著者
森下 義亜
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.375-389, 2012-12-26

コミュニティは社会学の鍵概念の一つであり,さまざまに理解・解釈され ながらも,古くて新しい研究テーマとして社会学研究の伝統を占めてきた。 同概念は近年,再び多方面で用いられている。現代都市では,高齢者の社会 的孤立などの種々の課題への対処のためにコミュニティ概念の有効性が認識 されているからである。しかし地域社会での施策が多様化・増加するにもか かわらず,コミュニティの減退や喪失が危惧されているという逆説的現状が あり,高齢者については孤独死・孤立死の問題も起きている。これを踏まえ, 本稿では地域社会でのコミュニティ形成が困難な要因を探ることを目的とす る。 そのためにまず,社会学におけるコミュニティ概念の理論研究の内容を整 理する。そこから読み取れるのは,コミュニティの解放による個人主体の社 会的関係の多様化がみられる一方で,地域社会での集合的なコミュニティの 形成・再生が困難になっているという,現代都市コミュニティの課題の本質 である。 この課題にはコミュニティ形成を目的とする地域社会構造も関連してい る。コミュニティ形成の起点となるのはアソシエーションであり,本研究の 調査地である札幌市では町内会・自治会,および市民活動団体が混在してい るが,近年の同市のコミュニティ形成施策によって,両者が協働する枠組み が整備された。しかしながら現段階では市民活動団体は地域社会システムを 担うまでにはなっておらず,事例としてとりあげる白石区においては,その 枠組みの中心となっているのは町内会・自治会である。その運営や活動はお もに高齢者が担っており,社会参加の観点での意義は小さくない。 しかし低下する加入率や活動参加率から,コミュニティ形成の枠組みが形 骸化している面が指摘できる。また人口構成や町内会・自治会加入率の高低 などの地域特性によらず,全市一律のコミュニティ形成の枠組みとなってい ることも課題の一つであると考えられる。今後の調査では,同枠組みをどの ように活用し,急速に高齢化する札幌市におけるコミュニティ形成をいかに 実現するかを研究する必要がある。
著者
郭 莉莉
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
no.12, pp.391-412, 2012

現在,アメリカとフランスを除く先進諸国は,軒並み低出生率を示している。日本でも「少子化対策」が時代のキーワードになって久しい。ひのえうまの1966年の合計特殊出生率1.58を下回り,1989年に1.57が記録され,「1.57ショック」と騒がれた1990年以降,日本政府によるさまざまな少子化対策はほとんど毎年行われてきたものの,効果が薄く,合計特出生率は1.30台の低い水準で推移してきた。次世代人口が縮小すると,公共財である年金,医療保険,介護保険などが危うくなる。一方,中国では,1979年から30年余り続けられてきた「一人っ子政策」により,現在でも出生率の低下が激しく,子ども数が急減した結果,子ども1人が両親2人と祖父母4人を扶養する負担を背負っている「421問題」が浮上した。併行して家族構造が空洞化しつつあり,大都市では高齢化も急速に進んできて,それに伴う介護問題が深刻になってきた。このように,「少子化する高齢社会」(金子,2006)の動向は,世界の先進国と中進国を問わず大きな社会問題になっている。近年,日本では少子化を克服した先進国フランスの実情が広く知られるようになったために,その改善方法に学ぶ気運が高まっている。国民負担率と出産文化の違いに代表されるように,少子化に悩んでいる日本と克服したフランスでは制度や国民性なども相違はもちろんあるが,フランスにおける育児家族への支援の優良事例を検討することは,日本で少子化対策を新たに創造するうえで参考になると思われる。支援学の観点からすれば,子育て支援には金子が提唱した自助,互助,共助,公助,商助の5類型がある(金子,2002)。本稿では,日中両国の少子化の現状,原因,影響などを考察したうえで,子育て環境として,家族からの支援(自助)と行政からの支援(公助)に焦点を当てて,論じてみる。日本と中国は東アジアに所属し,欧米と比べ婚外子率の低さに代表されるように,婚姻・家族をめぐる文化や生活習慣,共有するといわれる儒教的価値観などの面において,多くの共通点があるように思われる。日本の「少子化する高齢社会」の現象は,中国にとっても近未来に生じる可能性が高い。少子化対策に関して,20年余りの試行錯誤を重ねてきた日本の経験に鑑み,欧米諸国と比較するという国際化の前に,まず東アジアに日本の経験を正確に伝えるという国際化を図ることが先決であろう。
著者
高橋 靖以
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
北方言語研究 (ISSN:21857121)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.129-136, 2013-03-25

In this article, I describe the characteristics of the evidential expressions in the Tokachi dialect of Ainu. I mainly point out the grammatical restriction of visual evidential marker sir which has hitherto not been described in any dialect.
著者
西出 佳代
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.137-155, 2012-12-26

Dieser Artikel ist eine uberarbeitete Version meines Vortrags beim Kolloquium an der Universitat Luxemburg im Oktober 2011,bei dem die Problematik der Luxemburgistik von Forschern aus Luxemburg und Japan kritisch erortert wurde sowie die Ziele und die Bedeutungen der Luxemburgistik in Japan diskutiert wurden. Fur die Publikation in Japan habe ich außerdem einige allgemeine Informationen und verschiedene Aspekte der Luxemburgistik hinzugefu gt.Im 1. Kapitel wird die Geschichte des Großherzogtums Luxemburg seit dem Mittelalter in Bezug auf dessen linguistische Situation kurz dargestellt,damit man eine Vogelperspektive auf die luxemburgische Gesellschaft sowie deren heutige hybride und mehrsprachige Situation haben kann. Im 2.Kapitel wird die Thematik der Luxemburgistik unter zwei Gesichtspunkten behandelt:Erstens die Mehrsprachigkeit der luxemburgischen Gesellschaft und zweitens die Entwicklung des Luxemburgischen als einer Ausbausprache,die durch das Sprachgesetz von 1984 aus dem deutschen Dialekt Westmoselfrankisch zur Nationalsprache des Großherzogtums geworden ist. Zum Schluss wird im 3.Kapitel die Luxemburgistik als INTER-kulturelle Forschung in Japan der INTRA-kulturellen Forschung in Luxemburg gegenubergestellt. Damit sollen ihre Moglichkeiten in zwei Richtungen, intern fur Japan und extern fur Luxemburg,entwickelt werden.