著者
伊藤 祥子
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.5-14, 2018 (Released:2019-10-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本稿の目的は、流通過程の情報化の現状を整理することである。情報化の中でもインターネットの登場は流通過程における情報流に多くの変化をもたらした。それらについての部分的な研究は数多くあるが、それらを俯瞰して、また近時の問題点を含んで論じているものは少ない。したがって本稿はその全体像を描くことを目的としている。 その方法として、まず情報流の概念を再考しながらインターネット登場後の情報流の変化を跡づける。そこでいくつかの問題点、特にパーソナルデータに関するものを指摘する。そして情報と制御の流通理論を参照し、今日の流通過程におけるICTによるデータ流通の拡大やそれを利用したマーケティング、あるいは市場メカニズムの高度化を明らかにする。結論として、消費者の情報が市場の制御域で拡大していることが示され、そのことの意味も明らかにされる。
著者
鈴 木 孝 弘 田 辺 和 俊
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.15-22, 2018 (Released:2019-10-31)
参考文献数
18

高齢化率が年々高まるわが国にとって社会保障費は増大の一途であり、その削減対策の一つとして地方自治体は健康寿命の向上に努めている。健康寿命の要因を解明するために、都道府県別の健康意識格差解明の実証分析を試みた。『国民生活基礎調査』の「日ごろ健康のために実行している事柄は何か?」という質問に対して「特に何もしていない」と回答した人の比率を健康無関心率とし、その数値を目的変数に用いた。説明変数には、医療・福祉、経済・労働、教育、人口・世帯、自然環境の5分野の40種の社会経済的要因を用いて、サポートベクター回帰を適用して健康意識格差の要因解明を行った。その結果、無関心率を統計的に有意な精度で再現できる12種の決定要因が得られ、特に運輸郵便業等の産業別就業率の影響が非常に大きいことが明らかになった。また、産業別の就業率と仕事時間、残業割増金が決定要因となったことから、最近、社会問題視されている長時間労働が多い業界における過労死の原因の可能性が示唆される等、これまで見出されていなかった新たな知見が得られた。さらに、無関心率が国内で突出して高い青森県について健康意識改善策を検討し、提言を試みた。
著者
武 市 三 智 子
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.23-30, 2018 (Released:2019-10-31)
参考文献数
20

2000年に制定された「循環型社会形成推進基本法」では、循環型社会の実現には3R(リデュース、リユース、リサイクル)が重要であり、その優先順位はリデュース、リユース、リサイクルであると定められている。しかし、リサイクルに比べて、リデュース、リユースは遅れていると言わざるを得ない。ところが、ここにきて、カーシェアリングやオンライン上でリユース商品を簡単に交換できるアプリケーションなど、2Rを推進する新しいビジネスモデルが普及してきた。これらの新しいビジネスモデルは、直接的に環境問題を解決しようとしたものではないかもしれない。しかし、モノを所有せずコトを消費するという新しい消費スタイルを促進するシェアリング・エコノミーは、社会を循環型社会に向かわせているといってよいだろう。本稿では、シェアリング・エコノミーが発展してきた背景には、情報化社会の進展と消費スタイルの変化があることを明らかにし、さらにシェアリング・エコノミーのなかでも特にリユースを促進する際に用いられる循環型チャネル・ネットワークが、マテリアル・リサイクルのみを念頭に置いたそれとは異なることを論じている。
著者
筒井 美紀 TSUTSUI Miki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.89-105, 2009-12

「ふるさと雇用再生特別交付金事業」は、どのような求人を生み出しているのか。本稿は、大阪府の2009年7月現在の状況について、行政的な手続きを確認しつつ明らかにする。本稿は、雇用創出の中間ないし最終集計の分析ではなく、「オン・ゴーイングな観察」に過ぎない。だが、次の強みを持つ―「当該企業やNPOは、なぜいまこのタイミングでこれこれの求人を出しているのか?」という文脈の解明である。これがなされてこそ、当該の雇用が事業終了後も継続するか否かの考察や、継続させる必要条件についての議論も、より深い実質を備える。本稿は、「ふるさと雇用再生」の大枠と流れを、厚生労働省や大阪府庁の資料によって概観したあと、「サポートネットOSAKA」の求人情報の任意の発効日を対象に、労働需要発生の文脈を、受託企業・NPOのホームページの閲覧等によって解明していく。得られた暫定的な知見は次の2点。 1)本事業をブレイクダウンして個別事業の実施にこぎつけるまでのプロセスは、大阪府の場合、トップダウンの傾向が見られる。 2)「ふるさと雇用再生」で生み出されている少なからぬ求人が、行政のアウトソーシングの流れに位置づくものだ、と考えられる。現時点で言えることは次の3点。 1)国から発せられる事業の具体的な推進は、トップダウンで行政中心の方法に限られるわけではない(例えば京都府)。 2)民間企業の雇用保険料が、時限的な交付金として、経常的で福祉的な業務に投入されていることは正当性を欠く。恒久化が無理なら、せめて5年の時限措置とすべき。短期的事業の受託によって露命をつないでいる状態では、経営基盤の安定化も人材育成も望めまい。 3)雇用創出のアイデア出し・グランドデザイン描き・試行錯誤は、景気の良し悪しに関わらず、地味に続けられているべきボトムアップの営みであり、これを制度的に保障すべきである。
著者
嘉本 伊都子 KAMOTO Itsuko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.23-50, 2011-12

旧姓長田信子さんは、アメリカ軍に徴兵され極東での勤務を志願した飯沼星光さんと渋谷の富ヶ谷教会で結婚式をあげ、1953年9月に軍用船で海を渡った。彼女自身は戦争花嫁だとは思っていない。なぜなら星光さんはアメリカで生まれた二世ではあるが、幼少期から青年期までを日本で過ごしたいわゆる帰米二世であるからだ。日本人という同人種ゆえに国際結婚とは位置づけていないのである。しかし、アメリカ国籍をもつ日系二世のG・Iと、日本人女性との結婚は、敗戦後の国際結婚の歴史なかでも重要な位置を占める。飯沼信子さんのケースを取り上げることによって、研究上、焦点が当てられてこなかった帰米二世との「国際結婚」について考察していく。
著者
野口 実 NOGUCHI Minoru
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
no.1, pp.93-104, 2001-03-30

日本人一般はアジア・太平洋戦争について、その悲惨さは認識しているが、なぜそのようなことになってしまったのかということを真剣に考える姿勢が見えない。このノートは国民が軍国体制にからめとられていく背景として、誤った「武士」認識が近代国家の教育によって国民に注入されたことを論じ、そのような認識が今日に至っても払拭されていないことを問題にしたものである。まず、武士の成立に遡ってその実像を明らかにするとともに、東アジア的な視点から、王朝権力とは別のところに成立した武人政権が長く継続した日本の歴史の在り方を不幸で例外的なものと見る。ついで日本人一般に見られる武土賛美がもたらす諸問題を指摘する。そして、近代の日本国家が国民全体を武士的な精神で統合するために、どのような教育手段を用いたのかを具体的に提示し、戦前への回帰の方向に向かいつつある今日、その克服のために科学的な成果に基づく歴史教育の重要性を説く。
著者
加茂 直樹 KAMO Naoki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.5-28, 2008-12

本稿は、英国を中心に欧米における社会福祉の発展過程を概観した前々稿「社会保障制度の形成」(『現代社会研究』Vol. 10、2007年)および20世紀前半までの日本における社会福祉の発展過程を概観した前稿「日本の社会保障制度の形成」(『現代社会研究科論集』第2 号、2008年)に続き、20世紀後半における日本の社会保障制度の成立とその後の変遷を大まかに把握することを目的とする。なお、これらの歴史的な研究は、さまざまな問題を抱えている現代日本の社会保障制度を批判的に検討するための予備的考察である。本稿の内容は下記の通りである。Ⅰ 社会福祉の発展過程 Ⅱ 社会保障制度の成立過程 Ⅲ 国民皆保険・皆年金体制の成立 Ⅳ 制度の変遷過程The purpose of this paper is to comprehend briefly how Japanese social security system came into existence and underwent changes in the latter half of the 20th century. I think it is necessary to do so as a preliminary step to develop a critical examination of the social security system in contemporary Japan. The contents are as follows : Ⅰ The Progress of the Social Welfare Ⅱ How Japanese Social Security System Came into Existence Ⅲ The Realization of the 'Medical and Pension Insurance for All' System Ⅳ The Changing Process of the System
著者
澤田 知樹 SAWADA Tomoki
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.43-59, 2006-12

行政機関の裁量行使を適正化する手法の可能性の一つとして、大統領による行政コントロールという方法が考えられる。大統領コントロールモデルといった概念が、米国において数年前から主張されており、その概念の中核となる考え方は、法律によって各行政機関に委任された裁量に関して、大統領がその裁量の行使について指示を発する権限を有するというものである。この見解を採る論者は、法律条文によって行政官に委任された裁量の行使について大統領が指示権を主張することがきると読むことができると考える。だが、議会が権限を委任したのは大統領ではなく行政機関に対してであると一般的には理解されており、この見解に対しては疑問や批判が多く提示されているところである。本稿では、法律条文の解釈によって大統領の指示権を導くことの可能性について、そのような解釈に批判的な論者の主張に基づいて検証を試みる。
著者
澤 敬子 手嶋 昭子 藤本 亮 TEJIMA Akiko 藤本 亮 FUJIMOTO Akira 南野 佳代 MINAMINO Kayo 三輪 敦子 MIWA Atsuko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.131-150, 2004-11

本稿は、科学研究費補助金基盤研究(C)( 1 )「ジェンダー法学のアカウンタビリティー ―アメリカの先駆者たちに見るその軌跡―」の2003年度の成果の一部であり、現実の法実施状況のなかで、ジェンダーをめぐる理念、法理論、問題設定などが持ちうる具体的な射程、可能性、問題性について、法社会学研究者を中心とした研究者らが各人の研究領域に引き寄せて検討し確認するための予備的研究である。第Ⅰ章は、女性の地位の向上やジェンダー平等に向けた取り組みのなかで、条約が大きな役割を果たしている状況を概観する。第Ⅱ章は、日本における強姦罪の問題点のうち、被害者の「抵抗」の問題を取り上げ、日米を比較しつつ検討する。第Ⅲ章は、労働規制法が暗黙に想定する労働者像を明らかにしたうえで、「人たるに値する生活」の現代的意義の考察の基礎づけを行う。第Ⅳ章は、アファーマティヴ・アクションが持つ一側面を米国大学スポーツのあり方を手がかりに検討する。