著者
二宮 省悟 濵田 輝一 吉村 修 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1602, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】臨床実習は,卒前教育の中で臨床に向けての基盤・育成を担っている。我々は,より良い臨床実習指導体制の構築の検討の為に,H23年度から臨床実習指導の現状把握を目的に質問紙調査を行い,第48回及び第49回日本理学療法学術大会にて発表してきた。現状は,ほとんどの指導者が教育論を主軸とした教育法を学んでいるわけではなく,自身の学生時代や就職後の体験をベースとした体験的・経験的教育を行っていることが把握できた。今回,臨床実習指導経験者(以下,経験者)ならびに指導未経験者(以下,未経験者)が臨床実習指導をどう受け止めているのか,「実習指導を担当した場合のメリットとデメリット」の観点から比較検討することを目的とする。【方法】調査期間は平成25年8月から平成26年3月までの8か月間。42施設の理学療法士を対象として任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,自由記載とした。質問紙の回収後は,回答の信頼性保持の為,社会的望ましさ尺度で不適切と判断されたものは除外した。自由記載に関しては,得た回答をテキスト形式(.txt)にデータ化し,KHCoderを使用してテキストマイニングを行った。経験者と未経験者(実習指導を想定して回答)のメリットおよびデメリットについて頻出語を抽出し,階層的クラスター分析と共起ネットワークの作成により,実習指導についてどのような意識を持つかを分析した。【結果】790名の回答が得られ,有効回答数は689名であった。そのうち指導経験があると回答した484名(男性309名,女性175名,臨床経験年数8.5±6.1年)と未経験の205名(男性130名,女性75名,臨床経験年数2.5±2.0年)を分析対象とした。「実習指導のメリット」について,経験者からは3830語,未経験者からは701語が抽出された。またデータより最頻150語を抽出した結果,経験者は「自分(出現回数;167)」,「勉強(97)」,「自身(80)」,「成長(79)」,「指導(72)」が上位5番目までの最頻語であった。同様に未経験者からは「自分(29)」,「勉強(21)」,「知識(16)」,「指導(10)」,「学生(8)」が抽出された。更に,「実習指導のデメリット」について,経験者からは3017語,未経験者からは476語が抽出された。経験者は「時間(295)」,「業務(93)」,「負担(50)」,「指導(33)」,「増える(32)」が上位5番目までの最頻語であった。同様に未経験者は「時間(46)」,「業務(25)」,「指導(11)」,「自分(11)」,「負担(8)」が抽出された。その後,クラスター分析(Ward's methodを使用:経験者のメリットは出現回数31回以上,未経験者は5回以上。経験者のデメリットは出現回21回以上,未経験者は3回以上を対象)を行った。その結果,経験者のメリットについては,「自分の勉強と成長」,「自己学習」,「学生へ指導する機会」,未経験者については,「自己研鑽」,「自分の知識・技術の復習と成長」,「自分の勉強」の各3つのクラスターに分類された。更に,経験者のデメリットでは,「学生指導」,「仕事が増える」,「時間的制約と業務,患者及び精神面への負担」,未経験者については,「負担が増える」,「業務や指導に自分の時間を費やす」,「支障を来す」の各3つのクラスターに分類された。加えて経験者,未経験者の共起ネットワークからは,指導のメリットについては両者とも「自分」が中心となり「成長」,「勉強」と強い繋がりを示した。指導のデメリットについては両者とも「時間」が中心となり「業務」,「制約」と強い繋がりが示された。【考察】未経験者が学生指導を経験するまでは,「指導のイメージ」が分からない状況の中で,不安を感じる。調査結果より,指導経験前に感じていたことが指導を経験した後も同じメリットやデメリットを感じていることが予想された。また,デメリットの解消には,職場での実習教育に関する話し合いや,教育関連の勉強会や講習会を受講するなどの方策が十分行う必要があることが推測された。今後も充実した臨床実習教育のあり方について,引き続き検討が必要であろう。【理学療法学研究としての意義】未経験者は今後臨床実習指導者になる可能性が高く,指導者としての導入教育が必要となる。今回,経験者や未経験者が感じている臨床実習への意識を把握できたことは興味深く,アンドラゴジーを念頭に置いた,より良い臨床実習教育システムの構築に結びつける為のstepとして,大変意義がある。
著者
篠崎 真枝 大橋 ゆかり
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1982, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】理学療法教育において,臨床実習は,学内教育と臨床現場をつなぐ重要な教育過程である。同時に,これまで学習してきた現象を体験し,理学療法士という専門職の魅力を感じる再考の機会である。本研究では,総合臨床実習後の感想より,学生が臨床実習をどのように振り返り,理学療法士についてどう捉えたかを検討することとした。また,長期臨床実習は1期,2期と実習施設を変えて2回実施する。1期目の経験を踏まえて2期目の実習指導がなされることが多いが,それぞれの実習目標の設定な明確ではない。そのため,本研究では,1期と2期での学生の学びの特徴についても検討し,目標設定に繋げることを目的とした。【方法】4年次に実施する総合臨床実習は7週間を2回行う。1期目,2期目終了後に臨床実習を振り返って内省し,次への自分自身の課題や目標を考える手段として臨床実習感想を作成している。本研究は4年生37名を対象にし,研究目的での感想文の利用に同意を得られたものを分析対象とした。感想文をすべてテキスト形式にデータ化し,語句の整理を行った後,KH Coder.2.Xを用いて分析した。KH Coderは,内容分析の考え方を基盤として開発された計量テキスト分析のためのフリーソフトウェアである。1期と2期での学生の学びの違いについて分析するため,各期終了後の感想でデータ全体に比して高い確率で出現する特徴語を抽出し,語句と語句の結びつきを示す共起ネットワークを作成し,各期の特徴を分析した。さらに,臨床実習の経験により,学生が理学療法士をどのように捉えたかを検討するために,理学療法士を示す語句はすべてPTとしてまとめ,「PT」という語句と結びつきを示す語句について抽出した。【結果】感想から得られたテキストデータ全体では,1195文章数,39514語句数からなり,2319種類の語句が分析対象として抽出された。1期の感想では643文章数,2期は552文章数から成った。各期のテキストデータを特徴づける30語を比較すると,1期は「コミュニケーション」「関係-築き」という情意面に関する語句が抽出された。また,「分かる-変化-気づく」といった長期間の臨床実習で得られる症例の反応の変化に関する語句がみられた。「アプローチ-難しい」「不足-技術」という理学療法介入での困難を示す語句がみられた。さらに,共起ネットワークでは,「不安」「緊張」「反省」という語句も示された。一方,2期では「リハビリテーション」「生活」という広い視点で理学療法に取り組む姿勢を示す語句が抽出された。「PT」を含む文章は全体で110あり,これらと結びつきを示す特徴語を抽出した。今回は理学療法士のイメージを検討するため,分析対象は名詞,形容詞,形容動詞とした。共起関係により結びつきの高い語句として抽出された13語は,「患者」「介入」「生活」「治療」「自分」「病院」「実施」「実習施設」「実習指導者」「理学療法」「重要」「環境」「関係」であった。【考察】臨床実習後の感想を計量テキスト分析したところ,1期と2期で総合臨床実習という経験の振り返りで出現する語句から,学生の捉え方や学びの傾向の違いが示された。1期では経験を次の臨床実習へ繋げるという意味でも「難しい」「不足」「反省」から自らの課題を明確にしようとする傾向がみられた。また,1期でコミュニケーションに関連する語句が抽出され,臨床の場面で患者や実習指導者とのコミュニケーションや関係づくりの難しさや重要性を学んでいた。1期では,初めての長期臨床実習に対し,「不安」「緊張」を示す語句もみられ,学生の不安感の高さが伺えた。コミュニケーションに対しては臨床実習前に状況を想定したシミュレーションなどを通して,準備を行う必要性が示唆された。2期では,2回の臨床実習を総括し,「生活」「リハビリテーション」という広い視点で考える必要性を感じたと考えらえる。理学療法士像については,「患者の生活に介入する」ということと,それを実行するために必要となる「環境」や「関係」の重要性が認識されていたと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究より,臨床実習での経験について,学生の振り返りの傾向が明らかとなった。また,各期の学びの特徴も示され,それぞれの実習目標設定や臨床実習前の準備に活用し,今後の臨床実習展開へ繋げることができた。
著者
畑下 拓樹 田上 徹 濱西 啓記
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0044, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高齢者は加齢に伴う様々な要因により,低栄養に陥りやすく,低栄養により運動・生理機能の低下が助長される。若林秀隆らにより,リハビリテーション(以下:リハ)を行っている入院患者の多くが低栄養状態であるという報告が数多くなされている。一方,病院を退院後の地域在住高齢者の栄養状態に関する報告は少ない。しかし,リハの対象となる地域在住高齢者においても,入院患者と同様に低栄養状態であることが予想され,リハを実施する際に栄養状態を把握することが必須と考えられる。そこで,通所介護施設利用者における栄養状態と運動機能の関連について調査し,要介護認定を受けている地域在住高齢者に対するリハビリテーション栄養(以下:リハ栄養)の必要性を検討した。【方法】当社の通所介護施設利用者53名(男性:28名,女性:25名)を対象とした。栄養状態をMini Nutritional Assessment-Short Form(以下:MNA-SF)にて,運動機能をShort Physical Performance Battery(以下:SPPB)にて評価した。栄養状態はMNA-SFの点数により低栄養(0~7点),At risk(8~11点),良好(12~14点)の3群に分け,それぞれの群の,SPPBの点数を比較した。また,SPPB各項目(バランス,歩行,立ち上がり)の栄養状態別の点数も合わせて比較した。【結果】対象者53名の内MNA-SFによる分類では,低栄養10名,At risk11名,良好32名となった。SPPBの平均点数は,低栄養群5.2±3.0,At risk群5.5±3.1,良好群8.3±2.6であり,低栄養群と良好群,At risk群と良好群で有意な差がみられた(p≦0.01)。また,SPPBの各項目では,バランスの項目では低栄養群2.0±2.4と良好群3.5±0.8で,歩行の項目ではAt risk群1.5±2.7と良好群3.2±1.7で,有意な差がみられた(p≦0.01)。立ち上がりの項目では各群間に有意な差は見られなかった。【考察】通所介護施設利用者の内,低栄養状態にある者が18.9%,At riskの状態の者が20.8%と合わせて全体の39.6%もの割合を占めており,それだけ,要介護度が重度化するリスクのある者が潜在的にいることが分かった。また,SPPBの点数が,栄養状態良好群でも8.3±2.6(中間機能)であったのは,通所介護施設利用者は,脳血管疾患による運動麻痺,運動器疾患による疼痛や筋力低下など,運動機能を低下させる症状を有しているため,SPPBの点数が低かったと考えられる。SPPBの各項目の点数と栄養状態とでは差がある群にバラつきが見られたが,SPPB全体の点数と栄養状態では,栄養状態が悪化する程SPPBの点数が低下することが示唆された。これは,疾患による一次性の運動機能の低下に加え,低栄養によってサルコペニアを進行させ,運動機能の低下を助長していることが示唆される。ADLやIADLの改善を目的に通所介護施設を利用している低栄養状態やAt risk状態の高齢者に,高い活動量のサービスを提供することで,運動機能や生理機能などが低下し,かえってADLやIADLのレベルを低下させ,要介護度の重度化を招くことが懸念される。このことから,介護予防の観点からもリハ栄養の実施は必須であること考えられる。そのため,通所介護施設利用者の栄養評価を出来る限り行い,栄養状態を把握した上で,サービス利用時の活動量や内容を検討していく必要があると考えられる。また,可能であれば管理栄養士や栄養士,看護師などと協力し,栄養指導なども並行してサービス提供していくことが望まれる。【理学療法学研究としての意義】通所介護施設利用者への調査を通じて,主に要介護(要支援)認定を受けている地域在住高齢者に,リハ栄養を実施していくことの必要性,また,同時には理学療法士も栄養についての最低限度の知識を有しておく必要性を提示できたのではないかと考える。また,具体的なリハ栄養の取り組みを検討・実施していき,その有用性の検証などが今後の課題であると考える。