著者
白 成美 山本 將 澤村 英子 齋藤 經生
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-47, 2008 (Released:2019-06-10)

仏像の中でも、とりわけその彫像表現が顕著に異様な仁王像(執金剛神像)について研究を行った。とくに筋肉美は、西洋の彫像からどのような影響を受け、どのような過程を経て仏像の形態表現に影響してきたかに注目した。インドで成立した仁王像はバジュラパーニとよばれた。その姿はヘレニズムの影響を受けており、西洋のヘラクレス神像に原型が求められるようである。その後中国に移入され、仏法の守護神としての威容を表わすうえに装飾品や天衣などの中国的要素が加わって、中国独自の仁王像として完成された。それは中国に伝来以来、時代と共に次第に変化し、北魏時代からは仏法の守護神としての威容を表わすために髻、憤怒の顔、威嚇するポーズなどの表現がみられるようになる。北魏のスリム形仁王像が六朝時代を経て、徐々に筋肉隆々とした逞しい姿になっていくが、唐時代ではその表現が誇張・装飾化された形となり、より一層の力強い写実的表現となった。唐代の影響を強く受けた韓国や日本でも、中国の仁王像のリアルな人間の美的表現の影響がみられる。韓国では、石窟庵の仁王像にみられるように、筋肉の形や天衣などに韓国独自の表現がされている。日本では、天平時代の仁王像には唐の影響がよく反映されているが、それ以上にはげしいポーズや表情などもみられ、体型やプロポーションにおいて、より充実した表現が認められた。鎌倉時代には、天平への復古を目指しながらも新たな中国(宋)の影響によって、生身に近い、生きているかのような仁王像が造られるようになった。この仁王権には、人体解剖学的に理解しにくい表現も散見されるにも係わらず、仏の守護神としての力強さや美しさが感じられる。それは美術解剖学的には成功した表現によると考えられる。日本でみられる仁王像は、ある日突然成り立ったものではない。長い年月、各国で造られた仁王像の影響を受けながら、信仰心を持って常に自然な姿、写実的な姿を追い求めた結果なのである。
著者
下家 由起子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.49-56, 2008

『断髪令』(明治4年)が厳しく実行された明治維新から干支が2周り以上した今でも、頭に日本伝統習俗のマゲをのこし、古式ゆかしい土俵の上で正々堂々の格闘を繰り広げている大相撲の世界。その力士たちのシンボルであるマゲを結っているのは、床山という専門家たちである。しかし、力士とマゲはあまりに密接すぎて逆に、彼ら床山の存在が世間から注目されることはほとんどなく、それは国技の縁の下の力持ち的存在である。今回は、大相撲の世界を陰で支えるそんな床山たちの今に注目し、彼らのプロ意識、技術、生活観についてアンケートを試みた。協力していただいた床山さんは20年以上の経験を持つベテランの人たちです。そこから感じ取れたのは、彼らの大相撲に対する並々ならぬ愛情と、自分の職業に対する高い誇りだった。私が調査をした日は奇しくも、史上初めて、新年度(平成20年=2008年)番付から2名の代表だけではあるが、床山の名が掲載されることを受け、床山会が自主的に床山全員を国技館に集めての、床山技術の講習会が行われた日だった。
著者
鈴木 昌子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.39-50, 1997

古代の女子の髪形には,垂髪,頭上一髻,頭上二髻,四ツ割,雑等がある。頭上一髻と四ツ割は,当時唐の女性が結っていた烏蛮髻(うばんけい)である。平安初期の神仏混同の影響を受けて神功皇后女神像が造像された。この像を通して当時の髪形を考察してみたい。高髻は吉祥天女図及び諸仏像に結われているが,樹下美人の四ツ割,頭上一髻は,髪の長さによって変形した髪形であり,神功皇后像の髪形もこの系統である。樹下美人図の髪形も,女神像に結われ垂髪へと変化して行くのである。960年の内裏の火災は,こうした髪形から,やがて国風の風俗が生みだされる契機となったのである。
著者
坂井 妙子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-36, 1996-03-25 (Released:2019-06-10)

豪華なフルコースがでる披露宴と三段重ねのケーキ,友人達のかける花吹雪に見送られてヨーロッパへハネムーンという結婚式のイメージは今では西洋だけでなく日本でさえ当たり前となっているが,結婚披露宴やハネムーンにまつわるこのような習慣は,実は意外に新しく19世紀末イギリスで確立した。そしてこの習慣の確立には中産階級が大きく関与したと考えられる。本論文ではヴィクトリア朝中産階級の経済力の向上,階級意識の変化および19世紀末に本格化したコマーシャリズムと技術革新が現代の結婚式の基礎をつくった,という視点から19世紀イギリス中産階級の結婚式を解釈する。カップルへの贈り物,結婚披露宴,ハネムーンに現われるヴィクトリア朝中産階級の価値観を考察すると共に,現代の贅沢ではあるが画一化された結婚式のルーツを探る。
著者
新井 卓二
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.19-24, 2022 (Released:2023-03-31)

「健康経営」に取り組む企業は年々増え、2021年度は上場企業の約1/3が取り組む経営戦略となっている。普及に伴い、企業での取り組みにかかわらず、社会への効果も見えるようになってきた。そこで、地方自治体である山形県上山市と宮崎県日向市の取り組みと、地方創生として地方自治体の健康経営向けサービスを支援している林野庁の取り組みを取材し、紹介するものである。具体的には、山形県上山市では「クアオルト」という考え方を、宮崎県日向市ではワーケーションを地方創生として健康経営向けサービスを展開している先進事例が示された。
著者
伊藤 淳
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.28.29, pp.15-33, 2022 (Released:2022-05-03)

本稿では、フィレンツェのサン・マルコ修道院にある「受胎告知」について、画家フラ・アンジェリコがどのような信仰目的で描いたかを考察した。その方法としてドミニコ会の祈禱姿勢の規範となる『祈禱指南』を修道院のドルミトリオ(宿坊)のフレスコ画に対比させて、ドミニコ会士の聖母マリアへの祈禱姿勢を明らかにした。その上で、受胎告知の《マリアの眼差し》と《聖霊の光》が、ドルミトリオの窓から入る太陽光を下に考慮されていた可能性を明示した。
著者
新井 卓二 宮口 昂 加藤 大一朗
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-9, 2022 (Released:2023-03-31)

本研究は、健康経営とその期待される効果の一つである「リクルート効果」との関係を、直近1年以内に転職し現在は正社員で就業している社会人1,000名を対象に行った転職者向け就労アンケートの結果から、転職プロセスを設定した上で、日本における働く目的、退職・転職理由などの実態を明らかにして論ずるものである。結果、転職に満足している者は、社会での貢献を求めるとともに労働時間の管理や適正化を健康と捉え、自身の健康と多様な働き方ができる職場を希望する傾向が明らかになった。
著者
富田 知子 神山 資将 及川 麻衣子 木村 康一 永松 俊哉
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.11-18, 2022 (Released:2023-03-31)

美意識とは、「美」に対する感覚や判断力を意味するが、その概念は地域や風土、あるいは文化や歴史などによって、様相に違いがあると言われている。1)これまで富田らは日本での美容に関する「美意識」のあり方について調査を行い、年齢や立場によってその捉え方が違うことを示してきた。まず日常生活の中で自身の思う美意識と実生活の一致について、学生と高齢者を比較した場合、高齢者の「自身が思う美意識」と「実生活」との一致が強く示唆された。2)次に理美容師の「美意識」についての検討では、年代によってとらえ方に違いがみられた。このことから、教育や経験によって「美意識」を獲得していくことが推測できる。今回、山野美容芸術短期大学の美容教育の核となる授業「美道論」に注目し、その受講前後での「美意識」の捉え方を比較検討した。
著者
新井 卓二
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.55-56, 2022 (Released:2023-03-31)

健康経営は、日経平均採用225銘柄のうち8割の企業が健康経営度調査票に回答し、上場企業全体では30%弱が回答しており、大企業を中心に普及している。そうした状況を踏まえつつ、本書は、健康経営を経営戦略の一つと位置づけ、他の様々な経営戦略とも比較し、健康経営の取り組みの現状、健康経営の考え方とイノベーションまでを見据えた効果、効果を得るための具体的な手法についてわかりやすく解説する。また、地域への影響や健康経営を通した新しいビジネスモデルまで紹介し、健康経営に取り組むことで生まれる企業競争力とサステナビリティについて考察する。出版社は同友館、発売日は2022年6月20日、言語は日本語、形式は単行本で225ページである。ISBN-10:4496056003‎、ISBN-13‏:‎978-4496056000
著者
青木 和子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.28.29, pp.1-13, 2022 (Released:2022-05-03)

現在の和服姿における帯の代表的な容(かたち)である「お太鼓結び」について、その結び方の歴史とその構造がどのように現在に至るまで変化してきたのかを明らかにする。そしてなぜ、長い年月を経た今もなお「お太鼓結び」が帯結びの典型で継続しているのかについて、江戸時代末期と現在の帯型の類型を比較し実際に帯を締める実践研究を行うことにより、その社会的・機能的要因を論じる。
著者
松陰 宏 近藤 陽一 松陰 崇 松陰 金子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.51-61, 2009 (Released:2019-11-10)
参考文献数
12

明治 9 (1876 )年 1 月に,大阪で発行された,オランダ医師エルメレンス(Christian Jacob Ermerins:亞爾蔑聯斯または越尓蔑嗹斯と記す,1841-1879)による講義録,『日講記聞 原病學各論 巻十一』の原文の一部を紹介し,その全現代語訳文と術語(語句)の解説を加え,また,一部では,歴史的および時代背景についても言及した.本編では,『原病學各論 巻十一』の「泌尿器病編」の最終部分である「第三 腎盂輸尿管及膀胱諸病」の中の「膀胱結石」,「遺尿」,「膀胱麻痺」,「膀胱痙攣」と,追加されている「男子生殖器病(遺精,交接無力)」との部分を取り上げる.各疾患の病態生理や症候論の部分は詳細に記されているが,病因論は明瞭でなく,また,治療法は内科的対症療法がその主流であり,使用されている薬剤も限られている.しかし,この書物は,わが国近代医学のあけぼのの時代の医学の教科書である.
著者
村松 英子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.89-95, 1994-03-25 (Released:2019-06-10)

帯(紐)は,呪術性を秘めたものとして,『万葉集』の時代より実に多くの描写をみることができる。呪術性をもった帯が次第に装飾性をおび,歌舞伎役者などによって流行は変遷していくが,その根底には古代よりの"魂結び"の心が生き続けていて,現代(いま)に残る"縁結び"のそれと同じものであると考えられる。今回,帯を結ぶ行為が人を結び,さらには心をうつし出す手段として大きい意味をもつという積極的服飾表現を,近松門左衛門の『曽根崎心中』より見出だした。
著者
鈴木 昌子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.13-23, 1996

古代より日本の女性の美は垂髪にありと,いわれてきた。桃山時代から江戸時代にかけて結髪が流行していたが,あの絢爛豪華な元禄時代を迎えようとしていた貞享年間(1684〜1688)に結髪が発展せず,菱川師宣の「見返り美人」図に見られる「玉結び」が流行していた。当代随一といわれた有職故実の学者である高橋宗恒が,工人に種々の形の笄(当時に笄と簪との区別がない)を作らせた。また,この宗直が簪を発案したともいわれ曖昧になっている。一本脚の簪を宗恒が,二本脚の簪を宗直が紹介した。宗恒は笄の発案者と囃したてられたが,彼はそれを紹介した人である。古代において高髻から垂髪へと移行した過程と同じような傾向にあった垂髪を喰い止め,日本髪の基をつくった彼と,当時の社会情勢を踏まえながら考察したい。
著者
鷲野 佐知子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.31-37, 2009 (Released:2019-11-10)
参考文献数
3

版画には主に木版画、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンなどの技法があり、それぞれ違った方法論と考え方を持っている。その中でも、木版画は、版木、和紙、顔料、刷毛、バレンなどの素材に於いても、日本の風土に適した表現である。その木版画でインク、和紙、彫り、摺り方に於いて研究を重ね、求める表現とモチーフに最も適した方法と素材について追求した。
著者
近内 トク子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.53-65, 1998-03-25 (Released:2019-06-10)

1992年2月に私は「シルフェ」誌上に,「愛の奇跡」-The Phoenix and the Turtle-と題する論文を発表した。当時はまだこの作品に対する本格的論評が少なく,資料も手にすることが難しかった。最近になって,この作品に対する関心が高まり,本格的な批評も見られるようになって来た。これら新しい批評を手に入れることができるようになった今,もう一度The Phoenix and the Turtleを読み直し,作品に新しい光を当ててみたい。
著者
澤村 英子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-32, 2005-03-25 (Released:2019-06-10)

今回はこれまでの人形という狭義を超えて、玩具という広い括りの中からとりわけ地方色が強い郷土玩具を取り上げ、その玩具の真髄ともいわれる「祈りと造形表現」を中心に私論を試みた。日本各地に伝わる郷土玩具には、さまざまな素材が用いられ、人々の日常的な願いが込められて作られた数多くの玩具がある。特にそれらには色彩表現によって、祈りの種類が表出されているものが少なくない。このように郷土玩具には、祈りを造形表現した玩具の長い歴史があり、本稿では特にそうした玩具の色彩と呪術性が深く関わっているということをテーマに考察した。
著者
富田 知子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.9-18, 1997

ヘアスタイルは,毛髪を素材にして創りあげられた造形作品である。毛髪は人体の一部でありながら,時代の流れと共にさまざまに変化し続けてきた。人々は,変化する時代の美意識を表現するために,容易に変形することのできない人体の代わりに,衣装とヘアスタイルを最大限に利用してきた。そして時代の美意識は個性の奥底に大きく滲み込み,それを大きく時の色に染め上げて行く。それはまた時折加速度をつけることがある。1789年はヨーロッパにおいて,非常に重要な年であり,ファッションの分野でも,鮮やかな変化を見せる年であった。ひとつの時代の中で,様式-スタイル-が明瞭になりはじめると,そこにはルールと制限が生まれる。その中でも,美しさは個人によって表現され,さらには,美の表現の変化を生み,次の美式へあゆみ始めるのを見ることができる。今回は,その制約の中での美意識の変化と,その表現の方法について考察する。
著者
小比類巻 淑
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.121-124, 2006

前回、油画による作品制作過程におけるシミを用いた無作為性と作為性について述べたが今回は、特に削り出しという技法を用いた時に発生する、削り出しの偶然的効果と自分の意志で意図的に色や形に変化を付ける作為的技法の関係について以下に論じた。