著者
高林 知也 江玉 睦明 稲井 卓真 横山 絵里花 徳永 由太 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0386, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】歩行速度は,運動機能を推測するための‘バイタルサイン'とされており,歩行における重要な評価指標である。先行研究では,多くの整形疾患で歩行速度が低下することや,認知機能との関連性があることも指摘されている。さらに,Winterらは片麻痺患者を対象に歩行速度を検証し,屋外および屋内歩行レベルは歩行速度により決定されると報告した。したがって,歩行速度の低下は社会参加制約に直結する因子である。歩行速度に関与する足部機能のひとつに,ウィンドラス機構(WM)がある。WMとは,足指背屈により内側縦アーチが拳上し,蹴り出し時の推進力を生み出す機構である。しかし,歩行速度の変化とWMの関連性については現在まで検証されていない。その要因として,足指角度や内側縦アーチ挙上角度(MLAEA)の動的な定量化が困難であり,詳細な足部評価が確立していないことが挙げられる。そこで,本研究は足指角度とMLAEAを動的に評価できる3DFoot modelを用いて,歩行速度の変化とWMの関連性について明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は健常成人男性6名とした(年齢23.5±3.8歳,身長171.2±4.6 cm,体重60.0±5.5 kg)。課題動作は通常歩行(NG:4.8 km/h),低速歩行(SG:2.9 km/h),超低速歩行(VSG:1.0 km/h)の3条件とした。歩行速度は先行研究に準じ,SGは脳卒中患者の屋外歩行,VSGは脳卒中患者の屋内歩行レベルに規定した。トレッドミル(AUTO RUNNER AR-100)にて歩行速度を設定し,課題動作を実施した。課題動作の順序は無作為に実施し,各条件で10回の成功試行を計測した。動作解析には赤外線カメラ11台を含む3次元動作解析装置(VICON MX)を使用し,サンプリング周波数100Hzにて右下腿と足部に貼付した15個の反射マーカーを計測した。データ解析にはScilab(5.5.0)を使用し,計測した反射マーカーに対し遮断周波数6Hzの2次Zero-lag butterworth low pass filterを施した。その後,足指角度とMLAEAを評価可能な3DFoot modelを構築した。母趾は足指の中でWMに最も関与するとされているため,母趾背屈角度(HDFA)とMLAEAを算出し,WMの指標とした。なお,3DFoot modelで算出されるMLAEAは低値であるほど高アーチを示す。解析区間である踵接地から爪先離地(TO)までの立脚期を100%正規化し,各被験者で課題条件毎に解析項目を加算平均した。統計は,TO時におけるHDFAとMLAEAの平均値に対し,課題条件を因子としたフリードマン検定,事後検定としてSteel-Dwass法にて解析した。また,HDFAとMLAEAの関連性を相関係数にて検証した。有意水準は5%とし,統計ソフトstatics R(3.0.0)を用いた。【結果】HDFAとMLAEAの相関関係において,NGでは強い負の相関を示し(r=-0.91),SGおよびVSGでは中等度の負の相関を示した(r=-0.50,-0.57)。TO時のHDFAにおいて,NG(34.5±5.7°)はVSG(8.0±6.7°)と比較して有意に高値を示したが(p<0.05),SG(23.1±5.0°)はNGおよびVSGと比較して有意差を示さなかった。TO時のMLAEAは課題条件間にて有意差を示さなかったが,歩行速度増加に伴い高アーチの傾向を示した(NG:159.2±3.8°,SG:164.5±4.9°,VSG:167.1±6.3°)。【考察】本研究において,歩行速度の変化とWMの間には高い関連性が存在していることが示唆された。WMは足指背屈により生じるため,足指の動きがWMのトリガーの役割を担っている。また,内側縦アーチの低下はWMが破綻するとされているため,MLAEAもWMに関与する重要な因子である。本研究において,NGのHDFAはVSGと比較して有意に増加し,MLEAは歩行速度の増加に伴い高アーチの傾向を示した。さらに,HDFAとMLAEAの相関関係は,NGにおいて強い負の相関を示した。そのため,NGはWMがより働き,SGとVSGはWMへの関与が少ない可能性が考えられた。課題条件で用いたSGとVSGは,脳卒中患者の歩行レベルに準じて規定した。本研究結果より,脳卒中患者の歩行速度を通常歩行レベルに向上させるためには,WMを考慮する必要性が示唆された。なお,本研究で用いた3DFoot modelは,他のMulti-segment foot modelと比較して再現性が高いことが確認されている。また,算出したHDFAとMLAEAは,3DFoot modelを報告した先行研究と類似した波形パターンと値を示したため,本研究結果は妥当性が高いと考えられた。【理学療法学研究としての意義】理学療法において歩行速度を向上させることは,実用的および効率的な歩行を実現するために重要な課題である。本研究の知見は,歩行動作にアプローチする上で有益な基礎情報に成り得る。
著者
山内 大士 長谷川 聡 中村 雅俊 西下 智 簗瀬 康 藤田 康介 梅原 潤 季 翔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1031, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】野球選手は肩関節の内旋や水平内転方向の可動域が制限されることが多く,またこうした可動域制限と投球障害との関連も報告されている(Wilk;2011)。可動域制限の要因としては肩関節後方の軟部組織の伸張性低下が大きな要因として考えられており,一般的に肩関節後方タイトネスと呼ばれている。肩関節の内旋・水平内転可動域制限に対するストレッチング(以下ストレッチ)方法としては,水平内転方向へのcross-body stretchと,内旋方向へのsleeper stretchが多く用いられる(McClure;2007)。近年Wilk(2013)らによって,これらのストレッチを改良したmodified cross-body stretch(以下mCS)と,modified sleeper stretch(以下mSS)が提唱された。しかし,実際にこれらのストレッチ方法が関節可動域に及ぼす効果を比較・検討した報告は見当たらない。また,これまでは個別の筋の柔軟性を測定することはできなかったが,近年開発されたせん断波エラストグラフィー機能を用いることで各筋の弾性率を測定することができ,ストレッチが各筋の柔軟性に及ぼす効果を明らかにすることができるようになった。本研究の目的は,mCSとmSSによる肩関節内旋・水平内転可動域制限の改善効果と,各筋の弾性率の変化を比較検討し,これらのストレッチが及ぼす即時効果を明らかにすることである。【方法】対象は大学硬式野球部員24名の投球側24肩とし,無作為に12名ずつmCS群とmSS群とに群分けした。mCSは,投球側を下にした側臥位になり,投球側肩甲骨を固定した状態での水平内転方向へのストレッチである。mSSは,投球側を下にした側臥位から体幹を30°後方に回旋させることで肩関節の圧迫を減じつつ,投球側上腕の下にタオルを敷くことで水平内転角度を確保した状態での内旋方向へのストレッチである。ストレッチは各群とも投球側に対して30秒を3セット行い,ストレッチ前後に測定を行った。可動域計測にはデジタル角度計を用い,背臥位で肩甲骨を固定しながら2nd内旋と水平内転可動域を計測した。各筋の弾性率の計測には超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,測定肢位は座位肩関節90°外転・40°内旋位(2nd内旋位)と座位肩関節110°水平内転位(水平内転位)とし,測定筋は棘下筋・小円筋・三角筋後部とした。各測定項目について,対応のあるt検定を用いて介入前後の値を比較した。有意水準は5%とした。【結果】介入前後で比較すると,各群共に内旋可動域は介入後に有意に増加した(mCS群;49.1±6.2°→55.8±5.5°, mSS群;51.8±6.7°→ 59.7±7.4°)。水平内転可動域はmCS群のみ有意に増加した(mCS群80.5±10.5°→83.9±8.1°, mSS群;85.7±8.8°→85.6±7.2°)。筋の弾性率は,mCS群では2nd内旋位の小円筋(15.5±4.5kPa→13.1±4.2kPa),水平内転位の小円筋(19.6±5.3kPa→15.8±4.1kPa),三角筋後部(30.5±6.5kPa→26.4±6.8kPa)において有意に減少した。一方mSS群では,2nd内旋位の棘下筋(9.7±2.9kPa→8.9±2.3kPa)のみ有意に減少した。【考察】mCS群とmSS群は共に内旋可動域の改善率は同程度であり,2nd内旋位での筋の弾性率はmCS群では小円筋が,mSS群では棘下筋が低下した。一方,水平内転可動域はmCS群でのみ改善が見られ,水平内転位での筋の弾性率はmCS群の小円筋・三角筋後部のみ低下した。以上の結果から,mCSでは小円筋と三角筋後部に対するストレッチ効果が,mSSでは棘下筋に対するストレッチ効果が得られていたと考えられる。2nd内旋可動域に関しては,過去に棘下筋や小円筋に対するマッサージにより内旋可動域が改善するという報告がされており(Poser;2008),本研究の結果からも,これらの筋の柔軟性が増加したことにより内旋可動域が改善したと考えられる。一方,水平内転可動域に関しては,小円筋と三角筋後部の弾性率が低下したmCS群でのみ可動域が改善していたことから,水平内転可動域制限と関連が深い筋は三角筋後部と小円筋であり,mSSではこれらの筋が効果的にストレッチされなかったため水平内転可動域が改善されなかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により,野球選手における投球側肩関節の内旋可動域制限に対してはmCSとmSSの両方法が効果的であり,水平内転可動域制限に対してはmCSが効果的であることが示唆された。また,mCSでは小円筋と三角筋後部,mSSでは棘下筋のストレッチ効果が得られやすいことが示唆された。
著者
村上 忠洋 横地 由大 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1742, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】虚弱高齢者は立位姿勢を保持する際,バランス能力の低下を代償するために足趾を屈曲し,床面を圧迫して姿勢制御を行っていることが報告されている。これにより,しばしば第2-5趾に近位趾節間(PIP)関節が屈曲位,遠位趾節間(DIP)関節が過伸展位のいわゆるハンマー趾を認めることがある。今回,このハンマー趾の発生に,長趾屈筋(FDL)あるいは短趾屈筋(FDB)のどちらの活動が影響するかを確認するため,解剖実習体を用いてそれぞれの腱を牽引し,機能解剖学的に検討したので報告する。【方法】研究・教育用に供された解剖実習体5体を対象とし,両側の足趾部を剥皮後,第3趾を足根中足関節において離断した。FDL腱とFDB腱および中足趾節(MP)関節,PIP関節,DIP関節の関節包を温存し,それ以外の軟部組織を除去した。5体10趾のうち,DIP関節の可動性が欠如していた1趾を除く9趾を用いて分析を行った。中足骨の近位部より髄腔内に挿入した直径3mmの鋼線を,器具に取り付け中足骨を固定した。バネばかりを用い0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfの力を加え,FDL腱とFDB腱をそれぞれ牽引した。この際,立位姿勢を想定して足趾底側面を台に接地した「接地条件」と,接地しない「非接地条件」で腱の牽引を行った。MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度を計測するため,牽引時および非牽引時において,側面よりデジタルカメラを用いて撮影を行った。その画像をもとに画像処理ソフト「ImageJ(米国国立衛生研究所)」を用い,各関節の角度を計測した。関節角度は,非牽引時を基準(0°)とし,牽引時の角度変化を求めた。なお,屈曲方向への変化をプラス,伸展方向への変化をマイナスで表した。【結果】「非接地条件」においてFDL腱を0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfで牽引した場合,基準からの平均角度変化はMP関節では6.9°,22.9°,27.6°,31.8°,PIP関節では18.7°,25.8°,31.7°,34.8°,DIP関節では12.5°,15.4°,16.2°,17.8°であった。いずれの関節も牽引力の増加に伴い屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では16.9°,22.9°,27.4°,32.5°,PIP関節では13.7°,21.3°,26.3°,29.5°と屈曲角度が増大した。DIP関節では-0.4°,-1.2°,-1.6°,-2.2°とほとんど変化を認めなかった。「接地条件」においてFDL腱を牽引した場合,MP関節では-2.2°,-4.3°,-5.3°,-6.7°とわずかに伸展した。PIP関節では7.7°,10.5°,12.9°,15.6°,DIP関節では7.9°,11.1°,13.8°13.9°と,ともに屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では1.6°,1.1°,1.1°,0.0°とほとんど変化を認めなかった。PIP関節では7.0°,10.9°,14.2°,14.1°と屈曲角度が増大し,DIP関節では-4.5°,-8.7°,-11.3°,-14.3°と伸展角度が増大した。【考察】虚弱高齢者で立位姿勢を保持する際にしばしば認めるハンマー趾は,足趾屈筋群の活動により足趾を床に圧しつけて姿勢制御を行っているためと考えられる。末節骨底部に付着するFDLの主要な作用は,DIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節やPIP関節の屈曲に関与する。中節骨底部に付着するFDBの主要な作用は,PIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節の屈曲に関与する。両筋とも,ハンマー趾の特徴であるDIP関節の伸展作用は有していない。しかしながら,足趾が床面に接地した「接地条件」においてFDB腱を牽引した場合,PIP関節の屈曲によって足趾先端部が床に固定される。さらにPIP関節の屈曲に伴う中節骨の傾斜によってDIP関節は受動的に伸展される。したがって虚弱高齢者のハンマー趾は,バランス能力の低下を代償するために,FDBの活動が過剰になっていることがその発生機序の一要因と考えられる。【理学療法学研究としての意義】足趾屈曲変形は,足趾の胼胝や鶏眼を生じ,疼痛の原因になり,歩行能力の低下や転倒のリスクを高めることが報告されている。こうした症例に対して理学療法を行う上では,足趾屈曲変形の原因を究明することが重要である。今回の研究では,ご遺体を用いたFDL腱とFDB腱の牽引実験により,足趾屈曲変形の一要因を解明することができた。
著者
百瀬 伸平 小山田 美咲 柏倉 由佳 高橋 千央 田口 彩乃 大川 孝浩 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0964, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】健常者の反張膝の有無による歩行時の関節角度,関節モーメントに有意差がないことの報告(河原ら,2010)はみられるが,ヒール歩行と反張膝との関連についての報告はみられない。今回,反張膝の有無が裸足歩行およびヒール靴を着用した歩行について運動学的分析を行ったので報告する。【方法】対象は,1年以内に整形外科疾患のない足のサイズ24.5cmの健常女性22名とした。実験に先行してプラスチック角度計にて立位で膝関節伸展角度を計測し,5°以上のものを反張膝群,5°未満のものを非反張膝群とした。関節角度・関節モーメントの計測には,光学式三次元動作分析装置(VICON Nexus,VICON社)および床反力計(Force Platform OR6-7,AMTI社)を用いた。サンプリング周波数100Hzで計測したデータをもとに,股関節屈曲-伸展,膝関節屈曲-伸展および外反-内反,足関節背屈-底屈の関節角度および関節モーメントを算出した。なお関節モーメントは,対象者の体重で除して正規化を行った。裸足歩行およびヒール歩行は自由歩行速度で行った。ヒール靴はヒール高7cmのものを使用した。ヒール靴に慣れさせるため,トレッドミル上で3分間の歩行練習を行った。この際の歩行速度は,事前に算出した10m歩行速度とした。反射マーカの変位から左足趾離地から右踵離地(立脚中期)を決定し,この期間の関節角度・関節モーメント(最大値)を分析対象とした。また,表面筋電図の計測には多チャネルテレメータシステム(WEB-7000,日本光電社)を使用した。内側広筋,外側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋,前脛骨筋を対象に,サンプリング周波数1,000Hzで計測し,単位時間当たりの積分筋電図を求めた。これらのデータは,各筋の最大等尺性収縮時の積分筋電図をもとに正規化し,積分筋電図(%IEMG)を算出した。統計学的分析には,SPSS Statistics21を使用した。反張膝群,非反張膝群ともに,裸足歩行およびヒール歩行の比較を対応のあるt検定にて行った(有意水準5%)。【結果】関節角度は,非反張膝群,反張膝群ともにヒール歩行で,股関節屈曲,膝関節屈曲・内反,足関節底屈角度がやや増加していた。股関節伸展モーメントは,非反張膝群,反張膝群に関わらず,裸足に比してヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.01)。膝関節では,非反張膝群の伸展モーメントが裸足歩行に比してヒール歩行で高値を示していた(p<0.01)。また外反モーメントについては,両群ともにヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.001)。一方の足関節底屈モーメントは,非反張膝群,反張膝群ともにヒール歩行で低値を示したが,有意差は認められなかった。%IEMGは,非反張膝群において内側・外側広筋にてヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.001)。また反張膝群では,半腱様筋においてヒール歩行で有意に低値を示していた(p<0.01)。【考察】ヒールを着用した立位姿勢では上半身後方移動,骨盤後方移動を行うことで,姿勢の不安定性を制御している(友國ら,2008)。つまり,ヒールを着用することで足関節が底屈位に固定されて下腿が前傾するため,膝関節屈曲,股関節屈曲位とする代償がみられたことになる。今回の結果では,股関節伸展および膝関節伸展モーメントが,裸足歩行に比してヒール歩行時に高値を示しており,動的状況下においても同様の制御が伺えるものと考えられる。膝関節の屈曲角度は,両群ともにヒール歩行でやや増加していたが,膝関節モーメントは非反張膝群のみで有意に高値を示していた。一方の筋活動をみると,反張膝群では半腱様筋においてヒール歩行で有意に低値を示していた。つまり,反張膝群のヒール歩行では,膝関節の屈曲モーメントをあまり必要としないことが示唆される。また,外反モーメントが両群ともにヒール歩行で有意に高値であったことは,足部の運動の関与が伺える。裸足歩行では荷重量の増大に伴い,足部は内反から外反へと運動の変換がなされるが,支持面の狭いヒール歩行ではこの運動が十分になされない。つまり,膝関節内反角度の増大に伴い,外反モーメントの発揮が求められたことが示唆される。【理学療法学研究としての意義】現代社会においてはヒール靴の使用頻度は非常に高いものの,女性に多い反張膝と関係性を示した研究はみられなかったことから,理学療法士として社会的貢献の一助となりえる。
著者
乾 亮介 福島 隆久 斎藤 弦 森 里美 出井 智子 森 貴大 原田 美友紀 森 清子 中島 敏貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0792, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】近年日本では高齢化がすすみ,理学療法の対象患者の中には腰椎後彎変形を呈するものが少なくない。胸腰椎後彎変形は呼吸機能低下や体幹の伸展制限といった機能障害を引き起こし,日常生活能力(ADL)を低下させると報告されている。これら胸腰椎後彎変形の治療において整形外科的な手術による報告はあるが理学療法による報告はみられない。本研究の目的は胸腰椎後彎変形を呈する患者に対して腹部周囲筋である外腹斜筋,内腹斜筋ストレッチを実施し,その効果を検証することである。【方法】急性期病院入院中に理学療法依頼のあった患者で胸腰椎後彎変形によりADLが低下していると考えられた13名(85.5±6.8歳,男性:6名 女性:7名)を対象とした。疾患は誤嚥性肺炎6名,人工膝関節置換術3名,脳梗塞1名,腱板断裂の術後1名,出血性膀胱炎1名,肝性脳症1名であった。Minimal Mental State Examination(MMSE)の平均は17.9±8.0と多くの患者において認知機能の低下を認めた。患者には椅子座位が可能になった時点で,両足足底接地,膝関節,股関節90°になるようにして端座位となり,できる限り体幹を伸展した状態で正面を直視してもらうよう指示した。その後,自在曲線定規を患者の脊柱にあて,患者の脊柱の彎曲変形を定規に形状記憶させた後,彎曲を形状記憶した定規ですぐに紙面上にトレースし,Milneらの方法に従い,円背指数を求めた。計測後以降は各疾患別の標準的な理学療法に加え,週5回の頻度で約10分間Ylinenの方法に従い側臥位にて左右の外腹斜筋,内腹斜筋のストレッチを施行し,約4週後,同様の方法で再度円背指数を求めた。統計処理は介入前後の円背指数に対して対応のあるt検定を用い,Functional Independence Major(FIM)の運動項目についてはWilcoxon符号付順位検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】円背指数は介入前の17.4±5.1に対して,介入後15.5±4.7と有意に減少し(p<0.01),ADLではFIMの運動項目において介入前35.3±26.6に対し45.3±28.0と有意な改善を認めた(p<0.01)。【考察】外腹斜筋,内腹斜筋は肋骨から起こり,骨盤に付着し,体幹を屈曲させる作用がある。高齢者は習慣的な姿勢や脊柱起立筋群の低下により,これらの筋群を伸張する機会が少なくなり,結果として脊柱の器質的変化に加えて胸腰椎後彎変形を増悪させていると考える。そのため高齢者への外腹斜筋,内腹斜筋ストレッチは脊柱の器質的な変形等には影響を与えなくても,それらを増悪させる因子である体幹屈曲作用のある筋群の伸長により,骨盤の後傾や体幹の屈曲モーメントを軽減させ,より脊柱起立筋群の筋力発揮をしやすくすることで体幹伸展がしやすくなったと考える。そして各患者に残存している脊柱の可動範囲内で脊柱後彎変形を軽減させたと考える。【理学療法学研究としての意義】外腹斜筋,内腹斜筋を中心とした腹部周囲筋ストレッチにより胸腰椎後彎変形を軽減できる可能性が示唆された。腰椎後彎変形が要因となって下肢の可動性や筋力低下,或は呼吸機能の低下によりADLが低下している高齢患者は多く存在し,これからもさらに増えていくと予想される。従来,高齢患者の腰椎後彎変形の改善は困難であると考えられていたが,症例によっては改善できる可能性があり,胸腰椎後彎変形が原因でADL制限をきたしている患者にはその評価と介入の重要性が示唆された。また,今回の検証において疾患や男女差なく改善を認めたことより,今後検討を重ねることにより,高齢に伴う胸腰椎後彎変形に対する予防法を考案できる可能性があると考えられる。
著者
近藤 勇太 建内 宏重 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1368, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】大腰筋は股関節及び腰椎の運動や安定化に働く筋であり,アスリートや股関節・腰椎の疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。臨床においては,大腰筋は座位での股関節屈曲など股関節の運動でトレーニングを行うことが多いが,大腰筋は腰椎の運動でも活動するため,股関節に障害を有し,股関節運動が困難な患者において,体幹運動を利用することで大腰筋の機能改善を図れる可能性がある。しかし,大腰筋は身体の深部に位置し,針筋電図など侵襲的な方法による調査が必要であるため報告が少なく,股関節運動と体幹運動とでそれぞれどの程度の筋張力発揮があるか明確ではない。そこで本研究では,筋の弾性率と筋張力が比例するという先行研究に基づき,非侵襲的に生体組織の弾性率を測定できるせん断波エラストグラフィー機能を用いて,大腰筋の弾性率を測定することで,股関節屈曲時と体幹運動時での大腰筋の筋張力の比較を行い,体幹運動で大腰筋がどの程度活動するのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢・腰部に整形外科的疾患を有さない健常男性19名(年齢22.1±1.5歳)とし,右側の大腰筋を測定した。課題は座位での股関節屈曲の等尺性収縮運動と座位保持とした。座位姿勢は足底に厚さ1cmの板を敷いた状態で股関節屈曲角度が45°になるよう座面の高さを設定し,下腿と体幹は床面に対し鉛直となるようにした。骨盤の側方傾斜・後傾を防ぐため,バンドを用いて骨盤を固定した。上肢は腕を胸の前で組んだ姿勢とした。測定前に最大股屈曲筋力を2回測り,その平均値を最大筋力とした。測定課題は,股屈曲運動として,上記の座位で板を外し,足底を床からわずかに離した状態(股屈曲45°位)での保持(股屈曲)と,その肢位で股屈曲最大筋力の10%の負荷での等尺性収縮運動(10%屈曲)を行った。なお,我々の先行研究により,最大筋力の10%負荷までは筋張力と弾性率との線形関係が確認されている。加えて,針筋電図で活動が確認されている体幹の前屈,後屈,側屈の体幹運動を測定した。体幹運動は,座位で腋窩下にバンドを巻き,後・前・左の3方向から,測定者が被験者の体重の10%の負荷をかけ引き,それに対して座位を保持させた。測定は,股屈曲運動と体幹運動の計5種類(全て股屈曲45°位)とした。負荷量については,力センサ(Kistler社製)を股関節屈曲時には膝蓋骨近位5cm,体幹運動時には腋窩下で接続し,リアルタイムで可視化し確認しながら測定を行った。大腰筋の弾性率(kPa)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製Aixplorer)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は鼠径靭帯の遠位部とし,超音波画像が安定してから記録した。疲労を考慮して,各課題の測定順は無作為とし,各3回ずつ測定を行った。超音波画像での弾性率の測定は,大腰筋内に関心領域を2か所設定し,各領域の弾性率の平均値を求め,さらに3試行を平均した数値を解析に用いた。各条件間の比較を対応のあるt検定およびShaffer法による補正を用いて行った。有意水準は5%とした。【結果】大腰筋の弾性率は,股屈曲で13.7±2.5kPa,10%屈曲で15.0±3.3kPaとなり,前屈で15.6±3.4kPa,後屈で14.7±3.1kPa,側屈で16.5±3.7kPaとなった。解析の結果,股屈曲に対して10%屈曲(p=0.03),側屈(p=0.04)で有意に高値となった。しかし,体幹運動の条件間および10%屈曲と体幹運動の間では有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果,股屈曲角度45°位において,体重の10%の負荷に対して右側屈方向に力を発揮して座位を保持する運動が,負荷を加えない股屈曲運動よりも大腰筋の筋張力を増加させ,またそれは最大筋力の10%の負荷での股屈曲運動と同程度であることが判明した。本研究結果は,股関節での運動が困難な患者で大腰筋の筋張力を得たい場合や,大腰筋以外の股屈筋をできるだけ働かせずに大腰筋の選択的なトレーニングを行うために体幹運動を実施する場合などに,有用な知見であると思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,股関節屈曲と体幹運動時の大腰筋の筋張力の比較を非侵襲的方法により行った初めての報告であり,大腰筋の評価・トレーニングにおいて重要な知見を提供するとともに,臨床応用への可能性を示唆するものである。
著者
山本 圭彦 浦辺 幸夫 前田 慶明 森山 信彰 岩田 昌
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0764, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷は,着地時など非接触場面での発生が多く,ACL損傷予防として,膝関節中間位で着地することが指導されている。片脚着地時の膝関節外反角度と下肢の筋活動を調査した研究では,大殿筋の筋活動が高い者は膝関節外反角度が小さくなることが示されている(Kaneko, 2013)。しかし,正しい動作の指導を実施した後に膝関節外反角度と筋活動がどのように変化するかは明らかとなっていない。そこで,本研究の目的は,膝関節が中間位になるような動作指導を実施し,指導前後の片脚着地の膝関節外反角度と筋活動の変化を確認することである。これまで,動作指導に伴う筋活動の変化を調査した研究がないため,導入として,1回の動作指導での変化について検討を試みた。仮説は,「動作指導後は片脚着地時に膝関節外反角度の減少と大殿筋の筋活動は増加する」とした。【方法】対象は,膝に外傷歴のない健康な女性10名(平均(±SD)年齢:19.9±0.9歳,身長:157.7±3.4cm,体重:48.1±2.4kg)とした。対象とする足は,ボールを蹴る足と反対の足とした。運動課題は,高さ30cmの台から60cm前方に片脚で着地(single leg landing:SLD)させた。動作は,2台のデジタルビデオカメラ(周波数240Hz,EX-ZR400,CASIO)を用いて記録した。膝関節外反角度は,上前腸骨棘,膝関節軸中央,足関節軸中央がなす角度とした。角度は,動作解析ソフトウェア(Dip-motion,DITECT社)により算出し,足尖接地時の膝関節外反角度と着地後の最大膝関節外反角度を抽出した。筋活動は,表面筋電位計測装置Personal-EMG(追坂電子機器社)を使用して,大殿筋,中殿筋,内側広筋,外側広筋,半膜様筋,大腿二頭筋の6筋を計測した。ACL損傷は,着地後50ms以内に生じることが報告されていることから(Krosshaug, 2007),解析期間は着地前50msと着地後50msの2区間とした。各筋の%EMGは,最大等尺性収縮時の筋活動を基に正規化を行った。動作指導は,スクワット,フォーワードランジ,ジャンプ着地を課題として,動作中に膝関節が内側に入らないよう膝関節と足尖の向きが一致する動作を指導した。スクワットとジャンプ着地は,両脚と片脚の2種類行った。動作指導は,10分間と統一した。統計学的解析は,動作指導前後のSDL時の膝関節の角度と各筋の筋活動をWilcoxon testを用いて比較した。なお,危険率5%未満を有意とした。【結果】動作指導前の膝関節外反角度は,足尖接地時で平均(±SD)3.68±1.65°,最大膝関節外反角度で15.13±6.29°であった。指導後は,それぞれ1.84±2.27°と9.69±4.22°であった。足尖接地時および最大膝関節外反角度は,指導後に有意に減少した(p<0.05)。動作指導後の筋活動の変化は,着地前50msで大殿筋と外側広筋のみ有意に増大した(p<0.05)。着地50ms後では,すべての筋で動作指導前後に有意な変化は認めなかった。【考察】動作指導後の膝関節外反角度は,足尖接地時および最大膝関節外反角度ともに減少を示し,1回10分間の動作指導でも着地時の動作は継時的に変化することが確認できた。筆者らが注目した筋活動に関しては,着地前の大殿筋と外側広筋のみ筋活動が増大した。動作指導後には最大膝関節外反角度は減少したにも関わらず,着地後の筋活動は変化が認められなかった。よって,着地動作の膝関節外反角度の変化は,着地後の筋活動よりも着地前の筋活動が関与していることが伺える。大殿筋の筋活動が増大した要因として,Johnら(2013)は,大殿筋の筋活動が低い者は膝関節外反角度の増大とともに股関節内旋角度が大きくなると述べている。大殿筋は,股関節外旋筋であり,着地後の股関節内旋角度を制御すると考えられている。そのため対象者は,着地前の段階で股関節を外旋させることにより,着地後の股関節内旋角度を減少させようと準備していたと推察される。実際,足尖接地時の時点で膝関節外反角度は,減少しているため,足尖接地前から動作の変化は生じていると考えられる。これは,ACL損傷予防の動作指導では,着地前からの動作も分析していくことが今後の課題と考える。今回は,1回の動作指導による膝関節外反角度と筋活動の変化を確認したが,今後は長期的に指導を行い,筋活動の変化を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,着地前の大殿筋や外側広筋が膝外反角度の制御に関わっていることを示し,ACL損傷予防にとって有用な結果を提供できたと考える。
著者
赤口 諒 川崎 有可 大住 倫弘 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0348, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】近年,慢性痛患者の中で痛みが強い者は,不公平をより強く感じている報告されており,その不公平感は痛みの破局的思考,抑うつの程度とも関連があるとされている(Scott, 2012)。不公平感は社会において自己が他者と公平でない場合に抱く感情である。このことから痛みを有する患者は他者と比較することで不安が高まる場合,痛みの感受性に影響を与えると考えられる。一方で,他者との比較で起こる情動には妬みがある。妬みとは他者が自己よりも優れた物や特性を有する場合に起こる情動であり,それが自己に焦点されると劣等感,他者に焦点されると敵対心を伴うとされている(Smith, 2007)。そこで,本研究は妬みの情動経験が痛みの主観的強度に与える影響を明らかにすることに加え,妬み情動の中の劣等感と敵対心のうちのどちらが痛みに影響を与えるかを明らかにする。【方法】対象は健常大学生20名(Affect群14名,Control群6名)とした。心理学的評価としてState-Trait Anxiety Inventory(以下STAI)を用いて状態・特性不安の評価を行った。実験は,①痛み刺激,②課題(Affect群:情動刺激,Control群:シャム刺激),③痛み刺激の手順で行った。痛み刺激には熱刺激装置PAIN THERMOMETER(ユニークメディカル社制)を用いた。刺激部位は非利き手の前腕とした。また,実験中の痛みの慣れの要素を除外するため,実験前に47-49℃の刺激をランダムに10施行(60秒インターバル)行った。痛み刺激の評価はVisual Analog Scale(以下VAS)を用いて行った。情動刺激には被験者本人が主人公となるように設定されているシナリオ課題を作成した。これは会社員の主人公が重大な企画を任されることとなっていたが,不運にも交通事故に遭い,ライバルに手柄をすべて奪われることで妬み情動を抱かせる内容となっている(スライド枚数約130枚,所要時間約7分)。情動刺激の評価には妬みだけでなく,妬みの要因である劣等感,敵対心の情動喚起量をVASにより行った。シャム刺激には世界格国の国旗を説明したスライドを作成した(スライド枚数約20枚,所要時間約7分)。統計解析は課題前後の痛みの主観的強度の比較において対応のあるt検定を用いた。情動喚起量と痛みの主観的強度の相関関係にはピアソンの相関係数を用いた。また,劣等感が高い群(評価結果が中央値以上の者)におけるSTAIと課題後の痛み増加量の相関関係にはピアソンの相関係数を用いた。なお,有意水準は5%とした。【結果】課題前後の痛み主観的強度の比較において,Affect群において有意な痛みの増加を認めた(p<0.01)がControl群では認められなかった。情動喚起量(妬み,劣等感,敵対心)と痛み主観的強度の相関関係は,敵対心のみ課題前の痛み主観的強度(r=0.543,p<0.05),課題後の痛み主観的強度(r=0.594,p<0.05)と正の相関関係が認められた。また,劣等感が高い群において,STAI1(状態不安)と痛みの増加量の間にのみ正の相関関係が認められた(r=0.829,p<0.05)。【考察】課題前後の痛みの比較では,Affect群にのみ有意な痛みの増加が認められたことから,妬みが痛みの主観的強度に影響を与えることが示唆された。一方で,情動評価における敵対心が課題前後それぞれの痛み評価と正の相関関係が認められた。つまり,自分よりも優れた他者と比較した際,敵対心を抱きやすい個人特性が痛みの感受性に影響を与えていると考えられる。また,劣等感が高い群において,STAI1と痛みの増加量に正の相関を認めた。これは自分よりも優れた他者と比較した際,劣等感を抱いた場合は,不安の程度に伴って痛みの増加量が変化することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】理学療法における痛みの評価は感覚的側面のものだけでなく,情動的側面,認知的側面も一般化され始めている。本研究の結果から妬みの情動経験が痛みの主観的強度を増強させることが示唆され,劣等感を抱いた場合,不安の程度に応じて痛みの感受性が変化することが示唆された。さらに先行研究から痛みが原因で不公平感を強く訴える者程,痛みの破局的思考に陥りやすく,抑うつ傾向になるという報告がある(Scott, 2012)。このことも踏まえると,痛みを有する患者の評価には他者との関わり方のパーソナリティを評価する必要がある。つまり,患者特有のパーソナリティを多面的に評価し,理解することが適切な心理的アプローチを可能にし,痛みの慢性化を未然に防ぐことにつながる可能性を本実験で示すこととなった。
著者
阿部 隼平 齊藤 明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1392, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝関節筋は大腿遠位1/3で中間広筋の深層から起始し,膝蓋上包の近位後面に付着する筋である。膝蓋上包の後上方への牽引作用を有し,膝蓋上包の癒着や膝関節拘縮予防において重要な役割を持つとされている。体幹においては,腹横筋や多裂筋など関節近傍の深層に位置し,筋長の短いローカルマッスルの強化には低負荷での運動が適しているとの報告がある。膝関節筋は形態的にはローカルマッスルと同様の特徴を有するため,その強化には低負荷での運動が適している可能性があるが明らかにされていない。本研究の目的は,低負荷と高負荷のトレーニング効果の比較から,より膝関節筋に適したトレーニング方法を検討することを目的とした。【方法】健常大学生30名30肢を対象とし,コントロール群,低負荷介入群,高負荷介入群の3群に振り分けた。トレーニングは股関節90°屈曲位,膝関節最大伸展位での等尺性膝関節伸展運動とし,等尺性筋力測定機器MusculatorGT30(OG技研社製)を用いた椅子座位にて体幹,骨盤,下腿遠位部をベルトで固定した。負荷量は,同肢位にて等尺性最大随意収縮力(Maximum Voluntary contraction:以下MVC)を測定した後,低負荷群は40%MVC,高負荷群は70%MVCとした。収縮時間は低負荷群で15秒,高負荷群で6秒とし,その他の条件は両群とも10回/セット,3セット/日,2日/週とした。以上の条件で,等尺性筋力測定装置を用いて視覚的に負荷量を確認しながら4週間トレーニングを継続させた。トレーニング効果を検証するため,各群とも介入前後に膝関節筋筋厚,膝蓋上包前後径,膝関節筋停止部移動距離を超音波診断装置HI VISION Avius(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定には14MHzのリニアプローブを使用しBモードで行った。膝関節筋筋厚は筋膜間の最大距離,膝蓋上包前後径は腔内間の最大径とした。膝関節筋筋厚,膝蓋上包前後径はそれぞれ安静時に対する収縮時の増加率を算出した。また,膝関節筋停止部移動距離は安静時の画像上で膝関節筋停止部に任意の点を定め,等尺性膝伸展運動時の同部位の移動距離を求めた。この移動距離は膝蓋上包が膝関節筋により挙上された距離と定義した。統計学的解析は各測定項目において,各群における介入前後の比較には対応のあるt-検定を用い,介入後の変化量の群間比較には一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定を用いた。統計処理にはPASWStatics18を用い,危険率5%未満とした。【結果】介入前後の比較では,安静時膝関節筋筋厚,膝関節筋筋厚増加率,膝蓋上包前後径増加率は,3群全てで有意差は認められなかった。膝関節筋停止部移動距離は低負荷群において介入後に有意に増加していた(p<0.01)。高負荷群においても,統計学的な有意差を認めなかったが,増加傾向が認められた(p<0.10)。介入後の変化量の群間比較では,膝関節筋停止部移動距離において,低負荷群,高負荷群ともにコントロール群と比較して有意に増加していた(それぞれp<0.01,p<0.05)。【考察】本研究では低負荷群のみで膝関節筋の主な働きを反映する膝関節筋停止部移動距離の増加がみられたことから,膝関節筋は仮説の通り機能的にもローカルマッスルと同様の特徴を有することが示唆された。しかし高負荷群においても増加傾向が見られ,介入後の変化量でも低負荷群との間に有意差は認められなかった。このことから,高負荷での膝関節伸展トレーニングによっても膝関節筋の強化が図れる可能性があると考えられる。一方で膝関節筋停止部移動距離の増加がみられた低負荷群においても,膝蓋上包前後径増加率には有意な変化は認められなかった。膝関節筋は後上方への牽引作用を有するが,特に後方への牽引作用を反映していると考えられる膝蓋上包前後径増加率は増加しなかったという結果から,膝関節筋は後方への牽引作用と比較して上方への牽引作用がより強い可能性が考えられる。以上より,膝関節最大伸展位での等尺性膝関節伸展運動は,その負荷の大小に関わらず膝関節筋機能の向上に寄与すること,膝関節筋は後方への牽引作用と比較して上方への牽引作用がより強いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,膝蓋上包の癒着および膝関節拘縮予防のための運動療法を行う上で有用なデータとなると考える。また,今後の膝関節筋に関する研究を発展させていく上での一助となると考えられる。
著者
荒井 鷹哉 岡 真一郎 礒部 裕輔 古川 晃大 有岡 大輔 松元 大門 野田 健司 村上 巧一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1383, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】浮き趾とは,立位時に足趾が地面に接していない状態を指す。近年,若年者の浮き趾が増加傾向であり,両側いずれかの趾が接地していない者は若年女性で76%と報告されている(福山ら,2013)。浮き趾発生の原因として,幼児期から学童期における外遊びの頻度や自動車などでの通園による生活様式の変化やハイヒールやサンダルなどの履物による影響が報告されている(福山ら,2013)。浮き趾と足趾把持力に関する先行研究では,浮き趾を有するものは,足趾把持力が低下していること(福山,2009),足趾把持力が歩行速度と下肢筋力が関係するとの報告(金子。2009)がある。しかし,浮き趾と歩行および膝関節筋機能との関係についての報告は少ない。本研究の目的は,浮き趾を含む足趾機能と歩行および膝関節筋機能との関係について調査した。【方法】対象は,一般女子大学生30名(平均年齢21.3±0.6歳)であった。測定項目は浮き趾,足趾把持力,アーチ高率,10m歩行時間(WT)および膝関節等速性筋力の測定を行った。足趾把持力は,T.K.K3000(竹井機器)を用いて左右2回測定し,その最大値を体重で除し代表値とした。アーチ高率は,立位時の足底面から舟状骨粗面までの高さをデジタルノギス(プラタ)で計測し,その値足長で除し,立位アーチ高率(アーチ高率(%)=舟状骨高/足長)を算出した。膝関節等速性筋力測定は,BIODEX SYSTEM3(BIODEX)を使用し,膝関節屈曲,伸展運動を角速度60deg/secで行った。浮き趾の測定は,木製のボックス(R-tec社製)上に設置した厚さ15mmのアクリル板上に被験者を立たせ,静止立位および足趾への荷重移動(動的立位)時の足底面をスキャナーGT-X750(EPSON)で撮影した。被験者には,両足内縁5cm開脚位で2m前方の視標を注視させた。浮き趾の評価は,福山ら(2009)の浮き趾スコアに基づき20点満点の評価法で点数が低いほど足趾の接地状態が悪く,完全接地を2点,不完全接地を1点,不接地を0点として採点し,動的立位時に18点以下で浮き趾と判定した。統計学的分析は,JASTATS3.0を使用し,浮き趾,足趾把持力,アーチ高率,WTおよび等速性筋力との関係はSpearman順位相関分析を用い,有意水準は5%とした。【結果】足趾把持力とWTの関係はr=-0.52と有意な負の相関,足趾把持力と屈曲トルクの関係はr=0.42と有意な正の相関があった。WTと屈曲トルクの関係はr=-0.36と有意な負の相関があった。しかし,足趾把持力と浮き趾の間に有意な相関はなかった。浮き趾と筋機能との関係は,膝伸展トルク60deg/secではr=0.48,膝屈曲パワー60deg/secではr=0.43と有意な正の相関があった。しかし,浮き趾とアーチ高率との間に有意な相関はなかった。【考察】本研究の結果,足趾把持力とWTに有意な負の相関,足趾把持力と膝屈曲トルクに有意な正の相関があった。WTと膝屈曲トルクに有意な負の相関があった。足内在筋は前足部を安定させ,内側縦アーチを上げ,立脚終期と遊脚前の足関節底屈のための強固なてこを作る(Donald,2005)。また,足趾屈曲力と最速歩行速度との間に相関がみられたことは,上肢筋群,体幹筋群,下肢筋群の協調的な働きなどによって生じる推進力を足趾が効率よく床面へと伝達し,筋出力を推進力へと転換するための重要な役割を担うと報告している(太箸ら,2004)。本研究では先行研究と同様の傾向がみられたことから,足趾把持力は歩行において筋出力を推進力へと転換する上で,重要な役割をはたすと推察される。一方,浮き趾は内側縦アーチの指標であるアーチ高率との相関はなく,膝関節筋機能と正の相関があった。長谷川ら(2010)は,足趾の接地は足部全体の剛性を高め,駆動力を効率よく床面に伝達する役割を担っていると述べている。また,加辺(2003)によると足趾屈筋群の活動は,足および膝関節周囲筋の同時収縮を促通し,下肢の機能的連鎖の引き金であると報告している。そのため,足趾の接地は膝関節筋機能を効率よく発揮させ,共同収縮するための土台として重要な役割を果たしていると考えられる。今後の課題としては,浮き趾に関連する生活習慣について調査していきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,足趾把持力は歩行の推進力への転換に寄与し,足趾の接地は膝関節筋機能を発揮するための土台としての重要性が示唆された。女子大学生における足趾把持力および浮き趾ついて調査することは,女性の歩行能力および下肢筋力の維持,向上における運動介入の基礎資料としての意義があると考える。
著者
佐々木 沙織 奥井 友香 川越 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1012, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝関節前十字靭帯(以下,ACL)は,膝関節安定性において重要な役割を担っており,ACL損傷時には安定性が低下し,合併症を生じることが多い。合併症の有無は,受傷機転解明の一助となったり,再建術後の治療経過に影響を及ぼすと考えられ,ACL損傷時の合併症について認識しておくことが重要である。そこで,本研究の目的は,ACL損傷時の合併症について調査することとした。さらに,合併症の種類や合併症に対して行った観血的治療内容の相違が,その後の治療経過に与える影響について調査することとした。【方法】対象は,2007年4月から2013年8月までに,当院にてACL再建術を施行した,中学生から大学生までの103件とした。手術記録から,術中に確認された合併症,半月板の損傷部位について調査し,割合を求めた。また,再建術後スポーツ復帰に至るまで経過観察が可能であった70件を対象に,合併症の種類と合併症に対して行った観血的治療内容について群分けした。合併症の種類は,外側半月板(以下,LM)単独損傷群,内側半月板(以下,MM)単独損傷群,LMとMMの合併損傷群,膝関節内側側副靭帯(以下,MCL)損傷群,合併損傷なし群の5群とした。また合併症に対して行った観血的治療内容は,縫合群,切除群,処置なし群の3群とした。診療記録から,各群における再建術施行からジョギング開始までの日数,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数を調査し比較した。統計学的解析にはSPSS ver.21.0 for Windowsを使用し,クラスカル・ウォリスの検定を用いて各群の比較を行った。有意水準は5%とした。【結果】ACL再建術中に確認された合併症は,LM単独損傷が55件(53%),MM単独損傷が12件(12%),LMとMMの合併損傷が6件(6%),LMとMCLの合併損傷が1件(1%),合併損傷なしが29件(28%)であった。半月板の損傷部位は,LM損傷では全62件中,後節損傷が50件(81%),中節~後節損傷が9件(14%),中節損傷が2件(3%),前節~後節損傷が1件(2%)であった。MM損傷では全17件中,後節損傷が12件(71%),中節~後節損傷が4件(24%),前節損傷が1件(5%)であった。また,各合併症の再建術施行からジョギング開始までの日数は,LM単独損傷群が99.9±28.3日,MM単独損傷群が105.6±12.9日,LMとMMの合併損傷群が86.7±17.6日,MCL損傷群が95日,合併損傷なし群が116.7±32.1日であり有意差はみられなかった。さらに,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数は,LM単独損傷群が268.1±57.2日,MM単独損傷群が270.2±49.4日,LMとMMの合併損傷群が252.0±39.2日,MCL損傷群が275日,合併損傷なし群が282.6±68.7日であり有意差はみられなかった。合併症に対して行った観血的治療内容で群分けした各群の再建術施行からジョギング開始までの日数は,縫合群が102.5±16.1日,切除群が103.1±39.5日,処置なし群が106.3±30.5日であり有意差はみられなかった。さらに,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数は,縫合群が274.6±62.0日,切除群が270.0±51.8日,処置なし群が273.5±61.6日で有意差はみられなかった。【考察】ACL損傷時の合併症については,LMの後節損傷が最も多い結果となった。これは,ACL損傷の受傷肢位は膝関節外反損傷が多く,受傷時外反ストレスにより外側関節面が圧迫されるためLM損傷が生じやすいと考えられる。先行研究からもACL損傷後3ヶ月以内ではLM損傷の方が多いと報告されており,同様の結果となった。また,合併症の有無や合併症に対する観血的治療内容によってスポーツ復帰時期の遅延を予想していたが,いずれの比較においても有意差はみられなかった。これは,ACL再建術後の後療法が,半月板切除,縫合などの後療法よりも時間を要するものであり,スポーツ復帰時期には合併症の影響は出にくかったものと考える。ACL再建術後の理学療法において,合併症を考慮した対応が必要だが,スポーツ復帰時期に大きな影響を与えないため,術後の経過不良例は,合併症以外の要因について検討することが重要である。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から,ACL損傷に伴う合併症は,術後の治療経過に大きな影響を与えないことが示唆された。本研究の結果は,ACL再建術後の理学療法において,有益な資料となり得ると考える。
著者
中野 愛美 宇谷 知紘 中島 美里 村尾 昌信 中嶋 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0970, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ヒトの体幹筋は,動的活動時における主動筋としての作用のみならず,常に抗重力位に晒される脊柱の安定化筋としての作用も有する。体幹筋は,機能や構造などの違いから,ローカル筋とグローバル筋とに大別される。ローカル筋は個々の腰椎に分節的に付着し,分節的な動きの制御において重要な役割を持つ体幹深層筋である。一方,グローバル筋は原則的に腰椎をまたいで付着し,大きなトルクを発生させる体幹浅層筋である。通常ローカル筋とグローバル筋は互いに協調し,脊柱の安定性を維持・調節していると報告されている。一方,高齢者や腰痛患者に多く認められるグローバル筋の過活動は,ローカル筋が担う脊柱の分節的安定性を阻害する因子となりうる。しかしながら,随意的に分節的な脊柱の運動を得ることは難しく,ローカル筋とグローバル筋の協調性を再教育させるための有効な運動療法の報告はほとんどない。我々は,ピラティスの体幹のコアマッスルの活動を刺激するとされる「ショルダーブリッジ」というエクササイズに着目した。ショルダーブリッジによってローカル筋の活動が賦活されれば,不要な代償活動から解放されたグローバル筋のスティフネスが抑制され,結果的に脊柱の可動性が高まる可能性がある。本研究の目的は,ショルダーブリッジが,グローバル筋のスティフネスに与える影響を明らかにすることである。【方法】対象:腰部および下肢に整形外科的既往のない大学生17名を対象とした。運動課題:通常のブリッジ(以下,N-Bridge)と脊柱を分節的に動かすショルダーブリッジ(以下,S-Bridge)を運動課題とした。各運動課題の開始肢位は,セミファーラー肢位とした(膝屈曲120°)。N-Bridgeは,脊柱を直線状に保持した状態で臀部を挙上・下制するものとし,挙上・下制は各々1秒で行わせた。S-Bridgeは,脊柱を分節的に動かすことを意識させたブリッジ動作とし,挙上・下制ともに各8秒間かけて行わせた。挙上は,先ず骨盤を後傾させ,下部腰椎から上部頚椎に向けて椎体を順に床からはがしていくようにして臀部を挙上させた。下制は,逆に上部頚椎から下部腰椎に向けて椎体を順に床に降ろしていき,最後に骨盤をニュートラル肢位にさせる。両課題は挙上・下制を1セットとし,8セット行わせた。評価課題:脊柱柔軟性の評価は,指床間距離(Finger Floor Distance:FFD),胸椎および腰椎の前屈可動域とし,胸椎および腰椎の前屈可動域の計測にはスパイナルマウス(Index Co, Ltd)を用いた。測定は直立位,前屈位にて行った。胸椎後弯角および腰椎前弯角について,それぞれ前屈位と直立位における角度の差【前屈-直立(°)】を求め,胸椎および腰椎の前屈可動域の指標とした。統計処理:N-Bridge群とS-Bridge群との比較にはMann-Whitney U testを用いた。統計処理にはStatView 5.0を用い,検定の有意水準は5%とした。【結果】FFDは,運動課題実施前でN-Bridge群3.8±7.2cm(Mean±SD),S-Bridge群1.0±5.4cm(N.S.:no significant),運動課題実施後でN-Bridge群4.5±7.5cm,S-Bridge群3.0±6.4cmとなった(N.S.)。胸椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群39.1±23.9°,S-Bridge群30.0±25.3°で,運動課題実施後にN-Bridge群41.8±18.9°,S-Bridge群16.8±8.9°となりS-Bridge群で有意に大きい値を示した(P=0.0033)。腰椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群69.4±12.9°,S-Bridge群66.6±13.4°となった(N.S.)。運動課題実施後にN-Bridge群69.3±13.5°,S-Bridge群69.3±14.2°となった(N.S.)。【考察】本結果から,脊柱を分節的にコントロールするS-Bridgeを行うことにより胸椎前屈可動域が増加することが明らかとなった。FFDにおいて両群間に差が見られなかったのは,FFDが胸腰椎の前屈可動性の因子に加えてハムストリングスの伸張性因子を含んでいることによると考える。胸椎前屈可動域に差はあったが腰椎前屈可動域に差がなかったのは,S-Bridgeにおいて腰椎よりも胸椎の動きが大きいことによると考える。随意的に脊柱の分節的コントロールを最大限に要求される運動を行うことで体幹のグローバル筋とローカル筋の協調的制御能が賦活されグローバル筋の過緊張が修正されたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】脊柱の分節的運動による筋緊張調整効果が明らかとなれば腰痛や頸部捻挫における筋緊張亢進に対する新たなアプローチ方法の開発につながる。
著者
高橋 堅 千田 佑介 丸山 智栄 佐々木 幸絵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0647, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】訪問リハビリ(以下「訪問リハ」)では要支援1から要介護5までの回復期から生活期の利用者が対象となり,個々の利用者が目標とする機能や活動も広範囲に及ぶ。そのため,定型評価を行う場合,病院や老健で一般に使用されている評価指標で利用者の運動機能・能力・生活活動(以下「生活機能」)の変化を定量的にとらえるのは難しい。当院では院内研究で,当時使用していた定期・定型評価指標では利用者の生活機能の変化を数量化できていないことを明らかにし(2011),次年の院内活動で新たな生活機能評価指標を調査検討しBedside Mobility Scale(以下BMS),機能的自立度評価法(以下FIM),E-SAS,豊浦フェイスアナログスケール(以下T-FAS*)を併用することとした(2012)。今回の研究活動の目的は,決定した新たな生活機能評価指標を実際に運用し,当院訪問リハでの使用が妥当かどうかを検証することである。(*T-FAS:フェイススケールとVASを応用した当院独自の利用者による自己評価指標)【方法】当院訪問リハ利用者のうちPT・OTが介入している全利用者を対象とし,7か月間指定の評価指標(BMS,FIM,E-SAS,T-FAS)を運用した。並行して,当院のリハ科スタッフによりデルファイ法*を用いて各評価指標が適当かを判断するための評価項目を決定した。①評価時間②再現性③訪問リハの目標との関連性④全体像の把握に役立つか⑤状態変化が数量変化として表れるか⑥目標の達成度が家族・本人にわかりやすいか,の6項目で,これらにより各評価指標を5段階評価した。再びデルファイ法を応用し,5段階評価-討論-再評価を期間をおいて3度繰り返して各評価指標の運用妥当性を検証した。(*デルファイ法:意見を聞くべき人に自由に討論してもらった結果をフィードバックしながら結論を詰めていく方法)【結果】4つの評価指標の検証結果として,BMSでは「評価時間が短く,再現性が高い」「目標との関連性の低い対象者も多い」「天井効果で変化が現れない対象者も多い」となった。FIMでは「評価時間が長く家族・利用者にわかりにくい」「全体像の把握に役立つ」「目標との関連性は対象者による」「天井効果・床効果で変化が現れない対象者も多い」となった。E-SASは「評価項目が多く,項目によっては評価時間が長い」「目標との関連性は対象者による」「床効果で変化の現れない対象者も多い」「検者間の再現性が得られにくい」となった。T-FASは「簡便で利用者・家族にもわかりやすい」「心理面の変化も数量変化として表れる」「説明の仕方で再現性が左右されやすい」「目標との関連性は高いが全体像の把握には不向き」「利用者・家族の主観的評価として使用できる」となった。【考察】評価指標の運用方法は,3か月ごとにT-FASで目標生活機能についての自己評価をしてもらい,同時に利用者の生活機能レベルに応じてBMS,FIM,E-SASの中から目標に適合した指標を選び客観的評価を行うのに加え,訪問開始時と終了時には全員にFIMも使うというものである(2012)。今回この方法を運用してみると,FIMとT-FASの組み合わせでは,FIMで低かった評価項目をT-FASで補うことができ,BMSとT-FASの組み合わせでは,BMSの低かった評価項目をT-FASで補うことができることが示された。E-SASとT-FASの組み合わせでは,どちらも全体像の把握がしづらく再現性が低かったが,FIMを加えることで全体像の把握ができ再現性が得られていることが示された。これらより,個々の評価指標で見ると十分ではない評価項目もあるが,各評価指標を組み合わせて使用することで評価項目をすべて満たすことが示された。また,T-FASを使うことで,これまで行われてこなかった「患者報告アウトカム(PRO)」による評価も行われた。これらのことから,現在使用している生活機能評価指標とその運用方法が,当院訪問リハにとって妥当であると考えられる。今後は評価実績を積み,データベース化することで当院訪問リハの効果検証に繋げていきたいと考えている。また,個々の利用者に対してFIM,BMS,E-SASのような客観的な生活機能評価と,T-FAS,E-SASの一部のような主観的な生活機能評価の結果を比較して,定期的に行っているリハ目標の見直しにも役立てていきたい。【理学療法学研究としての意義】定型的評価でのアウトカムの数量化が難しい訪問リハの効果の有無を,複数の評価指標を併用することによってある程度明確に示せることが示唆された。この運用方法は,訪問療法士にとってはより質の高いリハビリの遂行につながり,同時に,対外的には訪問リハの効果を示すことが可能なツールになると思われる。
著者
芳田 なおみ 宮本 忠司 大串 幹 水田 博志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0490, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】鎮痛目的の電気刺激療法には脊髄電気刺激療法,脳深部刺激療法,大脳皮質運動野刺激療法など様々な治療方法があるが,非侵襲かつ簡便さにおいては臨床では経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:以下TENS)が頻用されている。TENS使用の際には周波数や波形,パルス持続時間,強度や治療時間などのパラメーターや電極位置が効果に影響すると言われ,強度によりAβ線維やAδ線維の活性化,周波数により内因性オピオイド放出に関与すると報告されている。一方,電極位置に関しての報告はまだ少ない。また伝統的に疼痛部位に電極を直接貼付することが多いが,創外固定器や熱傷などの創部状態や幻肢痛などにより直接的なアプローチが困難な場合がある。我々は予備実験として疼痛部位と関連のある遠隔部位に電極貼付することにより疼痛が軽減することを認めた。今回は,同様に疼痛部位に関連した遠隔部位に電極を貼付し,疼痛の種類により効果の発現に違いがでるかを検証した。【方法】対象は当院リハビリテーション部を受診し疼痛を有する患者21名,26部位を対象とした。電極位置は疼痛部位に関連のある経穴もしくはデルマトームおよびスクレロトームとし,対象者ごとにランダムに選択した(経穴群9名12部位,デルマトーム群12名14部位)。また痛みの病態により侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とに分類した。TENSは低周波治療器(伊藤超短波社製,Trio 300)を用いた。刺激はパルス幅50μsec,周波数10Hz及び100Hzにて2つのチャンネルにより電気刺激を20分間与えた。電流は対象者が心地よいと感じるところまでとし刺激強度として記録した。疼痛評価は日本語版Short-Form McGill Pain Questionnaire(以下SF-MPQ)及びVisual Analog Scale(以下VAS)を用いた。SF-MPQは治療開始および一週間ごとに経時的に評価し,各治療前後で即時効果としてVASを評価した。得られたデータは経穴群とデルマトーム群にて病態分類別に治療前後で比較し,また刺激強度についても比較検討をした。【結果】経穴群のうち侵害受容性疼痛は7部位,神経障害性疼痛は5部位であった。一方,デルマトーム群では侵害受容性疼痛は10部位,神経障害性疼痛は4部位であった。治療開始時および終了時のSF-MPQは経穴群の侵害受容性疼痛にて13.0から4.2へ,神経障害性疼痛も10.4から6へ減少した。デルマトーム群においては侵害受容性疼痛が14.1から7.3,神経障害性疼痛は20.3から19.7にとどまった。各治療前後のVASにおいて,経穴群では侵害受容性疼痛は21.4から10.9へと減少し,神経障害性疼痛でも26.4から19.2へと減少した。デルマトーム群においても,侵害受容性疼痛は35.3から19.4と減少し,神経障害性疼痛も43.4から36.9へと減少を認めた。刺激強度については,10Hzで経穴群は28.2mA,デルマトーム群は41.7mAで,100Hzでは経穴群で19.0mA,デルマトーム群では29.4mAでいずれも経穴群が小さかった。【考察】疼痛部位ではない遠隔部位へのTENSは経穴およびデルマトーム両群において疼痛を即時的にも経時的にも軽減させた。侵害受容性疼痛はAδ線維やC線維の終末に存在する侵害受容器を興奮させて生じる痛みであるため,TENSにてそれらを抑制するAβ線維の活性化することにより,疼痛を軽減させたと考えた。さらに,神経障害性疼痛への効果が低かった原因としては,TENSによって生じた内因性オピオイドの放出やAβ線維の活性化が,末梢性や中枢性の神経系の損傷や機能異常がある部位への抑制刺激としてはまだ不十分だった可能性がある。また経穴は少ない強度でも十分な疼痛軽減効果が得ることができたのは,トリガーポイントやモーターポイントと類似した電気を通しやすい部位であるためと考えた。【理学療法学研究としての意義】疼痛部位に直接的なアプローチが困難な場合でも,関連のある遠隔部位へのTENSにより疼痛が軽減することを認めた。選択的なTENSの施行により効果的に疼痛を軽減し患者のQOL向上につながることが期待される。
著者
西沢 喬 今井田 憲 吉村 孝之 馬渕 恵莉 佐分 宏基 小田 実 長谷部 武久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0684, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】大殿筋は歩行の立脚相初期時に最も働くとされており,大殿筋の萎縮は,跛行の原因と報告されている。大殿筋筋活動を増加させる方法として,嶋田らはフォースカップル作用を狙い,腹筋群を働かせ骨盤後傾させる方法を報告している。大殿筋筋力強化・体幹安定化エクササイズとして臨床でブリッジ動作は多く用いられている。しかし,ブリッジ動作では腰背部痛が時折発生することがあり,ブリッジ動作時筋活動の特徴を知ることは重要である。ブリッジ動作の先行研究において股関節・膝関節の異なる角度での筋活動を比較した報告は多い。しかし,ブリッジ動作の骨盤肢位の違いによる筋活動の報告は,骨盤傾斜が背部筋筋活動に及ぼす影響の報告はあるが,背部筋と腹部筋の筋活動を検討した報告は少ない。そこで,腹筋群を活動させ脊柱起立筋の過活動を予防,大殿筋を活動させることで大殿筋の選択的な運動になると仮説を立てた。本研究は,健常成人男性を対象として表面筋電図を用い,骨盤肢位の違いによる大殿筋のフォースカップル作用を使ったブリッジ動作を行い大殿筋,脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋の筋活動を解析し,特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は腰部・股関節に疾患のない健常成人男性20例(年齢28.95±5.4歳)。筋活動の比較には表面筋電図(Myosystem G2)を用い,測定筋は左側の大殿筋(仙骨と大転子を結んだ中央点),脊柱起立筋(第1腰椎棘突起から4cm外側),腹直筋(臍部外側1cm正中より2cm外側),外腹斜筋(臍より15cm外側)の4筋とした。測定肢位は背臥位,上肢を胸の前で組み,股関節内外転中間位,膝関節屈曲90°からのブリッジ動作とし,肩関節から膝関節まで一直線になる肢位で5秒静止した。測定条件は通常ブリッジ(以下,BR)と口頭指示による骨盤後傾位ブリッジ(以下,BTBR)の2種類とした。各条件の測定はランダムに行った。骨盤後傾の確認として,ブリッジ動作時をデジタルカメラで撮影し,上前腸骨棘と恥骨結合を結んだ線と大転子と大腿骨外側顆中心を結ぶ線の頭側になす角度を正とした。BR,BTBR時の骨盤後傾角度を画像解析ソフトImage Jを用いて測定し,骨盤傾斜角とした。また,BTBR時の骨盤傾斜角を同一検者が画像で確認し検者内信頼性を算出した。筋電図の測定区間は各条件の等尺性収縮5秒間のうち波形が安定した3秒間の積分値を算出した。最大等尺性収縮(MVC)はケンダルのMMT5を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして算出した。さらに各条件で脊柱起立筋に対する大殿筋筋活動を大殿筋/脊柱起立筋比として表した。各条件における筋活動の比較には,対応のあるt検定を行った。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い,有意水準は5%とした。【結果】骨盤後傾の信頼性はICC(1,1)0.83であった。骨盤傾斜角はBR:4.8±8.4度,BTBR:12.9±12.4度であった。BTBRがBRと比べ有意に大きかった(P<0.05)。大殿筋筋活動はBR:10.26±6.1%,BTBR:20.13±10.8%,脊柱起立筋筋活動はBR:44.25±11.6%,BTBR:56.15±19.9%,腹直筋筋活動はBR:1.68±1.3%,BTBR:3.83±3.0%,外腹斜筋筋活動はBR:2.64±2.0%,BTBR:5.59±3.6%であった。全ての筋活動でBTBRがBRと比べ有意に高かった(P<0.05)。大殿筋/脊柱起立筋比はBR:0.23±0.1,BTBR:0.41±0.2であった。大殿筋/脊柱起立筋比はBTBRがBRと比べ有意に高かった(P<0.05)。【考察】大殿筋/脊柱起立筋比において,BTBRではBRに対し有意増加した。つまり,骨盤自動後傾させると大殿筋筋活動が脊柱起立筋筋活動に比べ相対的に増加したと考えられた。BTBRでは,自動で骨盤を後傾させることで,骨盤傾斜角が大きくなりフォースカップル作用にて,骨盤後傾主動作筋である腹直筋,外腹斜筋の筋活動が有意に増加し骨盤後傾したと考えられた。この腹筋群の相反神経抑制により脊柱起立筋の過活動が抑制でき,大殿筋/脊柱起立筋比が増加したと考えられた。ブリッジ動作での,大殿筋エクササイズはBTBRが大殿筋の選択的な運動になること可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】BTBRは,大殿筋選択的エクササイズとして有用であることが示唆された。臨床におけるブリッジ動作における殿筋筋力強化・体幹安定化エクササイズの一助として意義のあるものと考えられた。今後の展開として高齢者や疾患別に詳細な筋活動を分析することで,安全で有用なエクササイズにつながると考えられた。
著者
齊藤 匠 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0599, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋出力に影響する要因は,神経と筋肉の2つに分けられる。我々は第49回全国理学療法士学術大会において,神経モビライゼーション(以下NM)が筋出力向上に影響することを報告した。一方,ストレッチングにおいても,筋出力向上に影響があると報告した研究は多い。臨床においてストレッチングやNMは多く用いられる手技だが,筋出力に対する各々の効果は明らかではない。本研究はNMとストレッチングが筋出力に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,健常成人男性13名(24.5±1.9歳)とし利き足側の下肢に対し計測を実施した。使用機器は,イージーテックプラス(Easy tech),ストップウォッチ(CASIO),メトロノーム(KORG)とした。膝関節屈曲・伸展の筋出力計測は等尺性収縮,等速性収縮の2つの収縮形態で行った。筋出力は等尺性収縮の屈曲最大トルク,等速性収縮の屈曲・伸展最大トルク,屈曲・伸展最大パワーを評価した。等尺性収縮は計測肢位を股関節90度,膝関節60度に設定し,10秒間収縮を行った。等速性収縮の設定では,反復回数を5回,角速度を屈曲・伸展90度と設定した。各測定は開始5秒前から声掛けを行い,測定中は必要な声掛け以外行わず,静かな環境で行った。筋出力はNM,ストレッチング前後で計測した。検者はベッド上にて体幹,非検査側の大腿部,足部をベルトで固定しNM,ストレッチングを実施した。NMは坐骨神経を対象とした。Maitland Conceptのgrade4を参考に,膝関節伸展位,股関節屈曲位にて,足関節背屈を行い,2Hzの反復伸張刺激を10秒間与えた。ストレッチングは,ハムストリングスを対象とした。股関節・膝関節90度屈曲位から膝関節伸展を行った。伸張度は,痛みを感じない最大伸張位を至適強度とし,時間は6秒間保持した。解析は,各パラメータでNM前後とストレッチング前後の筋出力の差を算出し2施行間で比較した。また,NMとストレッチングで最大トルクと最大パワーそれぞれの屈曲と伸展に及ぼす差を検討するため,NMとストレッチングの差分を屈曲トルク・伸展トルク間,屈曲パワー・伸展パワー間で比較した。統計は二元配置分散分析にて検討した。測定した筋出力の値は体重で正規化した。Bonferroniの多重比較検定を実施し,有意水準は5%未満とした。【結果】等尺性収縮において,最大トルクはストレッチング-0.014±0.29N/kg,NM0.013±0.18 N/kgで有意差は認めなかった。等速性収縮において最大トルク(屈曲/体重)はストレッチング0.013±0.129 N/kg,NM0.024±0.139 N/kgで,有意差を認めなかった。最大トルクは(伸展/体重)ストレッチング0.025±0.153N/kg,NM0.044±0.248 N/kgで有意差は認めなかった。最大パワー(屈曲)はストレッチング7.3±22.7 N/kg,NM2.4±19.6 N/kgで有意差は認めなかった。最大パワー(伸展)はストレッチング-0.4±15.4 N/kg,NM9.6±31.07 N/kgで有意差は認めなかった。ストレッチングとNMの差分において最大屈曲トルク-0.0108 N/kg最大伸展トルク-0.018N/kgで有意差を認めなかった。最大屈曲パワー4.9N/kg最大伸展パワー-10.15 N/kgで有意差を認めた(P<0.05)。【考察】等尺性収縮においてストレッチングとNMの影響に違いは認めなかった。等速性収縮においてもストレッチングとNMの影響に違いは認めなかった。ストレッチングとNMが主動作筋である屈曲筋力と拮抗筋である伸展筋力に及ぼす作用でみた場合,最大屈曲パワーと最大伸展パワーに有意差を認めた。ストレッチングは膝関節伸展パワーと比較し膝関節屈曲パワーに有効的に働き,NMは膝関節屈曲パワーと比較し膝関節伸展パワーに有効に働くことが示唆された。最大トルクに対しては屈曲と伸展による差はなかった。パワーは単位時間あたりの筋発揮であり,速度を要する動作においてストレッチングとNMを有効的に使い分けることが可能だと考えた。NMは神経線維の緊張が弛み,神経伝導速度は低下すると言われている。介在ニューロンに対して刺激を与え,前角細胞の電位を下げ,膝関節屈曲筋活動を抑制し,伸展筋力が増加傾向になると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究よりハムストリングスのストレッチングは膝関節屈曲の筋出力に対し有効な結果をもたらし,NMは膝関節伸展の筋出力に有効な結果をもたらす事が示唆された。ストレッチングとNMは分けて行う事で,治療の幅を広げる事が考えられる。スポーツ現場では,双方を調整する事で効果的な筋出力向上が考えられる。今後はNMの変化・対象について,検証する必要があると考えられる。
著者
高橋 里美 園田 睦 山田 隆治 福満 智代 丸目 弥生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1500, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】パーキンソン病(以下PD)の非運動症状は,認知機能障害・精神症状(抑うつ・幻覚)・アパシー・自律神経障害等があり理学療法の実施やQOLの妨げとなっている。PDでは黒質-線条体ドパミン系と病期の進行と共に中脳-皮質-辺縁系ドパミン系の2つのドパミン系に変性が起こる。後者の投射系は前頭葉腹内側部,扁桃体,帯状回等に投射されている事から前頭前野の機能異常が起こり,認知機能や報酬,意思決定等に影響を及ぼすと考えられている。近年,運動療法で認知機能や抑うつの改善が報告されているが,PD患者の非運動症状に対する運動療法については報告が少ない。今回の研究は,PD患者の非運動症状の中で,特に認知機能,抑うつ,アパシーに着目し運動療法での変化を検討する事を目的とした。【方法】対象はPD患者11名(男性3名,女性8名,71.6±9.2歳,Hoehn-Yahr分類のStageII8名,III2名,IV1名)とした。(罹患期間は5年未満6名,9~11年4名,26年目1名であった。)評価は,認知機能にはMini Mental State Examination(以下MMSE),抑うつには自己評価式抑うつ性尺度(以下SDS),アパシーにはやる気スコアを使用し,運動療法介入の開始時及び4週後で行った。運動療法はストレッチ・筋力増強運動・バランス運動・歩行運動・有酸素運動とした。運動療法の介入時間は,外来患者は週3回20~40分,入院患者は週5~6回約60分実施した。有酸素運動はエルゴメーターまたは自由歩行を約20分実施した。統計処理はWilcoxon符号付順位和検定を使用し,運動療法介入前後での比較を行い,有意水準は5%未満とした。【結果】MMSEでは開始時24±3.7点,4W時25.5±2.8点であり有意な差は認められなかった(p=0.06)。SDSでは開始時45.9±6.5点,4W時39.7±8.6点であり有意に小さい値となった(p<0.01)。また,やる気スコアでは開始時14.1±7.1点,4W時9.8±7.0点であり有意に小さい値となった(p<0.01)。【考察】今回の結果でMMSEでは有意な差は認められないものの運動療法介入によって認知機能の改善があることが示唆された。先行研究では運動療法においてドパミン細胞が存在する黒質でのグリア由来神経栄養因子(以下GDNF)生成細胞の発生を誘導する事が示されている。また運動療法において脳由来神経栄養因子(以下BDNF)やGDNFなどの神経細胞の成長に必要な神経栄養因子が増加する事や,海馬萎縮の抑制・容量の増加が報告されている事から,認知機能の改善にはこれらの神経栄養因子が関与している事が示唆される。また,SDSにおいては有意に小さい値となり,うつ症状の改善を認めた。抑うつにおいては,前頭前野において報酬系の役割もある事から,この報酬系処理が運動によるドパミンの放出促進に働き,また,うつ病患者への有酸素運動はセロトニン代謝の賦活によるうつ症状の改善の報告から,運動療法介入により,うつ症状の改善に繋がったと考えられる。運動療法によりGDNF,BDNFの増加で栄養サポートメカニズムを通してドパミンシステムの可塑性の促進に繋がり,ドパミン系へ影響を及ぼしPD患者の認知機能・抑うつが改善したと考えられた。やる気スコアでは運動療法介入後に有意に小さい値となり,アパシーの改善を認めた。PD患者におけるアパシーは,ドパミン等の神経伝達の異常や前頭葉-基底核ネットワークでの障害で起こるとされており,これらにもドパミン系への影響により改善したと思われる。運動療法を施行することで認知機能,抑うつ,アパシーが改善し,理学療法への関心や意欲の向上をもたらすことで,理学療法介入が円滑に実施可能となった。【理学療法学研究としての意義】PD患者における運動症状に注目しがちであるが,理学療法を施行するうえで非運動症状による阻害因子の影響は大きい。そしてPD患者の非運動症状に対して薬物療法による治療エビデンスが殆どであり,本研究の結果から運動療法介入による非運動症状の改善が期待され,理学療法の発展に寄与するものと考える。
著者
岡本 善敬 山本 哲 梅原 裕樹 石橋 清成 沼田 憲治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0882, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】脳卒中後の後遺症の一つに運動麻痺があり,その多くが錐体路損傷による痙性麻痺を呈する。錐体路の損傷では四肢遠位部の手指や足部の分離した運動がより重度に障害されることが多いが,今回遠位部と比較し近位部の機能障害が重度であった症例を経験し,その病態メカニズムについてMRI画像を元に考察したため報告する。【症例提示】70歳代,女性。めまいを自覚し近医受診され左橋梗塞の診断を受け同日入院。保存的加療にて第25病日にリハビリテーション目的に転院となった。第31病日のMRI画像では,T2強調画像にて左橋背側部からやや腹側方向へ広がる高信号変化を認めた。身体機能面では,意識状態はJCS1桁であったが会話および従命可能。明らかな疼痛や感覚低下はなし。企図振戦,眼振など小脳失調症状は認められなかった。右上下肢で軽度腱反射亢進。Brunnstrom stageは右上肢V,右手指V,右下肢V。筋力はMedical Research Council scaleにて右上下肢は肩関節外転3,肘関節屈曲4-,手指伸展4,手指屈曲4,股関節屈曲3,右膝関節伸展4-,右足関節背屈4+と近位筋優位に筋力低下を認めた。左上下肢は4~5。Berg Balance Scaleは30/56点であり立位での検査項目で減点がみられた。起居動作は自立,立位保持はふらつきあり上肢の支持を要した。歩行では膝折れがみられ歩行器の使用が必要かつ介助を要した。箸の使用,ボタン閉めはともに可能であった。【経過と考察】退院時においても近位筋優位の筋力低下は残存し移動には歩行器の使用が必要であった。姿勢の保持に関与する近位筋の運動制御には橋背内側部を通る皮質網様帯路および網様帯脊髄路や外側前庭脊髄路など内側運動制御系が関与する。本症例の臨床所見は近位筋優位に筋力低下を認め立位姿勢維持に障害をきたしていた。画像所見では,巧緻性動作に関与する錐体路が通る腹側部より背側に病巣が認められることから内側運動制御系の損傷による影響が示唆された。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0512, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
稲吉 直哉 荒木 秀明 松岡 健 須﨑 裕一 小野内 雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1804, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】我々は,臨床においてフラットバック,スウェイバック,円背など様々な姿勢不良患者を頻繁に経験する。姿勢不良と病態に関しては頸部障害,腰部障害,肩障害,肘障害など様々な障害を生じさせる要因となることが多数報告されている。特に,円背は運動・呼吸能力など身体能力や精神機能の低下などを起たすとの報告ある。しかし,胸椎部の姿勢に関する客観的評価方法は少ない。姿勢の客観的評価方法としては,三次元的動作解析装置や立位時の全身の矢状面レントゲン撮影,Spinal Mouseを用いた脊柱姿勢評価方法が報告がされているが,いずれも高度な機器が必要であり臨床の場面において簡便に測定することが困難である。最近,簡便な胸椎部の柔軟性評価としてOtt Testが報告され,三次元動作解析器を用いてその再現性が確認されている。今回,Ott Testを用いて胸椎部柔軟性を正常群と過少群に分類して,胸椎部柔軟性と生体力学的変化を指先床間距離(以下FFD)と重心動揺を用いて検証した。【方法】対象は下肢,体幹に障害既往がない20歳代の健常男性12名である。Ott Testは1)直立姿勢で第7頸椎棘突起(以下C7)とC7から30cm下方をマーク,2)体幹最大屈曲位で2点間距離をメジャーで測定する。臨床的意義は2点間距離の延長が3cm未満では胸椎部柔軟性が低下していると定義される。対象全例にOtt Testを行い,体幹最大屈曲位で3cm以上群(以下正常群)が6例,3cm未満群(以下過少群)が6例に分類した。両群に対してFFDと体幹屈曲動作遂行時の重心動揺を測定した。重心動揺は重心動揺計(アイソン株式会社製)を用いた。測定方法は重心動揺計上で開眼,裸足,踵接地の直立姿勢から指先をつま先に向け下ろすように指示し,前後方向の重心動揺を測定した。なお,聴覚や視覚刺激による偏位を生じない様な環境設定に留意した。両群間でのFFDと重心の前後動揺の比較・検討を行った。【結果】1)FFDは正常群が過少群より有意(p<0.01)に小さかった。2)前後方向の重心動揺は正常群が過少群より有意(p<0.01)に小さかった。【考察】胸椎部に対するモビライゼーションは胸椎部の痛みや機能障害に対する報告より,むしろ頚部障害,肩障害,上肢障害,下肢障害など胸椎と解剖学的に関係がない部位の障害に対して良好な結果が確認され,Regional Interdependence理論が提唱されている。今回,胸椎の柔軟性と全身的な生体力学的変化を確認するために,三次元動作解析器で胸椎可動性測定の妥当性が確認されているOtt Testで鑑別後,FFDと重心動揺から生体力学的変化を検討した。FFDは一般に下肢筋の短縮や腰部筋群の緊張を評価する方法である。しかし,体幹前屈動作には胸椎部の動きも関連している。Bruggerらは体幹屈曲の際,最初に脊柱起立筋が強く収縮し,次に臀筋群,そして最後にハムストリングスと下腿三頭筋が収縮する。脊柱は最終屈曲域には脊柱の靭帯のみで支えられ骨盤に固定される。その骨盤は前方回旋しているがハムストリングスによる固定されると報告している。また,前屈動作時の胸椎部は椎間関節の前方滑り,肋横突関節も前方滑りが起こる。胸椎部の柔軟性が低下すると上記の運動が障害されFlexion Relaxation Phenomenon(以下FRP)が起こらず,脊柱起立筋の持続的な収縮が起こる。そのため正常群は過少群と比較し有意(p<0.01)に良好な結果が得られたものと考える。重心の前後動揺方向への変化は,過少群はFRPが起きず,脊柱起立筋とハムストリングスの持続的な収縮が起こる。また正常な体幹屈曲動作よりも胸椎の屈曲機能不全が起きているため,重心の位置は支持基底面に対しより前方に逸脱する。その代償として,重心を支持基底面内に留めるためハムストリングス,下腿三頭筋が通常よりも早く収縮が起こる。よって,骨盤は前傾できず,股関節も屈曲機能不全が起こる。そのため正常群は過少群と比較し有意(p<0.01)に重心の前後動揺が少なかったのではないかと考える。今回の結果から胸椎の柔軟性は胸椎のみではなく,FFDや重心動揺などの全身的生体力学的変化が示唆された。【理学療法学研究としての意義】Ott Testを用いた胸椎部柔軟性の結果とFFDと重心動揺に関連性が示唆され,胸椎可動域制限と全身的生体力学的変化が確証された。今後,胸椎部柔軟性の向上と肩関節や頸椎可動域,下肢筋活動変化に関する検討が必要である。また今回の対象者は20代の健常な男性である。性差や年齢差,疾患の有無で同様な結果が得られるのか検討が必要である。