著者
筒井 美紀 TSUTSUI Miki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.5-21, 2006-12

本稿は、大学生の授業理解・ノートをとる行為・授業外の学習の3つが、どのように関係しているかについて解明する。学生の多くが「知識の伝達─貯蔵モデル」への過剰適応によって大学で学ぶことへの準備が不充分である。それゆえ、まず必要なのは「いかにノートをとるべきか」的な指南ではなく、「大学での学びのレディネス」を高めさせることだ。ではどうすればよいか。こうした問題意識に基づき、次の4つの知見を得た。第1 に、大事なところが分からないことが多い学生ほど、キーワードしか板書されない場合に自分で文章化したり、板書がなされない口頭のみの説明をノートしたりすることが少ない。第2 に、大事なところが分からないことが多いか否かは、「前進的理解(ノートを早くとり終わった時に疑問点や重要点をまとめる)」の有無に影響しない。第3 に、「前進的理解」をしている学生は、していない学生と比べて、平均的に自学自習時間が長いものの有意ではない。第4に、「前進的理解」をしている学生は、していない学生と比べて、平均的に読書時間が有意に長い(2倍強)。これらの知見の含意は「読むことの聴くことへの効用」である。読書は「自律的オーディアンス」を育成するので、「大学での学びのレディネス」を高めるのだ。以上より、取り組むべき実践的課題は、いかに読ませ書かせるか・いかにフィードバックすべきか、すなわち、「言語獲得の受動性と応答性」が埋め込まれた機会を、とりわけ1 年次の早期段階において、構造化することである。
著者
西尾 久美子 NISHIO Kumiko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.81-93, 2013-12

本稿の目的は、日本独自のエンターテイメント事業の事例を取り上げ、その事業はどのように構築されたのかを明らかにし、日本のオリジナルのエンターテイメント事業の特色について考察することである。事例として女性だけの劇団員が演じる歌劇という形式を継続し約100年の歴史を有する宝塚歌劇と、近年日本発の新しいエンターテイメントとして着目され海外にも展開しているAKB48を取り上げる。これら二つのエンターテイメント事業には、①サービスを消費者に届ける「場」を当初から設定、②サービス提供の責任を担う人材育成の仕組みの制度化、③ファンとの関係性構築による付加価値の創出、④選抜のプロセス明示による差別化の創出、という四つの特色があることが明らかになった。The Takarazuka Revue is based in Takarazuka, Hyogo Prefecture. Its forerunner was created in 1913 by Ichiro Kobayashi, the founder of Hankyu Corp., and gave its first public performance in 1914. Each year, the revue selects 40 girls from across Japan to train at its Takarazuka Music School. It currently has about 400 members. AKB48 is a popular idol group launched in 2005 by Yasushi Akimoto, a songwriter and the producer of the group. AKB48's performing theater is in Tokyo's Akihabara area. There is also an NMB48 group in Osaka and other sister groups within and outside Japan. This study focused on the common factors shared by the two groups including that they each run own training school, own a performance theater and encourage competition between members for purpose of selfimprovement.
著者
西尾 久美子 NISHIO Kumiko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.49-62, 2010-12
被引用文献数
1

本論は、宝塚歌劇という日本独特の興行組織がなぜ発展・定着したかについて、トップスターのキャリア形成と興行の仕組みに焦点を当てて考察するものである。100年近い伝統のある宝塚歌劇団のメンバーは、宝塚音楽学校の卒業生であるという限定がある。そのため宝塚音楽学校在学中の10代後半の早い時期からスター候補生を見出し、劇団に所属後も技能進捗に応じた場を与えて育成することが可能になっている。また、この仕組みは、ファンがスター候補生を見つけることを容易にし、スター候補生をファンが応援し、自分たちで育て上げ退団まで見送ることにつながっている。さらに、スターになったタカラジェンヌは自ら退団という節目を選択するというキャリア形成の流れができている。このスター選抜システムと退出をうながす二つの機能が興行の仕組みに織り込まれていることによって、組織内の新陳代謝も促され人件費の高騰も抑えることができている。宝塚劇団の運営は、トップスターのキャリア形成と興行の形態が結びつくビジネスシステムになっているからこそ、その長期的継続につながっているといえる。This paper is considered paying attention to the structure of personnel training about how the Takarazuka, a performance organization peculiar to Japan expands. The Takarazuka is established in 1913 and she must graduate the Takarazuka music academy attached to the opera to be a member of the opera. This system is the foundation of the star selection system that the opera and also enthusiastic loves of the opera can find a future star and support her since before she enters the opera. There is also a career development mechanism that the members in the opera who are not to be a star have make a choice whether she drop out of the opera. Management of the Takarazuka opera has the personnel system which brings up the star performers continuously and this connects with the succeed of a show and make the Takarazuka a tradition of about 100 years.
著者
手塚 洋輔 TEZUKA Yosuke
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.5-18, 2013-12

大きな事故や事件、不祥事などが発生すると、しばしば政府は事後検証を行う第三者機関を設置する。本稿では、そうした事後検証機関の設置形態を行政機関からの外部性を軸に類型化するとともに、それらの組織形態が1990年代以降どのように使われているのかを考察した。 その結果、不祥事対応に関してみても、それまで内部調査が主流だったところから、90年代後半以降、行政機関外部の者が参画する外部化が進展した。さらに2000年代後半になると、外部化に加えて、元検事の登用という司法化もあいまって進んだ結果、政権維持や内部改革のツールとして使用されるようになったことが明らかとなった。Public inquiries may come into existence in the aftermath of negative events such as accidents, policy failures and scandals. This paper explains organizational forms of these inquiries in terms of externality to a department which is responsible for such an event and discusses how government or ministers choose members of inquires. Around 1990s, public inquires began to be composed of internal and external members or only external members in regard to scandals, until then, only internal members. Later, in Abe and Fukuda administrations, some inquiries were set up under the Cabinet Office or the Ministry of Internal Affairs and Communications (MIC) and others got investigators from former public prosecutors. As a result, we found that public inquiries were used for electoral politics or attack to labor unions of public sector.
著者
小野 智佐子
出版者
東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
no.15, pp.177-183, 2017

<目的>ワーキングマザーが体験する、就学前および就学後の「小1の壁」を明らかにすることである。<結果>小学生1~3年生までの子をもつ核家族世帯の共働き家庭であるワーキングマザーを対象にインタビュー調査を行った。共働き家庭にあるワーキングマザーは、就学前と就学後にそれぞれ異なる「小1の壁」体験をしていた。就学前には【就学後の生活がイメージ困難】、【納得のゆく放課後保育を探せない】、就学後には、【学童保育は保育園の延長線ではない戸惑い】、【わが子の放課後が心配】、【雇用形態の変更に迫られる】、【夏休みに入り新たな問題に遭遇】、【PTA活動に貢献できないジレンマ】、【サポートが得られないことによるストレス】であった。 BackgroundThe purpose of this study is to clarify the "first grade barrier" that is experienced by working mothersbefore and after children start elementary school.MethodI conducted interviews with working mothers of dual-income nuclear families who have children in thefirst- to third-year at elementary school.ResultsThe mothers faced different types of "first grade barriers" in the period of before and after their childrenstarted elementary school; the barriers before starting school were that they could not prepare for theirroutine, and they could not find after school care that they were satisfied with; barriers after starting schoolwere that they felt confused about the fact that after school care was different from daycare, they wereworried about their children after school, they had to change their employment status, they faced newissues during summer holidays, there was a dilemma that they could not contribute to PTA activities, andthey suffered stress because they could not get any support.