著者
斎藤 峻彦
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.449-463, 2009-07

本給文は地域公共交通政策の策定理念や運用に関する内外格差が顕著であることの原因として交通企業の自立採算原則を重視したわが国の伝統的な地域公共交通政策と地域公共輸送に表れがちな"市場の失敗"現象への対応を重視した先進賭外国のそれとの格差に着目し, それぞれの得失について検討を加える。さらにわが国の地域公共輸送における "市場の失敗"現象が地方部だけでなく大都市圏にも表れるようになった近年の状況を諸例を用いて解説し, 地方都市の都市づくり政策と連動した公共輸送の再生あるいは大都市における快適通勤の実現など, 地域公共交通政策の基本的課題に対応するには公と民の聞の合理的な連携システムの構築が重要であることを論じる。 (英文) This paper discusses the factors in Japan which induced a large inside-and-outside difference concerning local public transport policies in economically advanced countries. As compared with Japan, in which a self-supporting principle of transport companies has been regarded as most important even in the local public transport market that has various kinds of unprofitable businesses, most advanced foreign countries have had sufficient concerns about an effective correspondence to market failure phenomena arising in their local transport markets. However, recently in Japan, some kinds of problems for local public transport have begun to be unsolvable due to the conventional Japanese way of considering transport policy. The achievement of comfortable train commuting in metropolitan areas and the revitalization of public transport in local cities suffering from the blighted inner-city problem are a good example of problems which cannot be solved without public assistance for transport companies. It also necessitates private-and-public partnership for reaching their goals. The purpose of this paper is to clarify the subjects and the policy methods used by Japanese governmental policy for local public transport, related to the possibility of the phenomenon of market failure arising.
著者
桜井 等至
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.79-107, 2005-12-15

日本経済の少子化が進行している。いよいよ2006年をピークに人口減少社会に突入する。問題は,こうした「少子人口減少社会の到来」をどう捉えるかである。少子人口減少社会に多くの問題点があるとして,それではなぜ「少子人口減少社会」が到来したのか。その要因は何か,が問われなければならない。われわれは,「少子化」が元々人々が良いと思ってその実現に努力してきた価値観(政策目標)が達成(成熟社会の実現)されて,いわばその副作用として発生してきた問題である,と捉える。それだけに,良い面を極力残しながら,悪い面の是正を目指さなければならない。この視点から,政府が行っている対策の有効性を確かめる。政府が実施している対症療法で問題は解決するものかどうか。われわれは総合経済政策論の視角からその限界を示し,根源的な解決を示す。それは,日本経済が「歴史的転換期」にあるという認識に立って,人口減少社会に則した体制改革を進めよう。すなわち,少子人口減少社会の問題解決は,総合福祉社会の形成を目指す絶好機である。
著者
木元 富夫
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.117-138, 2009-07

チェコビールのバドワイザーとアメリカビールのバドワイザーは, ブランドの正統性を争って世界各地で商標権裁判を展開しているが, このバドワイザー商標紛争は, 問題化してから百年を超える超長期の商標紛争である。これほど長期化した原因には, チェコが長らくオーストリア及びドイツの支配下でドイツ語の使用を強制され, 戦後解放されるや今度は社会主義化されて, 欧米市場を閑ざされていたという屈折した歴史的事情がある。ブランドの正統性が何れにあるかの判断は各国で分かれている。本稿は紛争の歴史的経緯を概観し, その争点を日本の裁判所の判決録によって明らかにし, さらに今後の解決可能性を展望するものである。 (英文) Budweiser of the Czech Republic and that of the U.S. are both fighting trademark disputes in countries all over the world. The long-running dispute has been going on over a hundred years; however, it is coming close to the last stage. The reason why it has lasted so long is the special historical conditions of the Czech Republic, which was once under the imperial control of Austria, Germany and forced to use the German language. Furthermore, after the war, the Czech Republic became a socialist republic. Judgments on brand priority are separately decided in each country. In this article, the author reviews the historical progress of this dispute, confirms the judgment of Japanese court concerning this case, and predicts the future outcome.
著者
棚池 康信
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.189-207, 2006-12-20

2005年のEUは危機に直面したと一般に受け止められている。それは「安定と成長の協定」の修正やフランスとオランダにおけるEU憲法条約の批准に関する国民投票に失敗したことなど,大きな注目を集めた出来事があったからである。年末にかけては,ユーロの将来に関する不安が話題を提供することになった。しかしながら,本論文では,2005年のEUの危機を深刻にした一つの要因であるサービス指令に着目する。この指令の合意に失敗したことは,市場統合の完成以降にEUが築きあげてきた経済ガバナンスのシステム全体の機能を麻痺させるという意味合いを持っており,その意義は重要である。このような問題意識から,本論文ではEUの経済ガバナンスの構築過程を跡付け,サービス指令がその中でもっている重要性について考察しようとするものである。
著者
西藤 二郎
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.163-188, 2009-07

山陽鉄道の創業期の経営を担ったのは中上川彦次郎である。彼は長期的経済性をめざして事業を遂行したが, これは円滑な資金調達が前提であった。したがって明治23年の恐慌が起こると, その循環はうまく機能せず, 株主との対立が顕著になった。その結果, 中上川は退陣し, これに代って松本重太郎が経営を引き受けた。しかし松本社長の時代も, 中上川流の合理的経営が展開された。その原因は時の実務者集団が, 中上川との聞に理念的親和性があったからである。その中心となったのが支配人の牛場卓蔵である。そこで牛場卓蔵が山陽鉄道に係わる契機を検討し, 彼が展開する経営姿勢を読み解くことによって, 山陽鉄道の経営の特色を析出した。 (英文) Hikojiro Nakamigawa, the founder of Sanyo Railway, pursued longterm economical efficiency of the company. This could be taken effect by timely financing the business. However, it ceased to be in effect by depression in 1890. Then opposition occurred between stockholders and management over its policies. As a result, Nakamigawa retired from the management and Jutaro Matsumoto undertook the presidency, even though the management concept of Sanyo Railway remained unchanged. The reasons why the concept remained unchanged were because the managers had an affinity toward Nakamigawa. The chief manager at that time was Takuzo Usiba. Because of this I reviewed the career and life history of Usiba, searching for the management characteristics of the Sanyo Railway Company.
著者
吉田 忠彦 桜井 政成
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.313-325, 2004-03-25

従来のボランティアコーディネート理論,ボランティアマネジメント理論について批判的に考察を行った。次に,それらの理論の限界を克服し,新たなボランティアマネジメント・モデルの構築を図るために,戦略的人的資源管理論(SHRM)の適用可能性について論じた。SHRMを適用させた新たなボランティアマネジメント・モデルによって,NPOはその活動において競争優位を得ることができると考える。ここで提示した諸仮説の検証が今後の課題である。
著者
小西 幸男
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.193-216, 2006-03-31

EUは加盟国により構成され,EUの環境政策は環境法を通じて加盟国の国内法へと浸透していく。しかし,各加盟国は独立した国であり,それぞれにおいて国内の政策および法体系によって環境政策および行政を行っていることとEUの環境法政策は詳細の実施を各加盟国の裁量に委ねていることから複層に絡み合う二つの環境法政策の間には整合性の問題が存在する。EUの環境政策における整合性がどのように図られるかを解明することによって,EUの目指す環境法政策とはどういったものであるがより明確になるであろう。本論文ではドイツにおける容器包装例の国内施行例がEU環境法に照らし実施されたにもかかわらず,EUから違反事例であると指摘を受けた事件を考察することで,整合性の問題点を検証する。
著者
小林 磨美
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.97-107, 2006-11

[概要] 企業価値を殿損するような買収に対する防衛策として, 第三者割当増資を考察する。被買収企業の実質的な支配権を有する大株主が存在する場合, これに第三者割当増資で多くの新株を付与するほど買収を阻止しやすい。ただし希薄化から小株主を保護するためには増資する株式数には上限が必要である。その上限のもとで大株主に付与する新株数が決められるならば, 被買収企業の株式所有が大株主に集中しているほど第三者割当増資の買収防衛策としての効果が高くなる。 [Abstract] This paper considers the role of allocation of new shares to a third party (daisansha wariate zousi in Japanese) in takeover contests. If a large shareholder owns a substantial quantity of shares in a target firm , allocating newly issued shares to the large shareholder can discourage value—decreasing takeovers . However, in order to protect dispersed small shareholders from dilution, we need to set an upper limit on the number of newly issued shares. As long as the takeover defense is adopted to protect all existing shareholders, takeovers are less likely to target firms with higher ownership concentration.
著者
中井 大介
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.249-272, 2008-03

ヘンリー・シジウィックは,ベンサムやJ.S.ミルに続く「功利主義の伝統の直接的系譜にある最後の哲学者」として知られている。彼の『倫理学の諸方法』についてはこれまでに多くの研究がなされているが,『経済学原理』,『政治学要論』およびこれら著作の相互関係については十分検討されていないのが現状である。本稿の目的は,以上の三著作を通じてシジウィックの功利主義を考察すること,さらには倫理学・経済学・政治学から構成されるシジウィックの哲学体系のパースペクティブを描くことである。
著者
興津 裕康
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.95-105, 2004-04-25

本稿は,会計教育の観点から企業会計原則を考えようとするものである。企業会計原則を遠い昔の遺物と考えている人もいれば,未だ大きな存在意義を持っているとみている人もいる。企業会計原則それ自体は,大きく変わる経済的環境に十分対応できなくなり,その結果,国際会計基準などを考慮して多くの会計基準が公表されている。しかしながら,わが国の会計学,会計制度,会計教育の近代化は,企業会計原則に由来しているということを事実として受け止めなければならない。たしかに,会計基準が多く公表されている現在,会計基準が企業会計原則にみる処理基準に代わって機能している一面がみられる。しかしながら,あくまでも,企業会計原則にみる考え方を否定するものではない。たとえ,新しい会計基準が出てきても,会計教育のエッセンスは,この企業会計原則から出ているということができる。