著者
杉浦 直樹 辻 孝子 藤井 潔 加藤 恭宏 坂 紀邦 遠山 孝通 早野 由里子 井澤 敏彦
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.143-148, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
9
被引用文献数
24 28

水稲新品種育成のために開発されたイネ縞葉枯病および穂いもち抵抗性マーカーを利用した連続戻し交雑法により,両抵抗性を付与したコシヒカリ準同質遺伝子系統の作出を行い,連続戻し交雑育種におけるDNAマーカーの有効性の検証を試みた.従来から用いられている両抵抗性の生物検定に替えてDNAマーカーを用いることにより,外的要因の影響を受けることなく,精度の高い抵抗性個体の選抜が可能となり,効率的な連続戻し交配を進めることができた.また,共優性マーカーを用いることにより,抵抗性ホモ個体を確実に選抜でき,有望系統の早期固定につながった.作出した準同質遺伝子系統「コシヒカリ愛知SBL」はイネ縞葉枯病および穂いもちに対する抵抗性を有し,かつ,他の諸形質はコシヒカリと同等であった.DNAマーカーを取り入れた育種法により,育種年限の短縮・効率化,並びに確実な抵抗性の導入が両立でき,マーカー選抜育種の有効性を実証できた.
著者
小泉 一愉 今村 智弘 高野 裕二 松江 登久 島田 浩章
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.53-57, 2003-06-01

動物の骨組織や酵母細胞を効率的に破砕する方法としてこれまでに密閉容器を用いたセルミル法が開発されている。この方法では、破砕したい細胞組織をステンレス塊(クラッシャー)と一緒に密閉容器に封入し、これを手動で激しく振とうすることによって植物組織が磨砕され、それによって細胞は粉砕される。しかしながら、この方法では、室温で操作を行なうため、細胞内に含まれるDNaseやRNaseなどの夾雑物の影響は避けられない。また、この方法をそのままイネ組織の破砕に準用した場合、植物組織に含まれる様々な繊維状物質やシリカ化合物による強固な細胞構造のために、十分な破砕効果が得られない。そこで、破砕した植物組織から純度の高いDNA、RNAあるいはタンパク質を得るために、これらの分解が少ない液体窒素条件の超低温での細胞破砕を可能にする器具の開発とこれを用いた新規な細胞破砕法の確立を試みた。ここでは、超低温条件下での植物細胞破砕を可能にしたクールミルの開発について報告する。
著者
太郎良 和彦 伊礼 彩夏 玉城 盛俊 河野 伸二 安田 慶次 正田 守幸 浦崎 直也 松村 英生
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.18J08, (Released:2018-10-23)
被引用文献数
1 1

パパイヤ奇形葉モザイクウイルス(Papaya leaf distortion mosaic virus: PLDMV)抵抗性を持つ属間雑種個体(パパイヤCarica papaya × Vasconcellea cundinamarcensis)にパパイヤを戻し交雑し,胚培養による戻し交雑個体の作出を試みた.戻し交雑後180~210日に供試した5,762の種子から,胚を持つ45の種子が得られ,最終的に32個体の再生植物体が得られた.PCRによって,性染色体型を調査した結果,32個体の内,19個体に戻し交雑親のY染色体の保有が確認できたことから,戻し交雑個体であることが確認できた.全ての戻し交雑個体は,母本として用いた属間雑種の性染色体を持っていたことから,非還元配偶子が形成されている可能性が示唆された.戻し交雑個体のPLDMV抵抗性を評価するため,PLDMVの人工接種を行った結果,66%がPLDMVに対して全く病徴を示さない抵抗性であった.残りの戻し交雑個体は,接種上位葉に壊疽斑点を生じたが,PLDMVの拡大を妨げた.従って,戻し交雑個体は全てPLDMVに対して抵抗性を有していた.これらの戻し交雑個体は,沖縄県で問題となっているPLDMVへのパパイヤ抵抗性品種育成において有望な育種素材と考えられる.
著者
川頭 洋一 冨士山 龍伊 畠山 勝徳 松元 哲
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.77-84, 2017-06-01 (Released:2017-07-05)
参考文献数
24

日本において遺伝子組換えレタス(Lactuca sativa L.)の生物多様性影響評価を実施する場合,交雑性評価の対象となる在来近縁種として,L. indica(アキノノゲシ),L. raddeana(ヤマニガナ),L. sibirica(エゾムラサキニガナ),L. sororia(ムラサキニガナ),L. triangulata(ミヤマアキノノゲシ)の5種が知られている.本研究ではまず,これら5種とレタスとの雑種個体を判別することが可能なDNAマーカーを開発するため,既報のEST-SSRマーカーを利用して,各近縁種とレタスの間で多型のあるSSRマーカーをスクリーニングした.次に,交雑性については,L. indicaとL. raddeanaはレタスと交雑しないことが報告されていることから,報告のない3種(L. sibirica,L. sororia,L. triangulata)について,交雑実験によりレタスとの交雑性を評価した.その結果,L. sororiaとL. triangulataについてはレタスとの雑種個体は得られなかった.一方,L. sibiricaについてはレタスとの交配により雑種種子が得られることが明らかになった.しかし雑種個体はいずれも発芽後生長を停止した.以上の結果より,日本の自然界においてレタスと在来近縁種との交雑は起こらないか,雑種個体が得られても定着しないと考えられた.
著者
杉本 和彦 米丸 淳一 坂井 寛章 川原 善浩 鐘ケ江 弘美
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.25.W05, (Released:2023-03-25)

気候変動及び様々なニーズに対応した育種を効率化・加速化するために,データに基づいたスマート育種の育種現場への実装が期待されている.現在,スマート育種を育種現場に実装するための取組みとして,農林水産省においてスマート育種に関する委託プロジェクト(「次世代育種・健康増進プロジェクト」のうち民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発,平成30年~令和5年)が実施されている.本ワークショップでは,当該プロジェクトを構成する2つの研究課題である「育種ビッグデータの整備及び情報解析技術を活用した高度育種システムの開発」(略称:BAC)及び「民間事業者,地方公設試等の種苗開発を支える育種基盤技術の開発」(略称:DIT)について概要を紹介し,当該プロジェクトの予算で開発を行っている3種の育種ツール,育種情報の集約・解析支援を行う育種情報管理支援システム「BRIMASS」,育種の家系図情報を表示する系譜情報グラフデータベース「Pedigree Finder」及び有用遺伝子の品種間多型情報を整理した有用遺伝子カタログと可視化ツール「アリルグラフ」について説明する.また,3種の育種ツールについてはPCを使った実習も合わせて行う.
著者
平野 清 杉山 智子 小杉 明子 仁王 以智夫 浅井 辰夫 中井 弘和
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-12, 2001-03-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
23
被引用文献数
6 5

本研究は, 自然農法および対照の慣行農法水田における在来系統を含むイネ4品種の生育と根面および根内の窒素固定菌の動態との関係について解析した. その結果, 自然および慣行農法における, イネ品種の生育にともなう根面および根内の窒素固定菌の推移は, イネ植物体の窒素含量増加および乾物重増加の推移と密接な関係があった. すなわち, 生育初期 (移植-最高分げつ) に窒素固定菌が多くなる品種は生育初期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高く, 生育後期 (出穂-登熟) に窒素固定菌が多くなる品種は生育後期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高くなる傾向を示した. また, 全体的に, 自然農法におけるイネ品種の窒素固定菌数が慣行農法より多い傾向が認められた. 特に, 自然農法において, 生育後期に相対的に窒素固定菌数が多くなる品種は, 慣行農法と同程度の籾収量が得られたことは注目に値する. このことは, 自然農法でより高い収量性を確保するためには, 生育後期に窒素固定菌数が多くなるタイプの品種を採用することが有効であることを示唆している. 本研究で用いた日本在来系統であるJ195は, 自然農法における生育後期の窒素固定菌数が多く, 収量も高かったことから, 自然農法あるいはこれに類する持続可能型農業で高収量を得る品種育成の有用な育種材料になり得ることが示唆された.
著者
小林 麻子 清水 豊弘 冨田 桂 林 猛 田野井 真 町田 芳恵 中岡 史裕 酒井 究 渡辺 和夫 両角 悠作
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.138-143, 2018
被引用文献数
4

福井県内の生産者や流通業者から高く売れる米への要望が高まっていた。さらに,地球規模での気候変動の影響で,福井県でも高温登熟による玄米外観品質の低下が懸念されていた。寒冷地南部における「コシヒカリ」の高湿登熟耐性は"やや弱"とされており,高温登熟下でも玄米外観品質が安定して良好な品種が求められていた。以上のような状況を背景として,育成地では,福井県の新たなブランド米となりうる良食味で高温登熟耐性に優れる「ポストこしひかり」品種の開発を行ってきた。
著者
高津 康正 眞部 徹 霞 正一 山田 哲也 青木 隆治 井上 栄一 森中 洋一 丸橋 亘 林 幹夫
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.87-94, 2002-06-01
参考文献数
17
被引用文献数
1

21種のグラジオラス野生種について特性調査および育種素材としての評価を行ったところ,草丈,葉数,葉・花の形態,小花数および開花期等には種によって大きな違いがみられた.また草丈が10cm程度で鉢物に利用可能なもの,現在の栽培種にはみられない青色の花被片を有するものなど,育種素材として有望な野生種が見出された.香りを有する種は全体の52.3%を占め,香りのタイプもチョウジ様,スミレ様などさまざまであることが示された.さらにこれらの野生種について到花日数,小花の開花期間,稔実日数および1さや当たりの種子数を調査し育種上重要な情報を得ることができた.フローサイトメトリーによる解析の結果,野生種においては細胞あたりのDNA含量が多様で,種によってイネの0.9〜3.5倍のゲノムサイズを有するものと推定された.本法による倍数性の判定は困難であるが,種の組合せによっては交雑後代の雑種性の検定に利用可能であることが示唆された.
著者
坂本 知昭 片山(池上) 礼子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-19, 2019-06-01 (Released:2019-06-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

サツマイモ「兼六」は塊根にβ-カロテンを含む特徴がある良食味品種で,1930年代に石川県農事試験場で選抜された.苗条および塊根の形態的特徴が「安納いも」のそれらと酷似していたため,「安納いも」5品種・系統と「兼六」の比較を試みた.「兼六」,「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の成葉はいずれも波・歯状心臓形で,新梢頂葉にはアントシアニンが蓄積し紫色を呈していたが,「安納イモ1」の成葉は複欠刻深裂で頂葉は緑色だった.「兼六」,「安納3号」,「安納紅」の塊根皮色は紅であったのに対し「安納イモ4」と「安納こがね」は白であったが,これら5品種・系統の塊根にはβ-カロテンの蓄積が認められた.一方「安納イモ1」の塊根皮色は赤紫で条溝が多かったほか塊根にβ-カロテンは含まれていなかった.27の識別断片を用いたCleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法によるDNA品種識別では「兼六」と「兼六」を交配親に作出された「泉13号」および「クリマサリ」さらにその後代品種「ベニアズマ」の識別はできたものの,「兼六」と「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の識別はできなかった.45の識別断片を用いたRandom Amplified Polymorphic DNA(RAPD)法によるDNA品種識別では「兼六」と「泉13号」,「クリマサリ」,「ベニアズマ」だけでなく「安納イモ4」および「安納こがね」の識別も可能となったが,「兼六」と「安納3号」,「安納紅」の識別はできなかった.以上の結果と「安納いも」が戦後の種子島で見出された在来系統であった経緯を考え合わせると,「安納いも」のルーツはかつて全国に普及していたとされる「兼六」ではないかと結論づけられた.