著者
山下 光雄 清 和成 惣田 訓 池 道彦
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.33, 2010 (Released:2010-08-30)

セレンは、一般的には-2、0、+4及び+6の原子価(酸化数)を持つ形態をとる非金属元素である。元素態セレン(0)は水に不溶性であり、酸化や還元作用が受けにくく、安定な形態である。セレン化物(-2)は、水素化物、有機物、金属との化合物として存在する。一方、急性及び慢性毒性を持つ酸化物であるセレン酸(+6)および亜セレン酸(+4)は、安定な水溶性イオンとして存在する。セレンの工業的利用は、化学薬品から冶金用途に至るまで多岐に渡っている。人的活動がセレン循環に大影響を及ぼすことから、高濃度セレン汚染を防止するために、排水基準が0.1ppmに定められている。発表達はこれまでセレン酸(+6)を特異的に元素態セレン(0)に還元する異なる2種類のセレン酸還元細菌を分離、機能解析してきた。セレン酸(+6)を排水中から直接除去することは現時点でも容易ではないことから、上記の微生物の還元作用を利用すれば、比較的容易にセレン酸(+6)から元素態セレン(0)に還元し、物理化学的処理を必要としない経済性の高い、除去回収プロセスに応用できるのではないかと考えられる。このような金属代謝に関与する微生物機能を探索・駆使して利用するテクノロジーは、今世紀の元素戦略の重要な役割を担うと考えている。
著者
田畑 亜希子 横尾 頼子 中野 孝教 徳増 実
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.124, 2010 (Released:2010-08-30)

愛媛県西条市市之川とその支流および加茂川の河川水と河床堆積物の元素組成を調べ,河川水および河床堆積物への市之川鉱山の影響を明らかにした.市之川本流の河床堆積物中のSbやAsの濃度は,市之川鉱山付近よりも下流の地点で高かった.SbやAsを多く含む粒径の細かい砕屑物が市之川鉱山から運ばれて下流で堆積していると考えられる.市之川本流の河川水中のSb,As,Fe,SO4濃度は鉱山より下流の地点でより高くなり,市之川鉱山からの粒径の細かい堆積物に含まれる輝安鉱(Sb2S3)や硫ヒ鉄鉱(FeAsS)の風化や支流の流入が影響している.市之川本流の河床堆積物中の水溶性・交換性イオンの抽出量は粒径の細かい堆積物ほど多く,特にSb,As,SO4の抽出量は市之川鉱山付近よりもさらに下流の地点で多かった.加茂川でのSbとAsの河川水および河床堆積物中の濃度,水溶態・交換態の抽出量は,市之川合流直後よりもさらに下流の地点でより高く,市之川鉱山の影響がみられた.
著者
永峰 康一郎 茅野 琴乃
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.142, 2010 (Released:2010-08-30)

「丹」とも呼ばれた硫化水銀の鉱石である辰砂を産する地には「丹生(ニウ)」という地名がつけられているという。水銀鉱床と「丹生」という地名との関連性については、これまで歴史学の分野で研究が行われてきたが、由来がはっきりしない地点も多い。そこで本研究では、地球表層の元素濃度分布を地図に表した地球化学図を用いて両者の関連性の検証を試みた。但し北海道はアイヌ語に由来する地名が多いため対象から除外した。その結果、「丹生」の地名がある地点で、地球化学図からも辰砂の産出が認められる地点とそうでない地点があった。また「丹生」以外の辰砂産出を由来としていると考えられる地名が、高濃度の水銀が検出された地点の周辺にあった。
著者
堀口 桂香 中山 貴史 松田 准一
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.10, 2010 (Released:2010-08-30)

本研究は,2008年岩手・宮城内陸地震震源域周辺にて,地震の前後におけるヘリウム同位体比の時空間変化を追跡したものである.地震発生1週間後から半年毎に計4回,温泉水と温泉ガスを採集し,溶存ガス中のヘリウム同位体比を測定した.その結果と2006年7月に同じ地点でサンプルを採集・測定した結果とを比較すると,地震直後には5カ所の温泉において10-85%の増加,2カ所において11-35%の減少が観測され,1年後には地震発生前の値に戻っていく傾向がみられた.これらの結果は,同地域の震源域の地下に地震波の低速度域が認められるという地球物理学研究と一致しており,地球化学・地球物理学双方の研究結果は整合的であり,深部から上昇してきたマントル起源の流体が地震発生に関与した可能性を示唆している.
著者
深海 雄介 木村 純一 入澤 啓太 横山 哲也 平田 岳史
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.272, 2010 (Released:2010-08-30)

IIIAB鉄隕石と石鉄隕石のパラサイトメイングループ(PMG)は化学組成や酸素同位体組成により、その起源について強く関連があると考えられている。本研究ではこれら隕石の金属部分のタングステン安定同位体組成をレニウム添加による外部補正法を用いて多重検出器型誘導結合プラズマ質量分析計により測定した。また、W濃度の測定を同位体希釈法により行った。IIIAB鉄隕石のW安定同位体比には質量に依存する同位体分別による変動幅が存在し、また、W安定同位体比とW濃度の間には強い相関が見られた。これらは母天体上での金属核固化過程に伴う同位体分別である可能性が示された。PMGの金属相のW安定同位体組成からはPMGの起源がIIIAB鉄隕石の母天体と関連があることが示唆される。
著者
山岸 明彦
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.172, 2010 (Released:2010-08-30)

一般に生命の起原は地球と考えられているが、古くから生命は宇宙を移動するという仮説が提案されている。この仮説は「パンスペルミア仮説」とよばれている。この仮説は、それでは地球外でどのように生命が誕生したのかという点には答えないため、その意義については疑問も多かった。また、長らくその検証手段が無かった。しかし最近、この仮説の検証するための実験が欧米を中心に進んでいる。すなわち、生物が惑星間を移動する過程で生存可能かどうかを試す実験が行われている。日本のアストロバイオロジーの研究者グループでは「たんぽぽ計画」という計画を計画している。この計画では、国際宇宙ステーションで微粒子を採集し、その中に微生物がいるかどうかを調査する。また、微生物を宇宙環境に曝露して生存の可能性を探査する。さらに、火星の研究が進み、火星には今も水(氷)が大量に残されていることが明らかになっている。さらに、メタンの発生が検出されている。現在計画中の火星探査計画MELOSの一部として生命探査を検討している。これらの現状を紹介する。
著者
中塚 武 大西 啓子 安江 恒 光谷 拓実 三瓶 良和
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.78, 2010 (Released:2010-08-30)

享保の飢饉は、享保17年(1732年)に起きた江戸時代の西日本最大の飢饉であり、虫害という特異的な背景を持つ。原因となったウンカは、東南アジアから中国南部を経て、毎年風に乗って日本に飛来する、日本では越冬できない昆虫であり、当時の大発生の背景には何らかの大気循環の変化があったことが推察できる。本研究では、江戸時代の日本全国における樹木年輪セルロースの酸素・炭素同位体比の時空間変動パターンを解析して、当時の大気循環の特徴、及びその日本社会の変動との関係を解析した。
著者
角皆 静男
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.180, 2010 (Released:2010-08-30)

私が大学に入った1957 年に,Keeling はIGY 国際地球観測年の一環としてハワイのマウナロアで大気中CO2 濃度の連続観測を開始した.この年の暮に315 ppm(季節変動を補正)だったその濃度は,2010 年には390 ppm に達した.その増加の主因は人間活動であるが,人間が大気に放出したCO2 量はその2 倍以上だった.今後どうなり,何を引き起こすかについては,大気のCO2 の測定だけではわからない.流体である海洋を中心とする物質循環は,ホリスティックであり,動く海水の中での化学物質の特性と太陽光を受けて始まる生物の食物網がこれに深く関与し,大気圏との交換,河川からの陸源物質,死の世界ではない海底との間のやりとりなどに支配されている.従って,その部分部分のどこか1 カ所を深く追究しても,真の姿を描き出すことは難しい.私は,複数の研究を同時に進めながら,それに迫ることを試みてきた.得られた結果のいくつかを物語風に解説する.
著者
和田 亮一 坂井 三郎 二階堂 雅人 相原 光人 大河内 直彦 岡田 典弘 山田 桂太 吉田 尚弘
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.118, 2010 (Released:2010-08-30)

シーラカンスは四億年もの昔から地球上に存在する「生きた化石」である。魚類から陸上四肢動物への進化の鍵を握る重要種であり、また絶滅の可能性がある希少種である。そしてシーラカンスの生態については未だわかっていないことが多い。近年、従来の知見とは異なる海域で大量に捕獲されるようになり問題となっている。彼らの保護のためにはまず生息地の情報を得ることが必要である。そこで本研究ではシーラカンスの生息水深を明らかにするため耳石の安定同位体分析による生息水温の復元を行った。これまで温度計として広く用いられてきた酸素同位体に加え、より厳密な温度指標として期待される二重置換同位体分子種の測定を試みる。これらの手法を用いた高解像度の同位体測定により幼魚から成魚までの水温変化を明らかにし、それを捕獲地域の水深-水温データと比較することによって生息水深を推定する。