- 著者
-
神奈木 玲児
- 出版者
- 愛知県がんセンター
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1994
本研究の目的は、細胞がアポプトーシスをおこす際に、細胞表層の糖鎖抗原がどのように変化するかを解析し、その変化の制御機構を明らかにすることにある。特に糖鎖抗原の中でも、シアリルLe^X抗原やシアリルLe^a抗原のように、すでに細胞接着のリガンドであることが判明している糖鎖の変化の検索に重点をおいた。ヒト大腸癌培養細胞株HT-29およびColo201を実験対象に選んだが、これらの細胞にアポプトーシスを引き起こすには、抗FAS抗体処理のみでは不十分であったので、抗FAS抗体とIFNγによる刺激を併用してアポトーシスを誘発した。これに伴う細胞表面糖鎖の変化を各種抗糖鎖モノクローナル抗体を用いたフローサイトメイトリ-で検索したところ、アポトーシス誘発後に両細胞でLe^XおよびLe^y糖鎖の発現の上昇が認められた。この変化は、IFNγによる単独刺激では観察されなかった。合成糖鎖を基質として、α1→2フコシルトランスフェラーゼ、α1→3 フコシルトランスフェラーゼ、α1→4 フコシルトランスフェラーゼおよびβ1→4 ガラクトシルトランスフェラーゼの酵素活性を測定したところ、アポトーシス誘発後の両細胞株において、α1→3 フコシルトランスフェラーゼの活性の増加が認められた。現在までにα1→3 フコシルトラスフェラーゼは5種類(Fuc-TIII,IV,V,VI,VII)の分子種が存在することが知られている。 Northern Blotting および RT-PCR法を用いてα1→3フコシルトランスフェラーゼmRNA発現を検討した結果、アポトーシス誘発後にFuc-TIV(Myeloid型)の発現上昇とFuc-TIII,VIの発現低下が認められた。Fuc-TV,VIIIは検出感度以下であった。以上の結果より、活性の増加が認められたα1→3 フコシルトランスフェラーゼ分子種は、ミエロイド型のFuc-TIVである可能性が高いと考えられた。