著者
伊藤 海斗 加嶋 健司
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.269-278, 2021-04-01

動的な現象をモデル化する際に,それが内包する確率的不確かさを適切にモデルに組み込むことは重要である.特に近年では,突風による風力発電量の急激な変動など,システムに大きな影響を与えるレアイベントを考慮した不確かさのモデリング・解析手法がますます求められている.動的システムにおける確率的不確かさを表現するのに最も用いられるのは,ガウス型の雑音であり,解析的な扱いやすさという大きな利点をもつ一方で,裾が急速に減衰するガウス分布では外れ値を表現することができない.そこで本稿ではレアイベントモデリングが可能,かつ,動的システムでの解析的扱いやすさを併せもつ,安定分布を利用したモデリング手法を解説する.また本枠組みの応用例として,等価線形化による非線形システム解析,動的システムにおけるプライバシー保護を紹介する.
著者
花岡 悟一郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_21-1_31, 2009-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
25

本稿では,実用的な公開鍵暗号方式に求められる安全性の概念であるCCA 安全性(選択暗号文攻撃に対する識別不可性)について紹介し,それを達成するための方法論を紹介する.特に,CCA 安全な公開鍵暗号を設計する上での具体的な技術的な障害を明らかにし,そのような障害が過去にどのように乗り越えてこられてきたかをできるだけ系統立てて紹介する.
著者
ラナンテ レオナルド Jr. 長尾 勇平 尾知 博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.124-132, 2019-10-01 (Released:2019-10-01)
参考文献数
16

本稿では,IEEE主導の802.11委員会によって策定されている無線LAN国際規格IEEE802.11の標準化作業の手順や最近の規格動向について概説する.同規格では,最新の11ac改訂でダウンリンクマルチユーザ技術が導入され,もうすぐ標準化作業が完了する11ax改訂でOFDMA技術によるアップリンクマルチユーザ高効率通信が可能となる.筆者らは,それらの規格改訂において計3件(11ac改訂で2件,11ax改訂で1件)の技術提案が採択された経験を有している.また,次世代測位規格11azや次世代超高速通信規格11beなどの最新の標準化動向についても紹介する.
著者
守谷 健弘 鎌本 優 原田 登 杉浦 亮介
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.246-256, 2017-04-01 (Released:2017-04-01)
参考文献数
87

多様な信号処理の全般で重要な役割を果たしている線形予測分析技術の利用の観点で,音声音響符号化技術の進展を紹介する.開発当初から線形予測分析による合成フィルタは音声生成の声道モデルと親和性が高く,音声合成や電話音声に特化した音声符号化で広く使われてきた.一方,現在普及している典型的な音響符号化には線形予測符号化技術が使われていないが,低ビットレート化,音声音響統合符号化の要請に合わせて,スペクトル包絡を効率的に表現する手法として広く使われるようになった.これらの経緯を説明し,あわせて最近実用段階にあるロスレス音響符号化MPEG-4 ALS,携帯電話用の符号化3GPP EVS について紹介する.
著者
内田 理 宇津 圭祐
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.301-311, 2020-04-01 (Released:2020-04-01)
参考文献数
89
被引用文献数
7

災害時に被害を最小限に食い止めるためには,迅速,かつ的確な災害関連情報の収集,発信,共有が重要であり,そのような観点から,災害時のソーシャルメディア利用に注目が集まっている.近年では,災害関連情報の発信や収集にソーシャルメディアを利用している,若しくは利用を検討している行政機関も増えている.一方で,災害時にはソーシャルメディアの投稿数は爆発的に増加するため,必要な情報が埋もれてしまったり,デマや不正確な情報が広く拡散してしまうなどの問題点も指摘されている.本稿では,災害時のソーシャルメディア利用事例や関連する研究の動向を述べた後,筆者たちが実施した災害時のTwitter利活用に関する研究の一部を紹介する.
著者
渡辺 峻
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.38-50, 2013-07-01 (Released:2013-07-01)
参考文献数
46

本稿では,情報理論的に安全な秘密鍵共有とそれに関連するトピックについて概説する.まず,秘密鍵共有のモデルについて説明した後,鍵共有プロトコルが情報整合と秘匿増強と呼ばれる二つのステップから成ることを説明し,幾つかの安全性基準を紹介する.その後,情報整合の手段としてSlepian-Wolf 符号化と呼ばれるデータ圧縮法について説明する.次に,従来広く使われていた秘匿増強の方法について述べる.特に,その方法によって生成された秘密鍵は弱い安全性を満たすものの,その他の安全性基準は満たさないことを説明する.そして弱い安全性基準以外の基準を満足するにはどのように秘匿増強を行えばよいか説明する.更に,Slepian-Wolf 符号化と秘匿増強の一般化として,多端子情報源符号化問題と多端子乱数生成問題について説明する.これらの応用として,3者以上の正規ユーザ間での秘密鍵共有と秘匿関数計算について紹介する.
著者
植松 友彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.123-128, 2010-10-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
62

シャノンによる情報通信のマグナカルタ “A mathematical theory of communication” が発表されてから60年以上を経た.本稿では,シャノンが最初に創造した情報理論の枠組みについて解説した後,いつだれによって基本定理の厳密な証明がなされたか,並びに情報理論がどのような発展の経路をたどってシャノンの後にどこまで到達したかについて解説している.
著者
坂東 幸浩
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.186-196, 2014-01-01 (Released:2014-01-01)
参考文献数
37

近年,映像の高精細化・モバイル端末の高性能化により,映像トラヒックが爆発的に増大している.増大する映像トラヒックに対する効率的な伝送・蓄積のために,高効率な映像符号化が求められている.しかし,H.264/AVC に代表される現行の符号化方式は成熟期を迎えており,今後,大きな符号化性能の向上が期待できない.そこで,こうしたニーズの高まりを受け,ISO/IEC 及びITU-T により,映像符号化に関する最新の国際規格High Efficiency Video Coding (HEVC) が策定された.本稿では,HEVC について,標準化の経緯を概観し,H.264/AVC からHEVC に至る発展の中で導入された新技術を紹介する.新技術の紹介では,従来法(H.264/AVC) の課題,同課題を解決するためにHEVC で講じられた手段,同手段が課題を解決できる仕組みを中心に概説する.
著者
浅野 晃
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.113-122, 2010-10-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

マセマティカルモルフォロジー(以下モルフォロジー)は,画像中の図形の持つ構造を抽出するために図形を操作する演算の体系である.モルフォロジーは,完備束上での演算に拡張することにより,有界な非線形信号処理の基盤となる体系ととらえることができる.有界とは「上限や下限が存在する」という意味であり,有界な演算は,上限も下限もない線形な演算に比べ,現実の世界をより精密に表すことができる.このような有界性・非線形性は,ニューラルネットワークやファジー演算などとも共通するものである.本記事では,モルフォロジーの思想と原理を,これらとの関連にも触れながら解説する.更に,モルフォロジーに関連した,図形を「測る」研究も紹介する.
著者
白川 功
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.10-19, 2011-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

IEEE が認定する Milestones は,2010年10月現在,全世界で106件(我が国では14件)に達する.まず,我が国以外で認定されたものについては主なもの,我が国で認定されたものについては全て,のタイトルを記す.次いで,筆者がnominator として申請し,認定された関西発のイノベーション4件(①電卓の開発,②自動改札機の開発,③黒部川第4水力発電所建設,④太陽電池の商用化)について,その概略と歴史的意義について記述する.
著者
林 正人
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.4-13, 2016-07-01 (Released:2016-07-02)
参考文献数
84
被引用文献数
2 1

近年の情報理論の発展の背景には,量子情報理論の成果がある.本稿ではそのような情報理論に対する量子情報理論の影響に注目し,これまで情報理論の発展に対して量子情報理論が果たしてきた役割について解説する.これにより,近年の量子情報理論の成果がその分野内に閉じたものでないことを説明する.
著者
和田山 正 高邉 賢史
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.60-72, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
36
被引用文献数
3 4

深層学習技術は,深層ニューラルネットワークの学習に利用できるだけではなく,入出力を伴う “微分可能な反復型アルゴリズム” の内部パラメータ最適化に適用可能である.従前から知られている優れた反復型アルゴリズムを基礎として,その内部に学習可能パラメータを埋め込むことで,データに基づく学習可能性をもつ柔軟な派生アルゴリズムを構成できる.このアプローチを深層展開と呼ぶ.本稿では,線形逆問題の一つであるスパース信号再現における再現アルゴリズムを中心として,深層展開の概要とその特徴を紹介する.本稿の前半では,深層展開により導かれるスパース信号再現アルゴリズムの実例(TISTA)を紹介するとともに,深層学習に基づいて構成されたアルゴリズムで見られる収束加速について解説する.本稿の後半では,収束加速の要因となる学習後パラメータに関する理論的成果(チェビシェフステップに基づくスペクトル半径制御)について概説する.そこでは,なぜ深層展開が収束加速を与えるのか,という問いに対する一つの回答が与えられる.
著者
堀田 一弘
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.258-267, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
90
被引用文献数
1

画像認識分野では,ILSVRC2012でconvolutional neural networkが圧倒的勝利を収めて以降,大量の教師付き画像とconvolutional neural networkを用いることがデファクトスタンダードとなった.しかし,最近になり,教師なし表現学習やconvolutional neural networkとは異なる方法であるTransformerを用いた認識法が提案され,ディープラーニングに基づく画像認識は更に進展しつつある.本稿では,教師なし表現学習とTransformerを中心に最近の画像認識の研究動向を紹介する.
著者
眞田 幸俊
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.20-27, 2011-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
28

周波数選択性フェージングは移動通信システムの特性を劣化する.この対策として1950 年代からRAKE 受信方式の研究が行われ,実用化されてきた.RAKE 受信方式は広帯域信号を用いることによってマルチパスを分解し,パスダイバーシチにより特性を改善する.RAKE 受信方式はFSK,スペクトル拡散通信などのシステムへの適用が検討され,IEEE802.11 やIMT-2000 などのシステムにおいて実用化されてきた.また最近では,Ultra Wideband システムやマルチキャリヤ変調との組合せも検討されている.本稿ではRAKE 受信方式の原理及びその発展に関して概観する.