- 著者
-
菊池 亮
五十嵐 大
- 出版者
- 一般社団法人 電子情報通信学会
- 雑誌
- 電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.1, pp.12-20, 2018-07-01 (Released:2018-07-01)
- 参考文献数
- 46
データを隠したまま任意の関数を計算する秘密計算(secure computation)は,1980年代から始まった暗号技術の一大研究分野である.秘密計算を用いれば,例えば個人の病歴は秘匿しつつ健康指導を行ったり,通信内容は秘匿しつつ異常検知を行うなど,今まではプライバシーの問題や企業の秘密のために外に出すことが難しかったデータを,安全に流通させることができる.秘密計算は近年に至るまで,理論研究の発展に比べ,その社会実装は限定的であった.その大きな理由の一つはその計算速度の遅さである.「データを隠しながら計算する」という性質上,データを秘匿するオーバヘッドに加え,通常の計算機で用いるような高速なアルゴリズムを秘密計算ではそのまま用いることができず,結果として秘密計算の計算速度は非常に遅くなってしまっていたのである.しかし近年,計算機やネットワークの性能向上に加え,高速な秘密計算用のアルゴリズムの研究開発が進み,秘密計算の速度は飛躍的に向上し,今正に研究レベルから実用レベルに移ろうとしている.本稿では,この秘密計算について,なぜ秘匿したまま計算ができるのか,その原理を解説するとともに,近年に至るまでの速度向上の取組みについて紹介する.