著者
前田 勇樹
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-61, 2021 (Released:2021-07-15)

本稿は,明治後期(1890~1910年代)の沖縄での感染症流行と,それに対する防疫対策や衛生対策について新聞資料および松下禎二(京都帝大教授)による衛生視察記録を中心に分析を行ったものである。明治期の沖縄では感染症流行に対する前近代的な慣習や患者の隠蔽などが根強い一方で,この時期になると基礎的な防疫対策(清潔法と隔離)の浸透が見受けられる。その背景には,日清戦争後から始まる沖縄の同化政策の本格化と新聞による情報の流布が挙げられる。また,近代日本の植民地となった台湾との間での人の移動の活発化は,沖縄の感染症対策に大きく影響を及ぼすものであった。
著者
宮崎 早季
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.17-37, 2022 (Released:2022-06-30)

本稿では,1989年から2022年にハワイで開催された「追憶の日」イベントを通した,ハワイ日系人の戦争記憶の共有・継承の試みを明らかにする。ハワイでの最初のイベントは,1989年に開催された。90年代から00年代前半は主にアメリカ合衆国本土西海岸の収容の記憶が,2006年以降は,ハワイのホノウリウリ収容所の記憶がイベントのテーマとされた。一方,ハワイから本土の施設に送られた人々や自宅から追い出された人々の経験や,ハワイ日系人のほとんどが経験した戒厳令下の生活は,あまり語られていない。本土西海岸で始まった「追憶の日」イベントを,本土西海岸の影響を受けながらも継続しようとするハワイ日系人のイベントの変容を描く。
著者
下岡 絵里奈
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.75-94, 2022 (Released:2022-06-30)

1840年代から50年代にかけて滞琉した計7人のフランス人宣教師は江戸幕府とフランスが外交関係を樹立するまでの間,琉球王国で琉球語,中国語,日本語の習得に励んでいた。日琉関係を隠蔽する琉球王府は異国人の語学学習に非常に消極的であり,1844年から1846年まで滞琉したフォルカードはほぼ何の支援も得られなかった。後任のルテュルデュとアドネはセシーユ提督の力添えもあり語学師匠といくつかの学習教材を手に入れることができた。1850年代になるとフランス人宣教師達は前任者達の学習成果を得た上で来琉しており,1855年11月24日の琉仏協定締締結後は語学師匠は勿論,王府から支給された中国語や日本語の様々な本を使って語学力の向上を図っていた。
著者
福井 弘教
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.19-31, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)

沖縄におけるギャンブルの機会と背景については,以下の知見を提示する。可視化できるギャンブルとしては,パチンコ,宝くじ,スポーツ振興くじのみであるが,リモート投票が進展している公営競技については相当数の会員がいることが推察される。他方,47 都道府県で唯一,公営競技や公営競技施設が未導入の背景としては,1)沖縄が占領下にあった(機会喪失),2)失業率など社会環境の特異性,3)沖縄振興策や地方交付税など沖縄への手厚い経済政策,4)米 軍基地の存在,5)琉球競馬という金銭を伴わない競馬が行われていた実績,6)住民運動に代表される市民力の高さなどが要因として考えられた。
著者
落合 いずみ
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.33-45, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)

ブヌン語イスブクン(Isbukun)方言は次末音節にアクセントを置く語が多く(次末型),タキトゥドゥ(Takituduh)方言などは語末音節にアクセントを置く語が多い(語末型)。これらブヌン語方言におけるアクセント位置は,Huang[2008]により最適性理論の枠組みにおいて制約の優先順序を交替することにより最適な出力候補を導くことによって説明されている。本稿は次末型に属するタキバカ(Takibakha)方言を対象にし,最適性理論に頼らずとも,モーラと音節,そして二重母音の関わりからブヌン語方言のアクセントが導けることを述べる。次末型では,次末モーラを含む音節にアクセントが置かれるのであり,母音連続ai, ia, au, ua, ui, iu が生じる場合は母音連続が語末に生じるか非語末に生じるか,母音連続が二重母音に変化するかどうかの違いによってアクセントに差異が出る。非語末の母音連続ai とau は二重母音と見なされ,非語末の二重母音ia とua は音位転換の後に二重母音に変わり,さらにe とo に変化する。母音連続iu とui は二重母音化しない。
著者
佐久間 邦友 高嶋 真之 本村 真
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.21-40, 2020 (Released:2020-09-12)

本稿の目的は,離島における自治体主導型学習支援事業の取り組みの現状と課題を明らかにすることにある。今日,離島地域では多くの自治体が学校外の学習支援を実施している。特に沖縄県北大東村「なかよし塾」は,地域の教育課題解決を目指す「学習支援センター」と認識されており,公教育の一端を担う重要な存在であると言える。これらは使用可能な財源が多様にあることで可能になっている。しかし,制度的には,財源や講師の確保と評価方法の確立が,実践的には,学校との連携・協働可能な関係構築と安心して学べる環境づくりが課題である。引き続き,制度と実践の両側面から,離島における持続的な学校外の教育保障を模索していく必要がある。
著者
安元 悠子
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.97-116, 2021

本稿では,琉球諸語から日本語標準語への言語シフトの過程を経験した個人の言語レパートリーに影響を及ぼした言語イデオロギーの記述・分析をおこなう。琉球諸島における「離島」で生まれ育った琉球諸語の話者は,人生において拠点の移動を経る中で,「中央へのまなざしと周縁性の自覚」,「言語の階層性」といった標準語イデオロギーと対峙しながら,「地域基準」「社会基準」にもとづいた言語使用をおこなっていることが明らかになった。言語的多様性を特長とする琉球諸語において,個人の言語体験に注目し詳細を記述することは,言語の衰退プロセスを紐解く鍵となり,今後の言語維持継承の一助になると考える。
著者
前田 勇樹
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-61, 2021

本稿は,明治後期(1890~1910年代)の沖縄での感染症流行と,それに対する防疫対策や衛生対策について新聞資料および松下禎二(京都帝大教授)による衛生視察記録を中心に分析を行ったものである。明治期の沖縄では感染症流行に対する前近代的な慣習や患者の隠蔽などが根強い一方で,この時期になると基礎的な防疫対策(清潔法と隔離)の浸透が見受けられる。その背景には,日清戦争後から始まる沖縄の同化政策の本格化と新聞による情報の流布が挙げられる。また,近代日本の植民地となった台湾との間での人の移動の活発化は,沖縄の感染症対策に大きく影響を及ぼすものであった。
著者
トッピング マシュウ・W
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.79-96, 2021

本研究は,参加型アクション・リサーチ(PAR)の方法論を適用した質的実践研究である。本稿ではパーソナルインタビューおよび消滅危機言語継承活動の観察を通して沖縄県石垣市の2つの地域において,八重山地方の伝統的な「しまくとぅば」に対して研究参加者が持つ言語イデオロギーと活動の実践方法を詳述する。継承活動として「マスター・アプレンティス語学学習」という危機言語再活性化の手法を応用している。また,PARは社会科学研究の協調性を強調するため,本研究の方法論として採用した。本稿を含む調査結果は,八重山諸島や琉球諸島をはじめ,世界の他の地域の消滅危機言語再活性化への示唆があるといえよう。
著者
比嘉 吉志
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-39, 2021

琉球史における人口研究は,18世紀後半以降の総人口の減少と,一貫した町方人口の増加という特徴を挙げてきた。しかし,本稿はこれら先行研究のもとになった史料の数字を批判的に再検討するものである。具体的に,「琉球一件帳」や「中頭方取納座定手形」を取り上げ,従来の数字の解釈を批判的に検討し,総人口と地域人口の推移を整理した。 18世紀後半以降の琉球の人口推移は,総人口で増加傾向にあったが,町方人口は一貫して増加ではなかった。沖縄島で大きな人口増加が見られる一方,離島地域は人口の減少と停滞が顕著だった。このように,近世琉球の人口は多様な地域性をはらんで推移していったのである。
著者
宮里 厚子
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-17, 2021

19世紀中頃に琉球王国に滞在した8人のフランス人宣教師の中で,ルイ・テオドール・フュレ神父は6年3か月の最も長い期間琉球で過ごした。本来の目的であるキリスト教の布教活動ができない状況の中,フランス人宣教師たちは後の日本上陸に向けて語学学習に励んだが,フュレ神父はそれ以外にも学術的関心を持って多岐にわたる活動を行い,その資料や記録を残している。本稿では,まずフュレ神父の気象学,地震学,民俗学等における学術的活動の記録を紹介する。次に6年以上に渡る滞在中,フュレがどのように琉球王府との良好な関係作りに腐心していたかをパリ外国宣教会に残る手紙から読み解き,その滞在における方策を明らかにする。
著者
佐久間 邦友 高嶋 真之 本村 真
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学
巻号頁・発行日
vol.1, pp.21-40, 2020

本稿の目的は,離島における自治体主導型学習支援事業の取り組みの現状と課題を明らかにすることにある。今日,離島地域では多くの自治体が学校外の学習支援を実施している。特に沖縄県北大東村「なかよし塾」は,地域の教育課題解決を目指す「学習支援センター」と認識されており,公教育の一端を担う重要な存在であると言える。これらは使用可能な財源が多様にあることで可能になっている。しかし,制度的には,財源や講師の確保と評価方法の確立が,実践的には,学校との連携・協働可能な関係構築と安心して学べる環境づくりが課題である。引き続き,制度と実践の両側面から,離島における持続的な学校外の教育保障を模索していく必要がある。
著者
澤田 聖也
出版者
国立大学法人 琉球大学島嶼地域科学研究所
雑誌
島嶼地域科学 (ISSN:2435757X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.95-114, 2020 (Released:2020-09-12)

現在,唄者は沖縄民謡の担い手として,テレビ,ラジオ,レコードなどのメディアやフェスティバルやイベントなどの出演,民謡酒場での演奏など多岐にわたる活動をし,人々から高い支持を得ている。しかし,唄者の歴史を沖縄戦前後まで遡ると,現在の唄者のイメージや役割と大きく異なり,世間一般的に高い評価を得るような存在ではなかった。唄者のイメージは時代を下ることにプラスになり,それに伴い唄者の役割も変化していった。 本論文では,1945年から2000年代における民謡クラブと民謡酒場の専属唄者の活動を通して,第一に唄者に対するイメージの変化,第二に唄者の役割の変化を明らかにすることを目的としている。