著者
水口 雅
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
41

【要旨】急性脳症の研究は1980 年から現在まで、日本で急速に進歩した。1980〜2007 年には急性壊死性脳症、けいれん重積型(二相性)急性脳症、脳梁膨大部脳症など急性脳症の新しい症候群がつぎつぎと提唱、確立された。インフルエンザ流行期の急性脳症症例の多発が認識され、インフルエンザ脳症を対象に疫学調査、病態解明からガイドライン策定へと進んだ。2007 年に病原体による分類と症候群分類が整理された後は、急性脳症全体の疫学調査と症候群別の病態・診療の研究が進み、2016 年の急性脳症ガイドライン刊行へとつながった。同時期に発症の遺伝的背景となる遺伝子多型、変異が同定された。 今後の研究では、重症かつ難治性の症候群における早期診断と治療の開発が最大の課題である。
著者
水口 雅
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.96-99, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
7

2009年後半, 新型インフルエンザ・パンデミック (H1N1) 2009の流行にともない, 日本では急性脳症の症例が推定200~300例発生した. 従来の季節性インフルエンザ脳症と比較して, 新型インフルエンザ脳症は報告例が多く, 特に年長児 (5~9歳), 男児に多発した. 神経症状としては異常言動 (譫妄) がけいれんより多く, 頭部CT・MRIでは異常なし, または脳梁膨大部病変が多かった. 予後は季節性インフルエンザ脳症と同等か, やや良好であった. 新型インフルエンザ脳症に見られた病型の種類は, 季節性インフルエンザや他のウイルスによる脳症と同じで, 質的な違いはなかった.
著者
柳澤 敦広 乾 健彦 生井 良幸 高梨 潤一 藤井 克則 水口 雅 関根 孝司 五十嵐 隆
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.161-165, 2009-11-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

腸管出血性大腸菌 (enterohemorrhagic E. coli: EHEC) 感染症を契機に発症した溶血性尿毒症症候群 (hemolytic uremic syndrome: HUS) の重篤な合併症として,脳症がある。脳症の臨床像・病態生理は複雑である。今回われわれが経験したHUSに合併した脳症は,急性壊死性脳症 (acute necrotizing encephalopathy of childhood: ANE) に特徴的な画像所見を示していた。 こういった例はHUSに合併した脳症のなかでも,特に重篤な経過をたどりやすいようだ。また,サイトカインの関与も示唆された。HUSに対する既存の治療法では不十分であり,発症機序,管理・治療法に関するさらなる検討が必要と思われる。
著者
水口 雅 高梨 潤一 齋藤 真木子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

急性壊死性脳症(ANE)やけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)に代表される急性脳症の病態の解明を目的とし、神経、免疫、代謝のクロストークに関する遺伝子解析と機能解析を行った。ANEについては、日本人の孤発性ANEの遺伝的背景としてサイトカイン多型とHLA型を同定し、欧米人の家族性ANEの原因遺伝子であるRANBP2の機能を解析した。AESDについては、自然免疫抑制因子であるCTLA4の多型がAESD発症に関連することを示した。また複数の症候群におけるナトリウムチャネルの変異の関与、また急性脳症全般におけるミトコンドリア酵素CPT2の熱感受性多型の関与を明らかにした。
著者
齋藤 真木子 水口 雅
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本人の急性壊死性脳症(ANE)の病態としてサイトカインストームが推定されているが、欧米の家族性反復性急性壊死性脳症(ANE1)のように単一遺伝子疾患であるかどうか、未だに不明である。ANE1原因遺伝子RANBP2の産物であるRANBP2の結合蛋白に着目し、ANE患者24例においてCOX遺伝子群の変異・多型解析を行った。COX11遺伝子の全エクソンに変異は認められなかったが、1例にCOX10exon3のヘテロ接合一塩基置換c.260C>T(T87I)があった。また、COX15にはMAF<0.01であるrs2231682のマイナーアリルを有する症例が3例あった。COX群はミトコンドリア電子伝達系に関わっており、エネルギ-産生に必要である。また、COX遺伝子群はANEと病態の類似するLeigh脳症の原因遺伝子として報告されている。ANE患者で認められたこれらの一塩基置換がミトコンドリアエネルギー産生に影響を及す可能性が示唆された。
著者
水口 雅 高梨 潤一 齋藤 真木子 廣瀬 伸一 山内 秀雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

急性脳症は急性壊死性脳症(ANE)、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)、難治頻回部分発作重積型脳炎(AERRPS)などに分類される。これらの症候群には臨床的に多様性と共通性がある。その分子的背景を解明するための包括的な遺伝子解析を行った。ひとつの症候群に特異的なvariationとしてANEではHLA型、IL6、IL10(多型)が、AESDではADORA2A、IL1B多型が、AERRPSではSCN2A多型が同定された。複数の症候群に共通するvariationとしてCPT2、IL1RN多)、SCN1Aミスセンス変異が見いだされた。ほとんどが自然免疫と神経興奮に関わる因子であった。
著者
西 耕一 水口 雅之 橘 秀樹 大家 他喜雄 藤村 政樹 松田 保
出版者
社団法人 日本呼吸器学会
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.350-354, 1996

トロンボキサン合成酵素阻害薬が著効を示したと考えられる慢性持続性咳嗽患者を経験したので報告する. 症例は25歳の女性で, 8週間以上継続する乾性咳嗽を主訴として受診した. 乾性咳嗽のエピソードは今回が2回目であり, 前回は気管支拡張薬が無効であり, 塩基性抗アレルギー薬 (塩酸アゼラスチン)が有効であった. しかし, 今回の咳嗽は, 塩基性抗アレルギー薬や吸入ステロイド薬は十分効果的ではなく, トロンボキサン合成酵素阻害薬 (塩酸オザグレル) が著効を示した. さらに, カプサイシンに対する咳の感受性も同薬物の投与にて改善した. トロンボキサンA<sub>2</sub>, 咳嗽, およびカプサイシンに対する咳感受性の3者の関係に関する報告は今までのところ少なく, 詳細は不明であるが, 本症例のようにトロンボキサン合成酵素阻害薬が効果的な咳嗽患者が存在することは, 臨床的に重要な知見と考えられたため報告した.
著者
水口 雅 池田 和隆
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

結節性硬化症はmTOR系の過剰な活性化を主な病態とする遺伝性疾患で、自閉症を高率に合併する。mTOR阻害薬を用いた自閉症の薬物治療を開発する目標に向けた橋渡し研究として、結節性硬化症モデルマウスを用いた薬物治療の実験を行なった。モデルマウスの思春期個体にmTOR阻害薬ラパマイシンを投与したところ、成獣と同等に自閉症様症状(社会的相互作用の低下)が改善した。しかし発達期にラパマイシンを長期投与すると全身状態の悪化、臓器の萎縮など副作用が顕著であり、今後、投与の時期と量を最適化する必要がある。
著者
水口 雅 池田 和隆
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

自閉症の中核症状である社会的相互交流障害の改善に有効な薬物療法を開発することは重要である。結節性硬化症はTSC1ないしTSC2遺伝子のハプロ不全に起因し、自閉症をしばしば合併する。本研究は、結節性硬化症モデル動物Tsc1^<+/->およびTsc2^<+/->マウスの自閉症様行動異常、mTOR阻害薬ラパマイシンの投与によるその改善、mTOR系遺伝子の脳内発現異常のラパマイシン治療による正常化を見いだした。これらはマウスの自閉症様行動におけるmTOR信号伝達の重要性を示すとともに、ヒト自閉症の薬物治療におけるmTOR阻害薬の有用性を示唆する。
著者
水口 雅 山内 秀雄 伊藤 雅之 高嶋 幸男 岡 明 齋藤 真木子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

急性壊死性脳症(ANE)と痙攣重積型急性脳症(AESD)の病因を解明するため、遺伝子解析を行った。全国的な共同研究により日本人患者の末梢血検体を集積し、候補遺伝子の変異・多型を調べた。AESD の発症にミトコンドリア酵素 CPT2 多型とアデノシン受容体 ADORA2A 多型、ANE の発症に HLA 型が関与することが明らかになり、病態の鍵となる分子が同定された。日本人の孤発性 ANE は、欧米の家族性 ANE と異なり、RANBP2 遺伝子変異が病因でないことが判った。
著者
大関 信子 水口 雅
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.506-518, 2007

【目的】本研究は,急増している海外在住日本人母子(永住者は除く)のうち日本人人口の最も多いニューヨーク(以下NY)で生活する母親を対象に異文化ストレス要因,育児ストレス要因と精神健康度を明らかにすることを目的とした.本研究の意義は,海外で妊娠・出産・子育てをする日本人母親のメンタルヘルスとその影響要因を明らかにし,ウィメンズヘルスに関わる医療従事者に新しい知見を呈することである.【方法と対象】無記名自己記入式質問紙と精神健康度調査票(GHQ30)を用いた実態調査研究であり,NY在住日本人母親200名,比較対照群として国内A市在住母親200名に質問紙を配布し郵送にて192部を回収し191部を分析対象とした.【結果】NYの母親は「海外での子育てはストレス」(53.6%)で,自分の子どもも「海外生活でストレス」(35%)を感じており,母子とも「孤立」(34.7%)し「日本から充分な支援を得ていない」(36.8%)と感じている.NYとA市とも異なる要因で精神健康度が日本国内の女性より悪く,約3人に1人は受診を要し,NY群では「家族と離れている」ことと「子どもの教育」が主な関連要因であった.2市とも9割の母親が「夫も仕事でストレス下にある」と感じており,夫の育児参加への不満と悪いメンタルヘルスとに有意な関係がみられた.上記の他,医療従事者がメンタルヘルス上注意を要する海外在住日本人母親のストレス要因として以下の項目が挙げられる;「子育て」「子どもの友達」「相談相手がいない」「リラックスする時間がない」「自分の健康」「経済」「今の生活に不満足」.【結論】海外在住中,又は一時帰国中の日本人母親はメンタルヘルス上の配慮が必要であり,異文化適応や子育て支援の他,早期に受診できるような母親への予防的介入がメンタヘルス上有効であると考える.