- 著者
-
園田 俊郎
VERONESI Ric
GOMEZ Luis H
HARRINGTON W
ZANINOVIC Vl
HANCHARD Bar
屋敷 伸治
藤吉 利信
嶽崎 俊郎
三浦 智行
速水 正憲
- 出版者
- 鹿児島大学
- 雑誌
- 国際学術研究
- 巻号頁・発行日
- 1994
ジャマイカ、コロンビアおよび近隣諸国にはHTLV-IとHTLV-IIのフォーカスが局在し、ATLとHAM/TSPを多発させている。平成6年度調査研究では、キングストン(ジャマイカ)、カリ、ブエナベンツラ(コロンビア)、ラパス(ボリビア)をたずね、HTLV-I/II関連疾患の患者およびウイルスキャリアの有無の調査した。総計8名の患者があらたに発掘され、ATL患者2名、HAM/TSP患者5名、感染性皮膚炎(In fective dermatitis,ID)患者1名が今回の分析対象となった。これらの検体からリンパ球と血清を分離し、リンパ球は生細胞のまま凍結保存され用時解凍してHLA検査に供せられた。血清はHTLV-I/II抗体の保有状況検査に供せられた。HLAの民族特性を比較する対照として、既知HLAの日本人ATL患者、HAM/TSP患者ならびにアンデス高地先住民のHTLV-IキャリアのHLAハプロタイプが用いられた。ジャマイカでは黒人の感染性皮膚炎(ID)患者の検体が収集された。コロンビアでは黒人のATL、HAM/TSP患者の検体が収集された。ボリビアではアンデス先住民と白人の混血メスチソのHAM/TSP患者の検体が収集された。平成2年度に収集保存中のアンデス高地先住民インガ族のHTLV-Iキャリアの検体も対象とした。HLAハプロタイプは患者とその家族のHLAタイプから割り出された。ここでは、常法による血清型と近年開発のDNA型で分析した。このHLAハプロタイプによって、黒人、アンデスインデイオ、メスチソの患者と日本人患者の民族背景の異同を比較した。ここでは、HLAクラスIIのDNA型が有用であった。ジャマイカとコロンビアの黒人患者(ID、ATL、HAM/TSP)のHLAハプロタイプには、日本人のATL、HAM/TSPと共通なDRB1*DQB1*1302-0604,1101-0301,1502-0601,0403-0302,0802-0402と黒人患者に特異なDRB1*DQB1*07-0201,0407-0302が検出された。ボリビアの混血患者のHLAハプロタイプには日本人ATL/HTLV-IキャリアにみられるDRB1*DQB1*0901-0303と白人由来とおもわれるDRB1*DQB1*0301-0201が検出された。以上の結果からHTLV-I関連疾患の遺伝背景にpan-ethnicなものと黒人/モンゴロイドに特異な遺伝背景があり、それぞれの疾患単位をつくっていると思われる。一方、HTLV-IIキャリアの検体はコロンビア・オリノコ川流域の先住民グアヒボ族から採取された。そのHLAハプロタイプはDRB1*DQB1*1402-0302,1602-0301,0404-0302であり、上記のHTLV-Iキャリアと患者のHLAとは全くことなる遺伝背景をしめした。すなわち、HTLV-IとHTLV-IIお感染には民族の相互排他性がみとめられ、ウスルスと宿主の自然選択がおこっているが明らかになった。他方、ATLとHAM/TSPは同一種のHTLV-Iでおこるとされてきたが、両者の遺伝背景は異なりる。今回の研究でも、黒人ATLとHAM/TSPとモンゴロイドのそれらとはHLAハブロタイプに差異が認められた。すなわち、黒人の遺伝系統とモンゴロイド(日本人をふくむ)の遺伝系統があり、それぞれの疾病要因となっていることが明らかにされた。したがって、民族に特異的なHLAと共通なHLAの遺伝的多型を追求すれば、ATLとHAM/TSPの発症にかかわる宿主遺伝子の実体が明らかなるとおもわれる。