著者
前田 朋子 奈良 昇乃助 古賀 愛美 三木 希望 羽生 直史 西袋 麻里亜 西端 みどり 菅波 佑介
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.55-60, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
16

早産児をはじめとするNICU退院児のより良い神経発達のために,ファミリーセンタードケアの重要性が明らかになってきている.当院では,ファミリーセンタードケアの一環として,新病院開設に伴い,家族がより快適にNICUで過ごせるようOBD型NICUから半個室/個室型NICUへ改築を行った.病棟の変化がスタッフ,患児と家族に及ぼす影響を調査する一環として,病棟移転前後にNICUで勤務していたスタッフおよび,同時期に入院していた患児の両親に対して,アンケート調査を行った.スタッフ・両親ともに,家族が個室化により快適に過ごせるようになったという意見が多く,個室の広さや壁の高さが高くなったことにより全体的な満足度は上昇していた.一方,スタッフからは安全面を懸念する声も多くみられたため,病棟運営上注意が必要な点もあると考えられた.
著者
鈴木 夏生 古川 誠志 秦 麻理 高宮 万莉 大野 珠美 大橋 昌尚 上原 ゆり子 山田 陽子 三島 みさ子
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.206-211, 2023 (Released:2023-09-08)
参考文献数
26

2022年1月から7月までに新型コロナ感染陽性と診断された妊婦53例と出産予定日をほぼ一致させた非感染妊婦106例を抽出し症例対照研究を行い,ワクチン接種(1回以上の接種)と最終接種からの期間(3カ月以内)の感染予防に対する有効率をオッズ比から算出した.検討集団でのワクチン接種の感染予防に対する非調整の有効率は60%,最終接種から3カ月以内の非調整の有効率は57%となった.これらを年齢と仕事の有無で調整すると,ワクチン接種の有効率は59%(95%信頼区間:-6.0%〜84%),最終接種から3カ月以内の有効率は54%(-6.0%〜80%)となり,感染予防に有効である傾向は認めた.
著者
水野 克己
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.672-675, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
36

はじめに 哺乳動物であるヒトが出産したわが子を母乳で育てることは,ごく“ふつう”のことである.しかし,女性が身近で子育てをしている様子を見たり,育児にかかわったりすることなく自身の妊娠出産を迎えることが一般的となった現代では,母乳育児が“ふつう”のこととはいい難くなった.母乳には子どもをいろいろな疾病から守る作用があり,母乳の成分研究を経て,特定の母乳成分と疾病との関連についても明らかになってきている.今後,特定の母乳成分を取り出して人工乳に添加し,疾病予防につなげるというトランスレーショナルリサーチも発展していくだろう. 将来を左右する受精から2歳の誕生日までのthe first 1,000 daysは母乳栄養が望ましい(生後6カ月以降は母乳で不足する栄養を固形食で与える).これはmicrobiomeやepigeneticsの研究からも明らかになってきている.つまり,研究から得られたエビデンスは母乳育児を推奨するものであり,私たち医学者が,母親を根拠のない迷信に基づいた母乳育児の押し付けから守り,母乳育児を“ふつう”のこととして行えるようサポートすることはマストと考える. もちろん,人工栄養を選択せざるを得ない場合,人工乳を補足しなければならない場合もある.そのような場合も母親の思いを傾聴したうえで,子どもの健康を守れるよう情報提供をしなければならない.母親に情報提供する際には,母乳育児で問題となりやすいこととその対処方法を母親にわかりやすく伝えることも欠かせない.
著者
山田 星利奈 田村 賢太郎 長岡 貢秀 猪又 智実 川﨑 裕香子 牧本 優美 吉田 丈俊
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.343-347, 2021 (Released:2021-09-06)
参考文献数
8

先天性皮膚カンジダ症(congenital cutaneous candidiasis:CCC)は,超早産児では血流感染をきたし重症化するが,late preterm以降の児では皮膚症状のみで軽快する例があり,治療の適応や方法は議論を要する.症例は在胎34週6日,体重2, 358g,経腟分娩で出生し,軽度の呼吸障害があった.出生時より全身に紅斑性丘疹がみられたが次第に消退した.日齢3から呼吸状態は悪化し,右上肺野に浸潤影が出現した.入院時の胃液・胎脂培養と母体の頸管培養からCandida albicansを検出し真菌感染症を疑った.臍帯は肉眼的に黄白色斑がみられた.皮疹部のKOH検鏡で仮性菌糸を確認しCCCと診断した.血液・尿培養は陰性で,菌が直接肺に伝播したカンジダ肺炎と判断した.抗真菌薬全身投与後より呼吸状態は改善した.出生時に皮疹があれば真菌感染症を鑑別すること,CCCと診断されればlate preterm以降の児でも治療を考慮することが重要である.
著者
森 将 岸上 靖幸 伊藤 泰広 金 明 森部 真由 柴田 崇宏 稲村 達生 上野 琢史 山田 拓馬 竹田 健彦 宇野 枢 田野 翔 鈴木 徹平 小口 秀紀
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.182-188, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
23

症例は35歳,妊娠35週3日.吐血によるショックバイタルと意識障害の事前情報で当院に救急搬送された.消化管出血はなく,舌咬傷と口腔内出血がみられ,血圧182/130mmHg,尿蛋白定性は4+であった.胎児心拍数は70-100bpmと胎児徐脈を認めた.子癇による痙攣後の意識障害と,舌咬傷による口腔内出血,痙攣に伴う低酸素血症による胎児機能不全と診断した.ニカルジピン塩酸塩,硫酸マグネシウム投与後に母体循環動態,胎児心拍数は改善した.MRIではPRESの所見を認め,意識障害が遷延するため,緊急帝王切開を施行した.分娩後,意識障害,PRESの所見は改善し,血圧も安定し,術後11日目に退院となった.児は日齢18で退院となり,その後,発達に異常はみられていない.子癇では母体治療により児の状態改善も期待できるため,妊婦の意識障害では,常に子癇を鑑別に挙げることが重要である.また,舌咬傷による口腔内出血を吐血と誤診する可能性も念頭に置く必要がある.
著者
兵藤 博信
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.645-648, 2021 (Released:2021-04-26)
参考文献数
2

母体救命搬送とは 母体救命医療は,母体の緊急事態に対し救命処置を行うことであり,そこは,救急科と産婦人科が相互に乗り入れる領域である.救命処置は,急速輸血や大量輸血,血液検査や画像検査,呼吸・循環補助,緊急手術・血管内治療などであり,設備,輸血,検査,薬剤や,そして何より多科多職種にわたる人員など多くの医療資源が集中している必要があるので,高次施設でないと行うことは困難である.もともと救命救急医療を行う病院では,直ちに救命処置に移ることができるであろうが,日本では分娩は半数以上が一次施設で行われるので,必然的に救命処置のために高次施設への速やかな搬送が必要となる.これが母体救命搬送であり,地域の病院間連携や医療と行政との連携が重要である. 母体救命医療の対象疾患は妊産婦に起こった救急疾患や,産科救急疾患など多岐にわたり,予測が困難であったり,診断が困難であったり,急速に重症化したりするものが少なくなく,その搬送は一刻を争う一方で,一般の救命救急医療とは異なるため,産科のない救命救急センターからは敬遠されたり,あるいは,複数の科が連携するだけにいずれかの科が立て込んでいると受け入れが困難となったりする.地方の場合はこのような搬送先の候補となる高次施設は限定的となるので,症例が発生した時に搬送先はおのずと決まってくるが,都市部は人口が多く分娩数も多い一方で,高次施設の数も多く施設間距離がさほど遠くないため,搬送先を調整する場面が生じることとなる.調整に時間がかかることで母体の状態が悪くなり,ときに不幸な転帰が起こりうる.
著者
花木 麻衣 宮園 弥生 永藤 元道 竹内 秀輔 梶川 大悟 日高 大介 金井 雄 小畠 真奈 高田 英俊
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.43-48, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
18

分娩施設外での非計画的分娩により出生した新生児(以下,病院前出生児)の初期対応は主に救急隊が行うが,その教育体制は未だ確立していない.救急隊への周産期救急教育の課題を見出すことを目的に本研究を行った.2008年1月〜2018年12月の11年間で,救急隊による初期対応を受け当院に搬送された病院前出生児は40例であった.救急隊の分娩立ち会いは23例(57.0%)で,出生時の処置は32例(80.0%)がルーチンケアのみであったが,5例で人工呼吸を要し,そのうち1例では胸骨圧迫も要した.アプガースコアの採点は16例(40.0%)にとどまり,児の状態把握が不十分である可能性が示唆された.児の異常所見では体温36.0℃未満の低体温が最も多く24例(60.0%)に認め,保温方法にも課題が残ると考えられた.救急隊が周産期救急に関連した講習会を受ける機会は増えており,これらの課題に重点を置き,より実践的なシミュレーション教育を行うことが望まれる.
著者
信正 智輝 池田 真規子 黄 彩実 別宮 史子 白神 碧 松井 克憲 高石 侑 増田 望穂 松尾 精記 安堂 有希子 佐藤 浩 田口 奈緒 廣瀬 雅哉
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.282-288, 2022 (Released:2022-09-09)
参考文献数
20

[目的]セプラフィルム®の帝王切開術における癒着防止効果を前方視的に検討した. [方法]初回帝王切開術を当科で施行し,今回2回目の帝王切開術を予定している症例を対象とした.臨床背景,癒着の程度,および母児の転帰をセプラフィルム®使用群と非使用群で比較検討した. [結果]初回,2回目とも当科で帝王切開術を施行した136例から,初回帝王切開術を妊娠32週未満に実施した14例と今回の帝王切開術で術中の癒着評価記録が行われなかった4例を除く118例を解析対象とした.解析対象の118例を初回帝王切開術時セプラフィルム®使用群(46例)と非使用群(72例)で比較検討した.セプラフィルム®使用群で大網-腹壁間,あるいは子宮-大網間に2度以上の癒着を有するものは有意に少なかった.執刀-児娩出時間,総手術時間,術中出血量,臍帯動脈血pHに差は認めなかった. [結論]セプラフィルム®による大網が関連する中等度以上の癒着を抑制する効果を認めたが,母児の臨床転帰に差は認めなかった.
著者
安藤 里沙 片岡 宙門 五十嵐 冬華 今泉 翠 推名 浅香 小舘 英明 古田 祐 田沼 史恵
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.31-36, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
26

サイトメガロウイルス(以下CMV)による母子感染はTORCH症候群の中で最も頻度が高く,CMV未感染妊婦の1〜2%が妊娠中に初感染を起こし,その30〜50%に胎児感染を生じるとされている.CMV未感染妊婦に感染予防に関する情報提供を行うことで感染を軽減できた報告があり,実際に情報提供が感染予防に有効か検証した. 当院で4年間に分娩した2,568例を対象とした.妊娠初期にCMV IgG抗体を測定して未感染妊婦を抽出し,感染予防の啓発を行った.妊娠初期にCMV IgG抗体を測定できた症例は1,283例で,IgG陰性例は380例(29.6%)であった.そのうち,妊娠後期にIgGが陽転化したのは2例(0.5%)であった.本研究でも,感染予防の啓発を受けた妊婦の妊娠中初感染率は従来の報告に比べ低率であった.
著者
森川 友樹 糸島 亮 小川 亮 小田 新 廣間 武彦 中村 友彦
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.195-199, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
18

妊娠初期の梅毒血清検査が陰性で当院への新生児搬送時には未診断であった先天梅毒の症例を経験した.母親は22歳,妊娠13週の梅毒血清検査は陰性だったが,同時期に外陰部に潰瘍を認め,診断に至らず軽快していた.児は33週5日,出生体重1,586g,緊急帝王切開で出生した.重症新生児仮死となり当院へ新生児搬送となった.鞍鼻,全身の皮膚の落屑,肝脾腫を認め,児の梅毒血清抗体価の上昇から先天梅毒と診断した.出生時よりなんらかの先天感染を疑い,Ampicillin(ABPC),Cefotaxime(CTX)による抗生剤治療を開始していたが,日齢4の先天梅毒の確定診断後よりBenzylpenicillin(PCG)に切り替え10日間治療した.後障害なく退院し1歳半時点で成長発達は正常である.近年,若年女性の梅毒および先天梅毒の報告数が増加しており,妊娠初期以降の梅毒感染にも注意する必要がある.
著者
龜山 千里 岡山 久代
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.410-416, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究は,NICU入院児における児童虐待のリスク要因を明らかにすることを目的とした.対象は2013年1月から2016年12月の4年間に当院を退院した児748名とした.退院後の虐待の有無と「児童虐待アセスメント・ツール」のパラメータを後方視的に検討した.児のリスク要因では男児(OR=9.28,95% CI:1.18-72.84),親のリスク要因では多産または間隔の詰まった妊娠(OR=37.89,CI:5.19〜276.81),適切な支援を求めることができない(OR=20.95,CI:1.08-407.66)であった.以上より,この3要因が虐待のリスク要因として検討できる可能性が示唆された.
著者
赤澤 宗俊 橋本 和法
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.451-456, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
20

覚醒剤の乱用は一般の人々にも広がっており,本邦でも妊娠中に覚醒剤を使用した症例が複数報告されている.その周産期管理については,医学的のみならず社会的,法的にも対応に苦慮したとの報告が多い.今回われわれは医学中央雑誌を用いて文献レビューを行い,覚醒剤使用妊婦について国内13症例を集約し,管理上の問題点について検討した.患者背景では全症例が未受診妊婦であり,児は多くの症例で乳児院入所となっていた.母体の重篤な合併症として頭蓋内出血(脳幹)と,産後に甲状腺クリーゼ,心不全を来した症例を認めた.新生児経過としては,4症例で易刺激性,振戦,呼吸障害といった薬物離脱症候群の発症を認めた.法的な問題としては,①薬物の尿検査の施行に本人の了承が必要か,②警察への通報は医師の守秘義務違反になるのか,の2点が議論されていた.覚醒剤使用妊婦の管理は稀であるが,法的な問題も含有するため,治療指針の作成が望まれる.
著者
重富 典子 長谷川 ゆり 楠本 紗羅 小松 菜穂子 新谷 灯 山田 美樹 淵 直樹 永田 愛 朝永 千春 三浦 清徳
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.273-277, 2022 (Released:2022-09-09)
参考文献数
22

プロテインS欠乏症は先天性血栓性素因のひとつで,その頻度は本邦における先天性血栓性素因の中では最も高い.血栓症以外の周産期合併症に遭遇することも少なくはない.2014年1月から2019年12月までに当科で分娩管理を行ったプロテインS欠乏症合併妊娠の7例について検討した.既往妊娠合併症として,人工妊娠中絶術後の下肢静脈血栓症を1例認めた.妊娠合併症は胎児発育不全1例,妊娠高血圧腎症1例,妊娠糖尿病2例であった.早産は2例であった.5例は児の血液検査を行い,2例はプロテインS欠乏症と診断した.妊娠中に血栓症を発症した例は1例で,産褥期に血栓症を認めた例はなく,出血性合併症を2例認めた.プロテインS欠乏症合併妊娠は,下肢静脈血栓症だけでなく子宮内胎児死亡や胎児発育不全,妊娠高血圧腎症といった周産期合併症に注意して管理する必要がある.
著者
黄 彩実 來間 愛里 和形 麻衣子 山本 瑠美子 川口 晴菜 山本 亮 林 周作 石井 桂介
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.84-90, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
21

目的:一絨毛膜二羊膜(MCDA)双胎のSelective intrauterine growth restriction,Type Iの予後不良例の頻度と臨床的特徴を検討する. 方法:妊娠26週未満のType Iを対象とした後方視的コホート研究である.主要評価項目は妊娠あたりの予後不良(死亡[流産,胎児・新生児死亡])の頻度とした.副次評価項目は,急速遂娩を要する胎児機能不全,予期せぬ胎児死亡,MCDA双胎特有の合併症の頻度とした. 結果:40例において,予後不良は両児新生児死亡1例,smaller twinの胎内死亡3例の計4例(10%)であった.胎児機能不全,予期せぬ胎児死亡,およびMCDA双胎特有の合併症は,それぞれ10例(25%),1例(2.5%),17例(42.5%)であった. 結論:Type Iの予後不良は10%であり,さらに全体の約半数は特別な管理を要した.
著者
臼井 規朗
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.409-421, 2021 (Released:2021-12-10)
参考文献数
53

小児の嚢胞性肺疾患の分類には,いまだ確立されたものがないが,本稿の総論では,冒頭で最近の新しい考え方に基づいたわが国の小児嚢胞性肺疾患の分類を詳述する.近年は多数の先天性嚢胞性肺疾患が出生前診断されるようになったことから,周産期・新生児領域に関連した医療者の理解を深めるため,先天性嚢胞性肺疾患の出生前診断や重症度予測についても解説を加える.出生後,新生児や乳児に認められる嚢胞性肺疾患については,画像診断における特徴と,病態や臨床症状に加え,手術も含めた治療の要点について述べる.また,嚢胞性肺疾患に対する肺切除後には,いくつかの合併症が懸念されるため,晩期合併症や呼吸機能,悪性腫瘍との関連性について解説する. 各論では,新生児や乳児に比較的多く認められる嚢胞性肺疾患として,先天性肺気道奇形(CPAM),気管支閉鎖症,肺分画症,気管支原性嚢胞,肺炎後肺嚢胞,遷延性間質性肺気腫,気腫性嚢胞・胸膜下嚢胞,胸膜肺芽腫を取り上げて概説する.また,嚢胞性肺疾患との鑑別を要する小児のびまん性肺嚢胞についても言及する.
著者
青山 茉利香 山下 有加 前田 雄岳 小松 玲奈 西 健 安藤 智 大槻 克文
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.463-467, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
17

【症例】35歳,1妊0産.タクロリムス投与下に凍結胚移植により妊娠成立.妊娠10週に当院紹介.妊娠中と分娩時に合併症なく,妊娠38週で2,564g,男児を経腟分娩した.産褥3日目,突然の血圧上昇を示した直後,眼球上転,嘔吐を契機に強直間代性痙攣を生じた.チアノーゼ,呼吸停止を認め,気道確保を行い人員を集めた.ジアゼパム投与後に子癇発作,痙攣再発予防の治療を開始し,他疾患の鑑別を行った.脳波検査より,てんかんの診断に至り,抗てんかん薬を導入の上分娩後13日目自宅退院となった.分娩後マタニティブルーや母乳育児支援でフォローをおこなった. 【結論】分娩産褥期に初発の痙攣発作をみた際には迅速な初期対応を可能とする体制整備と産科疾患のみにとらわれない鑑別をおこなうことが重要である.てんかんと診断した場合には治療コンプライアンスを維持する患者教育,母乳育児支援,メンタルヘルスへの配慮が重要なポイントとなる.
著者
藤岡 泉 笠井 靖代 寒川 早織 芥川 香奈 有馬 香織 渡邊 理子 宮内 彰人
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.91-97, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
15

てんかん合併妊娠の周産期管理の課題を明らかとするため,2014年から5年間に当センターで分娩した15, 344例のうち,てんかん合併妊娠58例(0.38%)を抗てんかん薬の服薬状況に基づき4群に分け,周産期予後を後方視的に解析した. 4群の内訳は,a群(服薬あり怠薬なし)22例,b群(服薬あり怠薬あり)4例,c群(服薬なし妊娠判明後中止)1例,d群(服薬なし妊娠前から)31例であった.分娩週数・出血量・児体重・Apgar score,臍帯血pHに有意な差はなかった.妊娠中の発作は13例(22.4%)で認め,怠薬した症例などにみられた.バルプロ酸が必須の患者では妊娠判明後の薬剤変更が発作原因となる可能性があった.母乳育児は混合を含めると55例(94.8%)が行っていた. 妊娠前から母児の影響を考慮した薬剤の選択と,本人が妊娠中の発作コントロールの重要性を十分に理解することが重要である.
著者
則内 友博 西 明 丸山 憲一 高澤 慎也 藤代 準
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.268-272, 2022 (Released:2022-09-09)
参考文献数
17

近年,新生児の周術期予防的抗菌薬の投与期間および手術部位感染(SSI)についての現状が欧米を中心に報告され,長期に及びやすい新生児への抗菌薬投与期間の短縮が図られている.一方,日本国内からの報告は少なく,現状は明らかではない.そこで本研究では,NICU・GCUの患児の抗菌薬の投与方法,SSI発症率などを調査した.対象は2017年から2020年の間に当院にて小児外科領域の手術を行った新生児,周術期にNICU・GCUに入院中であった患児とし,診療録の記載から後方視的に調査した.SSIの発症率は7.8%(8例/103例)で,欧米での既報と同程度であった.抗菌薬の投与期間の中央値は4日間で,SSI発症群と非発症群との間で投与期間に有意差はなかった.これらの結果からは周術期予防的抗菌薬の投与期間が長い可能性が示唆されたが,今後大規模研究で検証していく必要がある.