- 著者
-
齋藤 善広
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
- 雑誌
- 日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.4, pp.252-265, 2009-11-24 (Released:2015-02-03)
- 参考文献数
- 29
- 被引用文献数
-
1
目的:本研究の目的は,臨床におけるゴシックアーチ(以下GoA)とタッピングポイント (以下TP)記録を定量的ならびに形態的に評価し,義歯の調整回数とともに統計的に分析し, その関連について検討することである. 方法:11 年間の臨床におけるタッピング(以下Ta)法を併用したGoA 描記法(Active 法)によって得られた161 の描記記録について,定量的にはアペックス(以下Ap)とTP 間距離,各線分の長さと角度の計測をおこなって評価し,形態的には新たに考案したGoA スコア法により図形の乱れの程度を評価した.そして,Ap/TP 間距離によって4 つの群に分類し, 義歯の調整回数とともに統計的に分析した. 結果:①A 群(0 -0.9mm)40.4%(65 名),B 群(1.0 -1.9mm)29.8%(48 名),C 群(2.0 -mm)22.4%(36 名),D 群(TP のみ)7.4%(12 名)で,A 群でAp とTP が一致したものは65 名中21 名で,全体の13.0%であった.②前方運動量と③側方運動量では,各群にいずれも有意差はなかった.④Ap からの左右側方運動路のなす展開角は,平均113.54 ± 7.91°(n =161)で各群間での有意差はなかった.⑤TP からの左右側方運動路のなす展開角は,A 群119.51 ± 9.07°,B 群121.83 ± 9.16°,C 群138.42 ± 21.06°で,C群はA 群,B 群に対して有意差が認められた(P <0.05).⑥GoA スコアは,A 群4.2 ± 2.37,B 群6.01 ± 2.50,C 群7.52 ± 1.93 となり,各群間で有意差が認められた(A -B・B - C 間でp<0.05,A -C 間でp <0.01).⑦義歯の調整回数は,全体の平均が2.38 ± 1.64 回,A 群2.28 ± 1.64 回,B 群2.92 ± 1.78 回,C 群1.83 ± 1.12 回,D 群1.41 ± 0.76 回で,B 群とC 群,D 群では有意差が認められた(p <0.05). 結論:Ap/TP 間距離が増してもAp からの前方運動量と側方運動量と展開角には差が生じず,顎関節の機能的運動範囲には差がないことが示唆された.一方,TP からの運動は中間運動 域となり前方および側方運動量は相対的に減少することが示唆され,展開角は広くなり偏差 も大きくなっていた.Ap/TP 間距離が増すに従って,GoA スコアは増加し,描記障害の程度が増加していた.また,Ap/TP 間距離が1.0-1.9mm のB群で義歯の調整回数が増加していたが,他の群と比較した場合でも実際の臨床においては1 ~2 回の義歯調整回数の増加と して見込まれると考えられた. Ap/TP 間距離の増加やGoA スコアの増加があった場合には,顎関節の器質的な変化と神経筋機構の不調が生じていると考えられるが,咬合採得位としてのTP を適切に診断するこ とで一定の予後が見込めることが示唆された. したがって,咬合採得位としての適正なTP を診断するために,TP 法を併用したGoA 描記法(Active 法)を行うことは臨床的に意義があると考えられた.