著者
松井 暁
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.p45-75, 1995-07
著者
坂 幸夫
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.155-171, 2016-07

第1に,三菱ふそうバス製造労働組合に注目したのは,この組合が,会社・親企業の「外部労働依存政策の強要」に抗して,「正規社員の採用を基本としたものづくり企業」に拘だわり,ストライキを背景とした労使交渉を通じて,多くの非正規労働者を正規労働者へと,昇格させる人事を実現させた事にある。これは後に見る広島電鉄の場合と同じである。第2に,この組合と会社間では,「年齢別最低賃金に関する労使協定」が締結されている点である。これらは富山県内のみならず,全国的にみてもあまり例のない事である。第3に,この組合は,2013年の春闘で,116日間にも及ぶ5波・延べ22.92 時間の時限ストライキ突入を含む,4ヶ月の長期の闘かいを組織したことにある。この時,「本来の賃金闘争」に加えて,「外部労働」(派遣労働)のあり方」や「職場の適正人員確保」も一大争点として闘ったことである。この中で,労使交渉は,後述する親会社と外資の介入・指導下での交渉・闘いとなり,窮地に立った会社側が当事者機能を失し,富山県労働委員会へのあっせん申請を組合に申し出るなど,第3者機関をも巻き込む,近年にない闘いとなった。闘いの結果は,ⓐ「56歳未満労働者の賃金増額200円」の賃金上積みとともに,ⓑ直接社員・間接社員の削減で悲鳴を上げる職場の「(正規)社員採用」と,「中途採用」の実施による人員増を勝ち取ったことである。以降,この3年間,2013年の労使合意に基づいて交渉が継続され,2013年・14年の両年に亘る「大幅中途採用(社員)の実施」,2016 年の「かってない大幅な新規採用」の履行がされてきたことである。そこで他の例とは,広島電鉄の事である。広島電鉄の労働組合,正確に言うと私鉄広島電鉄支部でも,全非正規労働者,つまり全契約社員を正社員にした。これには3つの要因がある。第1に,「全契約社員の正社員化」が,組合の主導によってなされたということ。第2に,この成果が三菱ふそうバス製造(株)より大きい中規模の企業においてなされたという点である。第3に,「全契約社員の正社員化」によって,正社員の中に給与が「減額」になった組合員がいたことである。人件費総額を膨張させない前提で,経営者側を説得するには,そのような方法しか術はない。しかもこの「減額」が,労働組合自身があえて自らの犠牲を甘受して,非正規社員の労働条件の改善のために献身したという事実にある。以上の事を前提に,広島電鉄の例と対比させながら,以下各項目について述べていく。
著者
神山 智美
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.517-549, 2017-03

環境法とは,「現在および将来の環境質の状態に影響を与える関係主体の意思決定を社会的に望ましい方向に向けさせるための方法に関する法,および,環境をめぐる紛争の処理に関する法」である。よって,関係主体を構成する諸個人における「これが望ましい方向だ」と思う方向への働きかけが適切に行われ,議論が深められた上での社会的合意がなされることが求められる。よって,そのための示威的行動等を含む意見表明が確保されねばならず,議論の場が確保されることが望ましい。しかしながら,住民らの意見表明に対してそれを威嚇するような動きを事業者が取る場合,または事業者の行為が不当に侵害されるような反対運動等が展開された場合等,いくつかの克服すべき課題も見受けられる。本稿は,とくに開発行為の事業者側が原告となって提起する訴訟における,事業者の適切な対応を勘案すべくこれらの課題を検討するものである。よって本稿においては,(1)事業者対住民:住民らの意見表明に対してそれを威嚇するような訴訟提起および遂行を事業者側が行う場合,(2)事業者対地方公共団体の長:地方公共団体の長が,その事務執行に当たり,建物建築および販売等を妨害したことには重大な過失があるとして事業者が国家賠償法1条1項等に基づく訴え等を行った場合について検討する。なお,以下で取り上げる事案(2)には,当該地方自治体の条例公布行為の有効性,当該地方自治体の債権行使および国家賠償法1条2項に基づく求償権の不行使等,少なからずの論点が含まれているが,本稿においては,事業者対地方公共団体の長という観点に焦点を当てて扱うこととする。
著者
木原 淳
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.417-442, 2015-03

何故に労働の投下が,物件と身体を同質化するのか,またそのことと,身体の法的性質はどのような関係にあるのだろうか。本稿はこの問題の端緒としてロックとカントの所有論と対照する。両者は共に,契約による所有の根拠づけを拒否する点では共通するが,カントはロックの労働所有説を批判し,所有制度の淵源を,領土高権を背景とする土地所有制度に求める。これは所有権のもつ公共性を重視した現実的な思考ではあるものの,この思考は身体と所有との密接な関わりを完全に排除しており,身体と所有にかかわる限界事例に対して無力なものとなっている。そのような観点から,熊野純彦の議論を参照しつつ,所有と身体ないし生命との密接な関連を明らかにし,身体をめぐる法的問題の指針とすることを目的とする。
著者
福井 修
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.277-298, 2018-03

信託財産は受託者に帰属しているが,受託者の固有財産とは別扱いされる。これを信託財産の独立性といい,信託の特徴のうち中核的なものである。自己信託を除いて信託設定によって信託財産は委託者から受託者に移転しているが,信託財産の独立性から,受託者の債権者は信託財産に対して強制執行が認めらない。さらに,信託設定時点で委託者の責任財産からは切り離されるので,委託者の債権者も強制執行の対象とすることはできない。このように受託者の債権者も,委託者の債権者も信託財産に対して強制執行することは認められないが,信託においては強制執行と無縁というわけではない。すなわち,信託で利益を受けるのは受益者であり,受益者の債権者はこの利益を受ける権利,すなわち受益権に対して強制執行が認められる。ただ,英米では親族のうち財産管理がうまくできない者のために信託を設定して,生活を守りたいということも,信託を利用する動機の一つであった。その場合には受益者の債権者が受益権を差押えることを信託設定者が極力回避したいと考える場合もある。信託設定者の意思をどこまで尊重するかという論点があり,この点については従来必ずしも結論が一致しているとはいえない状況にある。本稿はこのような信託受益権に対する差押えについて,考察するものである。
著者
小倉 利丸
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.325-353, 1982-02

本稿ではマルクス主義ないしマルクス経済学と,全く異る理論的基礎をもつそれ以外の経済学諸潮流との聞の批判的相互交通を扱うことになる。これらの検討をつうじて,マルクス価値論の理論的有効性を確認しうる視座を確定しつつ,経済学批判としての批判の方法一異る理論への批判の有効性を保障するものは何か,批判による自らの理論の擁護か,批判の理論化か,ーを検討する素材を提供してみようとするものである。
著者
森岡 裕
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.583-591, 2017-03

ロシアはエネルギー資源(石炭,石油,天然ガス)の有力な保有国であり輸出国であることは周知のとおりである。石油と天然ガスについては生産拠点が西部(チュメニ)にあることから,輸送インフラ(パイプライン)の整備も西部(ロシアのヨーロッパ地域,西シベリア)を中心に行われてきた。その結果,石油とガスの輸出先は伝統的にヨーロッパ市場が中心となっており,東部(アジア・太平洋地域)の役割は大きくなかった。だが輸出先の多様化と成長するアジア・太平洋地域への結合を実現するため,東方市場の開拓・強化が図られるようになった。「2030年までのロシアのエネルギー戦略」では,ロシアの石油とガスの輸出に占める東方市場(アジア・太平洋地域)の割合を以下のような水準に引き上げることが目標として示されている。石油・石油製品の輸出:8%(2008年実績)から22 ~ 25%(2030年)へガスの輸出:0%(2008年実績)から19 ~ 20%(2030年)へ実際,東方市場への輸出強化策は実行されており,2010年の実績値では,ロシアの石油・石油製品とガス輸出に占める東方市場の割合は,それぞれ12%と6%となっている。この傾向はこれからも続くものと予測される。なお東方シフトを検討する場合,2つの大きな要因をとらえておく必要がある。1つは,サハリンの石油・ガスプロジェクトの本格的稼働開始(2006年)であり,もう1つは,東部での石油輸送インフラの整備となった「東シベリア・太平洋パイプライン(ESPO)」の稼働開始(2009年:Ⅰ期工事完了 2012年:Ⅱ期工事完了)である。この2つの大きなプロジェクトの稼働によって,ロシアの石油とガスがアジア・太平洋地域へ供給されることとなった。そこで本稿では,サハリン・プロジェクトの本格的稼働前後(2005年,2007年)とESPOの稼働後(2013年)の時期を中心に,ロシアの石油・ガスの輸出先の多様化・東方シフトを検討していく。また生産拠点が東部(シベリア,極東)にある石炭の輸出先についてもみていく。そこでⅡ節では,ロシアのエネルギー資源(石炭,石油,天然ガス)の生産状況を確認する。それを踏まえて,Ⅲ節ではロシアのエネルギー資源の輸出先の変化と今後の動向について検討する。
著者
八百 章嘉
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.379-415, 2014-11

本稿では,Alleyne事件判決を紹介後,Apprendi準則の動向を探るため,当該事件判決に至るまでの系譜,合衆国憲法修正6条が保障する「陪審裁判を受ける権利」を検討する際に連邦最高裁が使用する方法論の特徴,および,そこから明らかになる連邦最高裁判事らの見解の対立を描写する。そして,以上の考察を踏まえて,Apprendi準則の問題点の1つでもある量刑における立法府と司法府の権限対立の問題を取り上げ,量刑裁判官が保持する巨大な裁量権を歴史的側面から照射し,Alleyne事件判決の意義と量刑を争うことの有意性について検討を加える。連邦最高裁が描き続ける物語の現在の到達点を垣間見ることによって,我が国の議論に若干の示唆を提示することが,本稿の目的である。
著者
木下 裕介 増田 拓真 中村 秀規 青木 一益
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 = The journal of economic studies, University of Toyama : 富山大学紀要 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.127-152, 2018-07

近年,持続可能な社会や都市への移行に向けて,日本の地方自治体(以下,自治体)においては,社会・経済の低炭素化や加速化する少子化・高齢化を含む,各種課題への対応が求められている。これは中長期にわたる包括・包摂的視座の下,既存施策・政策の再編を必須とする構造的変革(structural transformation) の可否を問うものであり,自治体にとっては,地域やコミュニティにおける集合的意思決定を如何にして行い課題解決をはかるのかという,ガバナンスにかかわる問題も含んでいる(Bulkeley et al. 2011; Hodson and Marvin 2010)。これらの点に関連する直近の政策動向としては,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成をはかるため,2017年12月に国が打ち出した「地方公共団体における持続可能な開発目標(SDGs) の達成に向けた取組の推進」を挙げることができる。この施策は,「まち・ひと・しごと創生総合戦略2017改訂版」(2017(平成29)年12 月22 日・閣議決定)および「SDGsアクションプラン2018」(2017(平成29)年12月26日・持続可能な開発目標(SDGs) 推進本部決定)における,「『日本のSDGsモデル』の方向性」において取り決められたものである。このことは,SDGsの達成が,日本の都市・まちづくりを通じた地域・コミュニティの再興(すなわち,地方創生)に資するとの命題が,政府の政策体系に位置づけられたことを意味する。また,ここでの命題を具体化する事業として,国(内閣府地方創生推進事務局)は,2018年2月,自治体によるSDGsの達成に向けた取り組みを公募し,優れた取り組みを提案した最大30程度の都市を「SGDs未来都市」として選定の上,SDGs推進関係省庁タスクフォースによる支援提供を行うとした。上記政策展開において特筆すべきは,SDGsの達成に向けて,自治体が取り組むべき課題・対応策等をめぐり当事者・ステークホルダーが意思決定を行う際の手法として,「バックキャスティング(backcasting)」が明示的に採用された点である。将来シナリオの策定におけるバックキャスティングとは,予測を表すフォアキャスティング(forecasting) と対をなす用語として理解され,通常,あるべき将来を始点としてそこから現在を振り返る方法と定義される(Robinson 1990)。また,一般にバックキャスティングシナリオは,比較的遠い未来(例えば,2050年)のあるべき姿(ビジョン)を設定した後,その達成のために何をすればよいか(パス)を未来から現在まで時間的逆方向に考えるというプロセスで生成するものを指す(Kishita et al. 2016)。バックキャスティングを用いた将来シナリオの作成は,社会・経済を規定する制度・構造にまで踏み込んだ,イノベーションを伴う抜本的変革が求められる課題遂行において有効とされる。サステナビリティ・サイエンス(Sustainability Science)の分野では,2000年代以降,気候変動,エネルギー,SDGsといった政策課題への対応において,バックキャスティングを用いた将来シナリオがさかんに作成されるようになってきた(Kishita et al. 2016)。持続可能な社会への移行を企図したシナリオ作成に孕む困難な問題として,各自治体が目指すべき都市や地域に関する理想の将来像(ビジョン)が必ずしもステークホルダー間で共有されていない点が挙げられる。この問題の解決に向けたより民主的な政策立案の手法として,サステナビリティ・サイエンスの分野では参加型アプローチ(participatory approach) が注目を集めている(Lang et al. 2012; Kasemir et al. 2003)。その具体的な事例は欧州でさかんに見られるが,日本でもここ最近は行政や専門家が参画した市民ワークショップの開催という形態を中心として,さかんに実践されている(Kishita et al.2016; McLellan et al. 2016; 木下・渡辺 2015)。しかしながら,自治体や都市・地域の将来ビジョンを作成するための理論や方法論は,いまだ確立されていないのが現状である。また,ビジョン作成をどのように政策立案プロセスあるいは合意形成プロセスに反映させるべきかといったガバナンス問題に関する調査研究も,依然として萌芽段階である。そこで,本稿では,上記の研究課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,市民ワークショップ(以下,WS)を用いたバックキャスティングシナリオ作成手法を提案する。本稿で提案する手法では,ロジックツリーと呼ばれるツールを用いて市民WSでの議論を因果関係に沿って構造化した上で,ビジョンに関する重要なキーワード(キーファクター)の抽出に基づいて複数のビジョンを作成する。さらに,シナリオの作成過程でWS参加者が議論した内容の論理構造を分析するため,持続可能社会シミュレータ(以下,3S シミュレータ)という計算機システムを用いる(Umeda et al. 2009)。このシステムは,持続可能社会シナリオの理解・作成・分析を統合的に支援することを目的として筆者らが開発してきたシステムであり,ビジョンとパスから構成されるシナリオの論理構造を可視化することができる(Umeda et al. 2009)。本研究では,以上の手法を,2064年の富山市における持続可能社会のシナリオを描くことを目的とした市民参加型WSに適用した。そこでは,年齢・性別・職業が多様になるように,10~70代の男女,合計16名を集めたWSを,全3回にわたって富山市で開催した。WSでは,参加市民を同様の人員構成となるよう2つのグループ(各8名)に分け,中立的ファシリテーションの下で対話・討議し,そこで示された様々なアイディアを記した文章と録音による発話データに基づいて,バックキャスティングシナリオを作成した。本稿の主たる目的は,市民WSを用いて得られた2本のシナリオのコンテンツおよびシナリオ作成のプロセスを通して,ビジョンの実現のために満足すべき目標と,とりうる政策オプションやその他の手段との関係性を分析することにある。さらに,本稿では,筆者らが提案したシナリオ作成プロセスが,ステークホルダー間の合意形成や自治体における政策立案に対してどのように資するのかという,ガバナンス問題についても考察を行う。
著者
戸川 成弘
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要. 富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-103, 1994-07

株式会社の定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがある場合(商204条1項但書)に,取締役会の承認を得ないでなされた株式の譲渡は,会社に対する関係では効力が生じない,と解されており,後述する一部の学説1)を除いては,この点について異論を唱える学説はない。それでは,この場合に当該株式の譲渡人(株主名簿上の株主。以下同じ)はいかなる法的地位を有することになるのであろうか。すなわち,当該譲渡人は会社に対して株主としての地位を主張しうるのであろうか。取締役会の承認のない譲渡制限株式の譲渡をめぐる従来の学説の議論は,譲渡の当事者聞において譲渡の効力が生ずるか否かについての議論が中心であった。それに対し,この譲渡人の法的地位の問題は,この問題について最高裁判所が初めて判断を示した最高裁昭和63年3月15日判決2)以後論点として意識され,議論が行われるようになったものであり,比較的新しい問題であるといえる。本稿は,この問題について前稿後の議論を踏まえて再検討を加え,前稿の結論の論拠を補強するとともに,その作業の過程で,前稿では必ずしも明確にしていなかった筆者の考える相対説の見解を示すことにする。