著者
野口 哲子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.63-70, 2009 (Released:2011-12-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

植物細胞におけるゴルジ装置の研究の歴史と現状を解説し,また,著者が主に単細胞緑藻を用いて行った研究の一端とゴルジ装置の複製に関する研究を紹介した. 植物細胞では,ゴルジ体(扁平なシスターネが5~十数個積み重なった直径1~3μmのゴルジスタック)が細胞全体に分布している. ゴルジ体は細胞周期を通してダイナミックに形態変化し,その酵素活性部位も変化する. ゴルジ装置の形態と細胞内の分布は動物(哺乳類)・植物細胞で大きく異なり,核分裂に伴う複製様式も異なる. 動物細胞では,ゴルジスタックが連結して大型のゴルジ装置を形成し,核周辺に局在している. 核分裂期に管状・小胞化して消失し,核分裂後に再構築される. 一方,植物細胞のゴルジ体は核分裂前期以前に二分裂し,核分裂期を通して消失しない. このように複製様式が異なる起因について検討した結果,核分裂に引き続く細胞壁形成の有無,及び,形態・分布における相違は関係しないと考えられた.
著者
植田 美那子 東山 哲也
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.23-31, 2010 (Released:2011-04-08)
参考文献数
42

多細胞生物は複雑な構造をもつが、それらは全て受精卵という単細胞に由来する。被子植物の受精卵は顕著な細胞極性をもち、その不等分裂によって、植物体の地上部の元となる頂端細胞と、根端や胚外組織になる基部細胞が生み出される。つまり、受精卵の非対称性が成熟植物の頂端-基部軸に変換されるわけだが、どのように受精卵が極性化して不等分裂へと至るのか、また、どのような分子基盤によって頂端と基部とで異なる発生運命が生じるのか、いまだ解明されていないことばかりである。しかし近年、これらのメカニズムを理解するための端緒がようやく見え始めてきた。そこで本稿では、主に被子植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いた分子生物学研究によって得られた最新の知見を概説し、今後の体軸研究の展開について考えたい。
著者
小笠原 希実
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-17, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
19

二次イオン質量分析法(Secondary ion mass spectrometry : SIMS)は,広い範囲のエネルギーのイオンビーム(一次イオン)を固体試料に照射することで引き起こされるスパッタリング現象により,二次的に放出される試料の構成原子によるイオン(二次イオン)を信号として検出することで,試料に含まれている元素および化合物の情報を得る分析法である.これまでは主に半導体などの材料科学や,鉱物の年代分析などに用いられてきた.SIMSの技術を発展させた同位体顕微鏡,NanoSIMS,TOF-SIMSなどの顕微鏡技術の登場によりSIMS装置での生物試料の分析が検討されるようになり,植物試料においても元素および分子を直接観ることが可能になってきた.現在では植物の組織・細胞レベルでの微量元素の検出ができるようになりつつある.これまでの植物科学における元素分析は,根や葉などの器官レベルでのバルク分析によって,定量的に知見を得てきた.植物における元素の重要性は組織・細胞レベルで考えられているにもかかわらず,実際の分布を直接観察することは難しかった.本稿では,植物科学におけるこれまでの元素分析手法を紹介するとともに,SIMS装置を用いた植物組織・細胞レベルでの元素のダイレクトイメージングの進歩について説明したい.

1 0 0 0 はじめに

著者
河野 重行 河地 正伸
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-40, 2017

<p>1/10 mmにも満たない微細な藻類の育種が注目されている.大気に含まれる酸素のほとんども,白亜の海岸も,シェールガスさえもが,地質時代に地球上で大繁殖した微細藻類に由来する.本レポートは,日本植物学会第80回大会(2016年9月16日~19日 沖縄)のなかのシンポジウム3aSB01-06「微細藻類の多様な魅力:分類,進化,ゲノムから形態,藻類バイオまで」からの報告である.微細藻類の多様な魅力を紹介するために,老若男女―黒岩先生から野村真未さんまで,さまざまなキャリアとセンスの研究者に思う存分,微細藻類の多様な魅力を語ってもらった.</p>
著者
豊岡 公徳
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-21, 2016 (Released:2017-04-14)
参考文献数
20
被引用文献数
3

光−電子相関顕微鏡法(Correlative light and electron microscopy: CLEM法)とは,同一試料を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて観察し,両顕微鏡により得られた像の相関を得る解析法である.これまでに様々なCLEM法が開発され報告されているが,主に動物の培養細胞等が用いられており,植物の組織や細胞に適した方法は報告例は乏しい.植物組織・細胞においても,GFP等の蛍光で標識した生体分子の局在を高分解能で正確に捉えるためにはCLEM法の開発が重要である.我々は植物材料において,GFP蛍光を放つ細胞小器官の超微形態を高分解能走査電子顕微鏡で可視化する「GFP-走査電子相関顕微鏡法」の開発を進めている.細胞小器官をGFPで標識したシロイヌナズナ形質転換体の根端や子葉などの組織・器官を固定・脱水後,樹脂包埋する.そして,ミクロトームにより準超薄切し,導電性スライドガラスに載せ,そのGFP蛍光を共焦点レーザー顕微鏡により検出する.その後,その切片を電子染色し,高感度な反射電子検出器をもつ電界放出形走査電子顕微鏡により,蛍光を撮影した同一箇所の微細構造を撮影する.最後に,蛍光像と電顕像を重ね合わせることで,蛍光を放つオルガネラを特定し,その超微細構造を明らかにする.本技術は,蛍光タンパク質が普及した植物科学分野の超微細構造解析研究に大きく貢献できると期待される.
著者
山内 大輔 福田 安希 唐原 一郎 峰雪 芳宣
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-7, 2016 (Released:2017-04-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1

種子は一般的に乾燥状態で,その中に休眠している幼植物(胚)が含まれており,適当な条件が揃うと発芽する.発芽過程における種子中の形態的変化の観察では,その周りを覆う種皮が支障となり,光学顕微鏡観察のための切片作製では固定・樹脂包埋等による試料の変形も問題となる.そこで著者らは,種子を非侵襲で観察するために放射光施設SPring-8においてX線マイクロコンピュータートモグラフィー(CT)を利用している.マメ科ミヤコグサの種子をBL20B2で撮影した結果,胚の輪郭や将来維管束になる前形成層等を捉えることができた.この前形成層周辺にはX線の透過しにくい構造が散在していたが,それはシュウ酸カルシウム結晶であり,種子形成過程中期に現れ,吸水後10日目の子葉中でも消失しないで残ることがわかった.発芽種子の子葉には乾燥種子で見られないX線の透過し易い部分が散在していた.これは細胞間隙であり,吸水後60分になると出現することが分かった.一方,より高分解能での観察が可能なBL20XUを使ってシロイヌナズナ種子を撮影した.その結果,幼根から胚軸にかけての領域を構成する細胞の形が把握でき,胚の表皮,皮層,内皮を構成する大部分の細胞輪郭が抽出できるようになった.これら著者らの結果をふまえ,本総説ではX線マイクロCTの有効利用法や問題点についても言及したい.
著者
今市 涼子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.41-50, 2001 (Released:2010-06-28)
参考文献数
28
被引用文献数
2

要旨:一葉性はイワタバコ科のモノフィレア属とストレプトカルプス属にみられる。これら一葉植物では大きく成長した1枚の子葉だけで体が構成され、一生を通じて茎も普通葉も作られず、花序は子葉の葉身基部から生じる。一葉植物は、その形態の特異さから、これまで様々な分野、特に進化形態学の研究者の注目を集めてきた。本稿では最近の比較形態形成研究ならびに分子系統解析の情報から、イワタバコ科における一葉性の進化について議論する。
著者
東山 哲也
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.57-64, 2010 (Released:2011-04-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

花粉管ガイダンス分子(誘引物質)の存在が19 世紀後半に提唱され始めて以来,多くの植物学者がその同定を目指してきた.今回我々のグループは,胚嚢が胚珠組織の外に裸出するユニークな植物トレニアを用いて,助細胞特異的に高発現するシステインに富むペプチド(ポリぺプチド)が花粉管誘引物質であることを発見した(Okuda et al. 2009 ).そのペプチドは,少なくとも2 つ存在し,LURE1 およびLURE2 と名付けた.LURE は,ディフェンシン類似のペプチドであり,助細胞の基部側(花粉管が進入する側)に分泌される.適切に折りたたまれた組換えタンパク質は強い花粉管誘引活性をもつ.その誘引活性の特徴は,花柱を通過していない花粉管は誘引しない,異種の花粉管は誘引しないなど,助細胞で見られる誘引活性の特徴と一致した.また,独自に開発したレーザーインジェクター装置により,遺伝子発現を抑えるモルフォリノアンチセンスを胚嚢に導入すると,花粉管の誘引が阻害された.これらの結果は,LURE が花粉管誘引物質であることを示している.本総説では,LURE の発見の経緯と,その発見がもたらすインパクトについて概説する.
著者
豊岡 公徳 佐藤 繭子 朽名 夏麿 永田 典子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-8, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
9
被引用文献数
3 6

近年,蛍光イメージングの発展に伴い,組織・細胞・細胞小器官・分子の動態や局在を容易に推定できるようになった.しかし,各組織・細胞にどのような形態のオルガネラが存在し,どのような状態で分布しているか超微形態レベルでの実体を把握するには,未だに透過電子顕微鏡(TEM)による観察が必須である.我々は,組織や細胞などのTEM像を広域に渡って自動撮影するシステムと,撮影したTEM像をつなぎ合わせ1枚の高解像度TEM写真を取得するプログラムを組み合わせた「広域TEM像自動取得システム」を開発した.本システムを用いて,植物組織や培養細胞などの数万枚のTEM像を自動撮影し,結合させることで,ギガピクセルクラスの写真の取得に成功している.さらに,試料を瞬時に凍結する高圧凍結技法により,広域超薄切片の作製に取り組み,動的なオルガネラの分布を広域に渡り把握することに成功している.本稿では,広域TEM像自動取得システムの原理と,高圧凍結技法で作製した超薄切片から画像取得した結果を中心に紹介する.
著者
八木沢 芙美
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.105-109, 2012 (Released:2013-03-30)
参考文献数
27

液胞は,細胞内分解をはじめとする多様な機能を持つ.液胞は,小胞体やゴルジ体から新しく合成されうる(Hoh et al. 1995, Catlett and Weisman 2000).それにも関わらず,液胞は,細胞分裂時に母細胞から娘細胞へと分配される.液胞の分配は,細胞が分裂直後から正常に機能するために必要であると考えられる.これまでに知られている液胞の分配機構は,V型ミオシンとアクチンに依存するものであった.これに対し,アクトミオシン系を持たない原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeでは,液胞がミトコンドリアに結合することで液胞の分配がおこる.本稿では,真核生物で知られる液胞の分配機構を紹介し,今後の展望について述べる.