著者
岩田 修永
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

先行研究で、アルキル鎖の導入で脂溶性を付与したカテキン誘導体が、アルツハイマー病の原因物質アミロイドβペプチド(Aβ)の主要分解酵素であるネプリライシンやAβ産生を抑制するαセクレターゼ、さらにAβ産生酵素βセクレターゼの遺伝子発現をそれぞれ上方・下方調節する能力があることを見出した。本研究では、これらの発現制御に関わるカテキン結合タンパク質をカテキン結合ビースによる精製とLC/MSMS法を用いて二種類同定した。これらのカテキン結合タンパク質過剰発現細胞では、mock細胞に比較して脂溶性カテキン誘導体処理によるネプリライシン活性増強効果がさらに増大し、βセクレターゼ活性の減弱を引き起こした。
著者
浅井 将 川久保 昂 森 亮太郎 岩田 修永
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.137, no.7, pp.801-805, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
18
被引用文献数
12

Down syndrome (DS) patients demonstrate the neuropathology of Alzheimer's disease (AD) characterized by the formation of senile plaques and neurofibrillary tangles by age 40-50 years. It has been considered for a number of years that 1.5-fold expression of the gene for the amyloid precursor protein (APP) located on chromosome 21 leading to overproduction of amyloid-β peptide (Aβ) results in the early onset of AD in adults with DS. However, the mean age of onset of familial AD with the Swedish mutation on APP which has high affinity for β-secretase associated with a dramatic increase in Aβ production is about 55 years. This paradox indicates that there is a poor correlation between average ages of AD onset and the theoretical amount of Aβ production and that there are factors exacerbating AD on chromosome 21. We therefore focused on dual-specificity tyrosine phosphorylation-regulated kinase 1A (DYRK1A), since overexpressing transgenic mice show AD-like brain pathology. The overexpression of DYRK1A caused suppression of the activity of neprilysin (NEP), which is a major Aβ-degrading enzyme in the brain, and phosphorylation at the NEP cytoplasmic domain. NEP activity was markedly reduced in fibroblasts derived from DS patients compared with that in fibroblasts derived from healthy controls. This impaired activity of NEP was rescued by DYRK1A inhibition. These results show that DYRK1A overexpression causes suppression of NEP activity through its phosphorylation in DS patients. Our results suggest that DYRK1A inhibitors could be effective against AD not only in adults with DS but also in sporadic AD patients.
著者
岩田 修永 西道 隆臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.5-14, 2003-07-01
被引用文献数
1 6 5

アミロイドβペプチド(amyloid β peptide, Aβ)の蓄積はアルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)脳で進行的な神経細胞の機能障害を起こす引き金になる.しかし,ADの大半を占める孤発性ADにおいて,何故Aβが蓄積するのかは不明である.家族性ADと異なり,Aβ合成の上昇が普遍的な現象として認められないことから,老化に伴うAβ分解システムの低下が脳内Aβレベルを上昇させ,蓄積の原因となる可能性が考えられた.我々の研究室では,Aβの脳内分解過程をin vivoで解析する実験と分解酵素の候補になったプロテアーゼのノックアウトマウスの解析により,ネプリライシンがAβ分解の律速段階を担う主要酵素であることを明らかにした.ネプリライシンノックアウトマウスの脳では著しいAβ分解活性の低下と内在性Aβレベルの上昇が認められ,これにより初めて分解系の低下もAβ蓄積を引き起こす要因になりうることが実証されたのである.また,ネプリライシンは神経細胞のプレシナプス部位に存在し,正常老齢マウスを用いた実験で加齢に伴って貫通線維束と苔状線維の終末部位で選択的に低下することが分かった.このことは,海馬体神経回路の記憶形成にかかわる重要な部位で局所的にAβ濃度が上昇することを意味する.一方,ネプリライシンを強制発現した初代培養ニューロンでは細胞内外のAβが顕著に減少することより,分解系の低下を抑制することや分解系を操作して増強することが,加齢に伴うAβ蓄積を抑制し,アルツハイマー病の予防や治療に役立つことを示唆する.神経細胞におけるネプリライシンの活性あるいは発現は神経ペプチドによって制御される可能性が考えられる.神経ペプチドのレセプターはGタンパク質共役型であるので,薬理学的に脳内Aβ含量を制御できることが期待される.<br>
著者
浅井 将 城谷 圭朗 近藤 孝之 井上 治久 岩田 修永
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.1, pp.23-26, 2014 (Released:2014-01-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

アルツハイマー病の原因物質アミロイドβペプチド(amyloid-β peptide:Aβ)はその前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)からβおよびγセクレターゼの段階的な酵素反応によって産生される.アルツハイマー病の発症仮説である「アミロイド仮説」を補完する「オリゴマー仮説」は,オリゴマー化したAβこそが神経毒性の本体であるとする仮説であるが,オリゴマーAβのヒトの神経細胞への毒性機構や毒性を軽減する方法は未だ不明であった.そこで我々は,この問題点を解決すべく若年発症型家族性アルツハイマー病患者2名および高齢発症型孤発性アルツハイマー病患者2名から人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)を樹立し,疾患iPS細胞から神経細胞に分化誘導を行って細胞内外のAβ(オリゴマー)の動態と細胞内ストレス,神経細胞死について詳細に検討した.その結果APP-E693Δ変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来の神経細胞内にAβオリゴマーが蓄積し,小胞体ストレスおよび酸化ストレスが誘発されていることがわかった.一方,1名の孤発性アルツハイマー病患者においても細胞内にAβオリゴマーの蓄積と上記と同様の細胞内ストレスが観察された.これらの小胞体ストレスおよび酸化ストレスはβセクレターゼ阻害薬によるAβ産生阻害やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)によって軽減された.このように孤発性アルツハイマー病においても Aβオリゴマーが神経細胞内に蓄積するサブタイプが存在すること,およびこのサブタイプに対する個別化治療薬としてDHAが有効である可能性を示した.
著者
岩田 修永 樋口 真人 西道 隆臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:13478397)
巻号頁・発行日
vol.131, no.5, pp.320-325, 2008-05-01

アルツハイマー病(AD)では脳内のアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・蓄積が発症の引き金となることから,本症の根本的な克服のためには脳内Aβレベルを低下させることが必要である.Aβは前駆体タンパク質よりβおよびγセクレターゼによる二段階切断によって産生するが,分解過程にはネプリライシンが深く関わる.ネプリライシンは既報のAβ分解酵素の中で唯一オリゴマー型Aβを分解できる酵素的特性を有し,シナプス近傍におけるオリゴマー型Aβの分解に寄与する.このように脳内Aβの動態にはプロテアーゼが大きな役割を果たす.一方,最近の研究で,Ca<sup>2+</sup>依存性細胞内システインプロテアーゼ・カルパインの活性化により,脳内Aβの蓄積およびタウのリン酸化が促進することが明らかになった.本節では,AD研究の現在の動向について触れるとともに,Aβの神経毒性機構(オリゴマー仮説)とこれらのプロテアーゼを標的としたADの治療戦略について解説する.<br>
著者
岩田 修永
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ネプリライシン(NEP)活性低下モデルマウス脳の神経病理を解析し、アルツハイマー病(AD)病理との類似点について検討した。NEP遺伝子を欠損したアミロイド前駆体蛋白質トランスジェニックマウス(NEP-KO×APPtg)脳ではAPPtgマウス脳に比較して加齢依存的に3pyroE型Aβの形成と蓄積が加速し、ヒトと類似するアミロイド病理を示した。NEP-KO×APP tgマウスにさらにアミノペプチダーゼ(AP)A-KOマウスを掛け合わせると、3pyroE型Aβの蓄積が30%抑制されることも明らかになった。また、NEP-KO×APP tg脳ではAPP tg脳に比較して、APNやDPP4の発現量が1.5~2倍近く上昇し、グルタミン酸の環化を触媒するグルタミニルシクラーゼ(QC)の発現量は4倍ほど増加し、上述のペプチダーゼの発現増加量を大きく上まわった。このように、3pyroE型Aβの産生はNEP依存的なAβの生理的分解経路が遮断された場合に促進し、AP/ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)やQCが関与する副経路を介して生じると推察される。QCはアストロサイトに局在することから、炎症過程や細胞の保護・修復等に関わる酵素であると考えられるので、脳内にカイニン酸を注入して炎症反応を惹起させると、QCタンパク量は野生型マウスで10倍、NEP-KOマウスで18倍増加した。同様に、APP tgマウス脳ヘカイニン酸を注入すると3pyroE型Aβの形成が促進することも明らかとなった。これらの結果は、NEP活性の低下は炎症応答の亢進を介してQC発現を増強することを示唆する。このように、アミロイド蓄積によって惹起された炎症反応はQC発現を増強し、NEPの活性低下はアミロイドの蓄積および炎症反応の惹起を異なる作用点で増強し、結果的に3pyroE型Aβの形成と蓄積を進行させると考えられる。