著者
藤中 義史 松永 麻美 高橋 恵 瀬谷 恵 小野山 陽祐 岡田 真衣子 高下 敦子 大橋 祥子 増永 健 岩田 みさ子 瀧川 逸朗
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-43, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
22

在胎37,38週のEarly term児における母体患者背景,新生児期合併症,入院率について後方視的に検討した.2014年から2017年に当院で出生した正期産児(4,013例)のうち,多胎,先天異常等を除外したEary term児894例,Full term児1,695例を対象とした.結果は,Early term群で母体合併症,帝王切開(特に予定帝王切開)症例が多く,新生児期合併症は,単変量解析ではEarly term群に新生児仮死と低血糖(< 50mg/dL)が多かったが,多変量解析では低血糖のみ有意差がみられた.新生児科入院率および再入院率は“Early term”が独立したリスク因子であった.当院では予定帝王切開を主に38週台で行っているが緊急帝王切開増加リスクは許容範囲内であり(約8%),欧米の推奨するFull termよりもやや早めに設定することは妥当と考える.
著者
米山 雅人 佐久間 淳也 小瀧 曜 鷹野 真由実 長崎 澄人 大路 斐子 早田 英二郎 中田 雅彦 森田 峰人
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.142-146, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
17

胎児の頭蓋内出血は,1,000例に0.5-0.9例程度と稀な疾患である.今回,母体のビタミンK欠乏により胎児頭蓋内出血を来した一例を経験したので報告する.37歳,3妊0産.双極性感情障害のため内服加療をしていた.妊娠28週6日に精神症状の増悪に伴う摂食障害で受診し,入院管理とした.妊娠30週3日の超音波検査で左頭蓋内占拠性病変を認め,胎児MRI検査で頭蓋内出血と診断した.妊娠30週4日に胎児死亡を確認した.母体の精神状態の増悪を考慮し,全身麻酔下での帝王切開術による死産児の娩出を行った.母体血液検査で凝固能に異常値は認めなかったが,ビタミンK1,K2ともに≦0.05ng/mLとビタミンK欠乏を認め,胎児頭蓋内出血の原因と推測された.本症例のように,母体の血液検査にて凝固能に異常を認めない症例でも,胎児の出血を念頭とした管理が考慮される.また,胎児MRIは胎児頭蓋内出血の詳細の評価が可能であり,家族への病状説明や方針決定の際に有用であると考えた.
著者
会田 真衣 福間 理子 長谷川 潤一 西村 陽子 本間 千夏 佐治 正太 古谷 菜摘 美馬 康幸 倉崎 昭子 近藤 春裕 仲村 将光 鈴木 直
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.561-564, 2021 (Released:2021-12-10)
参考文献数
4

【目的】新型コロナウイルスワクチンに関する妊婦の不安,情報に関する問題を明らかにすること. 【方法】2021年6月,妊婦健診受診中の妊婦に,コロナウイルス感染症に関するアンケート調査を行った. 【結果】総回答数は284で,74%の妊婦はPCR検査を受けたいと回答し,妊婦にワクチン接種ができることを知っていたのは70%であった.実際,ワクチンを受けたいと考える妊婦は40%,受けたくない妊婦の82%は副作用を懸念していた.53%の妊婦はそれなりに情報収集していると回答し,情報源としてはテレビやWebが多かった.医療機関の情報提供は半数以上の妊婦に普通であると評価された. 【結論】コロナ禍における妊婦は感染を不安に思い,自らの抗体保有の状態を把握したいと考え,免疫獲得を希望していた.一方,ワクチンに対する不安を抱える妊婦も少なくなく,適切なテレビ,医療機関などを介した情報提供が必要である.
著者
水主川 純
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.607-609, 2021 (Released:2021-04-26)
参考文献数
10

はじめに 特定妊婦は,児童福祉法において「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されている.厚生労働省による子ども虐待予防の手引き1)では,出産の準備をしていない妊婦,こころの問題がある妊婦,経済的に困窮している妊婦などが特定妊婦の指標として挙げられている.妊娠期から適切な養育環境を確保するために特定妊婦に対する支援が行われることは,子ども虐待の発生予防の観点から重要である.本稿では産科医の立場から特定妊婦への対応と課題について概説する.
著者
山本 瑠美子 林 周作 光田 信明 石井 桂介
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.257-262, 2021 (Released:2021-09-06)
参考文献数
10

目的:分娩直前の遷延一過性徐脈または胎児徐脈(以下,直前徐脈と呼称)の新生児アシデミアに対する診断特性を明らかにし,胎児心拍数陣痛図所見の付加による診断特性の変化を検討する. 方法:当院2年間の正期産単胎症例を対象とし,分娩30分前までの直前徐脈の新生児アシデミア(臍帯血pH<7.2)に対する診断特性を算出した.さらに多変量ロジスティック回帰分析で新生児アシデミアに関連する胎児心拍数陣痛図所見を抽出し,その所見を加えた場合の診断特性も算出した. 結果:解析対象2,480例中362例に直前徐脈を認め,直前徐脈の新生児アシデミアに対する陽性的中率は17.7%だった.直前徐脈前の頻脈とレベル≧4,直前徐脈の時間≧6分と細変動減少が新生児アシデミアと関連し,これらの付加により陽性的中率は上昇した. 結語:直前徐脈の新生児アシデミアに対する陽性的中率は胎児心拍数陣痛図所見を加えることにより向上した.
著者
京谷 琢治 室月 淳 永岡 晋一 大塩 清佳
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.398-403, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
12

2014年から2019年の6年間に院内緊急輸血マニュアルに従い緊急輸血した産科12症例について後方視的に検討した.高年初産婦が3/12例(25.0%),双胎妊娠が4/12例(33.3%)など,出血のリスク因子を有する症例が多く,原因は弛緩出血が5/12例(41.7%)と最多であった.8/12例(66.7%)が夜勤帯で発生していたものの,緊急輸血決定から輸血開始までの平均時間は,RBCが11.0分,FFPが38.2分で,過去の報告と比べても短時間であった.輸血後には7/12例(58.3%)が高次施設へ搬送となっていた.本マニュアルにより可及的速やかでかつ安全に血液製剤が投与されていたが,検査技師の負担軽減など,改善すべき点もみられた.施設毎の規模や対応力は異なるため,当院と同じような背景をもつ施設から実情や取り組みが報告されることで,今後より良い指針が策定されることを期待したい.
著者
宇野 信吾 河上 祥一 川村 亮一 中野 宏俊
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.386-391, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
10

ワクチン接種前の乳幼児での百日咳罹患は重症化し易く,その感染予防対策に資するため妊婦及びその児の百日咳抗体保有状況を調査した.文書同意を得た妊婦を対象に,妊娠中,臍帯血及び出生児(1カ月齢)50組について,百日咳PT及びFHAに対する抗体価を測定した.PT及びFHAの抗体陽性率は,妊婦で40.0%及び62.0%,臍帯血で48.0%及び80.0%,児で16.3%及び34.7%.幾何平均抗体価は,妊婦で7.1及び11.2EU/mL,臍帯血で9.6及び16.9EU/mL,児で4.5及び7.0EU/mLであり,いずれも児では低値を示した.なお,各抗体価は妊婦と児の間で正の相関が認められた.本研究の対象児の抗体陽性率,幾何平均抗体価は低く,生後3カ月からの百日咳含有ワクチン接種による免疫獲得までの罹患リスクは高い.乳幼児の感染予防の観点から妊婦への百日咳含有ワクチン接種等の対策が必要である.
著者
比嘉 詠美 桃原 由二 池宮城 梢 吉田 朝秀 屋良 朝雄
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.305-308, 2020

<p> 母児間輸血症候群(FMT)は母体血液循環に胎児の血液が流入する現象である.症例は29週1日にFMTによると思われる胎児機能不全のため緊急帝王切開で出生した児である.出生時Hb 2.0g/dLと重度の貧血を認めたが,部分交換輸血により全身状態は安定した.その後動脈管開存症の治療や経腸栄養の開始などを経て,日齢6に胃破裂を発症した.新生児胃破裂のリスクとして重度の貧血が挙げられた報告はこれまでになく,FMTによる重度の貧血が他の因子とともに複合的に胃破裂発症に関与した可能性があり,考察とともに報告する.</p>