著者
岡野 一郎
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

α-ラトロトキシンはセアカゴケグモ(Latrodectus mactans)の毒腺より単離された神経毒である。その作用機序は。哺乳類の神経シナプス前膜に局在する、リガンドが未知の細胞膜7回貫通型受容体CL1(calcium independent latrotoxin receptor (CIRL)/Latophilin 1)に特異的に結合し、神経終末より神経伝達物質の異常放出を促す。その結果、痛み,発汗,呼吸不全などの自律神経の失調をもたらす。α-ラトロトキシンによりもたらされる細胞内分泌顆粒放出のメカニズムは、細胞内外のカルシウムイオンに非依存的に生じることから、この放出がこれまで知られている経路とは異なる、未知の細胞内シグナル伝達系を介している可能性が強く示唆されている。本研究では、CL1の内在性リガンドを単離することにより、神経伝達を含めた細胞内分泌顆粒の放出の新たなメカニズムを明らかにし、神経系,内分泌系における生理的な機能と意義の解明を目的とする。これまでの研究では、細胞内サイクリックAMP(cAMP)濃度の増減をルシフェラーゼ活性でモニターできるよう、cAMP応答配列の下流にルシフェラーゼ遺伝子を繋いだレポーター遺伝子を開発した。更にHEK293細胞とCHO細胞について、このレポーター遺伝子とCL1遺伝子を恒常的に発現する細胞株を樹立し、これらにラットの組織より抽出した生理活性ペプチド画分にて刺激を加えた。複数の画分において細胞株のcAMPを上昇させるものが認められたが、アミノ酸配列を解析したところ、既知のもの若しくは蛋白質が部分分解したものであった。そこで、これら偽陽性を早い段階で排除する目的と、受容体が似ているのならそのリガンドも相同性を持つであろうという予測のもとに、CL1と相同性のあるオーファン受容体CL2,CL3について同様の手法により細胞株を樹立した。これらに共通して反応する画分が最も可能性があるものではないかと考えていたが、検索の結果はこれまでと同様、既知蛋白質が分解したものが大部分であった。また未知のものについても、予想される塩基配列をもとにcDNAクローニングまで行ったが、分泌配列が見当たらず、生理活性ペプチドというよりも何らかの構成蛋白質と考えられるものであった。CL1,2,3が生理活性ペプチドの受容体であることはその構造から十分に予測できることから、恐らくこの結果はリガンドの組織含量が低いことが考えれる。そこで今後は、上記の細胞株を用いた検索を行うと共に、ラットの脳より単離した神経細胞にCL1,2,3とレポーター遺伝子を導入して検索を行うことを予定している。これら受容体は生体内では神経細胞に特異的に発現していることから、通常の細胞株よりも神経細胞を用いた場合の方が、より高感度で反応を検出できる可能性が考えられる。
著者
三宅 康子 山村 卓
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

家族性(遺伝性)高コレステロール血症の原因遺伝子として因果関係が最もよく知られておりかつ高頻度なものはLDLレセプター遺伝子異常である。わが国に見られるLDLレセプター遺伝子異常にはどのようなものがあり、またどのような異常が多いのかについて調査してきた。LDLレセプター遺伝子の全coding領域およびプロモーター領域についてSSCP法、direct sequencing法により塩基配列の詳細を調べたところ新たな高頻度変異や、minor変異がいくつか見出された。互いに血縁のない207例の家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体について解析を行ったところ、207例中121例(58%)にLDLレセプター遺伝子異常が見出され、合計56種類の異なる変異が確認された。それらのうち、8種類の変異は比較的高頻度に見られた。それらはC317S変異(207例中6.3%)、K790X変異(6.3%)、1845+2T→C変異(6.3%)、L547V変異(3.4%)、P664L変異(2.9%)、D412H変異(2.4%)、2313-3C→A変異(2.4%)、V776M変異(2.4%)でありこれらはいずれも点変異であった。これらの変異はわが国におけるLDLレセプター遺伝子のcommon mutationであると思われる。これら8種類の変異を合わせると全体の32%を占めるところから、わが国の家族性高コレステロール血症の32%の遺伝子診断は比較的容易であると思われた。しかし残りの48種類の変異は1例(0.5%)から3例(1.5%)にしか見られず、これらのminor mutation(全体の26%)は診断が難しい。このようにわが国におけるLDLレセプター遺伝子変異は非常に多様なものであり一般的には遺伝子診断は難しいと思われる。症状と変異の関連については、LDLレセプター活性を正常の20〜30%残しているtypeの変異ではnull typeのものに比べて臨床症状がmildであった。全coding領域の塩基配列を調べても変異が見られない症例は207例中86例(42%)あり、これらの遺伝的高コレステロール血症は、LDLレセプター遺伝子以外の遺伝素因に基づくものと思われる。これらがどのような遺伝素因によるものであるのか、考えられる高コレステロール血症素因について調査予定である。
著者
李 梅花 川田 徹 鄭 燦 鄭 燦
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタン)とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル)長期併用投与が心筋梗塞後心不全ラットの神経液性因子、心機能、心臓リモデリングに及ぼす効果を検討した。その結果、ロサルタン単独投与に比べて、ロサルタンと塩酸ドネペジルの併用投与によって、心筋梗塞後心不全ラットの神経液性因子レベル、心機能、心臓リモデリングに更なる改善効果があることを明らかにした。
著者
中谷 武嗣 山岡 哲二 藤里 俊哉
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

体重約10kgのクラウン系ミニブタから下行大動脈(内径5mm、長さ10cm)を清潔下で摘出し、冷間等方圧印加装置にて超高圧を印加(980MPa、10min)することによって細胞を破壊した後、DNase及びRNaseを含む生理食塩水にて洗浄した。続けて、エラスチンの除去は、凍結乾燥して真空熱架橋後、エラスターゼ溶液内に浸漬することで消化した。この際、エラスターゼ処理時間を変化させることで、残存エラスチン量を調節しその効果を検討した。また、リン脂質の除去は、二酸化炭素を用いた超臨界流体処理によって行った。二酸化炭素に若干量のアルコールをエントレーナとして添加することによって、リン脂質を効果的に抽出することができた。得られた脱細胞化血管にブタ血管内皮細胞および平滑筋細胞を播種し、独自に開発した回転培養装置を、平滑筋細胞は組織内への細胞播種システムを基本とした。回転培養装置では表面のみでの細胞増殖が認められたため、内皮細胞へと応用した。組織はイブヘの細胞播種は、3D細胞インジェクターを利用して可能となったが、その後のリアクター培養による効率よい増殖効率までは至らなかった。作成した脱細胞化血管を1cm^2程度に分割し、ラット背部皮下に埋め込むことにより、脱細胞血管の最大の問題である石灰化の検討を行った。1〜3ヶ月経過後に摘出して、X線CT、および、元素分析による石灰化量を行った。その結果、脱エラスチン処理、および、冷間等方圧印加処理後の洗浄液からカルシウムイオンあるいはリン酸イオンを除去することで、石灰化を効率よく抑制できる可能性が見いだされ、ブタ移植実験により検証を進めている。
著者
築谷 朋典 妙中 義之 辻本 良信 堀口 祐憲
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,従来の血液ポンプには見られない多段延伸ポンプの設計・製作を行い,血液ポンプとしての実用性を実験的に検証することを行う.本年度は,単体のポンプで血球を破壊せずに高圧を発生することが可能な血液ポンプという新たな医学的ニーズを反映した要求仕様を決定しそれに基づいてポンプの設計を行った.仕様として,特に低流量・高圧力である条件を考え,平均流量3.0L/min,発生圧力500mmHgを基準とした.従来よりも高揚程型とするために,以下にあげる特徴をもつ要素の設計を行った.1.高揚程化のためのサクションボリュート入口流路2.高圧用のインペラ翼形状(羽根枚数,出口角)3.ラジアルスラスト軽減のためのダブルボリュート出口流路ついでこれらの基本仕様にもとづいてポンプの試作を行い,基本性能を満たしていることを確認し,内部流れに関して数値流体力学を使用した解析を行い,血球破壊,血液凝固の観点から以下に示す設計変更を行った.・ 羽根車へのフロントケーシングの付与・ ダブルボリュートケーシングと羽根の距離拡大・ 案内羽根にシュラウドを設置試作機については,ポンプ内部の漏れ流量拡大等の影響により,水力学的性能は若干低下しているがその影響は軽微である.数値計算に基づいて形状変更を施した結果,ポンプ効率を大きく損なうことなくポンプ内部での溶血に関わる高いせん断応力の領域を低減し,血栓形成に関わる淀み領域の解消に成功した.