著者
兒玉 吏弘 松本 裕美 川上 健二 井上 仁 兒玉 慶司 木許 かんな 坪内 優太 原田 太樹 原田 拓也 片岡 晶志 津村 弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1298, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】頚椎症性脊髄症(CSM)患者の中に呼吸機能障害を呈する患者はどの位いるのか調査すること【方法】2009年4月から2011年3月までの期間にCSMと診断され,当院整形外科で手術を施行された70例(男性42例,女性28例,平均年齢70.8歳)を対象とした。年齢をマッチングさせた変形性膝関節症患者を比較対照群とし,2012年8月から2014年6月までに変形性膝関節症と診断され手術目的で入院した患者66例(男性11例,女性55例,平均年齢70.2歳)を検討した。いずれも後方視的にカルテより情報を抽出した。呼吸機能は肺活量,努力性肺活量,1秒量を測定した。CSMの重症度の評価は日本整形外科学会の頚髄症治療判定基準(JOAスコア)とBathel Indexを用いた。【結果と考察】CSM群の%肺活量と%努力性肺活量は,膝OA群と比べ有意に低下していた。換気障害の分類は,CSM群と膝OA群では,正常61%と85%,拘束性換気障害33%と3%,閉塞性換気障害3%と12%,混合性換気障害3%と0%であった。CSM患者のJOAスコアの平均は9.2点/17点満点,Bathel Indexは75.2点であった。膝OA群のBathel Indexの平均は95.5点であった。CSM患者の%肺活量はJOAスコア及びBathel Indexとの正の相関(r=0.43/r=0.68)を認めた。一方,膝OA群では,肺機能とBathel Indexとの間に相関関係は認めなかった。今回の結果より,JOAスコアが低く日常生活における介助を要しているCSM患者は非顕在性に%肺活量が低下している可能性があり,呼吸器合併症予防として診断早期からの呼吸理学療法が必要と考えた。
著者
長部 弘幹 大槻 暁 花房 京佑
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1349, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】立位でのリーチ動作は日常生活の場面で頻繁に行われる動作であり,上肢の機能的活動の指標とされる。また,バランスの指標であるFunctional Reach Testで用いられる動作であり,姿勢制御の要素が強く関連している。リーチ動作における上肢や手の運動戦略に関する研究は数多くあるが,リーチ動作における姿勢戦略について明らかにした研究は少ない。立位姿勢における姿勢戦略は股関節戦略,足関節戦略,ステップ戦略に大別され,各運動戦略を組み合わせて姿勢を調整している。立位でのリーチ動作においても同様な姿勢調節が行われていると考えられる。そこで今回は,立位姿勢でのリーチ動作における姿勢戦略の経時的変化を明らかにすることを目的とし,最大リーチ動作時の股関節と足関節による姿勢戦略を検討した。【方法】対象は健常成人19人(平均年齢24.6±2.2歳)とした。実験は,立位姿勢における対象物に対するリーチ,把持の動作をビデオカメラにて撮影し,その間の下肢の姿勢戦略を分析した。被験者の右腋窩直下,大転子,外側膝関節裂隙,外果,第5中足骨遠位端にマーカーを貼付した。矢状面の運動分析のため,ビデオカメラ(SONY;HDR-CX430V)のレンズと大転子の高さと同じにし,真横に4m離れた位置に設置した。実験開始肢位は,安静立位で右上肢を肘関節伸展位のまま肩関節屈曲90°肢位,左上下肢は任意の肢位とした。目標物は,1辺が3cmの立方体を右上腕骨頭の前方延長線上に置いた。検者は目標物を矢状面上でリーチ可能な距離まで移動させ,被験者に前方の目標物を母子と示指で把持すように指示した。その際,体幹回旋による代償動作や足底が床から完全に離れることがないように注意し,母指と示指で目標物を把持するようにした。目標物を徐々に離していき,被験者がつま先を動かさずに目標物を把持することができる最大の距離までリーチ動作を繰り返して行った。記録した映像から最大リーチ動作試行時を解析に使用した。映像分析には,動画解析ソフトダートフィッシュver.5.5(ダートフィッシュ・ジャパン)を用いて,マーカーを目印に股関節と足関節の関節角度を30fpsで測定した。データ解析では,リーチ時間の個別差を補正するため,運動の開始から把持した瞬間までの時間を100%とし,開始から20%毎の区間における各関節の運動範囲を算出した。各関節の運動範囲は,個別差を補正するため,開始時から終了時までの運動角度に対する各区間における運動角度の比率を算出し,その平均値を分析に使用した。各関節での値を一元配置分散分析により比較し,有意差を認めた場合に各区間における運動角度の比率をturkyの多重比較を用いて比較した。統計解析にはSPSS(ver.21)を使用し,有意水準は5%未満とした。【結果】股関節の平均値と標準偏差は0-20%,20-40%,40-60%,60-80%,80-100%の区間(以下それぞれを区間1,区間2,区間3,区間4,区間5とする)でそれぞれ,0.24±0.16,0.37±0.13,0.22±0.10,0.10±0.10,0.07±0.06であった。隣接する区間の比較では,区間1と区間2,区間2と区間3,区間3と区間4は有意差を認めた。区間4と区間5では有意差は認めなかった。一方,足関節の平均値はそれぞれ,0.15±0.20,0.28±0.28,0.24±0.15,0.21±0.26,0.12±0.14であり,一元配置分散分析にて各区間に有意差は認められなかった。【考察】目標物へのリーチ動作において股関節は20-40%区間で最も速く大きく変化し,その後徐々に速度と変化率が低下し,60%を過ぎるとわずかな変化で経過するということが明らかとなった。立位でのリーチ動作における股関節戦略は一定のパターンで,重心の前方移動のために使われるということが推測される。一方で足関節戦略は,どのタイミングで多く使われるかは明らかにならなかった。足関節運動は,各被験者によってピークに差異があり,重心の移動や距離の調整などに使用されていると考えられる。足関節戦略は状況によって変化する多様性のある戦略と推察される。足関節戦略の分析と股関節戦略との関連性については,今後より詳細な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】目標物へのリーチ動作における姿勢戦略を明らかにすることは,臨床での理学療法を行っていくうえで非常に重要なことである。課題に伴う姿勢戦略を適切なタイミングで使用しているかを分析し治療することは機能的な活動を獲得するために重要であり,今回の結果は,クリニカルリーズニングの一助となるもの考える。
著者
吉崎 邦夫 佐原 亮 瀬川 大輔 浜田 純一郎 遠藤 敏裕 藤原 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0685, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】肩関節疾患治療において肩関節内旋運動(以下内旋運動)制限が問題となる。なかでも日常生活活動では結帯動作に支障を来すことが多い。上肢運動は複合的運動であり,肩甲上腕関節,肩甲骨,鎖骨,胸郭,体幹の運動が関与している。これらの運動を考慮した上腕骨頭(以下骨頭)の内旋運動と肩甲骨運動について三次元動作解析装置(3D-MA)を用いて検討した。本研究の目的は,骨頭が内旋する肩関節の第1肢位(1st)内旋,第2肢位(2nd)内旋,第3肢位(3rd)内旋,結帯動作における骨頭の内旋角度と肩甲骨運動を調査すること,また肩関節内旋制限を有する症例の理学療法確立の一助とすることである。【方法】対象は肩関節痛の既往がなく,野球などの球技スポーツ歴のない,書面で同意を得られた健常者9名(男性9名,平均年齢21歳,19~23歳)であり,利き手側を計測した。8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析装置(MAC 3DSystem,Motion Analysis corp.)にて,基本的立位姿勢から開始し肩関節1st・2nd・3rd内旋,結帯運動を計測した。直径10mmの赤外線マーカーを,体幹(C7,L5,胸骨柄,胸骨剣状突起および両側の腸骨稜と上前腸骨棘),肩関節周囲(いずれも利き手側の骨頭前方および後方,肩峰角,肩甲棘内縁),肘関節(上腕骨内側・外側上顆),手関節(内・外側)合計16ヵ所の皮膚ランドマークに,できるだけスキンアーティファクトが少なくなるよう調整し貼付した。データ統合解析プログラム(KineAnalyzer,キッセイコムテック)を用い,各運動面上で上記のマーカーから導出した運動軸の変化を抽出し,体幹運動(屈曲・伸展,側屈,回旋)を差し引いた1st・2nd・3rd内旋運動の骨頭内旋角度と肩甲骨運動角度(内・外旋,上方・下方回旋,上方・下方傾斜)を算出した。結帯動作の骨頭内旋角度は,骨頭中心から骨頭前方および後方を結ぶ線と直交しかつ上腕軸と直交する線を作成し,この線と上腕骨内・外側上顆を結ぶ線の成す角度を基に算出した。肩甲骨運動は,肩峰角,肩甲棘内縁,骨頭後方が作る三角形の面に直行する軸を各運動面に投射し,各基本軸と成す角度を基に算出した。体幹運動は,屈曲・伸展および側屈はC7とL5を結ぶ直線と各運動面における基本軸とのなす角度から計測した。体幹回旋は,C7とL5を結ぶ直線の中点と胸骨剣状突起を結ぶ直線と水平面上の基本軸との成す角度を基に算出した。【結果】最大運動角度における1st内旋の骨頭内旋角度は68.6±17.3度,肩甲骨内旋角度は5.0±2.9度であった。2nd内旋の骨頭内旋角度は55.6±11.0度,肩甲骨前方傾斜角度は14.5±5.2度であった。3rd内旋の骨頭内旋角度は15.5±4.7度,肩甲骨上方回旋角度は7.1±6.3度であった。結帯動作における骨頭内旋角度は39.2±5.0度,肩甲骨前方傾斜角度は14.0±4.7度,肩甲骨内旋角度は5.0±5.6度,上腕骨伸展角度は36.3±9.2度,肘関節屈曲角度は100.0±11.2度であり,母指指先はTh7±2椎体レベルであった。【考察】各運動で骨頭内旋角度を比較すると,1st内旋が最も大きく,2nd内旋,結帯動作が続き,3rd内旋が最も小さかった。結帯動作に着目すると1st内旋と比較し上腕骨が屈曲位にあるか伸展位にあるかの違いで骨頭内旋角度の差が大きく(47.5±15.1度),結帯動作障害のある症例には,1st内旋の制限がなく,また結帯動作に伴う肩甲骨上方回旋および前方傾斜にも制限がないことが多い。以上から骨頭内旋制限が結帯動作の障害因子であると推察され,上腕骨伸展位で何らかの軟部組織が骨頭内旋制限に関与すると考えられる。われわれは第41回日本肩関節学会(2014年)において解剖学的・臨床的知見から骨頭内旋制限に烏口上腕靭帯肥厚・瘢痕形成が関与すると報告した。特に結帯動作の上腕骨伸展に伴い,烏口上腕靭帯が緊張し骨頭の内旋制限を生じることが確認された。今後は,骨頭内旋運動に伴う腱板筋の筋活動と,烏口上腕靭帯の肥厚・瘢痕形成に対する理学療法を考案してゆく予定である。【理学療法学研究としての意義】肩関節疾患において肩関節内旋運動制限が問題となることが多く,特に結帯動作の改善は困難である。内旋運動は多関節の複合的運動であり肢位により違いがあるものの,各内旋運動を区別して検討することは理学療法のターゲットを明確にし,治療効果を向上させるためにも重要である。
著者
奥村 太朗 加藤木 丈英 小谷 俊明 川合 慶 白井 智裕 赤澤 努 佐久間 毅 南 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0528, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】思春期特発性側弯症(以下:AIS)は思春期に誘因なく発症する側弯症である。運動が盛んに行われる時期に進行し,不良例は手術に至る。脊柱の側弯が運動能力に及ぼす影響はほとんど明らかにされておらず,AIS患者と健常者の運動能力差に関しても明らかになっていない。そこで本研究の目的は,新体力テスト結果を用い健常者と比較し,AIS患者の運動能力を明らかにすることである。【方法】対象者はAIS患者17例(男性2例,女性15例),手術時平均年齢14.5±1.6歳とした。全例胸椎右凸カーブで,平均Cobb角は53.3±9.6であった。検討項目は,手術前の新体力テストの種目別記録(上体起こし,長座体前屈,反復横跳び,20mシャトルラン,50m走,立ち幅跳び,ハンドボール投げ,握力)と総合得点とし,文部科学省の発表する同年代の健常者標準値と比較した。なお種目別記録は年齢別平均値より偏差値を算出し正規化した。統計処理は,AIS患者と健常者における各種目別の偏差値と総合得点を対応のないt検定で比較し,有意水準を5%以下とした。【結果】AIS患者の新体力テストの種目別記録において,上体起こし41.6±10.2(p=0.005),長座体前屈44.7±8.9(p=0.03),ハンドボール投げ42.6±7.4(p=0.001),総合評価45.1±5.4(p=0.002)で健常者と比較し有意に低下していた。【考察】本研究により筋持久力を表す上体起こし,柔軟性を表す長座体前屈,巧緻性を表すハンドボール投げが健常者と比較し有意に低下していた。上体起こしは,AIS患者はCobb角の進行を抑えるために長期間のコルセット着用が義務付けられる。コルセットは体幹を前後左右から締め付けて体幹を支持する。その影響により体幹の可動性が減少し,腹筋群や背筋群などの体幹筋力の低下を惹起すると考える。さらに,Cobb角の進行とともに体幹筋力が低下するという報告もあり,双方の関与が示唆される。長座体前屈は,長期間のコルセット着用により胸椎・腰椎の可動性が制限されたことも原因の一つであると考える。また,側弯症は脊柱が捻じれを伴いながら曲がっていく疾患であり,傍脊柱起立筋にも左右差が出現するという報告があり,筋の伸張性の左右差や椎間関節の左右の可動性の違いの関与も示唆される。ハンドボール投げは,凹側に比べて凸側の肩関節に不安定性が強く,肩甲胸郭関節の動きが制限されるとの報告があり,その関与が示唆される。また,小学校時代からコルセット療法が開始されている患者も多く,ボールを投げる等の運動経験自体が少ない可能性も示唆される。さらに,総合得点が有意に低下していることから,AIS患者は同年代の健常者よりも総合的に運動能力が劣っていることが明らかとなった。この結果は脊柱側弯が運動能力に何らかの影響を与えている可能性を示唆させるものであった。しかし,今回は運動部所属の有無や運動習慣歴などを考慮しておらず,AIS患者の日常生活と運動能力との関係性を明らかに出来ないことは,本研究の限界であると考える。【理学療法学研究としての意義】AIS患者は健常者より運動能力が劣っており,脊柱側弯が運動能力に少なからず影響していることが示唆された。この時期の運動能力低下は,今後成人を迎えていくAIS患者のライフスタイルに大きく影響する可能性がある。側弯症を有していても高いレベルの競技者も大きくいるため,AIS患者の運動に対する意識を高めて運動を推奨していく必要があると考える。
著者
布施 陽子 江川 千秋 杉本 由美子 大和田 沙和 矢﨑 高明 大野 智子 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1795, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】我々は妊婦を対象とした理学療法を検討し,幾つかの研究を行ってきた。女性は妊娠によって様々な身体的変化を生じ,身体的愁訴として腰痛,尿失禁などのマイナートラブルが問題視されている。妊婦は腹部が前方へ突出するに従いsway-back姿勢となり易く,それに伴い,骨盤帯における運動機能が破綻し腰痛を生じてしまう可能性がある。骨盤帯における運動機能を再構築するための方法の中に腹横筋エクササイズ(以下,EX)があり,従来検討を繰り返してきた(2008~2014布施)。今回,腰痛を呈する妊婦に対し,腹横筋EXを実施し,疼痛,筋機能,頸管長にどのような影響を与えるかについて検討したので報告する。【方法】対象は腰痛を呈した妊婦50名(妊娠周期28.1±5.5週,平均年齢33.3±4.4歳,身長1.6±0.1m,体重57.7±8.2kg,BMI22.5±2.4 kg/m2)とし,事前に医師による診察を実施し早産の危険性がないと判断された妊婦とした。対象者に対し,1.超音波診断装置による視覚的フィードバックを用いた腹横筋収縮学習(第49回日本理学療法学術大会により腰痛を呈する妊婦への腹横筋EXとして有効性を研究),2.ストレッチポール上背臥位(第44回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であるとしたものであり,ストレッチポールの種類については個々に評価した上で実施),3.ストレッチポール上背臥位でのu・oの発声(第46回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証),4.ストレッチポール上背臥位での上肢課題運動(第45回日本理学療法学術大会により上肢外転側と反対側の腹横筋EXとして有効であるとしたものであり,左右の回数については個々に評価した上で比率を検討し実施),5.立位での上肢課題運動(第47回日本理学療法学術大会により上肢外転側と反対側の腹横筋EXとして有効性を検討したものであり,左右の回数については個々に評価した上で比率を検討し実施),6.呼吸指導(第47回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証)の6種類の腹横筋EXの中から個別性を検討・評価した上で1つ以上の腹横筋EXを選択し,各対象者において約30分個別に実施した。計測項目は,1)疼痛スケール(VAS),2)脂肪および側腹筋群(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)の筋厚,3)頚管長の3項目とし,それぞれ目盛りのない10cm線,超音波診断装置(HITACHI Mylab Five),経膣超音波を用いて計測した。1)は対象者による自己評価,2)は理学療法士による計測,そして3)は医師により実施された。頚管長測定は,介入による切迫早産の兆候を確認するテストバッテリーとして実施した。また,計測肢位は2)ベッド上安静背臥位,3)産婦人科内診台上安静座位とした。2)はわれわれの先行研究で高い信頼性が得られた位置である,上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と垂直な直線上で,肋骨下縁と腸骨稜間の中点にプローブを当てて,腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまで押した際の画像を静止画として記録した(第43回日本理学療法学術大会により計測方法の信頼性を研究)。以上3項目を,介入前後に計測した。統計的解析は,対応のあるt検定を実施し有意水準1%未満で検討した(SPSSver18)。【結果】1.1)疼痛スケール,2)腹横筋厚に差を認め,1)は有意に減少し,2)は有意に増加した(p<0.01)。2.3)頸管長については差を認めなかった(p=0.89)。3.2)脂肪厚,外腹斜筋厚,内腹斜筋厚については差を認めなかった。【考察】本研究では,腰痛を呈する妊婦に対し,我々が先行研究にて立証してきた腹横筋EXを実施した結果,腰痛の緩和,腹横筋厚の増加を認めた。腹横筋は体幹深層筋群の1つであり,姿勢保持作用・腹腔内圧調整作用を持つと言われている。腹横筋EXを実施した事で妊娠により増大した腹部を効率的に支えられるようになり疼痛の緩和に繋がったと考えられる。妊娠24週未満で頚管長が25mm以下では標準的な頚管長に比べ6倍以上早産になりやすいとされているが,介入前後で頸管長差がなかったことから,本研究での実施内容は早産リスクを高めるほど過度な腹圧をかけたEXではないと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から骨盤帯における運動機能を再構築する方法として本研究での腹横筋EXが腰痛を呈した妊婦に対して安全かつ有効であることが示された。今後,妊娠経過に伴う姿勢制御機能破綻から引き起こされる疼痛に対する予防的位置付けとして本研究での腹横筋EXが貢献できると考えられる。
著者
長尾 文子 岩田 知那 伊藤 晃 下 和弘 城 由起子 松原 貴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0326, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】国民生活基礎調査において肩こり有訴者率は男女ともに非常に高い。肩こりには身体・心理・社会的要因が関与するといわれており,身体的要因としては肥満度が高いこと,運動量が少ないこと,社会的要因としては睡眠の質が悪いことなどが報告されている(大谷2008,岸田2001)。一方,心理的要因については,ストレスとの関係性が指摘されており(沓脱2010),肩こり有訴者はストレス下に曝露されていることが示唆される。ストレスと健康を調整する機能をストレスコーピングといい,適切なストレスコーピングがなされない場合,痛みや不安・抑うつといったさまざまなストレス応答が表出され(嶋田2007,牧野2010),心身の健康に影響を及ぼすことが予測される。そこで今回,身体的・社会的要因に加え,心理的要因としてはストレスコーピングに着目し,若年者を対象に肩こりの身体・心理・社会的特性について検討した。【方法】対象は大学生470名(19.9±1.4歳)で,頚肩部痛に対して受診歴がある者,肩こりの他に慢性痛を有する者,発症後3か月未満の肩こりを有する者は除外し,肩こりのある者(肩こり群)とない者(非肩こり群)に分類した。評価項目は肩こりの程度(VAS),初発年齢,初発原因,誘発要因,罹患期間,機能障害(NDI),心理的因子の疼痛自己効力感(PSEQ),破局的思考(PCS)を肩こり群のみで,健康関連QOL(EQ-5D),身体的因子の身体活動量(IPAQ),心理的因子のストレスコーピング(TAC-24),ストレス応答(PHRF-SCL),社会的因子の睡眠状態(睡眠時間,睡眠時間の満足度,睡眠の質),家庭環境(世帯構造,家庭生活の満足度)を両群で調査した。統計学的解析には,群間比較にMann-WhitneyのU検定,またはΧ2検定,相関にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%とした。【結果】肩こり有訴者率は28.7%(肩こり群82名,非肩こり群204名)であった。肩こりの程度は42.8±21.9,初発年齢は16.1±2.5歳,罹患期間は3.0±2.1年,初発原因および誘発要因は同一姿勢が多かった。NDIは5.2±4.4点,PSEQは36.2±11.0点,PCSは「反芻」9.6±4.6点,「無力感」5.3±3.8点,「拡大視」3.6±2.8点であった。肩こり群は非肩こり群と比較して,PHRF-SCLの「疲労・身体反応」,TAC-24の「計画立案」,「責任転嫁」,「放棄・諦め」,「肯定的解釈」,家庭生活の満足度の「やや不満」が有意に高い一方,EQ-5Dの効用値,EQ VAS値,TAC-24の「カタルシス」,「気晴らし」が有意に低かった。IPAQ,睡眠時間,睡眠時間の満足度,睡眠の質,世帯構造に有意な差はなかった。肩こり群の各調査項目において中等度以上の有意な相関関係は認められなかった。【考察】今回,肩こりは中高生からの発症が多く,初発原因および誘発要因が同一姿勢であったことから,学業やVDT作業などの座位で同じ姿勢を保持する機会が増えることが肩こりの発症に関係すると考えられた。また成人(大谷2010)同様,若年者においても肩こりの存在が有訴者の健康関連QOLを低下させる可能性が考えられた。身体・心理・社会的特性を検討した結果,身体的要因は健常者と差がなかったが,心理的・社会的要因で特徴が認められた。社会的要因は,肩こり群で家庭生活に不満をもつ者が多かったことから,ストレッサーの一因となる可能性が考えられた。心理的要因のストレスコーピングでは,肩こり有訴者はストレッサーに積極的に対応しようと試みる一方,ストレッサーにより起こる情動の発散や調整ができないため,ストレッサーの解決が困難な場合はストレッサーを回避する傾向がうかがえた。回避系のストレスコーピングはストレス応答の表出を高めることが報告されており(坂田1989,尾関1991),今回の肩こり群で「疲労・身体反応」が強く表出されていたことから,肩こり有訴者はストレッサーを適切に対処できていない可能性が示唆され,また,身体面に表出されるストレス応答が肩こりを惹起,増悪させる要因となりうることが示唆された。適切なストレスコーピングにより肩こりやQOLの改善が期待されるため,若年者の肩こりマネジメントにはストレスコーピングスキルの向上を含め,心理社会的アプローチを加えることが必要と考える。【理学療法学研究としての意義】我が国で有訴者の多い肩こりに対して身体・心理・社会的側面から特性を検討した結果,肩こり有訴者は特徴的なストレスコーピングを有することがうかがえ,肩こりをマネジメントするうえで重要な所見と考える。
著者
山下 裕 古後 晴基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1437, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高齢者の咀嚼能力の低下は,一年間の転倒歴,排泄障害,外出頻度の減少,うつ状態などと共に,要介護リスク因子の一つとして取り上げられている。しかし,咀嚼能力と身体機能の関連については未だに不明な点が多い。一方,片脚立位時間の測定は,簡便な立位バランス能力の評価として広く臨床で使用されている評価法であり,高齢者の転倒を予測する指標としての有用性も報告されている。そこで本研究は,咀嚼能力の評価指標である咬合力に着目し,身体機能との関係を明らかにした上で,咬合力が片脚立位時間に影響を及ぼす因子と成り得るかを検討した。【方法】対象者は,デイケアを利用する高齢者55名(男性18名,女性37名,要支援1・2)とした。年齢82.9±5.6歳,体重54.7±13.5kgであった。対象者の選択は,痛みなく咬合可能な機能歯(残存歯,補綴物,義歯含む)を有することを条件とし,重度の視覚障害・脳血管障害・麻痺が認められないこと,及び重度の認知症が認められないこと(MMSEで20点以上)とした。咬合力の測定は,オクルーザルフォースメーターGM10(長野製作所製)を使用した。身体機能評価として,片脚立位時間,残存歯数,大腿四頭筋力,握力,Timed Up & Go test(TUG),Functional Reach Test(FRT)を実施した。統計処理は,Pearsonの相関係数を用いて測定項目の単相関分析を行い,さらに片脚立位時間に影響を及ぼす因子を検討するために,目的変数を片脚立位時間,説明変数を咬合力,大腿四頭筋力,TUG,FRTとした重回帰分析(ステップワイズ法)を用いて,片脚立位時間と独立して関連する項目を抽出した。なお,統計解析にはSPSS ver.21.0を用い,有意水準を5%とした。【結果】各項目の単相関分析の結果,咬合力と有意な関連が認められたのは残存指数(r=0.705),片脚立位時間(r=0.439),大腿四頭筋力(r=0.351)であった。また,片脚立位時間を目的変数とした重回帰分析の結果,独立して関連する因子として抽出された項目は,TUGと咬合力の2項目であり,標準偏回帰係数はそれぞれ-0.429,0.369(R2=0.348,ANOVA p=0.002)であった。【考察】本研究は,高齢者における咬合力と身体機能との関係を明らかにし,片脚立位時間における咬合力の影響を検討することを目的に行った。その結果,咬合力は,残存歯数,片脚立位時間,大腿四頭筋力との関連が認められ,片脚立位時間に影響を及ぼす因子であることが示された。咬合力の主動作筋である咬筋・側頭筋は,筋感覚のセンサーである筋紡錘を豊富に含み,頭部を空間上に保持する抗重力筋としての役割を持つことが報告されている。また,噛み締めにより下肢の抗重力筋であるヒラメ筋・前脛骨筋のH反射が促通されることから,中枢性の姿勢反射を通じて下肢の安定性に寄与していることも報告されている。本研究の結果,咬合力と片脚立位時間に関連が示されたことは,高齢者の立位バランスにおいて咬合力が影響を与える因子であることを示唆しており,これらのことはヒトの頭部動揺が加齢に伴い大きくなること,平衡機能を司る前庭系は発生学的・解剖学的に顎との関係が深いことからも推察される。咬合力を含めた顎口腔系の状態と身体機能との関連について,今後更なる検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】臨床において,義歯の不具合や歯列不正・摩耗・ムシ歯・欠損等により咬合力の低下した高齢者は多く見受けられる。本研究により咬合力が片脚立位時間に影響を及ぼすことが示されたことは,高齢者の立位バランスの評価において,咬合力を含めた顎口腔系の評価の重要性が示された。
著者
中島 文音 田中 仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0619, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】第49回日本理学療法学術大会にて,訪問リハビリテーションのホームエクササイズにおける脳梗塞患者の痙縮軽減を目的に低周波治療の効果を報告した。脳梗塞片麻痺患者の肩関節亜脱臼に対しては,脳卒中治療ガイドライン2009で低周波での治療効果は(Ib)とされており,今回は,家庭用低周波治療器(以下TENS)を用いたホームエクササイズ指導によって,亜脱臼の改善,痛みの軽減,肩関節可動域の拡大が得られるかどうかABAB型シングルケースデザインで検討した。【方法】66歳男性,1年前に脳梗塞にて左片麻痺を呈した症例を対象とした。Brunnstrom Stage上肢II,下肢III,手指IIIレベル,Acromiohumeral Interval(以下AHI)は3cm,夜間安静時痛のVisual Analogue Scale(以下VAS)は7cm,Fugl-Meyer Test(以下FMT)16点,麻痺側の肩関節は,他動的関節可動域(以下PROM)屈曲70°,外転90°(両項目とも痛みによる制限)であった。基本動作,日常生活動作ともに自立レベルである。A期間(介入期)は,訪問リハビリテーション時の運動療法とホームエクササイズ指導のTENSを毎日実施し,B期間(未介入期)は,運動療法のみを行った。OMRON低周波治療器エレパルスを家庭用低周波治療器として使用し,電極を棘上筋,三角筋に設置した。それを,ホームエクササイズとして,毎日30分間実施するよう指導した。本研究は,A1期,B1期,A2期,B2期に渡って20週間を研究期間とした。【結果】評価として,片麻痺の随意性はFMTを使用した。麻痺側の肩関節は,屈曲,外転のPROMを使用した。AHIは,訪問時に触診で骨頭間距離を測定した。痛みはVASで使用した。各評価項目において,AHIの平均はA1期2.4±0.3cm,B1期2.3±0.2 cm,A2期2.0 cm,B2期2.0 cmでA2期から改善傾向にあった。VASの平均はA1期5.8±1.3 cm,B1期5.2±1.1 cm,A2期3.4±0.9 cm,B2期2.2±0.4 cmでA2期から改善傾向であった。FMTの平均はA1期21.2±0.4点,B1期20.4±0.5点,A2期23.0±0.7点,B2期24.0点でA2期から向上した。肩関節屈曲のPROMの平均はA1期96.0±5.5度,B2期100度,A2期122±8.4度,B2期119±5.5度でA2期から向上した。【考察】脳梗塞後遺症による片麻痺肩関節の亜脱臼に対しての低周波治療の研究は,病院や施設で幾つか報告されている。今回,訪問リハビリテーションにおける,ホームエクササイズとして家庭用TENSを実施して,先行文献と同様の効果があるかどうかを検討した。A1期B1期A2期B2期の20週間の期間では,AHIについて,Griffnらは弛緩性麻痺期に亜脱臼が進行しても,負荷に対する棘上筋の活動がおこれば亜脱臼が進行しにくいとのことから,本研究も同様,低周波刺激による棘上筋,三角筋の筋活動が活性化されAHIの改善が認められたと考える。VASの改善が認められた理由として,庄本らは,筋が弛緩性麻痺を呈することによって,その他の組織に持続的にストレスが加わる可能性も高く,亜脱臼が持続,進行することにより伸張される関節包,靭帯には痛覚受容器を多く含んでいて,これによって疼痛が発生する可能性を述べている。また,大嶋らは,アライメントが崩れた肢位のまま放置される状態が続けば,上肢屈筋群の痙性による絞扼が強化され,さらなる循環不全神経障害を引きおこしている可能性が存在すると述べている。従って,本研究では,ホームエクササイズによる家庭用TNESの効果で,筋収縮が導かれ,筋の伸張が改善したことで,痛みが軽減したと考える。麻痺側のFMTの改善が認められたことから,その随意性の向上が考えられる。それは,AHIの結果から亜脱臼が改善されて,肩関節の中枢部の固定が強化され,麻痺側上肢の随意性向上に繋がったと考える。他動的肩関節屈曲ROMの結果に,改善が認められたことから,上記の肩関節痛の軽減から,肩関節の屈曲可動域が改善し,上記の随意性向上にも繋がったと考える。【理学療法学研究としての意義】ホームエクササイズ指導による家庭用TENSにて,それを使用することは肩関節の亜脱臼の改善,痛みの軽減,また他動的関節可動域が改善して,随意性の向上も認められことから,脳梗塞後遺症による片麻痺肩関節の亜脱臼に有用と考えられた。
著者
加藤 優志 田原 聖也 梅木 一平 板谷 飛呂 秋山 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1774, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】現在,日本では超高齢社会を迎えており廃用性筋萎縮による活動性低下が介助量増加の一因となっている。今後さらなる高齢者増加が推測されており,廃用性筋萎縮予防が介助量軽減につながると考える。これまで廃用性筋萎縮の予防に関して様々な入浴療法に関する工夫がされており予防効果が報告されている。入浴療法の中でも温冷交代浴には,反復的な血管収縮,拡張による血流の増加作用などが知られている。本研究ではその点に着目し,温冷交代浴による廃用性筋萎縮の予防効果があると考え実験を行った。【方法】本実験は,SD系雌性ラット12匹(平均体重:355.5±33.5g)を使用し,無作為に6匹ずつの2群に分けた。両群は,筋萎縮モデルの作製のため,非侵襲的に継続的尾部懸垂により後肢の免荷を実施した。尾部懸垂を開始した翌日より実験処置を行った。内訳として①群:温冷交代浴群,②群:温水浴群とした。温冷交代浴は,温水42±0.5℃で4分,冷水10±0.5℃で1分を交互に浸し,温浴で始め温浴で終了した。温水浴は,42±0.5℃で20分行った。温度は常に一定にコントロールし,温水は温熱パイプヒーター(DX-003ジェックス(株))を用い,冷水は保冷剤を用いて温度を一定に保った。水浴処置後に再懸垂を目的にペントバルビタールNa麻酔を投与した。すべてのラットにおいて餌と水は自由摂取であった。実験処置の頻度は,1日1回,週6日行った。実験処置を開始してから2週間後,4週間後に各群3匹ずつをペントバルビタールNa麻酔薬の過剰投与にて安楽死処置を行い屠殺し,ヒラメ筋,腓腹筋,長趾伸筋を摘出した。摘出した筋は,精密秤を用いて筋湿重量を測定し,体重に対する筋湿重量比【筋湿重量(g)/体重(g)】を求めた。ヒラメ筋,長趾伸筋は,液体窒素で冷却したイソペンタン液内で急速冷凍した。そして凍結した筋試料はクリオスタット(CM1100 LEICA)を用い筋線維の直角方向に対し,厚さ5μmの薄切切片としてヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い,筋線維面積の観察をした。腓腹筋は,中性ホルマリン溶液に浸漬し組織固定をした。固定後約3時間水で持続洗浄し,自動包埋装置を用い上昇エタノール系列の60%,70%,80%,90%,100%,100%エタノールで,各3時間脱水を行った。続いてキシレン:エタノール1:1で1時間,キシレンで2時間,2時間,2時間,透徹を行った。その後,パラフィンブロックに対して筋横断面が中心になるように位置を設定し,60℃の溶解したパラフィンで浸透処理を行い,パラフィンブロックを作成した。その後,パラフィン標本を,スライド式ミクロトームにより厚さ5μmに薄切した。薄切切片は湯浴伸展させ,シランコートスライドグラスに積載し,パラフィン伸展器にて,十分に乾燥させ染色標本とした。染色標本は,アザン染色を行い,膠原繊維面積の観察をした。定量解析は,デジタルカメラ装着生物顕微鏡(BX50 OLIMPUS)を用いて,HE染色像,アザン染色像をパーソナルコンピューターに取り込み,画像解析ソフト(ImageJ Wayne Rasband)で筋線維面積を1筋当たり30個以上計測し,膠原繊維は1筋当たり3か所以上計測した。統計処理は,2群間を比較するためにt検定を用いて行った。【結果】筋線維面積は,実験処置開始2週間後のヒラメ筋では交代浴群が温浴群に対して筋線維の萎縮を抑制しており有意差が見られた。筋湿重量比は,実験処置開始2,4週間後の長趾伸筋で交代浴群が温浴群に対し,筋萎縮を抑制しており有意差が見られた。有意差が見られなかった測定結果の多くにおいて,交代浴が筋萎縮を抑制している傾向が見られた。【考察】温冷交代浴には,温水に浸すと血管拡張作用,冷水に浸すと血管収縮作用などがあり,これらが交互に行われることで皮膚,筋内の動静脈吻合部が刺激されたことで血液循環が促進され,筋に酸素,栄養が運搬されたことにより抑制されたと考える。血液循環に加え,細胞に温熱が与えられると細胞内に誘導される熱ショックタンパク質の作用によりタンパク質の合成が亢進され筋委縮が抑制されたと考える。これらの要因から温冷交代浴療法には,筋萎縮抑制効果の可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では,廃用性筋萎縮の予防効果として温冷交代浴と温浴の効果を対比させ検討した。今回の結果より温冷浴交代浴が筋萎縮を抑制する傾向が示唆された。温冷交代浴により筋委縮が予防できることで活動性低下を予防の一助になると考える。
著者
万行 里佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1569, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】内臓脂肪型肥満は,メタボリックシンドロームなどの発症リスクを高める要因となる。肥満を改善する方法として,運動や食事などの生活習慣の是正が有効であるが,自覚症状がほとんどないため,生活習慣改善のための行動の開始や継続が容易ではない。そこで,本研究は,腹部肥満者を対象として行動変容技法を用いた介入を実施し,生活習慣改善による肥満等への効果を検討した。【方法】対象者は,30歳以上,腹囲が男性85cm,女性90cm以上でメタボリックシンドロームではない者とした。参加者は9名(男性8名,女性1名,平均年齢42.6±9.4歳)である。研究期間は48週間とし,はじめの12週間は「強化介入」を実施,13-24週の12週間は,特に何も実施せず「経過観察」を行った。25-48週の24週間は「フォローアップ介入(以下,FU介入)」を実施した。介入内容は,はじめに「知識提供」として,生活習慣改善の目的や方法,効果に関する小冊子を配布した。次いで,1.生活習慣調査の結果を提示し,運動習慣や食事習慣の改善に関する目標行動を1-2項目設定させた。目標内容は実行できる自信が95%以上ある「自己効力感の高い」内容となるよう指導した。目標は4週間毎に見直しを行った。3.自己記録表に目標の達成度,体重,歩数,腹囲,コメントを毎日(腹囲のみ週1回)記載し,電子メールにて提出させた。4.研究者は自己記録表の内容をもとに行動への「賞賛」や各自の「行動パターンの長所や問題点への対処方法」について参加者自身に思考させることを意図した助言を返信した。自己記録表の提出と研究者からの返信の頻度は,強化介入期間は毎週,フォローアップ介入期間の前半は,2週間に1回,後半は4週間に1回とした。測定は開始時と12週間毎に計5回行った。測定項目は,国際標準化身体活動質問票より総身体活動量,食物摂取頻度調査より総エネルギー摂取量を算出した。血中脂質として総コレステロール,高比重リポタンパクコレステロール,中性脂肪を測定した。また,身体計測として腹囲および身長,体重よりBody Mass Index(以下,BMI)を算出した。統計処理は,5回の各測定値の変化についFriedman検定を行い,有意差のある場合は多重比較を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【結果】平均腹囲は,開始時97.2±13.3cmよりFU介入終了時93.0±10.8cmと減少したが,有意な差はなかった。平均BMIは,開始時29.0±6.6kg/m2より,強化介入終了後28.0±6.1kg/m2となり,開始時に比べて強化介入終了後と経過観察終了後,有意に減少した(p<.05)。平均総コレステロール値は,開始時200.8±22.1mg/dLより強化介入終了後,191.7±21.8mg/dLと減少したが,強化介入終了後と比べて,経過観察終了後,FU介入終了後に増加した(p<.05)。高比重リポタンパクコレステロール,中性脂肪,総身体活動量,総エネルギー摂取量の値に変化はなかった。【考察】行動変容技法のうち,動機づけ面接(Miller WR & Rollnick S)では,目標とする行動に対する「重要性と自信」を高めることが行動を開始させ,継続するために重要であるとされている。本研究は,重要性を高めるために開始時に知識提供を行った。また,生活習慣改善のための目標行動の内容は,研究者が指定せずに,参加者の個々の自己効力感の高い目標内容を設定することを強調し,行動実施への自信を高めた。さらに,行動の継続と強化を目的として,自己記録表の返信において,問題への対処方法を検討させることや,行動への賞賛を行った。その結果,BMIや腹囲が減少し,肥満の改善効果がみられた。自覚症状が乏しい者への指導では,知識提供に加えて,行動実施への自信を高める介入が有用であることが示唆された。今後は,参加者数の増加やランダム化比較試験による検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】生活習慣病患者の増加に伴い,自覚症状が乏しい患者への効果的な運動指導の必要性が高まっており,発症予防分野への理学療法士の貢献においても意義のある知見であると考える。
著者
本多 輝行 渋谷 正直 青山 敏之 高木 己地歩 川崎 皓太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0796, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】胸腰椎圧迫骨折(圧迫骨折)後,疼痛やバランス能力,歩行能力の低下によりADLが低下するケースは多い。また,急性期病院での入院期間延長により,廃用症候群や認知機能の低下をきたし,回復期病院へ入院するケースも多く認める。しかしながら圧迫骨折患者の歩行予後について急性期での報告はあるものの回復期病院退院時の報告は少ない。また圧迫骨折受傷前の歩行能力が考慮されていない報告が多いという問題点がある。よって本研究では圧迫骨折患者の回復期病院入院時の身体能力や認知機能などの因子が,回復期リハビリテーション実施後の歩行予後に与える影響について,受傷前の歩行能力を基準として調査することを目的とした。【方法】対象は回復期病院である当院に入院した圧迫骨折患者54名(81.5±8.2歳)とした。対象者の群分けはFIMの歩行能力を利用し,受傷前の歩行能力と比較して低下した群19名(低下群)と,変化なしまたは向上した群35名(維持向上群)に群分けした。調査項目は性別,年齢,急性期入院期間,回復期入院時の認知機能と疼痛,バランス能力,受傷前・回復期入院時の歩行能力,ADLとした。認知機能はHDS-R,疼痛はNRS,バランス能力はFBS,ADLと歩行能力はFIMを用いてカルテより後方視的に調査した。統計学的解析については,性別はカイ二乗検定,FIMはMann-WhitneyのU検定,年齢・急性期入院期間は対応のないt検定を用い,有意水準はp<0.05とした。また認知機能,疼痛,バランス能力,歩行能力,ADLを測定時期(入院時・退院時)と群(低下群・維持向上群)を要因とした二元配置分散分析を用いて統計学的解析を行った。【結果】認知症等の影響により疼痛の数値化が困難な2名(低下群1名,維持向上群1名),傾眠や不穏等の理由によりHDS-Rの検査を実施できなかった7名(低下群6名,維持向上群1名)は欠損値として解析対象から除外した。統計学的解析の結果,性別,年齢,急性期入院期間,受傷前歩行能力には有意差はなかった。HDS-R,FBS,FIMは交互作用がなく時期の主効果が有意であり,入院時と比較して退院時に有意に高かった。同様に群の主効果も有意であり,維持向上群が高かった。NRSについては交互作用と単純主効果の結果より,両群ともに入院時と比較して退院時に改善が得られたが,その改善度は低下群で有意に低かった。【考察】本研究により圧迫骨折受傷前の歩行能力に有意差は認めなかった。しかし回復期入院時のバランス能力や歩行能力などの身体機能は低下群で有意に低く,圧迫骨折受傷を契機に両群の身体機能に差が生じたと考える。また回復期入院時の疼痛は両群に有意差を認めないため,自覚的な疼痛の程度が身体活動の制限に結びついた可能性は低い。このことから,リハビリテーション開始時期や臥床時間など急性期病院における何らかの対応の差が,両群の回復期入院時の身体機能の差に結びついた可能性がある。また回復期入院時に見られた,両群の身体機能の差は退院時まで持続しており,急性期においていかに身体機能を維持向上させるかが,回復期退院時の歩行予後に重要であると考える。疼痛は両群ともに有意に改善したが,低下群でその改善の程度が低かった。すなわち回復期入院時の疼痛の程度ではなく,その改善度が回復期退院時の歩行予後に重要な因子となる可能性があるということである。低下群において疼痛の改善度が低かった理由は本研究からは不明だが,疼痛の遷延化に結びつく骨折部位へのストレスへ配慮して急性期・回復期でのリハビリテーションを行うことが歩行予後の面からも重要であるといえる。一方,NRSによる疼痛評価は主観的な要素を含んでいる。そのため向上群の高い身体機能の獲得,あるいはADLの拡大で得られた自己効力感が疼痛の自覚的な評価の改善に結びついている可能性も否定出来ない。これらを考慮し,回復期病院である程度の疼痛が残存していても,疼痛の改善に固執しすぎず,身体機能やADLの改善に着目した介入もバランス良く取り入れる必要があると考える。今後の課題として,両群における回復期入院時の身体機能の差異や低下群における低い疼痛の改善度について,急性期病院での対応の差や自己効力感の観点から更なる調査を進める必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法において,受傷前の歩行能力を獲得することは主要な目標の一つとなる。本研究は,圧迫骨折患者が回復期病院退院時に受傷前の歩行能力を獲得できるかどうかに関わる因子に関して検証したものであり,入院時の予後予測に基づき適切な理学療法を提供する上で有用な知見となると考える。
著者
万治 淳史 松田 雅弘 網本 和 和田 義明 平島 冨美子 稲葉 彰 福田 麻璃菜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0312, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)の有効性について報告がされている。中枢性運動障害のパーキンソン症候群でも一次運動野を刺激することによる上肢の運動緩慢の改善(Fregni et al, 2006他)や,tDCSによる皮質脊髄性の興奮性の向上(Siebner et al, 2004),パーキンソン病(Parkinson disease:PD)のジストニアに対する有効性(Wu et al, 2008)などの報告が見られる。しかし,本邦ではPDに対するtDCSによる治療効果の報告はまだ少ない。今回,起立・歩行動作障害を呈するPD患者に対し,tDCSを実施し,動作の改善が見られた症例について,報告する。平成26年日本理学療法士協会研究助成の一部を利用して実施した。【方法】対象はPDの患者2名,症例Aは75歳,女性,Hoehn & Yahrの分類4で日常的に起立・歩行は困難で介助を要し,すくみ足も顕著であった。症例Bは71歳,女性,Hoehn & Yahrの分類3で自力での起立・歩行は可能であるが補助具を要し,体幹屈曲姿勢が著明であった。方法はtDCSはDC Stimulator(NeuroConn GmbH社製)を利用し,陽極を左運動野,陰極を右前頭部に設置し,1mAの直流電流を20分実施した。刺激前後での評価は,tDCS刺激の前後に,立ち上がり動作と10m歩行テストを実施した。各動作について,前額面・矢状面よりデジタルビデオカメラにて撮影を行い,所要時間の計測を行った。動作分析のため,肩峰・大転子・膝関節・足関節・第5中足骨頭にマーカーを貼付し,撮像データから動作時の体幹・下肢関節角度の算出を行った。tDCS実施前後での計測データの比較を行い,tDCSによる効果について検証した。また,別日にSham刺激前後で同様に測定を行い,tDCSによる効果との比較を行った。【結果】tDCS前後での歩行について,速度:症例A 5.4±0.1→11.0±0.4m/min,症例B 7.8±0.2→8.9±0.1m/min,歩行率:A 92.3±7.2→106.4±6.5steps/min,症例B 88.6±0.9→90.2±3.5steps/minと2症例ともに歩行指標の改善が見られた。特に症例Aについて,大幅な歩行速度の増加が見られ,刺激前にはバランス自制困難で介助を要していたが,刺激後には自制内となった。起立動作について,所要時間:症例A 7.6±0.7→5.6±0.6秒,症例B 33.2±12.8→19.6±3.4秒と動作スピードの改善が見られた。また,起立動作の失敗回数について,症例Aにおいて,刺激前4回/2試行であったものが,1回/2試行と動作失敗の減少が見られた。立位姿勢における股関節屈曲角度:症例A 71.8±1.8→74.0±4.7°,症例B 38.5±0.7°→28.5±2.1°と症例Bにおいて伸展方向に姿勢の変化が見られた。Sham刺激前後においてはtDCS実施時に比べ,改善効果は小さい結果となった。【考察】tDCS前後でのPD患者における歩行動作と立ち上がり動作の効果について検討した。一次運動野(M1)上に陽極設置し,直流電気刺激を行うことで運動誘発電位の振幅が上昇し,陰極下では反対の効果がある。このように脳皮質の活動性の促通/抑制により,活動のバランスを整えることで歩行・立ち上がり動作の改善に寄与していると考えられる(Krause et al, 2013)。歩行に関しては検討した症例はすくみ足・小刻み歩行が顕著で歩行に時間を要していたが,歩行速度・歩行率の改善はこれらPD特有の症状の改善に効果を示したものと考えられる。同様に立ち上がり動作においても,後方重心と動作緩慢により動作困難であったものが。前方への重心移動や動作の円滑性の改善により,起立動作遂行を可能とし,所要時間の短縮が見られた。このようにtDCSにより運動野を刺激することで,PD特有の症状の改善が認められたのは,一次運動野からの入力刺激によって大脳基底核の入力が増大することや,刺激位置(電極接触位置)から運動野前方の補足運動野へも刺激が波及し,運動プログラムの活性化などが関与した可能性が考えられる。脳刺激部位による特異性に関しては今後とも検討を必要とする。今後さらに症例数を増やして検討していく。【理学療法学研究としての意義】tDCSによる脳刺激でPDに対する即時効果として動作遂行能力,動作緩慢に影響することが示唆された。PDに対する脳刺激による治療の可能性を示唆したものであり,今後,詳細な効果の検証を行う上での基盤となると考える。また,その効果や程度を把握することで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。
著者
甲田 広明 堤 陽平 森 幸子 北口 遼 船越 大生 前川 和道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1535, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】理学療法を行うにあたってブリッジ運動を利用できる場面は様々である。ブリッジ運動は臥位で行えるため安全で,幅広い患者に用い易い。理学療法中ブリッジ運動を用いると,患者によって殿部の挙上度合いに差があり,歩行自立度の高い患者ほどブリッジ運動時に股関節を伸展出来ているように感じる。そこで今回,ブリッジ運動時の股関節伸展角度と歩行自立度の関係を調べ,歩行自立度低下の予測及び予防をする際の指標とすることを目的とした。【方法】当院外来通院中で,屋外歩行自立度が独歩自立または杖歩行自立の患者を対象とした。対象の年齢選定は,年齢によるバイアスを少なくする目的で,下限を前期高齢者以上とし上限を90歳未満とした。得られた対象者は独歩自立の者が21名(男性8名,女性13名,平均年齢76.4±5.4歳,以下,独歩群),杖歩行自立の者が11名(男性2名,女性9名,平均年齢79.2±7.8歳,以下,杖歩行群)であった。下肢に麻痺のある者,ブリッジ運動時に痛みの出る者,また屋外歩行が独歩であったり杖歩行であったりと歩行自立度が一定しない者は除外した。ブリッジ運動の開始肢位は,背臥位にて両側上肢をベッド上に置き,膝関節を膝蓋骨の鉛直下方に踵部の後端が位置するところまで屈曲した肢位とした。開始肢位からゆっくりと可能な範囲で殿部を挙上させ,挙上が止まった時点での股関節伸展角度をゴニオメーターで計測した。その際上肢の力を用いることは禁止しなかった。股関節伸展角度は,日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会の定める測定方法を参考にし,体幹と大腿で計測を行った。統計は,独歩群と杖歩行群において得られた股関節伸展角度及び年齢について比較検討した。統計処理にはt検定を用い,有意水準を5%未満とした。また,独歩群と杖歩行群の歩行自立度に関するカットオフ値をROC曲線より決定し,クロス集計表より感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正答率を算出した。【結果】ブリッジ運動時の股関節伸展角度の平均値は,独歩群1.4±11.1°,杖歩行群-21.8±11.5°で有意差を認めた(p<0.05)。両群間の年齢については有意差を認めなかった(p=0.25)。またブリッジ運動時の股関節伸展角度のROC曲線から,最も有効な統計学的カットオフ値は-15°であると判断できた。この点をカットオフ値としたクロス集計表より,感度86%,特異度82%,陽性的中率75%,陰性的中率90%,正答率84%の値が算出された。【考察】今回の研究から,独歩群は杖歩行群と比較してブリッジ運動時の股関節伸展角度が有意に高値を示し,カットオフ値は-15°であることが分かった。クロス集計表から得られた値は,陽性的中率を除いてすべて80%以上であり,歩行自立度に関する評価指標として有用であると考えられた。陽性的中率は75%であったが,陰性的中率は90%,正答率は84%であり,ブリッジ運動時の股関節伸展角度が-15°以上であれば歩行自立度が独歩となり易いことが示された。以上より,独歩自立の者のブリッジ運動時の股関節伸展角度が-15°のカットオフ値を下回るようであると,今後歩行自立度が低下すると予測された。また,独歩自立の者でブリッジ運動時の股関節伸展角度が-15°以上であれば,それを下回らないように理学療法を行うことで歩行自立度低下を予防できると考えられた。さらに現在の歩行自立度が杖歩行である者に対しては,-15°のカットオフ値を上回るように理学療法を行うことで,歩行自立度を向上させる可能性も示唆された。しかし今回の研究では,何故ブリッジ運動時の股関節伸展角度と歩行能力に関連があるのかについての詳細な検討は出来ておらず今後の研究課題としたい。また,どのような理学療法を行うとブリッジ運動時の股関節伸展角度が向上するかについても合わせて調査をしていきたい。【理学療法学研究としての意義】ブリッジ運動時の股関節伸展角度を計測することで,歩行自立度低下の予測及び予防をする際の指標になる可能性を示すことができ,理学療法学研究としての意義はあったと思われる。
著者
堀川 智慧 菅田 伊左夫 原田 和宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1143, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高齢者の転倒は年間10~20%発生しており,介護の主要な要因として問題となっている。高齢者の中でも特に虚弱高齢者は転倒リスクが高く,自宅での転倒発生リスク比が健常高齢者の2倍あるとの報告もある(Northridge,1995)。このことから虚弱高齢者の転倒リスクを予測し,早期支援・介入することが重要である。転倒は地域生活の中で特に歩行中に生じており,歩行における転倒リスクの判別が必要となる。Shumway-Cook(2013)は従来の時間距離変数を用いた歩行評価は簡便で有力な転倒リスク評価指標だが,施設内の整えられた環境下であることから実際の地域生活での能力を反映しているかは明確ではないと述べている。そこで歩行中に認知課題負荷を行い生活場面に近い環境下での歩行を評価することで,より地域生活における歩行能力と転倒リスクの判別が可能になると考える。課題歩行を行う尺度としてDynamic Gait Index(以下,DGI)がある。DGIは8項目の課題歩行を実施し,その課題に対する認知応答やバランス制御反応により歩行を修正する能力を点数化する。地域高齢者においてDGIの妥当性,信頼性を有しているとされるがその報告は少なく,加えて地域高齢者の中でも高い転倒リスクを有している虚弱高齢者に対してDGIの検討はなされていない。また虚弱高齢者は歩行能力が低いと言われており,地域高齢者を対象とした先行研究で報告されているカットオフ値19点では虚弱高齢者の転倒リスクを過大評価すると考えられる。そのことから,虚弱高齢者の転倒リスクをより高精度に判別するためにカットオフ値の再検討が必要である。本研究の目的は,地域在住の虚弱高齢者におけるDGIの転倒リスクの判別力を検討することである。【方法】対象は通所リハビリテーションを利用する65歳以上の高齢者である。除外基準として1)歩行不可能な者,2)認知症スケールであるCDR-Sの得点から認知機能低下が著名とされる者,3)Friedらの虚弱指標に基づくCHS基準が0点の非虚弱者の3つを設ける。DGIの課題は6mの歩行路を使用し,口頭指示にて通常歩行,速度変更,頭部の上下・左右回旋,方向転換を歩行中に行うもの,歩行中の障害物のまたぎ動作,8の字歩行,そして階段昇降の8つがある。各課題における歩行中の不安定さおよび課題への応答を1項目0から3点で点数化し,24点満点中得点が低いほど課題への歩行修正能力が低いといえる。本研究では転倒リスク判別の妥当性を有するModified Gait Abnormality Raiting Scaleをアウトカムとして用いる。統計解析はDGI得点が転倒リスクに寄与するかをロジスティック回帰分析にて解析を行う。またROC分析により曲線下面積(AUC)を求め,カットオフ値の検討を行い,感度・特異度の算出を行う。解析ソフトはSPSS ver. 16.0 Regressionとver. 22 Statisticsを使用する。【結果】対象者は44名であり,平均年齢は78.1±7.1歳であった。転倒リスク者は21名でDGI平均得点は13.9点,非転倒リスク者は23名でDGI平均得点は17.8点と有意に転倒リスク者の得点が低かった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果,DGIのオッズ比は0.42(p<0.01,95%信頼区間0.25~0.72)であった。カットオフ値を19点としたとき,感度100%,特異度34.8%であった。ROC曲線の結果,AUCは0.885,16.5点をカットオフ値としたとき感度69.6%,特異度91.5%であり,陽性尤度比は8.2,陰性尤度比は0.2となった。【考察】ロジスティック回帰分析より,DGI得点の減少は転倒リスクの増加に有意に寄与し,DGIの得点が転倒リスクを判別可能であることが示された。この結果を受け,虚弱高齢者においてカットオフ値を算出した結果,地域高齢者を対象とした19点に比較し,16点以下が転倒リスクをより高い精度で判別することが明らかとなった。また陽性尤度比から高い転倒リスク判別力を有することが明示された。DGIにおける課題は口頭指示に対する応答,頭部の操作やまたぎなど地域生活の中で想定される内容と考えられ,DGIによる歩行評価を行うことにより地域高齢者に加えて虚弱高齢者においても地域生活での転倒リスク判別が可能となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】DGIを用いた歩行評価により歩行中の転倒リスクを有する虚弱高齢者を早期特定し,重点的な介入を行うことが可能になる。また,DGIの減点された項目に対して理学療法介入や環境調整を行うことでより効果的な転倒予防が可能になると考える。
著者
河端 将司 島 典広 久保田 武美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0122, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】理学療法の領域を超えて様々な呼吸法を用いた運動療法が行われている。例えばピラティス式呼吸法や長息法など胸腹部横隔膜を活性化させることで健康増進や腰痛予防を期待するものがある。またスポーツ動作ではタックルのように瞬間的に息む競技や,水泳や走行のように持続的な腹部緊張を保ちつつ継続的な呼吸が求められる競技がある。このように様々な呼吸法が存在するが,それぞれの呼吸時の腹部筋活動の程度や,それに伴って生じる腹腔内圧の上昇量を定量化したデータは見当たらない。本研究では,様々な呼吸法における腹部筋活動と腹腔内圧の観点から呼吸特性と強度を明らかにし,それをもとに運動処方に有用なトレーニング方法と強度について検討することを目的とした。【方法】健常男子大学生8名(20±1歳,170±3cm,64±4kg)を対象にした。全対象者は端座位にて,以下の7種の呼吸法を行った。①安静呼吸(以下,「安静」),②口すぼめ強制長呼息(以下,「強制呼気」),③腹式呼吸(以下,「腹式」),④ピラティス呼吸(以下,「ピラ式」,腹部凹みのまま胸式呼吸を続ける呼吸法),⑤吹き矢様の口すぼめ強制短呼息(以下,「吹き矢」),⑥最大下いきみ3秒(以下,「長息み」),⑦タックル様いきみ(以下,「短息み」)とした。腹腔内圧の測定は,直径1.6mmカテーテル型圧力センサー(Millar社製)を用いて肛門から約15cmの直腸圧を測定し,最大怒責時のIAP上昇量(差分)で正規化した(%IAP)。腹部筋活動の測定は,表面筋電図(日本光電社製)を用いて,腹横筋-内腹斜筋複合部(以下,「TrA-IO」,上前腸骨棘から約2cm内下方),外腹斜筋(以下,「EO」,臍と前腋窩線の交点)の右側2筋のRoot Mean Square(RMS)値を算出し,各筋の最大等尺性筋収縮時のRMS値で正規化した(%MVC)。呼吸流量は流速計(Acro System社製)とマスク(Hans Rudolph社製)を用いて採取した。呼吸流速データから吸気相と呼気相に分け,各相のIAP上昇量と筋活動量の同一3試技の平均値と標準偏差を算出した。一元配置分散分析および多重比較(Tukey法)を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】呼気量に主効果を認め(p<0.05),安静(0.7±0.3 L)はそれぞれ強制呼気(3.8±1.3 L)と吹き矢(1.9±1.1 L)に有意差を認めた(p<0.05)。腹腔内圧は呼気相のみ主効果を認め(p<0.05),安静(1.9±0.9%IAP)はそれぞれ強制呼気(31.4±9.3%IAP),吹き矢(29.3±6.3%IAP),長息み(46.7±21.1%IAP),短息み(64.3±14.3%IAP)と有意差を認めた(p<0.05)。TrA-IOとEOは吸気相呼気相ともに主効果を認め(p<0.05),吸気相では安静(TrA-IO:4.2±1.9,EO:1.8±0.9%MVC)とピラ式(TrA-IO:31.3±25.9,EO:7.0±7.3%MVC)のみ有意差を認めた(p<0.05)。一方,呼気相では安静(TrA-IO:4.2±1.9,EO:1.9±1.2%MVC)はそれぞれ強制呼気(TrA-IO:45.6±34.7,EO:10.1±3.3%MVC),長息み(TrA-IO:42.6±21.4,EO:12.9±8.8%MVC),短息み(TrA-IO:41.9±20.3,EO:13.2±6.7%MVC)と有意差を認めた(p<0.05)。【考察】まず今回の呼気量の結果より,7種の呼吸法は概ね妥当な呼気量で遂行されたと見なすことができた。腹腔内圧は呼気を強調した時に有意に上昇し,特に息む呼吸法で顕著であった。例えば短息み時の64%IAPは高重量物挙上時と同等であり(筆者先行研究。2010, 2014),タックルなど瞬間的に息む場面では腹腔内圧の増大に有利な呼吸法であることが示された。TrA-IOは吸気相でピラ式が有意に高活動を呈した。これは吸気時でも腹部凹みを維持し続けるという課題によって腹部が等尺性収縮(一部伸張性収縮)を要求されたことに起因すると考えられた。また呼気相では強制呼気が最も高活動を示したことから,TrA-IOのトレーニング強度について考えれば,ピラ式と強制呼気の混合型が効果的な刺激をもたらすかもしれない。EOもTrA-IOと同様の筋活動パターンを示したもののTrA-IOに比べると変化量が極めて小さいため,呼吸法による影響は直接的ではないと思われた。したがって,腹腔内圧の増大を伴う腹筋強化には瞬間的に息むような呼吸法,一方,腹部の持続的な筋緊張を維持するにはピラ式と強制呼気を混合させた呼吸法が有用かもしれない。【理学療法学研究としての意義】本研究は腹部筋活動と腹腔内圧の観点から,様々な呼吸法の特性と強度を明らかにした最初の基礎データであり,その参考値は運動やトレーニングの処方において有益な示唆をもたらすと考える。また理学療法の領域をまたぐ知見として活用できると思われる。
著者
岡林 輝親 山下 恵美 谷岡 真央 田所 彩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1910, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中のリハビリテーションにおいて患者の機能的予後等を予測すること,またStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)は総合評価尺度として用いることが勧められている。回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟において理学療法士は,患者の機能・能力的予後,特に退院時歩行能力を予測し,退院へ向けて早期からのマネジメントが要求される。そこで,SIASを用いてカットオフ値を算出し,回リハ病棟へ入棟された患者様の歩行自立度の予測に活用することを目的とする。【方法】対象は,2012年8月から2014年10月まで当院回リハ病棟に入院されていた脳卒中患者(くも膜下出血を除く)79名(年齢:77.1±10.1歳,男性42名,女性37名,脳出血15名,脳梗塞64名)。除外項目は,病前の歩行能力が自立及び修正自立でない者,発症から2週間以内に退院した者,SIASが評価不能だった者とした。評価はSIASを用い,SIAS総点,SIAS-L/E(運動機能-下肢),SIAS-Trunk(体幹機能),SIAS-S(感覚機能)の項目に分類し,回リハ病棟入棟後1週間以内に評価した。歩行自立度は退院時歩行能力が完全自立もしくは補装具を用いた修正自立者を「自立群」,その他の見守りや身体的介助を要する者を「非自立群」として分類した。統計は,有意差の判定のためSIAS各項目の自立・非自立各群に対してWilcoxon符号付順位和検定を実施した後,歩行自立度とSIAS各項目のカットオフ値の算定を,Receiver Operating Characteristic曲線(以下ROC曲線)にて実施した。統計ソフトは,EZR(Saitama Medical Center,Jichi Medical University)を使用した。【結果】SIAS各項目の自立・非自立各群の間に有意差を認めた(P<0.01)。さらにROC曲線によるSIASカットオフ値を算出した結果,Area Under the Curve(以下AUC)はそれぞれ,入棟時SIAS総点で0.82,SIAS-L/Eで0.77,SIAS-Trunkで0.75,SIAS-Sで0.83となった。算出されたカットオフ値は,SIAS総点で59点(感度0.833,特異度0.744),SIAS-L/Eで9点(感度0.917,特異度0.558),SIAS-Trunkで3点(感度0.972,特異度0.512),SIAS-Sで9点(感度0.722,特異度0.767)となった。【考察】結果より,回リハ病棟退院時の歩行自立・非自立を予測するためのカットオフ値は,初期評価時のSIAS総点で59点,SIAS-L/Eで9点,SIAS-Trunkで3点,SIAS-Sで9点であることが示唆された。SIAS総点やSIAS-Sで運動機能項目より高いAUCを得たことは,歩行能力には機能回復により変動する運動機能よりも,感覚機能やその他の諸因子が残存しているか否かに依拠していると考えられ,歩行予後を推察する際にはSIASのような多面的評価を用いて要因を検討していく必要性があると考えられる。今後は高次脳機能障害や嚥下障害なども考慮し,予測精度の向上に努めたい。【理学療法学研究としての意義】回復期脳卒中患者様の歩行予後予測の一助として,ゴール設定,自宅復帰の可否予測などの判断材料として活用し,早期から退院時の患者様の移動様式を予測した包括的なアプローチを実施することに寄与するものと考えられる。
著者
山内 康太 小柳 靖裕 岩松 希美 熊谷 謙一 萩原 理紗 金子 裕貴 藤本 茂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0061, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】脳卒中発症後における機能・能力障害に対しては発症直後より可及的早期の集中的なリハビリテーションが推奨されている。脳卒中急性期では機能障害,併存疾患,社会的背景などをもとに機能予後を予測しリハビリテーションを遂行する。特に日常生活自立のために重要な機能の一つである歩行障害の予後予測は治療内容や転帰先を検討するうえで重要となる。本邦における脳卒中治療ガイドラインにおいては機能障害の評価としてStroke Impairment Assessment Set(SIAS)が推奨されており,総合的な機能障害の評価として汎用されている。SIASは併存的・予測妥当性は証明されているが,急性期におけるSIASに関する報告は少ない。またSIASが能力障害の重症度を判別できるか否かなど,ベンチマークとなる点がなく指標がないのが現状である。今回,SIASによって発症以前の活動に制限がないとされるmodified Rankin Scale(mRS)≦1,歩行自立(mRS≦3)の判別および脳卒中発症1週目におけるSIASによる予測妥当性について調査したので報告する。【方法】2010年4月から2013年7月までに発症1週以内に脳卒中にて入院し,リハビリテーションを施行した479例のうち入院前modified Rankin Scale(mRS)0-1であった341例を対象とした。調査項目は年齢,性別,既往歴(高血圧,高脂血症,糖尿病,心房細動,腎不全,閉塞性動脈硬化症,虚血性心疾患),発症1週目におけるSIAS,NIHSS,Trunk Control Test(TCT),Functional Independence Measure(FIM)認知項目とした。(1)SIASによる能力障害の重症度判別の解析は機能障害と能力障害の乖離が生じないようにリハビリテーションを実施した発症3週目(発症3週以内の場合は退院時)におけるSIASがmRSの各スコア間で階層化されるか調査した。SIASのmRSスコア別における群間比較はKruskal-Wallis検定およびBonferroni検定を用いた。また活動制限なし(mRS≦1),歩行自立(mRS≦3)を判別するSIASのカットオフ値はROC分析によって求めた。(2)脳卒中急性期におけるSIASの予測妥当性は3ヶ月目における歩行可否を予測し得るか否かとした。統計解析は3ヶ月目の歩行可否における2群間の比較において有意差を認めた因子を独立変数とし,3ヶ月目歩行可否を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。なお,年齢は単変量解析の結果に問わず調整すべき変数として強制投入した。【結果】(1)SIASにおける能力障害重症度判別mRSのスコア別におけるSIASの中央値(四分位範囲)はmRS0;75(73-76)点,mRS1;74(72-76)点,mRS2;72(70-75)点,mRS3;70(60-74)点,mRS4;51(38-64)点,mRS5;24(15-35)点であり,mRS0-2までの群間および2-3の群間に差を認めなかった。これらの群間以外は全て有意差を認めた。活動制限なし(mRS≦1),歩行自立(mRS≦3)のカットオフポイントは各々71点(感度87.0%,特異度69.7%,曲線下面積0.85),64点(感度93.2%,特異度86.5%,曲線下面積0.96),であった。(2)急性期におけるSIASの予測妥当性3ケ月フォローアップが可能であった315例のうち,3ヵ月後歩行が自立した症例は257例(81.6%)であった。単変量解析の結果,病型,性別,BMI,糖尿病有無,閉塞性動脈硬化症有無,発症1週目SIAS,NIHSS,TCT,FIM認知項目に有意差を認めた。SIAS,NIHSS,TCTは相関係数r>0.8であり,多重共線性を考慮し,危険率が最も低値であったSIASを機能障害の指標として独立変数とした。多重ロジスティック回帰分析の結果,独立した予測因子はSIAS(OR1.12,p<0.001),FIM認知項目(OR1.08,p=0.003),年齢(OR0.95,p=0.040)であった。判別的中率は93.4%と高値であった【考察】本邦ではSIASが汎用されているが評価した点数により重症度を判断することができないのが現状であった。本研究の結果では発症前の活動制限を認めない能力(mRS≦1),歩行自立(mRS≦3)のカットオフポイントは各々71点,64点であった。今回の結果より3ケ月後における歩行可否の予後予測にSIAS,FIM認知項目,年齢が独立した因子であり,SIASの予測妥当性が証明された。つまりSIASは歩行能力などの能力障害を判別し,予後予測の独立した因子であり,急性期脳卒中リハビリテーションの評価として有用であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は本邦で汎用されているSIASの急性期予測妥当性を明らかにした初めての研究であり意義が高い。
著者
本村 芳樹 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1005, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋活動バランスの観点から,股関節疾患患者などでは大殿筋に対するハムストリングスの優位な活動などの筋活動不均衡がみられることが多く,また,変形性股関節症患者では大殿筋下部線維の優位な筋萎縮などの不均一な筋萎縮も報告されている。したがって,それらを改善するためには筋の選択的トレーニングが重要であるが,ハムストリングスと大殿筋,さらに大殿筋の上部・下部線維について,種々の運動時の筋活動バランスを調査した報告は少ない。本研究の目的は,トレーニングとして多用される股伸展運動とブリッジ運動を対象として,ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維の筋活動バランスを分析し,筋が選択的かつ効果的に活動する運動を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性19名とした(年齢21.8±1.4歳)。課題は,腹臥位右股伸展(股伸展)と右片脚ブリッジ(ブリッジ)とした。股伸展では,ベッドの下半身部分を30°下方に傾斜させて骨盤をベルトで固定し,右股関節のみ伸展0°位(内外転,内外旋中間位),右膝屈曲90°位で保持させた。条件は,抵抗なし,外転抵抗(3 kg),内転抵抗(3 kg)の3種類とした。外転および内転抵抗は,伸張量を予め規定したセラバンドを用いて,両側の大腿遠位で外側および内側から抵抗を加えた。ブリッジでは,両上肢を胸の前で組み,両股伸展0°位(内外転,内外旋中間位)かつ右膝屈曲90°位,左膝伸展0°位で保持させた。条件は股伸展と同じく,抵抗なし,外転抵抗,内転抵抗の3種類とした。各課題について,測定前に十分に練習を行った。測定には,Noraxon社製表面筋電計を用いた。測定筋は,右側の大殿筋上部線維(UGM),大殿筋下部線維(LGM),大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST)とした。各筋とも,各課題中の3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。本研究では先行研究を参照し,二筋の筋活動量の比と分子となる筋の筋活動量との積を算出し,筋活動バランスと定義した。まず,正規化した筋活動量を用いて,UGMとLGMの筋活動量の和をGmax,BFとSTの筋活動量の和をHamとしてGmax/Ham(G/H)の比を,またUGM/LGM(U/L),LGM/UGM(L/U)の各比を算出し,それらと筋活動量との積として,Gmax×G/H(G*G/H),UGM×U/L(U*U/L),LGM×L/U(L*L/U)を算出した。股伸展とブリッジの計6課題(全て股伸展0°,膝屈曲90°)について,上記の各変数の課題間の差を対応のあるt検定およびShaffer法による修正を行った。【結果】筋活動量としては,UGMでは,股伸展・外転が他の課題より有意に大きく,股伸展・内転が最も筋活動量が小さい傾向にあった。LGMでは,股伸展・外転がブリッジ・内転より有意に大きかったが,その他の課題間では有意差は認めなかった。BF,STについては,どちらも股伸展の3課題に比べブリッジ3課題がいずれも有意に大きかった。筋活動バランスとしては,G*G/Hは,股伸展・外転のみがブリッジ3課題より有意に高かった。U*U/Lはブリッジ・抵抗なしよりも股伸展・外転およびブリッジ・外転が有意に高かった。また,L*L/Uは股伸展・内転とともに股伸展・抵抗なしも他の課題よりも有意に高値を示す傾向にあったが,この両者の間では有意差は認めなかった。【考察】本研究で用いた指標である筋活動バランスが高い課題は,比が高くかつ筋活動量も大きい運動を示している。6課題の中では,ハムストリングスに対する大殿筋の選択的トレーニングとしては,股伸展・外転が最も効果的と考えられる。大殿筋上部線維については,股伸展,片脚ブリッジともに外転抵抗での運動が効果的であると考えられる。一方,大殿筋下部線維は,筋活動量としては股伸展・外転が大きかったものの,筋活動バランスとしては,股伸展・内転や股伸展・抵抗なしが高値を示した。これらの運動では,大殿筋上部線維の筋活動が大きく減少したためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋活動量の比と筋活動量の積から算出される筋活動バランスを分析することによって,ハムストリングスと大殿筋,そして大殿筋上部・下部線維を選択的にトレーニングするための重要な知見を提供するものである。
著者
上村 孝司 村松 憲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1789, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】普段行われているジャンプ動作など,反動を利用する動作を目的として筋収縮を行う際には,拮抗筋条件収縮(Antagonist Conditioning Contraction:ACC)が行われている。促通手技の一つでもあるACCは,主動作筋の収縮前に拮抗筋を収縮させるものであり,拮抗筋の収縮後に主動作筋出力が増強することが報告されている(Kamimura et al., 2009)。等尺性収縮によるACCでは,拮抗筋のゴルジ腱器官からのIb抑制により拮抗筋を抑制し,主動作筋を興奮させることで主動作筋の最大筋出力が向上する(Gabriel DA et al. 2001)。また,最大努力での等尺性または等速性による事前の拮抗筋収縮により,主動作筋活動が増加されることが報告されている(Kamimura and Takenaka, 2007)。等尺性収縮による拮抗筋条件収縮後の主動筋活性は,先行研究ではゴルジ腱器官のIb抑制の効果であると仮定されている(Kabat, 1952)。このような拮抗筋の条件付け活動は主動作筋に対して,脊髄からの興奮性の水準を高めるのに役立つ可能性があり,ACCを包含することにより筋力トレーニングの効果は増加する可能性がある。そこで本研究は,拮抗筋条件収縮における筋出力初期の増強を,特に神経的要因から検討することを目的とした。【方法】健常な被験者8名を対象に,足関節90度にて背屈および底屈の最大随意収縮(MVC)の測定した。その後,等尺性収縮による100%MVCでの背屈を1秒間行わせた後,直ちに最大努力での底屈を3秒間行わせた。筋活動電位(EMG)はヒラメ筋から導出した。底屈のみと拮抗筋条件収縮後の底屈時における25%MVCまでトルクが上昇した時点において,脛骨神経を電気刺激することによりヒラメ筋のH波を導出した。得られたデータから,最大トルク,筋電図積分値(iEMG),力の立ち上がり速度(RFD),EMGの発揮勾配(RED),H波の振幅を解析した。RFDは筋出力発揮を微分し,足関節底屈相での最初のピークとした。REDを算出するために区分周波数4Hzのガウシアンフィルターを用いて,筋電図信号を平滑化した。平滑化した信号を微分し,最初のピーク振幅をREDとした。測定値は平均値±標準誤差で示した。各測定条件における相関関係はピアソンの相関係数を用いて求めた。2群間の差の検定は対応のあるt検定を用いた。危険率はすべて5%とした。【結果】ACCの底屈のピークトルクは,底屈のみと比較して有意な差は認められなかったが,RFDおよびREDはACC条件においてに有意に高い値を示した。また,底屈のみのH波と比較してACC後の底屈時のH波は有意に高い値を示した。【考察】底屈のみとACC後の底屈時のピークトルクやiEMGにおいて,有意な差は認められなかった。しかし,ACC後のRFD及びRREは有意に高い値を示した。またACC後の主動筋収縮時のH波は,主動筋収縮のみのH波と比較し有意に上昇した。このことから主動筋収縮前にACCを行うことで,筋出力の初期に増強が起こることが明らかとなった。先行研究ではダイナミックなACC後の主動筋のRFDの増加は,筋腱複合体の弾性エネルギーによる可能性であることが示唆されている(Gabriel DA et al., 2001)。しかし,本研究では等尺性収縮を用いたことにより,弾性エネルギーの影響によるRFDの増加は考えにくい。拮抗筋条件収縮後のRFDが上昇した要因としては,神経系の活動が関与したと考えられる。それを支持するものとして,REDの増加が挙げられる。REDは神経的要因を反映しており,RFDと相関することが報告されている(上村ほか., 2011)。また,ACC後の主動作筋収縮時のH波の振幅が有意に増加していることから,底屈のみの際には動員されていなかったα運動ニューロンが新たに動員されていることが考えられた。このことから,RFD及びREDの有意な増加はREDの増加及びH波の増加から,神経的要因が深く関与していることを明らかにしている。先行研究において,等尺性収縮によるACC後の主動筋活動増強は,GTOのIb抑制の効果であると仮定されている(kabat, 1952)。Ib抑制は主動筋を抑制し,拮抗筋を興奮させる。先行研究ではIb抑制が最も大きくなるのは,収縮開始から1秒程度までであるという報告がある(Moore and Kukulka, 1991)。本研究では等尺性でACCを1秒間行っていることから,拮抗筋に対してIb抑制が働き,主動筋に対して興奮性のインパルスが伝達されていると考えられる。したがって,主動筋収縮前にACCを行うことで筋出力増加が得られるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】今回明らかになったメカニズムを利用できるような訓練方法を考案することで,臨床場面における筋力増強訓練をより効果的に実施することができるようになるのではないかと考える。
著者
柳田 顕 江戸 優裕 宮澤 大志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1447, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】足部は荷重位において様々な動作を遂行する際の安定した土台としての役目を担っている。時々刻々と変化する要求に対して,足部は剛性と柔軟性を変化させながら対応している。足部の剛性は,距骨下関節(以下,ST関節)の肢位や,ウィンドラス機構の影響を受ける。ST関節の回外は,横足根関節の縦軸と車軸の交差を強めることにより,可動性を制限し強固な足部を形成する。ウィンドラス機構は,中足指節関節(以下,MP関節)伸展に伴う足底腱膜の巻き上げにより内側縦アーチが緊張し,足部の剛性が高まる現象である。この2つの機能について別々に評価は行うが,関連を考慮することでより詳細な評価が出来ると考える。よって,本研究の目的はST関節肢位が,他動的な足趾背屈による内側縦アーチの挙上に与える影響を明らかにすることとした。【方法】対象は下肢に既往のない健常若年者22名(44肢)とした。対象者の内訳は男性14名・女性8名,年齢22±2.2歳,身長167.8±7.6cm,体重60.3±8.5kgであった。ウィンドラス機構の計測は,赤外線カメラMX-T8台で構成される三次元動作解析システムVICON-NEXUS(Vicon motion system社製)を使用した。反射マーカーの貼付位置は,脛骨粗面・内果・外果・踵後面・踵内側面・踵外側面・舟状骨・第1中足骨頭・第5中足骨頭・母趾頭の1肢につき10点とした。計測肢位は端座位にて股・膝関節屈曲90度とし,大腿遠位部に体重の10%重の重錘を載せることによって足部に荷重をかけた。計測課題はMP関節の他動的な伸展を5回反復する動作とした。計測されたMP関節伸展角度と内側縦アーチ角度における一次回帰係数[以下,ウィンドラス比(MP関節伸展角度/内側縦アーチ角度)]をウィンドラス機構の動態の指標とした。なお,計測はST関節の肢位を変化させるために,傾斜板に足部をおいて行った。傾斜板は,20度外側傾斜(以下,回外位)・10度外側傾斜(以下,軽度回外位)・傾斜なし(以下,中間位)・10度内側傾斜(以下,軽度回内位)・20度内側傾斜(以下,回内位)の5条件とした。そして,下腿に対する踵骨の平均回内外角度をST関節角度[回外(+)]とした。統計学的分析は,1元配置分散分析とGames-Howell法による多重比較検定を用いた。有意水準は危険率5%(p<0.05)で判定した。【結果】ウィンドラス比の平均は,回外位で9.1±3.0,軽度回外位で9.5±2.9,中間位で10.1±3.2,軽度回内位で11.0±3.2,回内位で12.4±4.5であった。回外位のウィンドラス比は,回内位(p<0.01)・軽度回内位(p<0.05)に比べて有意に大きかった。回内位のウィンドラス比は,軽度回外位(p<0.01)・中間位(p<0.05)に比べて有意に小さかった。なお,傾斜板の各条件によるST関節の角度は,回外位で7.4±5.7度・軽度回外位で1.2±5.2度・中間位で-2.4±5.2度・軽度回内位で-5.6±5.0度・回内位で-8.8±5.1度であった。【考察】本研究で定義したウィンドラス比は,内側縦アーチ挙上に必要なMP関節伸展運動の大きさを表すことから,ウィンドラス比が大きいほどウィンドラス機構の効率は低いことを意味する。したがって,本研究の結果は,ST関節の回外位は回内位よりもウィンドラス機構が効率的に作用することを示している。ST関節の回外は,内側縦アーチを挙上させる(Neumann2005)とともに,長腓骨筋に張力を与える。長腓骨筋は,前足部を屈曲させる働きにより内側縦アーチの高さを増す(Kapandji1986)ことから,ST関節が回外位では長腓骨筋も内側縦アーチへの関与を強めると考える。以上により,ST関節回外位ではウィンドラス機構が効率的に作用したと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究よりウィンドラス機構はST関節肢位の影響を受けることがわかった。したがって,ウィンドラス機構を評価する際は,ST関節肢位を考慮すべきと言える。歩行周期において,ウィンドラス機構が最も働くのは立脚終期であり,さらにST関節も回外位となっており,両機能により足部は剛性を高めている。立脚終期の,ST関節回外の減少は,直接的に足部剛性を減少させるだけでなく,ウィンドラス機構の非効率化を生じさせ,間接的にも足部剛性の減少を引き起こす可能性がある。