著者
吉川 千尋 田上 未来 間瀬 教史 山本 健太 野口 知紗 冨田 和秀 門間 正彦 居村 茂幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0165, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】横隔膜呼吸では,下側肺野の換気が増加すると報告されており,この変化は仰臥位や直立位と比較し側臥位でより顕著に見られる。この要因の一つとして横隔膜による縦隔の挙上があると報告されている。側臥位において下側肺野は縦隔による圧迫を受けている。横隔膜はその縦隔と連結をもち,側臥位で横隔膜が収縮すればその張力により縦隔が持ち上げられ,下側肺野が拡張しやすくなるという説がある。もしこの説が正しいとすれば,側臥位で呼吸を行うと吸気に伴い縦隔は上側に引きあげられる。その際,横隔膜の筋線維走行は縦隔を持ち上げる上側方向に向いているはずである。本研究の目的は,側臥位における呼吸に伴う縦隔組織の位置変化,横隔膜の走行を観察することにより横隔膜が縦隔を持ち上げ,下葉換気の増加に関与している可能性があるかどうかを検証することである。【方法】対象は健常人8名(男性6名,女性2名),測定体位は左側臥位とし,撮像時の肺気量位は機能的残気量(FRC)位,予備吸気量(IRV)位,全肺気量(TLC)位,残気量(RV)位とした。撮像装置は1.5TのMRI(東芝EXCELART Vantage1.5T)を用いた。対象者に各肺気量位での息止めを30秒程度行わせ撮像した。撮像は三次元構築画像撮像として,腹側から背側方向へ肺全体の撮像を前額断で行った。得られたMRI画像から画像解析ソフトimageJを用いて以下の分析を行った。まず心臓の最大横径を計測し,その画像上で,第5胸椎レベルでの胸腔内横径,右胸腔内壁から心臓最右端(右胸腔内横径),左胸腔内壁から心臓最左端(左胸腔内横径)の距離を各肺気量位で計測し上側・下側肺野の換気変化の指標とした。また,各肺気量位における大静脈孔レベルでの左右横隔膜の筋長を,第10胸椎レベルでの横隔膜最遠位部から大静脈孔部までの距離として計測した。さらに,その筋線維走行を観察し,横隔膜の筋収縮と収縮に伴う張力方向の指標とした。各肺気量位での測定項目を分散分析,多重比較法にて検定し,有意水準は5%とした。【結果】胸腔内横径(TLC:402.6±29.9mm,IRV:382.1±34.3mm,FRC:377.6±35.9mm,RV:365.5±34.8mm)は,TLCが他の肺気量位と比べて有意に長く,RVが他の肺気量位と比べて有意に短い値であった。右胸腔内横径(TLC:152.6±18.5mm,IRV:147.7±16.4mm,FRC:147.7±15.0mm,RV:142.1±16.0mm)はTLCが他の肺気量位と比べて有意に長い値を示した。左胸腔内横径(TLC:59.7±17.6mm,IRV:33.2±14.4mm,FRC:25.9±11.1mm,RV:22.0±11.2mm)はTLCが他の肺気量位に比べ有意に長く,RVに比べIRVでは有意に長い値を示した。右横隔膜の筋長(TLC:231.7±18.2mm,IRV:254.3±14.2mm,FRC:296.4±20.7mm,RV:326.4±21.3mm)は,TLC,IRVともにFRC,RVより有意に短い値を示し,FRCとRVの間でも有意差を認めた。左横隔膜の筋長(TLC:276.3±38.1mm,IRV:277.5±70.3mm,FRC:322.0±38.1mm,RV:332.1±33.0mm)は,TLCとIRVがそれぞれFRC,RVより有意に短い値を示した。右横隔膜の筋走行は,RVからFRCまで大静脈孔から胸壁にかけてわずかな曲線もしくは比較的平坦に近く,その後胸壁部分で鋭角にまがり胸壁に沿って走行していた。FRC以上の肺気量位では,大静脈孔から胸壁まで全体的に彎曲し,筋線維走行は右方尾側方向となり縦隔を上方に引き上げる走行となった。【考察】側臥位は体位変換の体位として頻繁に使用され,上側肺野の換気改善,排痰目的に利用される。今回の結果からは,側臥位における横隔膜の筋走行はFRC以上の肺気量位では縦隔を上方に引き上げる右方尾側方向となり,それと同期して下側に位置する左胸腔内の横径はRV時より長い値を示し,肺野の横径が拡張していた。これらの結果は,側臥位における横隔膜は尾側への下降による胸腔の拡張作用だけでなく,組織的な連結をもつ縦隔組織を上方に持ち上げ,下側の肺野を拡張する役割を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】側臥位における下側肺野の換気増加に影響する因子の一つを検討することは,呼吸理学療法の体位交換を行う上で有用な情報と考えられる。
著者
窪内 郁恵 薦田 昭宏 橋本 聡子 川口 佑 中谷 孝 中島 利博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0489, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】線維筋痛症(Fibromyalgia;以下FM)は,3カ月以上持続する原因不明の全身痛を主症状とした,精神・自律神経系症状を伴う慢性疼痛疾患である。中高年の女性に多く,日本では推定200万人以上の患者がいるとされている。経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation;以下TMS)は,磁気エネルギーを媒体として,頭蓋骨の抵抗を受けずに大脳皮質を刺激することができる治療法である。反復性経頭蓋磁気刺激法(Repetitive TMS;以下rTMS)は,アメリカ食品医薬局(Food and Drug Administration;FDA)より薬物治療抵抗性うつ病への治療的使用が承認され,線維筋痛症診療ガイドライン2013でも推奨されている。副作用は非常に少なく,安全性が高いと言われている。今回FM例に対してrTMSを施行し,施行前後の痛み・心理面の経過を追ったので報告する。【方法】対象はFMにて当院フォロー中の症例で,12例中rTMS治療の全過程を終了した9例である。内訳は,入院対応4例,外来対応5例,平均年齢44.7±13.9歳,全例歩行自立レベルであった。ACR2010線維筋痛症予備診断基準(Fibromyalgia activity score 31;以下FAS31)は平均総得点18.6±5.8点,平均広範囲疼痛指数(widespread pain index;以下WPI)11.6±4.8点,平均症候重症度(symptoms severity score;以下SS)7±1.3点であった。除外項目は,rTMS装置の絶対禁忌・相対禁忌である人工内耳,頭蓋内金属使用などの開頭手術歴,てんかんの既往,人工ペースメーカーなどとした。rTMS装置は,NeuroStar(Neuronetics社製)を使用し,左前頭前野に10Hzの高頻度刺激を行った。標準治療時間は4秒間刺激,26秒間休息の繰り返しで約40分,これを週3~5回,合計30回施行した。評価として,痛みの部位はWPI,強度はVisual Analog Scale(以下VAS),質は神経障害性疼痛重症度評価ツール(Neuropathic Pain Symptom Inventory;以下NPSI),認知・心理面においては痛みの破局的思考評価であるPain Catastrophizing Scale(以下PCS),不安・抑うつのHospital and Depression Scale(以下HADS),生活の質(quality of life;以下QOL)は日本語版線維筋痛症質問票(Japanese fibromyalgia impactquestionnaire;以下JFIQ)を評価し,経過を追った。全て自己記入式で,rTMS施行前,施行10回毎に評価した。統計学的処理は対応のあるt検定,一元配置分散分析を用い,有意水準5%未満とした。【結果】FAS31の総得点,WPI,SSでは,rTMS施行前,施行10回,20回,30回で有意差を認めなかった。VASにおいては,rTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めた。NPSIの総得点では施行間の有意差を認めなかった。PCSは総得点,下位項目3つとも有意差を認めなかったが,継時的な減少を認めた。HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったものの減少傾向を認めた。【考察】慢性疼痛例は,健常例と比較して前頭前野の活動が乏しく,下行性疼痛抑制系機能が減弱状態であると考えられている。今回,VASにおいてrTMS施行前と施行20回,30回で有意差を認めたことから,前頭前野を活性させることで,痛みの関連組織である扁桃体,前帯状回,島などの活性も促通することができたと推察する。またPCS,HADS,JFIQにおいても,有意差は認めなかったが改善がみられ,rTMSが認知・心理面やQOLの向上に繋がる因子になったのではないかと考える。しかし痛みの悪循環を示す恐怖・回避モデルと照らし合わせると,痛みに対する無力感,自宅生活だけでなく就労などにおける社会への適応に対しても,さらなる評価・検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】FM例などの慢性疼痛疾患は,感覚的痛みに加え情動・認知的痛みの要素が大きく関わってくる。rTMSは副作用が少なく,磁気刺激によって痛みの関連領域を含めた脳の活性を図ることができると本研究で示唆されたため,今後のFM治療への有効性が考えられる。
著者
松本 拓哉 金澤 浩 大津 知昌 成尾 政一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0642, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ストレッチングには,スタティックストレッチング(SS)やダイナミックストレッチング,バリスティックストレッチングなど,多様な方法がある。中でもSSは,伸張反射が起こりにくく,筋腱の損傷が少ない安全な方法であるとされている。筋の伸張性が筋力に及ぼす影響を調査した研究は多数行われているが,筋のストレッチングが拮抗筋へ与える影響を調査した報告は少ない。中島ら(2012)は,ハムストリングのSSを1週間継続した結果,膝関節伸展トルクの有意な増加が認められたと報告している。我々は,SS直後に拮抗筋の筋力が向上すれば,運動療法をより効果的に実施することが出来るのではないかと考えた。本研究の目的は,股関節内転筋群(AD)にSSを加え,拮抗筋である股関節外転筋群(AB)の筋出力が向上するかを確認することである。【方法】対象は,整形外科的疾患や神経学的疾患がない健康な成人男性50名(平均年齢25.1±2.5歳,身長171.1±4.5cm,体重65.5±9.1kg)とした。はじめに,右股関節外転角度を,角度計で他動的に計測し,疼痛の出現する直前の角度を記録した。続いて,右ABの最大随意等尺性収縮(MVC)を,サイベックスノルムCN77(CSMI社)を用い,肢位は「筋力測定装置CYBEX NORM User's Manual」に準じて側臥位とし,股関節外転のMVCを3回行った。その後,背臥位で,右ADに対するSSを,30秒間保持の4セット,疼痛の出現する直前の強度で実施した。SS後,股関節外転角度,及びMVCの測定を再度行い,ABのピークトルク,体重比(%BC)を算出し,SSの前後で比較した。股関節外転角度とABのピークトルク,%BCの差の比較には,Wilcoxonの符号付き順位和検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】SS前後の股関節外転角度の平均は,SS前42.6°±4.4°,SS後47.2°±4.1°で,SS後の股関節外転角度の有意な増大を示した。ABのピークトルクの平均も,SS前87.5±26.8Nm,SS後は94.3±29.5Nmとなり,SS後が有意に増大した。ABの%BCの平均についても,SS前135.1±42.5,SS後145.8±46.6で,SS後は有意な増大が得られた。【考察】股関節外転角度はSSにより11%の有意な増大を示したことから,ADの伸張性は改善し,SSの効果は得られていたと考えられる。Siatrasら(2008)は,30秒以上のSSで関節可動性が有意に増大したと報告していることから,本研究のSSの実施時間は,ADの伸張性を改善させるには,十分であったといえる。対象筋に対するSSの効果を調査した報告は多く,濱田ら(2008)は筋パワーの低下をもたらすとし,Rubiniら(2007)は最大筋発揮やパフォーマンスを低下させると報告している。本研究ではADのSS後に,拮抗筋のABのピークトルクが7.7%,%BCは7.9%向上したことが確認され,SSは拮抗筋の筋出力の向上に即時的な効果があることが示された。筋力発揮に関わる因子は多く挙げられるが,その中でも効果的な筋力発揮を得るための相反神経支配の関与が重要視されている。通常,関節運動時には拮抗筋の活動は完全には抑制されず共収縮が生じており,本研究ではSSによってADの伸張性が増大した結果,ADの共収縮が低下し,拮抗筋であるABの筋出力が改善したことが一つの要因ではないかと考える。本研究の結果,筋力強化の対象筋が明確な場合,SSは拮抗筋の筋出力を即時的に改善させることから,SSを行うことで拮抗筋の筋力を効率よく発揮出来ることがわかった。【理学療法学研究としての意義】主動作筋の筋力増強運動を行う直前に拮抗筋のSSを行うことで,より効果の高い運動療法が実施出来ると考える。
著者
塚田 雅弘 新居 美紗子 明本 聡 山科 彩乃 池田 大佑 瀧内 敏朗
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0526, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】成長期腰椎分離症は椎弓の関節突起間部の疲労骨折と考えられており,その発生には活発なスポーツ活動が深く関わる。MRIによる早期診断が可能になったことで,骨癒合を目的とした保存療法の成績は向上しているものの,実際には治療期間すなわち運動離脱が長期に及ぶ者,またその期間の心身の負担に耐えられず骨癒合を放棄してドロップアウトする者も少なくない。近年,骨折治療に低出力超音波パルス(low intensity pulsed ultrasound:LIPUS)が使用されるようになり,疲労骨折への効果も報告されている。当院では2010年より本症に対して従来の理学療法とLIPUSの併用を開始し,これまでの治療期間を約40%短縮した事を報告した。また,治療期間の短縮にはLIPUSを用いた理学療法の実施頻度が関与する可能性を示唆したが,効果的な治療法を提示するには至らなかった。彼らが望む一日も早い運動再開には,固定や運動量の管理法,また受療とLIPUSの照射法などを具体的に提示し徹底させることが重要である。本研究の目的は,本症の治療期間に関わる因子を明らかにし,効果的な治療法を検討することである。【方法】対象は2013年1月から2014年9月までに初期の腰椎分離症(X線上分離を認めず,MRI T2強調像で椎弓根部に高信号変化を認める)と診断された18歳以下の84名88椎弓のうち,治療を完結した48名48椎弓(男性45名,女性3名,14.3±2.1歳)とした。2椎弓以上の分離4名,治療途中での脱落16名,定期通院中の16名は除外した。治療は外固定,運動量制限,運動療法,LIPUSを通院毎に1回20分(日本シグマックス社製アクセラス)に統一した。全対象者外来対応で,1ヵ月毎にX線,2ヵ月毎にMRIを撮影した。これ以外の通院に関しては患者自身が決定した。X線で分離がなく,MRI所見の消退が認められた時点でスポーツ完全復帰を許可し,ここまでを治療期間とした。すべての診断は同一整形外科医が行った。全対象者の治療期間中央値を境界に2群に分類し,年齢,性別,身長,体重,BMI,分離椎弓高位,分離椎弓根,腰痛自覚から診断までの週数(以下,診断週数),治療開始時および復帰許可時の柔軟性評価3項目(立位体前屈で指先接地の可否,腹臥位で殿部と踵部の接触可否,踵接地状態でのしゃがみ可否),治療開始1ヵ月時点でADL上の疼痛有無(以下,疼痛),診断から復帰許可までの治療回数,治療期間を治療回数で除して得られた日数(以下,治療間隔)を調査し比較した。また,治療期間を従属変数,群間比較で有意差を認めた因子を独立変数としてロジスティック回帰分析を実施した。さらに,ロジスティック回帰分析で抽出された有意な項目でROC曲線分析を行い,カットオフ値を求め,検査特性を算出した。有意水準は5%とした。【結果】全対象者の治療期間中央値は63.5日で,A群(男性24名,14.0±2.3歳,中央値59.5日,四分位範囲55.8-61.3日)と,B群(男性21名,女性3名,14.7±1.9歳,中央値122日,四分位範囲75.8-164.0日)に分類した。より早期に復帰を果たしたA群は,B群に比べ治療期間,治療間隔,診断週数が有意に短く,疼痛を有する者は有意に少なかった。ロジスティック回帰分析の結果,治療間隔(オッズ比0.67,95%信頼区間0.51-0.89,p<0.01)と疼痛有無(オッズ比5.19,95%信頼区間1.19-22.7,p<0.05)が有意に選択された(モデルχ2検定p<0.01)。Hosmer-Lemeshowの検定結果はp=0.82,判別的中率は77.1%であった。ROC曲線分析から得られた治療期間を鑑別する治療間隔のカットオフ値は4.8日(感度62.5%,特異度87.5%,曲線下面積0.809)であった。【考察】本症の一般的な治療期間(3~5ヵ月)やLIPUS併用での治療期間(2~4ヵ月)を鑑みて今回の対象者の治療成績は概ね良好であり,A群に割り付けられた者は,特に優良な成績を得た者と判断した。本結果から,治療期間には治療間隔および治療開始後1ヵ月時点での疼痛が関与することが示唆された。治療間隔の短さ,すなわち高頻度にLIPUS併用理学療法を実施することが治療期間短縮に関わるという従来の推察が支持された。集中的な受療,LIPUS照射によって治癒が効果的に促進される可能性が示唆された。また,今回得られたカットオフ値(4.8日)は,今後具体的な指示を可能にする有益な知見と考えられる。さらに,ADL上で疼痛が1ヵ月以上持続すると治療期間が延長する可能性が示された事で,固定や運動量に関わる生活指導の重要性が確認された。【理学療法学研究としての意義】本症の治療期間に関わる因子について知見を示した。治療期間短縮,治療完遂者増加の一助になる可能性があるものと思われる。
著者
湯田 智久 大住 倫弘 前岡 浩 森岡 周
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1328, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Complex regional pain syndrome(CRPS)患者や脳卒中患者の障害側上肢には浮腫が生じ,浮腫は関節可動域制限や疼痛と関連することが報告されている(Shimada 1994,Isaksson 2014)。浮腫の原因は自律神経障害や静脈欝血とされることが多いが,明確な成因や治療手段は明らかにされていない。Moseley(2008)は,身体所有感が浮腫に関連することを示唆しているが,これらの関連は調査されていない。そこで本研究では,身体所有感の生起プロセスの調査を行う実験手法とされているラバーハンド錯覚(Rubber Hand Illusion:RHI)を用いて,身体所有感の変化が手容積に与える影響について調査することを目的とした。【方法】対象はRHIが未経験の健常成人21名(男性12名,女性9名,平均年齢26±3.85歳)とした。RHIとは隠された本物の手と偽物の手(Rubber Hand:RH)が同時に刺激されると,RHが自己の手のように感じる身体所有感の錯覚現象である。今回は2分間(1Hzの速度)絵筆による触刺激を隠された本物の左手とRHに同時に与える同期条件,交互に刺激を与える非同期条件,RHのみに刺激を与える視覚条件の3条件(各7名)に振り分けた。手容積の測定は,RHI前後で手容積計を用いて行った。客観的な錯覚の評価として,Skin Conductance Response(SCR)と脳波を測定した。SCRはProcomp2(ソートテクノロジー社)を用い,右第2,3指に貼付した電極間の電位差を測定し,RHI後にRHへ針刺激を与える場面を見せ,その直後から5秒間のSCRの最大振幅とした。SCRの振幅が大きい程RHへの錯覚が強く,身体所有感が低下していることを表している(Armel 2003)。脳波は高機能デジタル脳波計Active two system(Bio semi社)を用い,拡張10-20法に準じた電極配置による64電極にて安静座位,RHI時の60秒間を測定した。解析対象chはC3,C4とし,RHI時のα帯の平均パワー値を安静時のα帯の平均パワー値で除し,そのLog値をα帯の変化量とした。なお,Log比が負の値である程身体所有感の低下を表している(Evans 2013)。また,自律神経活動の変化の指標としてRHI前後で皮膚温,情動喚起の指標としてRHI後に不快情動の測定も行った。皮膚温はProcomp2(ソートテクノロジー社)を用いて,左第2指掌側で30秒間5set計測し,その平均値とした。不快情動はNumeral Rating Scaleを用いて測定した。統計解析は,各パラメータの条件比較を一元配置分散分析(多重比較検定法Bonferroni法)を用いて行った。また,手容積変化率との関連要因を検討するために,全被験者の各項目間の相関分析をPerson積率相関係数にて求めた。その後手容積変化率を目的変数に,C4Log比,SCR,皮膚温変化量,不快情動を説明変数として重回帰分析(変数増減法)を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】手容積は条件内比較で有意差を認めなかった。手容積の変化率(%)は同期条件で0.31±1.41,非同期条件で-0.42±1.66,視覚条件で0.6±0.6であり,条件間においても有意差を認めなかった。SCR,C3Log比,C4Log比は条件間で有意な差を認めなかったが,同期条件のSCRで最も高値を示した。相関分析において,手容積変化率は皮膚温変化量(r=.44,p<.05),不快情動(r=.55,p<.01),C4Log比(r=.5,p<.05)と正の相関を認めた。また,皮膚温変化量はC4Log比と正の相関(r=-.44,p<.05),SCRと負の相関(r=-.53,p<.05)を認め,C4Log比は不快情動と正の相関(ρ=.61,p<.01),SCRと負の相関(r=-.46,p<.05)を認めた。重回帰分析の結果では,不快情動(標準偏回帰係数:0.47,p<.05)が抽出された。【考察】SCR,脳波で条件間の差を認めなかった。Honma(2009)らは本研究の視覚条件と同様の条件にて身体所有感の錯覚が生じることを報告しており,本研究では同期条件以外の被験者でも錯覚が生じていたことが考えられる。これらは手容積変化率で条件間の差を認めなかった要因として考えられる。しかし,相関分析でC4Log比と手容積の間に関連を認めていることから,本結果はRHIの実施方法の差異ではなく,身体所有感の低下が手容積の減少に関連することを示している。また,C4Log比と不快情動に相関を認め,重回帰分析で不快情動が抽出されたことは,身体の錯覚に関連した不快情動の喚起は手容積の増大に影響することを示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,浮腫の発生要因として末梢の影響以外にも,自己の手に対する知覚的側面や情動的側面が影響することを示唆しており,浮腫に対する理学療法介入の一助になると考える。
著者
四宮 克眞 田野 聡 高岡 克宜 野口 七恵 松村 幸治 濵 敬介 鶯 春夫 田岡 祐二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1290, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】両側人工股関節全置換術後(以下THA)より不良姿勢を呈した症例に対し,姿勢修正のために腰椎と骨盤の分離および連動運動の観点から2週間運動療法を実施するも著変みられなかったため,身体イメージを修正する介入を実施したところ,静的姿勢に変化を及ぼしたので報告する。【症例提示】80代女性。2014年5月左 THA施行,同年8月右THA施行し,当院に9月下旬より入院し運動療法を施した。現在,歩行器歩行監視レベル。ROMは股関節屈曲,伸展,内転,外旋に著明な制限あり。背臥位では骨盤前傾,腰椎前弯位(ベッド面より2横指),立位では過度な骨盤前傾,腰椎前弯位(壁より3横指)を認め,中間位への矯正を指示すると腰椎前弯を助長する結果を招いた。そこで,身体イメージに崩れが生じていると仮説し,症例が描いている身体イメージを明確にするため,紙面上に立位の絵を描写させた結果,腰椎を最凸部にした円背姿勢を描いた。次に,セラピストが描いた腰椎前弯と中間及び後弯位の立位との比較を行った結果,後弯位が自身の立位と答えた為,身体イメージを修正する介入を実施した。【経過と考察】介入開始時,「お尻が出て猫背です。」と実際の姿勢と差がみられたため,視覚と体性感覚情報を用いた介入を行い,視覚情報では,腰椎前弯と中間及び後弯位を図示して,その差を言語表象させた。さらに端座位で各肢位を実演し,矢状・前額面から腰椎と骨盤との位置関係を言語表象させた。体性感覚情報では,背臥位,立位にて腰椎部にスポンジで圧刺激を行い同部位へ体性感覚情報に対する注意を増大させた後に,再度自動運動にて各肢位を再現させた。その結果,背臥位で腰椎・骨盤中間位(ベッド面と接し),立位で骨盤前弯位が減少(壁より1横指)した。本人も,「腰が以前みたいに前に反っているのではなく,しっかり背中がついている。」と改善を表す言語表象がみられた。今回,高齢の両側THA患者の静的な不良姿勢を身体イメージの修正により改善できたことを確認した。
著者
福井 悠貴 小原 謙一 平野 圭二 亀山 愛
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1084, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Gait Solution(以下,GS)付短下肢装具の報告は多いが,GS付長下肢装具についての報告は少ない。本研究は,短下肢装具での歩行練習が可能な脳卒中片麻痺患者に対して,GS付長下肢装具での歩行練習を行い,その効果を検証することで,GS付長下肢装具が治療用装具として利用できる可能性について検討することを目的とした。【方法】対象は,発症から107病日(転院後58病日)経過した左被殻出血右片麻痺の50歳代男性である。介入時の状況は,Brunnstrom stage上肢II手指I下肢IIであり,麻痺側上肢屈曲群筋緊張亢進,下肢股関節内転・内旋に軽度筋緊張亢進が認められ,膝・足クローヌス陰性であった。また重度失語症のため精査困難であるものの,麻痺側下肢重度感覚障害が疑われた。寝返り,起き上がり,座位は自立であり,立ち上がり,立位は見守りで可能であった。歩行は,GS付短下肢装具とロフストランドクラッチ使用にて分回しの歩容を呈し,2動作前型歩行であった。麻痺側振り出しの促通のために腸腰筋に皮膚刺激を与え,骨盤代償制動のため軽介助を要した。研究デザインは,経過による回復の影響を除くためにABA型シングルケースデザインを用いた。介入期(A1・A2)はGS付長下肢装具での歩行練習後GS付短下肢装具での歩行練習を実施し,非介入期(B期)はGS付短下肢装具のみで歩行練習を実施とし,他の理学療法はA期B期ともに共通して行った。実施回数は各期7回とした。装具は,長下肢装具(膝継手:リングロック,足継手:外側Gait Solution継手,内側タブルクレンザック継手)と,短下肢装具(長下肢装具をカットダウンしたもの)を使用した。GS付長下肢装具は,背屈角度はフリー,底屈制動はGSの油圧強度設定で2.5~3とした。GS付短下肢装具では,背屈角度は歩容状態に応じて0~10度,油圧設定は3~4とした。歩行補助具には,A期B期共通してロフストランドクラッチを使用した。評価指標として,麻痺側立脚相に与える影響を検討するため,GS付短下肢装具歩行における麻痺側立脚相後期股関節伸展角(肩峰-大転子線と大転子-大腿骨外顆中心線のなす角)と立脚相中期体幹屈曲角(鉛直線と肩峰―大転子線のなす角)及び非麻痺側歩幅を採用した。解析は,歩容の動画をデジタルビデオカメラにて側方から撮影し,高度映像処理プログラム(Dartfish teamPro Data 6.0)を用いて各評価指標の解析した。解析結果より介入による効果の検討のためにA1・2期それぞれの初期と終期間で比較した。さらに,非介入であるB期における変化を調査するためにA1終期とA2初期間で比較した。【結果】短下肢装具装着歩行時の各評価指標の平均値を(A1初期,終期,/A2初期,終期)の順に示す。麻痺側立脚相後期股関節伸展角(度)は(4.3±1.2,7.1±1.6,/3.6±1.5,7.0±1.5)であり,麻痺側立脚相中期体幹屈曲角(度)は(10.9±2.1,7.8±0.8,/11.1±0.5,9.0±0.9)であった。非麻痺側歩幅(cm)は(27.3±2.3,30.0±1.4,/26.0±1.4,32.5±1.5)であった。本結果から,介入A1,A2期は,7回の介入により全指標で改善を認めた。さらに,非介入であるB期における各指標の変化を検討するためにA1終期とA2初期を比較した結果,全指標で数値が悪化していた。これらのことから,GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,歩容の改善に効果があることが示唆された。【考察】山本ら(2014)は,GS付長下肢装具では,体幹前傾への影響が少ないため股関節伸展しやすく,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がると述べている。本症例においても,GS付長下肢装具歩行練習後に測定項目の改善が認められ,短下肢装具での歩容改善に影響したと考えられる。本研究結果から,GS付長下肢装具を歩行練習で用いることにより,脳卒中片麻痺患者に対する歩容改善に向けた治療用装具としての機能を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,短下肢装具での歩容改善に効果があることが示唆されたことは,下肢装具を用いた効果的な歩行練習を検討するうえで意義がある。
著者
川﨑 智子 平山 哲郎 多米 一矢 西田 直弥 小関 泰一 藤原 務 稲垣 郁哉 小関 博久 石田 行知 柿崎 藤泰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0994, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頚椎は胸郭上に位置しており,頚椎肢位や運動は胸郭のコンディションに依存する。特に胸郭は,前額面において左側方に偏位している割合が多いとの石塚ら2011)の報告があり,その要因から考えても頚椎肢位や運動に影響を及ぼすことが十分予測される。日常の臨床のなかで,胸郭の定型的な形状の定着により,頚椎肢位や運動のバリエーションの低下を引き起こす現象も多く観察している。そこで本研究では,頚椎側屈運動における水平面上の胸郭形状変化と左右座圧分布を観察するため,3次元動作解析装置と床反力計を用いて胸郭形状と頚椎運動の左右特性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,整形外科的疾患の既往がない健常成人男性10名(平均年齢27.7±3.6歳)とした。頚椎側屈運動における上下部胸郭前後径変化を観察するため,3次元動作解析装置VICON-MX(VICON社製)を用いた。赤外線反射マーカー貼付位置は,頭部マーカーを前後左右の計4点,上下部胸郭マーカーをそれぞれ左右第3胸肋関節の中点と剣状突起(A点),A点を背面に投影した棘突起上の点(B点),A点を通る水平線上に左右等距離に位置する点(C点,各3点)の計16点とした。また,同時に座圧分布を床反力計(Zebris社製)を用いて計測した。測定肢位は上肢をscapular plane上で腋窩レベルまで挙上した安静座位とし,上肢の影響を最小限に,また肩甲帯や体幹による代償が生じないよう考慮した。測定課題は安静呼気位における頚椎最大右側屈,頚椎最大左側屈の2条件とした。メトロノームに合わせて3秒間で最終域に達するよう指示し,実施前に十分な練習を行った。得られた標点の位置データから上部胸郭前後径をB-C点間,下部胸郭前後径をA-C点間の距離としてそれぞれ算出した。また,左右座圧分布は得られた床反力データからそれぞれ相対値を算出した。統計処理は安静時における上下部胸郭前後径と座圧分布の左右比較,頚椎右側屈と左側屈時における上下部胸郭前後径と座圧分布の左右差の比較に対応のあるt検定を用いて検討した。解析には統計ソフトウェアSPSS18J(SPSS社製)を使用し,有意水準はそれぞれ5%未満とした。【結果】安静時,頚椎右側屈,左側屈において,上部胸郭前後径と座圧分布の左右における変化に一様の傾向が示された。上部胸郭前後径と座圧分布は,安静時において全例で右側と比較して左側が有意に大きかった(p<0.01,p<0.01)。また,その差は頚椎右側屈時において有意に減少し,左側屈時においては有意に増加した(p<0.01,p<0.01)。しかし,下部胸郭前後径は,安静時において全例で左側と比較して右側が有意に大きかったものの(p<0.05),頚椎側屈時においては有意差がみられなかった。なお,頚椎最大側屈角度には左右で有意な差がみられなかった。【考察】本研究の検討から,全例において胸郭は左側方偏位していることが安静時座圧分布より観察され,石塚ら2011)の報告と同様の特徴が示された。また,胸郭形状においても臨床で観察される定型的な非対称性がみられた。この特徴が定着した状態で頚椎側屈運動を行うと,頭部質量の側方移動にともない,右側屈時には上半身質量中心の正中化が生じ,左側屈時には左側方偏位の増大が生じることがわかった。また,上半身質量中心の左側方偏位は上部胸郭形状の非対称性を増加させるものと考えられる。これらのことから,上部胸郭の定型的な形状や側方偏位の定着は,頚椎肢位や運動の多様性に影響を及ぼすことが考えられる。また,その結果として生じる頚椎運動の左右特性にともない,上部胸郭形状に一様の変化をもたらすことが示唆された。上部胸郭の可動性低下や上半身重心のコントロール機能低下は,頚椎側屈運動の制限因子となることが考えられ,疼痛やメカニカルストレスの原因となることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の検討から,頚椎側屈運動における上部胸郭形状と座圧の変化には左右特性が存在することが示された。これは健常人においてもみられる特徴であり,ヒトに共通する形態や運動特性が存在することが考えられる。これらの強調や逆転は,整形外科疾患における病態や機能低下の一要因となることが考えられ,頚椎疾患をはじめとするあらゆる運動器疾患に対する理学療法に応用できるものと考えられる。
著者
今泉 裕次郎 池田 さやか 小野 晴久 廣田 美樹 本村 環 堀江 淳 河島 博通 林 真一郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0130, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,炎症性サイトカインによる全身性炎症の影響により,心血管疾患や骨格筋機能異常など多くの併存疾患を合併する。糖尿病についても,健常者と比較して1.5倍のリスクを有し,また,COPD患者の約50%に複数のメタボリックシンドロームの要素を合併するとも言われている。しかし,これら先行研究は,欧米人を対象としたものであり,本邦におけるCOPDと糖尿病の関係を検証した先行研究は少なく,未だ,十分に解明されているとはない。そこで本研究の目的は,生活習慣病の中でも国民病と言われている糖尿病に着目し,糖尿病有病者における閉塞性換気障害の有病率を調査すること,更に,糖尿病有病者の呼吸機能を検討し,COPD早期発見の取り組みが必要であるかを検討することとした。【方法】対象は,当院健康管理センターにて呼吸機能検査を実施した863名(男性683名,女性180名,平均年齢51.8±8.3歳)とした。対象のうち,既に何らかの呼吸器疾患の診断がされている者,気管支喘息の既往,および親族に気管支喘息を有する者,呼吸機能検査がうまくできなかった者,データ使用に同意が得られなかった者は解析対象から除外した。調査項目として,呼吸機能はFVC,%FVC,FEV1.0,FEV1.0%,%FEV1.0を指標とし,栄養状態はBMIとした。問診では,糖尿病の有無,喫煙習慣の有無(ブリンクマン指数を算出)を聴取した。なお,本研究の「糖尿病有り(糖尿病有病者)」の定義は,既に確定診断がなされ,定期的に通院加療を受けている者とした。また,「閉塞性換気障害有り(閉塞性換気障害有病者)」の定義は,FEV1.0%が70%未満である者とした。統計学的分析として,閉塞性換気障害と糖尿病の関係は,χ2独立性検定で分析した。糖尿病有病者と非有病者の呼吸機能,BMI,ブリンクマン指数の比較は,Levenの等分散の検定後,Studentのt検定,またはWelchのt検定にて分析した。統計学的有意水準は5%とし,統計解析ソフトは,SPSS version20を使用した。【結果】対象者863名中,閉塞換気障害有病者は67名であり,有病率は7.8%であった。一方,糖尿病有病者は67名であり,糖尿病有病者の閉塞性換気障害有病者は11名で,有病率は14.9%であった。閉塞性換気障害の有無と糖尿病の有無の関連は,有意な関係性を認め(χ2=5.203,p=0.031),糖尿病有病者は,非有病者に対して閉塞性換気障害の合併が,2.3倍(95%CI=1.104-4.691)であった。次に,糖尿病の有無による呼吸機能の比較は,FVC(3.80±0.60L vs 3.54±0.57L;p=0.001),%FVC(109.54±11.9% vs 103.06±13.59%;p<0.001),FEV1.0(2.95±0.48L vs 2.69±0.51L;p<0.001),%FEV1.0(115.90±13.50% vs 111.52±16.44%;p=0.013),FEV1.0%(77.69±5.39% vs 75.70±7.03%;p=0.005)で,糖尿病有病者が有意に低値を示した。BMI(23.29±3.22 vs 24.98±3.83;p<0.001),および,ブリンクマン指数(304.89±375.98点vs 558.81±616.78点;p<0.001)の比較では,糖尿病有病者が有意に高値を示した。【考察】近年,COPDの国際ガイドラインGOLDは,COPDは肺疾患だけでなく全身性炎症疾患と位置づけ,他の慢性疾患と深く関与していると報告している。本研究においても糖尿病と気流制限との間には有意な関係性を認めた。また,糖尿病有病者で閉塞性換気障害を有する者の割合が高く,糖尿病有病者の中に,より多くのCOPD患者が潜んでいる可能性のあることが示唆された。また,糖尿病有病者の呼吸機能は,有意に低下しており,これらの要因として,第一に喫煙習慣の関与が考えられる。本研究においてブリンクマン指数が,糖尿病有病者で有意に高かったことを考慮すると,糖尿病と閉塞性換気障害の両者の共通趣向背景として,喫煙習慣がみられ,共通のリスク要因になったものと考える。本研究により糖尿病と閉塞性換気障害の関係が明らかになりに,糖尿病有病者に対しては,「閉塞性換気障害を有するリスクがある」ことを留意する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】糖尿病を有する者の呼吸機能,特に閉塞性換気障害に関する詳細が明確となった。COPDの早期発見の一助として,糖尿病患者に対して潜在的COPD患者であることのリスクを,想起する必要性を提示できた有意義な研究となった。
著者
中泉 大 淺井 仁
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0962, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ハムストリングスは二関節筋であり,下肢伸展挙上(以下SLR)時に伸張され,起始部(坐骨結節)に加わる張力により骨盤が後傾すると言われている。Bohannonら(1984年)は上前腸骨棘と上後腸骨棘とに皮膚反射マーカーをつけ,動画により骨盤後傾を測定した。その結果,SLR角度が増えると骨盤後傾角度も増えることを明らかにした。しかし,SLR時に皮膚が伸張されると,皮膚反射マーカーによる角度測定の信頼性が低くなる可能性があるので,方法論の吟味が必要である。一方,Muyorら(2011年)やLópez-Miñarroら(2012年)は,最終可動域でのハムストリングスの伸張性と体幹前屈時の骨盤傾斜角度との関係を報告している。しかし,ハムストリングスの短縮程度が強いほど,SLR時の骨盤傾斜角度に対する影響が可動域の初期あるいは中間域からも出現する可能性がある。そこで,今回我々は骨盤の後傾度合が上後腸骨棘部から受ける荷重量によって間接的に評価できるのではないかと考え,ハムストリングスの伸張性とSLRの角度を変えた場合の骨盤後傾に伴う荷重量の変化との関係を検討した。研究仮説は以下の通りである:ハムストリングスの伸張性の制限が強いほど小さなSLR角度で骨盤後傾に伴う荷重量が増える。【方法】被験者は神経学的,整形外科的疾患を有していない18~24歳の20名(男性10名,女性10名)であった。ハムストリングスの伸張性により被験者をH群(最大SLR角度80°以上)とR群(最大SLR角度75°以下)とに分けた。実験手順は以下の通りである。(1)ハムストリングスの伸張性は,他動的SLR角度によって評価された。ハムストリングスの伸張効果を避けるために,SLRを左右それぞれ1回ずつ測定し,検査側はSLR角度の小さい側,もしくは左右の角度が同じ場合は左側とした。(2)骨盤部の荷重量の測定は,荷重センサーを取り付けた測定板上で背臥位にて行われ,上後腸骨棘部を荷重センサー部に一致させた。上前腸骨棘上をベルトにて測定板に固定した。開始肢位(SLR0°)での荷重量を0とし,測定角度は5°から最大SLR角度までを5°刻みに設定され,これをランダムな順番で試行した。一回毎の試行手順:測定角度まで検査側下肢が他動的に動かされ,測定角度で3秒間保持されているときの荷重量を測定した。測定条件は非検査側の大腿部の固定のあり,なしの2つである。それぞれの条件での測定は別の日に実施された。得られた荷重量を体重で除した値(%荷重量)をデータ分析に用いた。統計処理にはSPSS Statisitics19.0を用いた。下肢固定の有無の影響を検討するために,すべての被験者がSLRを行うことのできた55°までのデータについて,対応のある反復測定2元配置分散分析が用いられた。下肢固定の有無による主効果が認められなかったため,以下の分析は下肢固定なし条件でのデータを用いた。SLR角度に対するR群とH群との%荷重量の違いを検討するために対応のない反復測定2元配置分散分析を行い,交互作用が認められた場合,角度毎の%荷重量の差を対応のないt検定を用いて分析した。有意水準は5%とした。【結果】R群は9名で,最大SLR角度は55°~75°に,H群は11名で,同じく80°~90°に,それぞれ分布した。両群ともにSLR角度と%荷重量との関係は2次式で近似できた(R群r=0.996;H群r=0.998)。SLR角度55°までの角度と%荷重量との関係においてR群とH群との間に交互作用が認められ,R群とH群とではSLR角度に対する荷重の程度が異なることが示された。角度ごとに両群の%荷重量を比較すると25°および35°以降ではR群の%荷重量が有意に大きかった。【考察】両群ともにSLR角度と荷重量との関係は2次式で近似できたことから,今回の方法の妥当性が確認された。R群ではH群に比べ,小さい角度から%荷重量が有意に大きかったことから,ハムストリングスの伸張性が低下すると,小さいSLR角度から骨盤後傾による代償が行われると考えられた。また本研究では下肢固定の有無による有意な影響はなかったため,下肢固定の有無による骨盤後傾への影響はない可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】これまでハムストリングスの伸張性はSLR最大角度によって評価されていた。しかし本研究の結果から同じSLR角度でもハムストリングスの伸張性によって骨盤後傾の程度に違いがある可能性が示唆された。そのためハムストリングスの伸張性は,最大SLR角度に加えて,SLR角度と骨盤の動きとの関係から評価する必要があることが示された。
著者
橋﨑 孝賢 木下 利喜生 左近 奈々 児嶋 大介 森木 貴司 上西 啓裕 関口 岳人 西村 行秀
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1275, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】Ehlers-Danlos症候群(EDS)は,皮膚,関節,血管など結合組織の脆弱性を引き起こす遺伝性疾患である。今回,複数下肢関節不安定性を有するEDS症例に装具作製を行い,有効な効果を得たので,装具処方の工夫や経過をふまえて報告する。【症例提示】46歳女性。平成9年,スノーボードで転倒,右膝外傷,関節鏡検査し保存的加療を実施。43歳頃より両膝関節に強い荷重時痛が頻発した。平成24年12月,後頚部痛出現し,頚椎すべり症指摘され平成25年7月初旬に手術考慮され当院整形外科受診,EDSを疑われた。8月中旬に手術目的で当院入院。術前よりリハビリテーション紹介となり,翌日頚椎除圧固定術施行。術後歩行時に両側反張膝,右膝外反位が著明となり右膝痛強く,歩行困難となった。歩行獲得のため両側長下肢装具作製開始した。【経過と考察】活動性や美容面を考慮し装具を作製した。当初は膝装具での対応を試みたが荷重時の足関節不安定性が著明となるため長下肢装具(LLB)を選択した。軽量化と強度を考慮し剛性の高いカーボン素材とポリエチレンを使用しチタン素材の支柱と膝継手で連結した。この装具により両膝・足関節の不安定性は除去できたが,右膝外反矯正は不十分であった。さらに膝継手の内側にパッドや足部に内側ウェッジを追加することで外反は矯正され良肢位となり歩行の安定と疼痛や不安定性が除去できた。これにより自覚症状や歩容の改善が得られ独歩で自宅退院した。本症例のように膝関節の不安定性だけではなく足関節や多関節の不安定性が強い場合は,膝装具での矯正が困難な場合が多い。活動性が高い症例においてLLBは外見や重量から敬遠されがちであるが,患者の状態や要望を十分把握するのみではなく,医学的にも適切な装具を医師,義肢装具士らと協力し作製していく必要があると考えた。
著者
河田 雄輝 須藤 恵理子 横山 絵里子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1961, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高度肥満者は治療が困難で,重篤な合併症や心理・精神的問題を有することが多く,治療法の選択に注意を要する。本邦ではBody Mass Index(BMI)30以上の肥満は欧米諸国に比べ少なく,BMI59以上ではリンパ浮腫を呈しやすい。今回高度肥満を契機に両下肢リンパ浮腫を生じ,両大腿内側にソフトバレーボール大の巨大な腫脹を来した症例を経験した。重篤なリンパ浮腫に対する圧迫療法は困難を極めたが,圧迫方法を工夫し,多職種と連携しながら取り組んだことにより,減量とリンパ循環障害の改善を認めたので報告する。【症例紹介】症例は36歳の男性,高度肥満症,脂肪性続発性両下肢リンパ浮腫,2型糖尿病,睡眠時無呼吸症候群,変形性股関節症,変形性膝関節症と診断された。現病歴は中学時60kg,高卒時140kg,20歳代190kgであり,2009年に減量目的でS病院に入院し234kgから200kgまで減量した。その後,運動不足や過食によりリバウンドかつリンパ浮腫の増悪が生じ,活動量の低下を来たしたため2013年当センターに入院した。入院時,身長169.7cm,体重234.7kg,BMI81.5であり,リンパ管が圧迫され両下肢リンパ浮腫International Society of LymphologyGrade(ISL)病期分類III期を呈し,右下肢に象皮症を生じ,両殿部~大腿内側にソフトバレーボール大の腫脹(大腿を含む腫脹最大周径150cm以上),リンパ漏や乳頭腫も認めた。屋内歩行はT字杖で自立していたが,息切れや心拍数の上昇により耐久性15mだった。【経過】肥満症の治療として,Nutrition Support Team(NST)介入による食事療法(1100kcal),看護と連携し毎日の体重変化を記載したグラフ化体重日記による行動療法,理学療法(PT)および作業療法(OT)による運動療法を入院翌日より開始した。並行してリンパ循環障害に対するスキンケアやリンパドレナージ,両下腿に対する圧迫療法,圧迫下での運動療法を組み合わせた複合的理学療法を施行した。また病識低下,意欲低下を認め,心理面に配慮しながら,肥満やリンパ浮腫の教育指導も行った。その結果,入院1ヶ月後には210kgまで減量したが,その後の減少は停滞した。入院3ヶ月後,リンパ漏や乳頭腫は軽減したが,両大腿部にリンパ液が貯留し,腫脹の硬結が悪化した。両大腿腫脹部の圧迫療法により貯留しているリンパ液を中枢へ還流する必要があると判断された。当初はロール状スポンジと弾性包帯にて圧迫を施行したが,重力や姿勢の変化,歩行動作で圧迫が外れやすく難渋した。OTと連携し,大腿部の形状に合わせて伸縮性のあるネオプレーンを用いたベルクロ付き圧迫帯を作製し,大腿全体を覆い固定した。看護師,OTと情報交換しつつ,日中を中心に時間を調整して圧迫療法を試みた。この結果,徐々に大腿部のリンパ液が中枢へ循環され,入院5ヶ月後の退院時には体重172kg,BMI58.8へ改善し,リンパ浮腫はISL病期分類II期,大腿を含む腫脹最大周径は圧迫開始時144cmから99cmまで縮小した。腫脹の縮小によって,徐々に運動量は増加し,T字杖歩行は耐久性100m以上に向上した。【考察】リンパ浮腫に対する圧迫療法は,高いエビデンスレベルにあるものの,不適切な圧迫は逆に浮腫を悪化させる可能性がある。本症例の腫脹に対する圧迫療法は,入院後3ヶ月間不良な皮膚状態であり困難を極めたが,その後の2ヶ月間は体格に合わせた圧迫帯を用いて適応できた。本症例ではリンパ浮腫の重症度に応じた介入が,リンパ循環障害の改善と体重の減量,歩行耐久性の向上をもたらしたと推察される。肥満やリンパ浮腫に対する教育指導はリンパ浮腫の改善のみならず,ADLやQOLの改善にも有効であった。【理学療法学研究としての意義】合併症や精神的問題を有する高度肥満症には,リンパ浮腫の重症度に応じた対応,患者個人に合わせた工夫を多職種と綿密に連携することが有効であると考えられた。また,心理状態に配慮しながら肥満や合併症への患者教育を行うことも効果的である。
著者
蛯名 岳志 永嶋 高大 西村 由香
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0979, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】座位は,立ち上がり動作の準備段階として捉えることができ,座位姿勢の状態を把握することは立ち上がり動作を分析する上で重要である。立ち上がり動作は椅子の高さ,肘掛けの有無など周囲の環境に影響を受け,環境設定によっては動作遂行者に掛かる負荷が変化しうる。即ち,環境設定によって立ち上がり動作の遂行を容易くすることや難易度を調節することができると言える。また,立ち上がり動作における骨盤の前傾は第1相で重心を前方に移動させる際に重要な役割を担っているとされている。そこで本研究の目的は,環境設定によって座位での骨盤の前傾を促せるかどうかを明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人20名(男子10名,女子10名,年齢21.6±0.6歳,身長165.5±8.6cm)とした。座面高を3条件,座面奥行きを2条件とし,それぞれの組み合わせで骨盤傾斜角度の測定を行った。対象者のうち8名に対しては下肢荷重量の測定も行った。座面高は下腿長,下腿長+5cm,下腿長+10cmの3条件,座面奥行きは大腿長1/2が座面端上にくる条件(以下,座面奥行きが広い条件)と大転子が座面端上にくる条件(以下,座面奥行きが狭い条件)の2つとし,測定は座面高が下腿長,下腿長+5cm,下腿長+10cmの順に,座面奥行きはランダムとし,座位姿勢は,左右足部を肩幅程度に離してもらい,足関節は底背屈0°,上肢は胸部前方で組みリラックスして座るよう指示した。骨盤傾斜角度の測定方法は,上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と水平線のなす角とした。触知にてランドマークの確認を行い,右側からビデオカメラで撮影後,画像解析ソフトImage Jを用いて算出した。測定は3回行い,後傾方向を正の値,前傾方向を負の値とし,平均値を算出した。対象者の8名に対しては,同時に体重計を足底へ設置し,同条件下での下肢荷重量を測定した。荷重量は体重で除し,補正した。座位における座面高と座面奥行きの条件による骨盤傾斜角度と下肢荷重量を比較し,両者の相関関係をみた。分析は,座面奥行きによる差に対しては対応のあるt検定,座面高による差に対しては反復測定の一元配置分散分析として,繰り返しのない二元配置分散分析を行い,多重比較法はTukey-Kramer法を用いた。危険率は5%未満とした。相関関係はピアソンの相関係数の検定を用いた。【結果】骨盤傾斜角度は,座面奥行きの広い条件では,どの座面高でも有意差を認めなかった(下腿長:12.4°±8.3°,下腿長+5cm:11.6°±8.1°,下腿長+10cm:12.9°±7.6°)。座面奥行きの狭い条件では,下腿長(17.7°±6.8°)と下腿長+5cm(14.9°±6.7°),下腿長+10cm(12.8°±7.6°)との間でそれぞれ有意差を認め(p<0.01),座面の高い方が骨盤が前傾していた。また,座面高が下腿長,下腿長+5cmでは,座面奥行きによって骨盤傾斜角度に有意差があった(p<0.05)。下肢荷重量は,座面奥行きが広い条件で下腿長(21.5%±1.7%)と下腿長+5cm(18.8%±3.2%),下腿長+10cm(12.5%±2.7%)との間に,下腿長+5cmと下腿長+10cmとの間に有意差を認め(p<0.05),座面の高い方が荷重量は少なかった。座面奥行きの狭い条件では,下腿長(24.4%±3.9%)と下腿長+10cm(25.6%±3.4%)との間に有意差を認めたが,下腿長+5cm(24.6%±3.1%)は他との有意差がなかった。骨盤傾斜角度と下肢荷重量の相関関係について,座面奥行きが広い条件では相関関係が認められず(r=-0.149,p=0.488),座面奥行きの狭い条件では負の相関が認められた(r=-0.441,p=0.031)。【考察】座面奥行きの狭い条件では,座面を高くすると骨盤の前傾を促すことができ,下肢荷重量が多くなることが分かった。座面奥行きの狭い条件で座面を高くすることは,自身での骨盤前傾動作が困難な方の骨盤前傾を促し立ち上がり動作を簡易的にすること,運動療法時の立ち上がり動作の段階的な負荷量決定の指標になる可能性が示唆された。また,日常生活において立ち上がり動作が困難な方の身体状況に合わせた高さの椅子や昇降式ベッドを導入することで,活動性の拡大につながると考える。座面奥行きの広い条件では下肢荷重量は少なかったが,奥行きの狭い条件よりも骨盤が前傾していたことから,随意的な骨盤前後傾運動を行う際には有用な環境である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】座面高,座面奥行きによる環境を含めた設定によって座位骨盤傾斜角度の調節が可能であることが示唆された。運動療法や日常生活の環境設定の一助となる。
著者
村澤 実香 金井 章 今泉 史生 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1788, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】スポーツ場面における重篤な外傷の一つとしてあげられる前十字靭帯損傷(以下,ACL損傷)の発生率は女性では男性に比べ2から8倍高いといわれている。女性に多い理由として,Q-angleが大きい,全身弛緩性を有する者が多い,膝外反位を呈するものが多いことなどが報告されている。受傷機転には,ジャンプ着地動作,減速動作,カッティング動作などが指摘されている。その中でもジャンプ着地動作において,Noyesらはドロップジャンプテスト(以下DJT)では,女性において股関節内転,膝関節外反角度が増加したと報告しているが性差による動作パターンの影響についての検討はなされていない。そこで本研究では,DJT着地時における下腿内側傾斜角度に性差が及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名(男性16名,女性24名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。DJTは,高さ30cmの台から前方に飛び降り,両脚での着地後に両手を振り上げ真上にジャンプし,再び着地し立位姿勢となるまでの動作とした。計測は測定前に充分練習した後3回施行し,台から飛び降りた際の着地時における左膝関節最大屈曲時を解析対象とした。真上にジャンプできなかったり,着地後にバランスを崩した場合は再度測定を行なった。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,関節角度,下腿内側傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜),関節モーメント,足圧中心,床反力,上前腸骨間距離,重心の高さを算出した。関節モーメントは得られた値を体重で除し,上前腸骨間距離と重心の高さは得られた値を身長で除して正規化した。筋力は股関節屈曲,伸展,外転,内転,膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈の等尺性最大筋力を測定した。筋力は筋力計μtasMT-1(ANIMA社製)を用いて計測し,得られた値を体重で除して正規化した。統計学的手法は対応のないt検定を用いた。【結果】男女の比較では(男性群,女性群),下腿内側傾斜角度(-1.7±3.9,8.2±5.6°),上前腸骨間距離(0.15±0.1,0.16±0.1mm/cm,),骨盤前傾角度(12.1±7.0,19.6±7.8°),股関節内転モーメント(0.7±2.2,4.5±4.4 Nm/kg),重心の高さ(3.6±0.4,3.9±0.2mm/cm)が女性群で有意(P<0.05)に高値を示した。脊柱屈曲角度(27.5±11.9,12.2±11.7°),胸郭前傾角度(40.0±14.0,31.8±9.5°),股関節外転角度(-5.1±3.5,-0.3±5.7°),足部外転角度(7.0±4.1,-1.3±4.4°)が男性群で有意に高値を示した。筋力(N/kg)は,股関節伸展(5.6±1.2,5.0±1.2),股関節外転(4.4±0.9,3.6±0.9),股関節内転(4.2±1.0,3.3±1.1),膝関節屈曲(1.5±0.2,1.0±0.2),膝関節伸展(2.9±0.5,2.5±0.5),足関節背屈(3.1±0.6,2.6±0.5),足関節底屈(8.7±1.8,7.0±1.3)の各筋力が男性群で有意(P<0.05)に高値を示した。【考察】女性は男性に比べて骨盤前傾角度が有意に高値を示し,脊柱屈曲,胸郭前傾角度が有意に低値を示した。一般的には,ジャンプ跳躍高を上げるためには,重心位置を低くする必要があるが,今回女性は男性と比較して重心位置は有意に高くなっていた。このことは女性は男性と比較し,股関節屈曲筋力以外の下肢筋力が有意に低値を示していたことから,重心位置を低くすることが困難であるためと考えられた。そのため,骨盤前傾角度を増加して,大殿筋とハムストリングスの張力を高めジャンプ跳躍動作に対応していると考えられた。また女性において,股関節内転モーメントが有意に高値を示したのは,上前腸骨間距離で表される骨盤幅の広さが要因と考えられ,それに伴い下腿内側傾斜角度も増加したと考えられた。そのため着地時には下腿内側傾斜角度を軽減させるために股関節外転角度を増加させ,床反力が股関節中心の近くを通るような着地を指導する事が予防において重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】DJT着地時における性差が下腿内側傾斜角度に及ぼす影響を検討することにより,ACL損傷の予防の一助となることが考えられた。
著者
森 聡 永易 利夫 甲田 広明 井上 大樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1043, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】長期間持続する慢性疼痛の形成と進展には様々なストレス要因が関連すると考えられている。近年,慢性疼痛において,痛みの経験をネガティブに捉える傾向を評価する破局的思考の重要性が提唱されている。心理社会的ストレスが強い場合,不安,抑うつ,怒り,焦燥などの精神症状が現れ,物事をネガティブに捉えやすい状態に陥ると考えられる。本研究では,痛みを伴う患者の社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向ける必要性を明らかにするため,痛みに対する破局的思考と心理社会的ストレスの関連を調査した。【方法】調査期間は,平成26年4月1日から同年10月31日とした。対象は,整形外科疾患を有する者51名(男性:11名,女性:40名,平均年齢62.4±13.7歳)とした。疾患部位の内訳は上肢疾患33名,下肢疾患16名,体幹疾患2名であった。中枢性疾患及び明らかな認知症を有する者は除外した。調査は,アンケートを用い,自己記入質問紙法にて行った。調査内容は,Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS:13項目),Stress Check List for Self(以下,SCL-S:30項目),安静時および運動時のNumeric Rating Scale(以下,NRS)の4項目とした。PCSは,痛みに対する破局的思考を測る尺度であり,13項目から更に,反芻,無力感,拡大視の3つの下位尺度に分類される。PCSは,Sullivanらによって作成された原版を,松岡らが日本語版に翻訳したものを使用した。PCSは合計点と反芻,無力感,拡大視それぞれの点数を算出した。SCL-Sは,30項目からその時点で本人が感じているものを選び,その得点でストレスの度合いを判定するものであり,値が大きい程,心理社会的ストレスを感じていることを示す。運動時NRSは日常生活上の特に痛みの出る動作の痛みとした。統計処理には,Spearmanの順位相関係数を用いて分析した。PCSとSCL-S,安静時及び運動時NRSの相関関係とSCL-SとPCS,反芻,無力感,拡大視,安静時及び運動時NRSの相関関係を分析した。全ての統計学的検定は両側検定とし,有意水準は5%未満とした。【結果】PCSと安静時NRSに正の相関関係が認められた(rs=0.287,p<0.05)。PCSと運動時NRSに正の相関関係が認められた(rs=0.352,p<0.05)。PCSとSCL-Sに有意な相関関係は認められなかった(rs=0.178,p=0.212)。SCL-Sと拡大視に正の相関関係が認められた(rs=0.443,p<0.01)。SCL-Sと安静時NRSに有意な相関関係は認められなかった(rs=0.271,p=0.055)。SCL-Sと運動時NRSと有意な相関関係は認められなかった(rs=0.115,p=0.420)。【考察】本研究結果から,安静時及び運動時の主観的な痛みが強い程,痛みに対する破局的思考が強くなる傾向が示唆された。PCSとSCL-Sの間に相関関係は認められなかったことより,心理社会的ストレスの程度は,痛みに対する破局的思考に影響しないことが分かった。しかし,PCSを下位尺度で分類した際,SCL-Sと拡大視に正の相関関係が認められたことから,心理社会的ストレスの程度によって,痛みの強さやそれによって将来起こりうる障害を合理的に予想されるよりも大きなものとして見積もる傾向があると考えられた。SCL-Sと主観的な痛みの程度に相関関係が認められなかったことから,痛み自体は心理社会的ストレスになっていないことが考えられた。本研究は,各因子の関係性が示唆されたのみであり,破局的思考が痛みを強めるのか,痛みが破局的思考を強めるのかは明確ではない。また,心理社会的ストレスが痛みに対する拡大視を強めるのか,痛みに対する拡大視が心理社会的ストレスを強めるのかも定かではない。しかし,心理社会的ストレスが痛みの難治化を引き起こす一因子として考慮しなければならない可能性を示唆するものとなった。【理学療法学研究としての意義】痛みを有する者に対して,痛みに関連した機能障害,心理的因子の評価を行うだけでなく,社会的背景を含んだ,心理社会的ストレスの評価を行うことで,痛みに対して現実よりも大きく見積もる心理状態に陥りやすいことが分かった。痛みに対する拡大視の強い者の背景に付随する社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向けていく必要性を示すことができた。
著者
堀江 翔太 水池 千尋 水島 健太郎 三宅 崇史 稲葉 将史 久須美 雄矢 石原 康成 立原 久義 山本 昌樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0411, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】足部の動的アライメントの異常は,有痛性下肢疾患の原因の1つとされている。足部アライメント異常によるToe Outの蹴り出しでは,上行性運動連鎖により膝がKnee Inを呈することが知られている。このようなアライメントを呈する症例への理学療法に対して,体幹や股関節筋力の強化によって治療効果が得られた先行研究も散見される。しかし,日常診療においては,足部筋力が低下している症例を多く経験する。我々が渉猟した限りでは,足部の動的アライメント異常と母趾筋力の関係について不明な点が多い。そこで本研究の目的は,足部の動的アライメント異常と母趾筋力の関係を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人17人33足を,立脚後期にToe Outで蹴り出しを行う群(以下,TO群)14人14足(男性:7人7足,女性7人7足,平均年齢:33.3±5.2歳)と,立脚後期にToe Outで蹴り出しを行わない群(以下,C群)19人19足(男性:12人12足,女性:7人7足,平均年齢:29.5±5.3歳)の2群とした。これら2群は,動的アライメントで分類し,対象者の裸足歩行をデジタルビデオカメラで撮影し,立脚後期での蹴り出し時の足部の状態で判断した。除外条件は膝伸展位での足関節背屈角度が5°以下,フットプリントより外反母趾,扁平足や凹足などのアライメントを呈する者とした。筋力の測定肢位は,端坐位で股関節と膝関節を90°屈曲位とし,母趾屈曲および母趾外転筋力をハンドヘルドダイナモメーター(マイクロFET2,日本メディック社製)を用いて測定した。母趾屈曲筋力は,足関節底背屈中間位と最大底屈位での2条件とし,母趾外転筋力が足関節底背屈中間位で測定した。対象者に方法を十分に習得させた後,3秒間の最大努力で2回測定し,平均値を体重で除した値を採用した。統計処理には,足部の動的アライメントによる比較を対応のないt検定を用いて行った。なお,有意水準は危険率5%未満とした。【結果】足関節底背屈中間位での母趾屈曲筋力は,TO群が0.08±0.03kgF/kg,C群が0.11±0.03kgF/kgであり,TO群が有意に低値を示した(p<0.05)。足関節底屈位での母趾屈曲筋力は,TO群が0.04±0.01kgF/kg,C群が0.06±0.02kgF/kgであり,TO群が有意に低値を示した(p<0.05)。母趾外転筋力はTO群が0.03±0.01kgF/kg,C群が0.04±0.02kgF/kgであり,2群間に差を認めなかった。【考察】足部の動的アライメント異常の原因は,局所や全身の問題など様々な要因がある。本研究の結果,TO群の母趾屈曲筋力は,足関節底背屈中間位と足関節底屈位の両条件において低値を示した。TO群では,デジタルビデオカメラで撮影した歩行において蹴り出し時の母趾伸展が少ないことが確認できた。歩行では,蹴り出し時に強制的に母趾が伸展されるため,母趾屈筋力が必要となる。Toe Outの蹴り出しでは,母趾の伸展角度が少なくなることから,母趾屈筋群の活動が低下することが予想される。すなわち,母趾屈筋群の筋力低下がある場合,Toe Outによる代償的な蹴り出しを行う可能性がある。また,TO群における長母趾屈筋や短母趾屈筋の筋力低下は,これを反映した結果であると考えられる。母趾外転筋の筋力は,動的アライメントによる差を認めなかった。これは,Toe outによる母趾外転筋の活動に与える影響が少ないことを示唆しているものと考えられた。本研究は,母趾のみを対象とした研究であり,足趾および足部の筋力や機能,脛骨の外捻角度や体幹・股関節機能など,動的アライメント異常を呈するその他の要因との関連性は不明である。今後,これらについても検討していく予定である。【理学療法学研究としての意義】立脚後期にToe Outでの蹴り出しを行っている例では,母趾機能が低下していた。すなわち,足部の動的アライメントの異常は,足部機能の低下が原因の一つとなっている可能性が示唆された。このことから,足部の動的アライメント異常に対する理学療法において,足部の局所的な評価や治療の必要性を示したものと考えられる。
著者
廣江 圭史 平賀 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0972, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頭部を固定した体幹回旋運動は日常生活動作の中で多く見られる動作であり,その多くは野球やテニスなどのスポーツ場面や歩行等の立位で行っている。歩行時の頭位は体幹回旋に拮抗しており,体幹回旋は骨盤と反対に回旋すると言われている。それによって,体軸内回旋が生じる事で歩行時のエネルギー消費を少なくするとされている。先行研究において座位で骨盤固定した体幹回旋運動の課題において頭部固定をすることで体幹回旋可動域が有意に低値を認めた報告があるが,立位で頭部固定の有無による報告は見られない。立位において頭部固定の有無が体幹回旋運動,骨盤回旋運動に変化を及ぼすことを明らかにすることはスポーツ場面や歩行の分析や治療を行う上での一助になると思われる。そこで,今回は立位において頭部固定の有無による体幹回旋可動域,骨盤回旋可動域,体幹回旋運動時の重心移動量の変化を比較,検討した。【方法】対象は神経学的疾患や骨関節疾患のない健常成人8名(男性8名,年齢25.7±4.3歳,身長172.6±3.5cm,体重64.5±3.3kg)とした。測定は3次元動作解析システムVICON370(OXFORD METRICS社製)を用い,サンプリング周波数60Hzの赤外線カメラ6台で計測した。赤外線反射マーカーは臨床歩行分析研究会の推奨する15点に貼付した。計測課題は両上肢下垂位の立位姿勢からの体幹右回旋運動とした。体幹右回旋運動は自動運動で行い,頭部固定無し,頭部固定ありの2条件を無作為に3試行ずつ行った。頭部固定は被験者ごとの目の高さに合わせた目印を3m前方に貼付し,その目印を注視させることで頭部固定を自動運動で行った。測定項目は体幹右回旋運動時の最大体幹回旋可動域と骨盤回旋可動域,立位姿勢から最大体幹右回旋時の重心移動量とした。関節角度,重心の算出は臨床歩行分析研究会の解析ソフトウェアDIFF Gait,WAVE EYESを用いて行った。統計解析は頭部固定の有無による体幹右回旋可動域と骨盤右回旋可動域,重心移動量をMann-WhitneyのU検定を用いてそれぞれ比較した。有意水準は5%とした。【結果】最大体幹回旋可動域は頭部固定無しで115.6±12.6度,頭部固定ありで89.22±11.83度と頭部固定ありで有意に低値を認めた。骨盤回旋可動域は頭部固定無しで7.68±3.19度,頭部固定ありで3.95±1.99度と頭部固定ありで有意に低値を認めた。重心移動量は頭部固定無しでは右側へ1.76±1.49cm移動しており,頭部固定ありでは0.43±0.77cm移動していた。重心移動量においても頭部固定ありで有意に右方向への移動が低下していた。【考察】本研究においても頭部固定時の体幹回旋運動では,体幹回旋可動域が低値を示したことから座位での先行研究を支持するものとなった。立位での体幹回旋運動は頭部を固定しない条件では頸椎からの腰椎までのすべての脊柱を同側に回旋させることが可能であり,体幹,骨盤を同側に回旋させることができたと考えられる。しかし頚部回旋は姿勢制御を不安定にさせ,速いほどその影響は大きいことが報告されており,頭部固定しない条件では回旋側への移動が大きくなっていた。このことからも頭部固定ありに比べ体幹回旋動作時の姿勢制御として筋活動がより必要になると考えられる。骨盤回旋可動域は頭部固定無しで7.68±3.19度,頭部固定ありで3.95±1.99度と頭部固定ありは体幹回旋運動に拮抗する形で可動域が低下していた。このことから,体幹回旋運動に骨盤回旋が拮抗した力を発揮していることが考えられる。運動様式から頭部固定ありでは体軸内回旋が行われていることが示唆される。体軸内回旋が行われたことで,体幹回旋運動時の回旋側への重心移動を抑制する結果に繋がったと考えられる。そのため,歩行のような相反性で対側性の動作に安定性や動きを与える上で頭部固定は必要な要素になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】頚部固定ありの体幹回旋運動において,回旋側への重心移動の抑制や体軸内回旋を誘発する一要因となることが示唆された。今後,頭部固定をした体幹回旋運動時の筋電図学的検討を行い,体幹筋活動を明らかにすることで,理学療法として体軸内回旋の促通を行うことのできる運動療法を考案できると考えられる。
著者
井川 達也 勝平 純司 櫻井 愛子 保坂 亮 中野 徹 松澤 克
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0806, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】腰部脊柱管狭窄症(LSCS)は脊柱管の狭窄により馬尾や神経根が圧迫され神経症状を呈する疾患である。特徴的な症状として姿勢による症状の変化や神経性間歇跛行が挙げられ,また歩行の特徴としては,体幹前傾角度の増大,歩行速度や歩幅の減少,股関節角度の減少などが挙げられる。この前傾姿勢は減圧による症状緩和を可能にするにも関わらず,特徴的な姿勢を示さない患者も存在する。そこで本研究の目的は,腰部脊柱管狭窄症患者の歩行時の体幹前傾角度と関連する変数(下肢関節,骨盤,体幹の角度など)を明らかにすることである。【方法】対象は当院に手術目的に入院したLSCS患者111名(年齢70.9±6.2歳)とした。歩行動作の計測は,約5.5mの歩行路における自然歩行を3次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製:100Hz)と床反力計(AMTI社製:1000Hz)を用いて記録した。安定して行えた自然歩行を2試行記録した。測定時には計測着を着用し,四肢,骨盤,体幹,頭部に計49か所の反射マーカーを貼付した。得られたデータから,歩行速度,ケーデンス,左右の歩幅,一周期時間,左右立脚期の体幹前傾最大角度,骨盤前傾最大角度,骨盤回旋最大角度,下肢三関節の屈伸および底背屈最大角度,内部関節屈伸および底背屈モーメント最大値,関節パワー最大および最小値を111名222肢について求めた。なお,関節モーメントと関節パワーは体重で標準化した値を用いた。各変数について,2試行の平均値を解析に用いた。また歩行計測時の下肢痛(VAS)と日本整形外科学会腰痛評価質問表の小項目である歩行機能障害因子も併せて聴取した。統計解析は,まず体幹前傾角度とその他の変数の相関関係を明らかにするため単変量解析(Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数の算出)を行った。次に体幹前傾角度に関わる要素を明らかにするため重回帰分析を行った。体幹前傾角度を従属変数とし,単変量で有意な相関を認めた変数を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistic(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。【結果】体幹前傾角度と有意な相関を認めた変数は,歩幅(r=-0.17,p=0.01),骨盤前傾最大角度(r=0.29,p=0.01),股関節屈曲最大角度(r=0.27,p=0.01),股関節伸展最大角度(r=0.47,p=0.01),股関節屈曲モーメント最大値(r=-0.44,p=0.01),股関節パワー最小値(r=0.38,p=0.01),膝関節屈曲最大角度(r=0.33,p=0.01),膝関節伸展最大角度(r=0.33,p=0.01),膝関節パワー最大値(r=-0.22,p=0.01),足関節底屈モーメント最大値(r=0.20,p=0.01)であった。次に,独立変数に上記10項目を採用した重回帰分析を行った結果,体幹前傾角度と有意な独立変数として検出された項目は,股関節伸展最大角度(β=0.416),股関節屈曲モーメント最大値(β=-0.348),歩幅(β=0.257),であった。自由度調整済み決定係数は0.294(p<0.01)であった。予測式はy=0.359×股関節伸展角度-8.008×股関節屈曲モーメント最大値+15.251×歩幅+1.607となった。【考察】LSCS患者にとって体幹前傾姿勢の可否は症状緩和のために重要な姿勢であると広く言われている。本研究の結果から,体幹前傾姿勢には疼痛の程度や骨盤,足関節,膝関節運動ではなく,股関節運動が関与していることが示唆された。体幹前傾が大きいLSCS患者は立脚期後半の股関節伸展角度が大きいにも関わらず,股関節屈曲モーメントが小さい傾向にある。これは,股関節屈曲筋力低下のため,上半身重心を前方に変位させることにより股関節屈曲モーメントを減少させる姿勢戦略を選択している可能性が考えられる。腸腰筋筋力低下はLSCSの最も初期の徴候であるとの報告もあることから,この腸腰筋筋力低下が体幹前傾姿勢をとる要因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の新規性はLSCS患者の体幹前傾姿勢と歩行パラメータとの関係性を示し,立脚期後半の股関節機能の重要性を示したことである。またLSCS患者の除圧術後の理学療法は,歩行中の体幹前傾姿勢を改善させるために立脚期後半を想定した股関節屈曲筋力の改善が重要であることが示唆された。
著者
江玉 睦明 久保 雅義 大西 秀明 稲井 卓真 高林 知也 横山 絵里花 渡邉 博史 梨本 智史 影山 幾男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0563, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】アキレス腱(AT)障害の発生メカニズムとしては,これまで踵骨の過回内による「whipping action(ムチ打ち)」が要因であると考えられてきた。しかし,近年では,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として重要視されてきている。この原因としては,ATの捻れ構造が関与している可能性が示唆されていが,ATの捻れの程度の違いを考慮して検討した報告はない。従って,本研究は,踵骨を回内・回外方向に動かした際にATを構成する各腱線維束に加わる伸張度(%)を捻れのタイプ別に検討することを目的とした。【方法】対象は,我々が先行研究(Edama,2014)で分類したATの3つの捻れのタイプ(I:軽度,II:中等度,III:重度の捻れ)を1側ずつ(日本人遺体3側,全て男性,平均年齢:83±18歳)使用した。方法は,下腿部から踵骨の一部と共に下腿三頭筋を採取し,腓腹筋の筋腹が付着するAT線維束とヒラメ筋の筋腹が付着するAT線維束(以下,Sol)を分離し,腓腹筋内側頭が付着するAT線維束(以下,MG)と外側頭の筋腹が付着するAT線維束(以下,LG)とに分離した。そして,各腱線維束の踵骨付着部の配列を分析して3つの捻れのタイプに分類し,各線維束を3-4mm程度にまで細かく分離を行った(MG:4~9線維,LG:3~9線維,Sol:10~14線維)。次に,下腿三頭筋を台上に動かないように十分に固定し,Microscribe装置(G2X-SYS,Revware社)を使用して,各腱線維の筋腱移行部と踵骨隆起付着部の2点,踵骨隆起の外側の4点をデジタイズして3次元構築した。最後に,任意に規定した踵骨隆起の回転中心を基準に作成した絶対座標系上で踵骨を回内(20°)・回外(20°)方向に動かした際の各腱線維の伸張度(%)をシミュレーションして算出した。解析には,SCILAB-5.5.0を使用した。統計学的検討は,Microscribe装置測定の検者内信頼性については,級内相関係数(ICC;1,1)を用いて行った。【結果】級内相関係数(ICC;1,1)は,0.98であり高い信頼性・再現性が確認できた。タイプ毎の伸張度(%)は,タイプIでは,回内(MG:-1.6±0.9%,LG:-2.2±0.2%,Sol:1.7±3.4%),回外(MG:1.3±0.7%,LG:2.0±0.3%,Sol:-1.4±3.3%),タイプIIでは,回内(MG:-1.2±0.7%,LG:-0.4±0.6%,Sol:2.4±1.4%),回外(MG:0.8±0.7%,LG:0.4±0.5%,Sol:-3.2±1.5%),タイプIIIでは回内(MG:-1.7±0.4%,LG:-0.4±1.4%,Sol:3.7±6.0%),回外(MG:1.3±0.4%,LG:0.4±1.3%,Sol:-5.4±6.2%)であった。【考察】AT障害の発生メカニズムとして,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として報告されている。また,好発部位は,踵骨隆起から近位2-6cmであり,外側よりも内側に多いことが報告されている。今回,踵骨を回内すると3つの捻れのタイプ全てにおいて,MG・LGは短縮し,Solは伸張された。特にタイプIII(重度の捻れ)では,回内時のSolの伸張度が他のタイプに比べて最も大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度のばらつきが多い結果であった。従って,タイプIII(重度の捻れ)では,踵骨回内時には,ATを構成するMG,LG,Solの伸張度が異なるだけでなく,他のタイプに比べてSolの伸張度が大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度も異なるため,AT障害の発生リスクが高まる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】AT障害は,重症化するケースは少ないが再発率が高く,管理の難しい疾患の一つとされている。近年,有効な治療法はいくつか報告されているが,予防法に関しては有効なものが存在していない。その原因として,発生メカニズムが十分に解明されていないことが懸念されている。本研究結果は,AT障害の発生メカニズムの解明に繋がり,有効な予防法や治療法の考案,更には捻れ構造の機能解明に繋がると考える。
著者
拜藤 繁彰 奥谷 拓真 石濱 崇史 末廣 健児 谷埜 予士次 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0423, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】着地動作におけるpreactivationは,着地の事前に生じる筋活動で,下肢の関節安定化を担う作用があると言われている。膝前十字靭帯損傷患者では,しばしば着地直後からknee-in&toe-outなどの膝関節不安定性に起因する動的アラインメントの変化が起こる。これらの患者では,筋力低下や関節可動域制限の影響も受けて,安静時の下腿回旋アラインメントの異常を呈することが多く,着地後の動的アラインメント異常を誘発する要因にもなる。着地動作に関しては,着地後の筋活動変化や下肢各関節角度変化の影響について検討されたものが多く,着地動作のpreactivationと下腿回旋アラインメントの関係を検討されたものはない。この関係を検討することで,着地動作における動的アラインメントについて筋電図学的に考察することができると考える。そこで本研究では,筋力低下や関節可動域制限などの機能障害を有さない健常者を対象に,テーピングにより人為的な下腿回旋アラインメント変化が,着地動作における膝関節周囲筋のpreactivationに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は神経外科学的,整形外科学的な既往を有さない健常男性12名(平均年齢25.4±4.2歳,身長171.6±4.3cm,体重61.0±6.2kg)とした。また,ニトリート社製のテープEB50mmを用いて(このテープを貼付するためのアンカーテープにCB38mmも使用)対象者の左下腿を膝関節20°屈曲位で可及的最大の内旋位および外旋位になるように固定した。このときの下腿回旋角度は,上前腸骨棘と膝蓋骨中央を結んだ線と膝蓋腱のなす角度とした。また,上記のアラインメントを保持する際,テープの貼付によって膝関節伸展制限が生じるため,対象者の下腿回旋アラインメントを中間位に保ったまま膝関節伸展を制限するテープの貼付も行った。これらのテープの貼付はランダムに実施した。その後,対象者には上肢の影響を除くため両上肢を胸の前で組ませ45cm台からの左片脚着地動作を十分に練習させ3回実施した。着地動作はメトロノームに合わせて1秒間で実施した。この時,対象者の左内側広筋,左外側広筋,左内側ハムストリングス,左外側ハムストリングよりテレメトリー筋電計MQ-air(キッセイコムテック社製)を用い双極導出法にて筋電図を記録した。そして,重心動揺計(ユニメック社製)からの信号も筋電図と同期収録し,それをもとに接地の100ms前の筋電図積分値を算出し,本研究でのpreactivationとした。また,左側の上前腸骨棘,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計5箇所にマーカーを貼付し,側方からデジタルビデオカメラを用い動作を60Hzのサンプリングで収録し,解析ソフト(imageJ)を用いて股・膝・足関節の矢状面角度を算出した。中間位の各筋の筋電図積分値を1とした相対値を求め,内旋位・外旋位の各筋の相対値について検討した。そして各筋の相対値について正規性の検定を行い,正規性を認めたことから内旋位・外旋位のデータを対応のあるt検定により比較した。有意水準は5%とした。【結果】下腿の平均回旋角度は中間位16.1°±1.2に対し,内旋位12.7°±1.4,外旋位19.4°±1.4となった。また各実験後において,テーピングの緩みによる下腿回旋角度変化は生じなかった。preactivation時の矢状面上における下肢各関節の角度変化も認めなかった。筋電図積分値相対値は,外旋位に対して内旋位での内側・外側ハムストリングスに有意な増加を認めた(p<0.05)。【考察】本結果では下腿を内旋位にした際,内側・外側ハムストリングスの筋活動に有意な増加を認めた。Andrewsらは下腿を内旋位にすることで,脛骨前方引き出しなど膝前十字靭帯の緊張を介した筋活動がハムストリングスにみられると報告している。また,浦辺らは着地初期では下腿は内旋し,直後から下腿が外旋運動に変わると述べている。したがって,今回観察された下腿内旋位でのpreactivationにより,着地動作において外側ハムストリングスが着地初期の下腿内旋の制動に,また内側ハムストリングスがその後の下腿外旋の制動に作用しやすくなり,着地後の動的アラインメント変化を軽減させることができる可能性も考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究では45cm台からの着地動作であるが,下腿回旋アラインメント変化によって着地動作のpreactivationに相違を生じることが明確になった。本結果より下腿回旋アラインメントの調整は着地動作においても関節安定化に貢献できる可能性が示唆された。