- 著者
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小坂 みゆき
- 出版者
- 北海道大学大学院文学研究科
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, pp.51-69, 2011-12-26
中国朝鮮族の社会は,本来は農村社会であり,その社会固有の儀礼・習俗を持っていた。しかし,漢族が大多数である中国社会の中での少数民族という立場から,中国社会の枠組みの中で起こる社会現象や,漢族の影響を受けることは避けられない。また,経済自由化政策による中国社会全体に広がっ
た市場主義的経済観の影響をうけ,朝鮮族社会の生活環境,生活習慣は大きく変化するにいたった。
特に,中国朝鮮族の現在の特徴的な現象として,韓国等の外国への出稼ぎがあり,家族の中に出稼ぎ者のいない家庭はないと言っても過言ではない。このことは,日常生活のみならず,年中行事や婚姻儀礼などの人生儀礼の実施においても大きな影響を及ぼしている。また,出稼ぎ者の収入により,家
庭は経済的には少しずつ裕福となり,農家をやめ農村を出て都市部で暮らすようになった家庭も多数現れている。農村社会であったこれまでの中国朝鮮族社会は急激に解体の方向に向かっている。一方,日常的に出稼ぎ者不在の状況のもとで都会生活を営むようになった人々により,新たな中国朝鮮族の文化,生活と呼べるものが生み出されている。
民族固有の文化といわれたものであっても,時の経過とその時々の周りをとりまく環境によって変遷を遂げていくものであり,ゆるぎなく確立されたものではない。変化はその時々における民族を構成する人々が自らの生活のなかで選択した結果なのであって,それもまた一つの文化の姿である。
本稿では,中国朝鮮族における婚姻儀礼を動態として取り上げ,その変化を分析するものである。分析方法は,現地における経験的参与観察から得たデータを基本とし,朝鮮半島から中国に移住した後,中国での急激な社会変化を経て,中国と韓国との往来という移動を頻繁に実施している今日までの
間を比較分析した。
朝鮮族の人々の婚姻儀礼も,社会・生活環境の変化に伴い変遷を遂げているものの,婚姻儀礼を完全に放棄しているわけではない。婚姻当事者にとっては新たな家庭を築くうえで大切なものであり,民族に伝わる儀礼を行いたいという欲求は失われることはなく,変遷を遂げながらも残されていく儀礼
の1つといえる。
朝鮮族の人々が,婚姻儀礼のうち,何を大切な部分であると理解し,そのまま残そうとし,あるものは簡略化し,あるいは省略するなどしたのかという点は,近代化,社会環境の変化,生活様式のグローバル化が進むことによる要因が大きい。これは近代化の波にさらされる他の民族においても同様であり他民族における婚姻儀礼の変遷にも共通する。
本稿においては,この研究を通じて得られた資料・知見等をもとに,中国朝鮮族にとどまらず,他民族においても示唆的であると考えられる婚姻儀礼の変化要因となるものについて分析,考察しそれを指摘した。