案する。また、他の輸送機関における致死事故のリスク実績との比較等により、提案する水準の妥当性を考察する。