著者
大江 夏子 田原 誠 山下 裕樹 丸谷 優 蔵之内 利和
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.169-177, 2004-12-01
参考文献数
25
被引用文献数
6 3

蒸切干し用に開発されるサツマイモ新品種の不正使用や海外流出に対抗する手段を確立するため,加工品である蒸切干し製品から,その原料となった品種を,DNAの多型を基に高精度に判定する技術を開発することとした.転移因子であるレトロトランスポゾンは,植物のゲノムに多数の複製配列が散在している.サツマイモのレトロトランスポゾンRtsp-1のゲノム挿入部位を,葉から抽出したDNAを用い,蒸切干し用新品種候補を含む12品種についてS-SAP(Sequence-Specific Amplification Polymorphism)法により分析した結果,多数の複製配列の挿入と挿入部位の品種間の多型が検出された。品種間で違いが見られたRtsp-1挿入部位の塩基配列を調べ,挿入を受けた宿主側の配列とRtsp-1の末端反復配列間のPCRによって,それぞれの品種について様々な挿入部位における挿入の有無を調べた.その結果,最少5ヵ所の挿入部位のPCRにより,上記12品種の区別が可能であった.蒸切干しイモのDNAは,イオン交換樹脂カラムを用いて抽出することができたが,加工による断片化が進んでいた.断片化した蒸切干しイモのDNAを鋳型にしたPCRにおいても,明瞭な結果が得られ,原料品種の識別が可能であった.染色体の特定部位におけるレトロトランスポゾン挿入の品種間多型をPCRにより判定し品種識別を行う方法は,DNAが断片化した加工品の分析に適する,再現性が高く操作が容易,マーカー数の確保が容易などの利点があり,高次倍数性の作物や加工品などにおける優れた品種識別マーカーとなる.
著者
新村 和則 金川 寛 三上 隆司 福森 武
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.87-94, 2005-06-01
被引用文献数
8 9

本研究では日本国内で栽培されている水稲うるち品種の中から, 作付け面積の約99%のシェアを有する130品種(好適酒造品種は12品種)を供試品種とし, これらの品種をすべて判別できるマルチプレックスPCRプライマーセットの開発を試みた.供試した原種または原々種について, 供試品種間での多型DNA断片の塩基配列を決定し, 15組のSTS(Sequence Tagged Sites)化プライマーを設計した.これらのプライマーを1組ずつ用いて130品種それぞれについてPCRを行ない, 品種特有のバンドについて確認した.設計した15組のプライマーが互いに干渉しないよう塩基配列やプライマーの組み合わせ, PCR条件などを検討し4セットに集約した.マルチプレックスPCRを行ない, すべての品種を判別できることを確認した.次に, 複数の都道府県で栽培されている12品種を用いて, 「コシヒカリ」, 「ひとめぼれ」, 「ヒノヒカリ」, 「あきたこまち」, 「キヌヒカリ」, 「日本晴」, 「ササニシキ」, 「ハナエチゼン」, 「祭り晴」, 「あさひの夢」について, これら4つのマルチプレックスPCRプライマーセットを用いてPCRを行ない, それぞれの品種において品種内変異が生じないことを確認した.以上の結果から, 本研究に用いたマルチプレックスPCRプライマーセットは, 日本国内で栽培されているイネの品種判別に有効であると考えられる.
著者
西村 実 梶 亮太 小川 紹文
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-22, 2000-03-01
被引用文献数
5

本研究は日本国内の多数の水稲新旧品種を用いて普通期栽培に加えて早期栽培を行うことにより高温環境を設定し, それによって登熟期の高温が玄米の品質に及ぼす影響の品種間差異について検討したものである.良質米率および千粒重はほとんどの品種において早期栽培(高温区)で普通期栽培(対照区)より低い値を示した.良質米率の低下要因の多くは乳白米, 背白米および基白米の多発であった.北陸地域で近年育成された品種のほとんどは, 早期の高温環境においても良質米率が低下しにくい傾向にあることが明らかとなった.これらの品種はコシヒカリ, 越路早生, フクヒカリ, フクホナミ, ゆきの精等であり, いずれもコシヒカリと類縁関係にあるものであった.これは北陸地域における品種の登熟期が7月後半から8月前半の高温期にあたり, その中で品種育成が行われ, 必然的に玄米品質に関して高温耐性の高い遺伝子型が選抜されてきたことによるものと考えられた.旧品種および北陸以外の地域で育成された新品種では, 高温環境で玄米品質が劣化し易いものと劣化し難いものが混在していた.以上のように, 出穂後の高温によって玄米品質が低下する傾向にあり, また, 玄米品質の高温ストレス耐性は, 遺伝的制御を受けているとみられ, コシヒカリの近縁品種で高いことが明らかとなった.
著者
山本 俊哉 持田 耕平 今井 剛 土師 岳 八重垣 英明 山口 正己 松田 長生 荻原 勲
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, 2003-03-01

17種類のマーカーを用いて,交雑育種で育成されたモモ9品種,枝変わり2品種,偶発実生由来5品種の合計16の日本のモモ栽培品種の親子鑑定を行った.交雑育種により育成された9品種では,すべてのSSR座において親の対立遺伝子が矛盾なく子供に伝達されていたことから,親子の関係が確認された.枝変わり品種の「暁星」は,原品種の「あかつき」と全く同じ遺伝子型を示したことから,枝変わりであることが示唆された.一方,枝変わり品種とされる「日川白鳳」では,原品種の「白鳳」と比較して,12ヶ所のSSR座で異なる遺伝子型を示した.このことから「日川白鳳」は「白鳳」の枝変わりではないことが明らかとなった.偶発実生由来と考えられている4品種「阿部白桃」,「川中島白桃」,「高陽白桃」,「清水白桃」では,各SSR座で推定親の「白桃」の対立遺伝子の一方を持っていた.これらの結果から,この4品種は,枝変わりではなく,「白桃」の子供であることが示唆された.以上のことから,SSRマーカーは,限られた遺伝資源に由来しているとされる日本の栽培モモ品種の親子鑑定に有効に利用することができた.
著者
石川 貴之 石坂 宏
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, 2002-03-01

Alstroemeria ligtu L. hybrid(LH, 2n=2X=16), A. pelegrina L. var. rosea(PR, 2n=2X=16)およびそれらの雑種(2n=2X=16,3X=24,4X=32)について,花粉母細胞の染色体対合とギムザCバンドパターンを調査した.LHおよびPRの花粉母細胞減数分裂の第一中期における染色体の平均対合数は,それぞれ0.04I+7.98IIと0.08I+7.96IIであった.花粉母細胞は正常に分裂し,それぞれ98.4%,94.9%と高い花粉稔性を示し,自家受粉により成熟種子を形成した.LH×PR(2n=16)の花粉母細胞の第一中期における二価染色体対合頻度は低く,平均対合数は11.18I+2.41IIであった.この雑種では,花粉母細胞の第一後期,第二後期および小胞子の一核期初期において,高頻度で染色体橋や小核が観察され,0.6%の低い花粉稔性を示し,自家受粉および両親種への戻し交雑により成熟種子を形成しなかった.一方,LH×PRの複二倍体(2n=32)の花粉母細胞の第一中期における二価染色体対合頻度は高く,平均対合数はO.82I+15.59IIであった.この複二倍体の花粉母細胞は正常に分裂し,86.3%と高い花粉稔性を示した.自家受粉により成熟種子は形成されなかったが,LHとの正逆交雑により成熟種子が形成された.また,二基三倍体(2n=24, LH×複二倍体およびPR×複二倍体)の花粉母細胞の第一中期における染色体の平均対合数は,それぞれ8.24I+7.85II+0.02IIIと8.58I+7.66II+0.03IIIであった.これらは花粉母細胞の第一後期,第二後期および小胞子の一核期初期において,高頻度で染色体橋や小核が観察され,それぞれ14.8%と13.0%の花粉稔性を示した.自家受粉により成熟種子は形成されなかったが,LHにLH×複二倍体による二基三倍体を交雑した場合のみ成熟種子が形成された.ギムザCバンド法により,LHでは花粉母細胞減数分裂の第一中期の8本中7本の二価染色体,第一後期の8組中7組の染色体からCバンドが観察されたが,PRでは観察されなかった.これらのCバンドを有する染色体は,種間雑種,複二倍体および二基三倍体でも認められた.