著者
東井 正美
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.619-635, 2004-11-11

『資本論』第3部第10章「競争による一般的利潤率の均等化。市場価格と市場価値。超過利潤」は、マルクスの草稿が未完成なものであったせいか、十分整理されたものとはいわれがたく、極めて難解な章として知られている。とりわけ、この章の大部分を占めている市場価値論に関して、叙述の順序も前後しているせいか、理解に苦しむ点が少なくない。したがって、市場価値論に関してこれまで種々論議されてきた。主たる論議の的は、市場価値規定に関するものである。すなわち、市場価値が諸商品の総個別的価値の算術加重平均として決定されるという「加重平均規定」と、大量商品の個別的価値によって決定されるという「大量支配的規定」のいずれが「市場価値の正当な規定」なのかという問題であり、もうひとつは「不明瞭の箇所」とか、「曖昧な箇所」とか呼ばれている箇所で、需給関係が市場価格の市場価値からの偏差を説明するとしながらも、需給関係が市場価値の決定に関与すると述べられてあることをどのように理解すべきかという問題である。わたしもこれらの問題についてこれまで試行錯誤を繰り返しながら解明に努めてきた。本稿で、わたしのこれまの理解を総括することにした。
著者
植村 邦彦
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.17-33, 2010-03

英語の〈civil society〉は、16世紀末から使われ始めた言葉である。日本語では通常「市民社会」と訳されているが、この言葉は本来アリストテレス『政治学』における「国家共同体」の訳語として英語に導入されたものであり、17世紀のホッブズとロックにいたるまで、この意味で使われた。この言葉の前史と初出時の語義を確認することが、本稿の課題である。
著者
松本 茂
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-43, 2003-06-15

本論文の目的は、家電リサイクル法の不法投棄データを用いてコミュニティーの自主施行力を評価することである。この目的のために、論文では、以下の3つの分析を行った。第1に、不法投棄水準の地域差を産み出す要因をCount Data Model によって検証した。第2に、再びCount Data Model を利用し、社会資本が不法投棄水準に及ぼす影響について考察した。以上2つの分析の結果、失業率が低く、外国人の居住割合が低く、持ち家比率が高く、帰属意識が高い自治体ほど、不法投棄の水準が低いことが示された。第3の分析として、家電リサイクル法の施行前後の不法投棄水準をProbit Model によって比較し、家電リサイクル法の効果について検証した。分析の結果、持ち家比率が低く、選挙の投票率が低い自治体では家電リサイクル法施行前から不法投棄の水準が高かったが、法施行後その状況が更に悪化しでいることが示された。
著者
橋本 恭之
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.421-432, 2004-11-11

本稿では、政府の財政収支を考慮した形で世代重複モデルを構築し、シミュレーション分析をおこなうことで、ケインズ的な政策が有効か否かを検証することにした。分析の結果、景気対策としての減税政策は、減税先行期間において1人あたりの消費を多少は引き上げることができるが、経済破綻を近い将来に生じさせてしまうことがわかった。また、先行減税と歳出削減の組み合わせも、日本経済の破綻を多少延期できるのにすぎず、経済の破綻を回避するためには、増税による財政再建が必要であることがわかった。また、増税による財政再建は、各世代に深刻な利害対立を発生させることもわかった。
著者
松下 敬一郎
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.135-148, 2006-09-20

近年の日本の少子化においては、子供をもたない女子人口割合の増加が顕著にみられ、4人ないし5人に1人の女子が無子を選択している。本論では、子供をもたないことが選択される端点解が最適となるモデルを用いて、子供の養育費用が増加することにより端点を選択する割合が増加することを示している。さらに、実証研究のための含意として、端点においては子供の養育に対する補助の効果が小さいこと、経済的に自立している場合には子供をもたないことが資産所有者の資産分布に与える影響は小さいこと、子供の需要増加に結びつかない結婚の奨励は離婚を奨励することになる可能性があること、資産継承は子供の需要増加に結びついており少子化を減速させることを指摘している。
著者
谷田 則幸 大東 正虎
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-18, 2007-06

2004年に発生した中越地震において、被災状況の確認と被災者の発見は、非常に困難であった。電話網(有線、携帯)が不通状態になったことと、それに伴う政府の対応策も後手に廻ったことが主な原因と考えられる。こうした問題を解決するために総務省では、大規模地震が発生したときに上空から小型のセンサを多数散布することで情報収集を行うことが計画されている。しかし、どのような機器が採用されるかは現時点では公表されていない。我々は、電波の送受信が可能なアクティブ型ICタグを活用すれば、こうした計画が実現できると考える。本稿では、震災被災者を発見するためにアクティブ型ICタグをヘリコプターによって上空から散布した場合の位置特定手法の提案と考察を行う。電波の送受信が可能なアクティブ型ICタグは、通信手段が何も無い場所において、簡易なネットワークを自律的に形成することができる。また、温度などが感知できるセンサを付けることで、被災者の存在を確認することができる。また、測量方法のひとつである三辺測量を位置特定アルゴリズムとして採用し、被災者の位置特定を行う。三辺測量において搭要な距離情報は、ICタグが発信する電波の到達時間を距離に換算することで、測量が可能となる。被災者のいる位置は、ランダムに散布されたICタグを使って、位置が特定されたICタグ3個を利用して任意の1点を特定し、三辺測量を繰返しながら特定される。上述のようなICタグの散布、被災者の位置特定等に関してマルチエージェント・シミュレーションを実施し、その結果を考察する。