著者
貝 英幸
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
no.11, pp.133-142, 2021-03-01

本稿では、洛中周縁部「洛中周辺地域」の地域様相の実態解明の手がかりとして、北野社領(北野社領西京)の検討を行う。室町戦国期の同社領のなかでも、門前所領は重要な所領の一つであり、主には上下保と二三条保の二つが確認される。しかし、応仁文明の乱後には、そのうち二三条保で不知行化が進行し、領主北野社の支配は西京上下保を専らとするようになる。本稿では特に二三条保の不知行化の様子を確認し門前所領の実態、その原因や背景として考えられる同社組織の問題を検討する。西京伊勢氏御供京兆家曼殊院門跡
著者
水田 大紀
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
no.11, pp.67-79, 2021-03-01

本稿は、『歴史学部論集』第7、9-10号に引き続き、1886年に出版された『マルタとその産業』の第4-5、8-10章を訳出したものである。訳出の目的や同書の書誌情報など詳細については、前掲号までの文献解題を参照されたい。 今回の訳出箇所では、前掲論稿まで述べてきた19世紀後半のマルタ産業の状況とその障害を踏まえ、その解決策として、当時のマルタにおける教育や文芸の特長が解説されている。特に文芸に関しては、マルタ人芸術家たちの活躍や島外への影響を念頭においた記述がなされており、直轄植民地としてのマルタの有望さとマルタ人の有能さを強調することで、編集者たちが宗主国イギリスの関心を買おうとする様子をみてとることができる。 なお本稿内の註は原著のものであり、史料中の[ ]内は訳者による付記である。
著者
渡邊 秀一
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
no.7, pp.55-73, 2017-03

本稿は17世紀初期に刊行された「都記」と後継二鋪の板行京都図の分析を通して、17世紀初期京都の地域意識とその変化について検討したものである。「都記」は慶長期後半から寛永初期までの内容が重層化している点、市街の北限を一条通に設定した点に大きな特徴がある。一条通に都市空間を分節する境界を設定することは、初期洛中洛外図屛風にすでに現れている。しかし、「都記」では平安京を旧左京域にまで限定し、その外側を排除する態度をみせている。慶長期後半から寛永年間初期にかけて進んだ内裏域や公家町の整備、急速な京都市街の拡大を背景に、旧平安京左京域の外を他者として、旧左京域こそが平安京を継承する正当な都であるというメッセージを発しているのである。後継の二図はこの「都記」の地域意識を受け継ぎながら、記載範囲を若干拡大している。平安京から徳川政権下の「京」へと意識が変化しつつあることがそこからうかがえるのである。京都都市図初期洛中洛外図屏風平安京地域意識
著者
山崎 覚士
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
no.7, pp.77-95, 2017-03

本論は宋朝における朝貢の事例を概観したうえで、大中祥符二年以降から朝貢品に対して、その価格を判定し、その価格に見合う(あるいは上乗せした)回賜が行われるようになったことを明らかにする。この変化は、唐代で見られた儀礼行為としての朝貢―回賜が、対価に対する支払いの要素を持つ貿易行為への移行を意味した。また朝貢―回賜が貿易行為へと変化するに伴い、朝貢―回賜の行われる場所が国境付近の辺境都市でも担われるようになり、南宋期になると、一時期を除いて、朝貢―回賜は辺境都市で済まされるようになった。中世帝国朝貢回賜貿易
著者
塚本 栄美子
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
no.7, pp.19-36, 2017-03

17世紀後半にイングランド、オランダ、ドイツ語圏などヨーロッパ各地にフランスから離散した改革派信仰難民たちのなかには、最初の亡命地にとどまったものもいれば、さらに大西洋を渡り南北アメリカ、あるいは南アフリカへと渡っていったものもいた。世界史上、彼らが、ディアスポラ先の社会や歴史にいかなる影響を与えたのかという問いは古くて大きな問題である。その答えとして、ある時点から「ホスト社会の発展に貢献」したという言説が実態にかなっているか否かとは別に、広く語られるようになる。とりわけ、大量のユグノーを受け入れたドイツ諸領邦、なかでもブランデンブルク・プロイセンではその傾向が強くなる。こうしたイメージは、ユグノー自身が記した歴史叙述が出発点となっており、彼らのアイデンティティの核をなす集合的記憶の重要な要素となっている。本稿では、その核となる物語を提供した歴史叙述とユグノーたちのおかれた状況の変化を対応させながら、彼らの集合的記憶の形成を概観し、今後の課題を提示する。フランス系改革派信仰難民(ユグノー)集合的(集団的)記憶ベルリン
著者
門田 誠一
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.43-54, 2016-03-01

魏志倭人伝記の記述のなかでも、もっとも史料性が高いとされるのが魏の皇帝から卑弥呼に与えられた詔書の部分であり、そこに記された下賜品のうち「金八両」に関して、漢魏における金の使用のなかで把握するとともに、具体的な斤量を推定した。あわせて、文献・史料と出土遺物の双方から金製品を多数かつ多量に用いた匈奴と比して、考古資料からも金の使用が顕著でない倭に対しては、魏から少量の金しか与えられておらず、金の下賜に関する倭と匈奴との相違を示した。これらによって、漢代から三国時代にかけての金使用の衰退とあわせて、卑弥呼に対する黄金の下賜は漢代以降の中国における賜金を主体とした金使用の変化に対応しており、さらには金を重用しないという倭の具体的な習俗を認知したうえで行われた魏の現実に即した賜物であったと結論した。魏志倭人伝卑弥呼金八両魏賜金
著者
塚本 栄美子
出版者
佛教大学歴史学部
雑誌
歴史学部論集 (ISSN:21854203)
巻号頁・発行日
no.4, pp.41-62, 2014-03

宗教改革やその後の宗派化のプロセスを通じて、自身や家族のために追悼説教パンフレットを作成する慣習が、王や諸侯たちの間ばかりでなく、より階層の低い貴族や領主層、ブルジョワ階層や裕福な手工業者たちにも広がっていった。とりわけルター派地域に浸透するが、改革派やカトリックの人びとの間でも認められ、近世ならではの慣習として注目される。本稿では、わが国であまり紹介されてこなかった当該史料の具体例を検討し、その史料的価値を考察する。近世ドイツ追悼説教パンフレットブランデンブルク・プロイセン