著者
米倉 崇晃 杉山 宗隆
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.59-65, 2021 (Released:2022-04-08)
参考文献数
41

植物の葉序には,規則的で美しい,様々なパターンが見られるが,その多様性は限定的で,多くはいくつかのタイプに集中している.葉序パターンについての研究は,古くから形態学的な解析を中心に行われ,多くの記載が積み重ねられてきた.現在では葉序パターンは,葉原基が自身の近傍における新たな葉原基の形成を阻害し,それによって葉原基間の位置関係が規定されることで自発的に生成すると考えられており,こうした阻害作用を基礎とする数理モデルを用いたコンピュータシミュレーションで、主要な葉序パターンの再現も確認されている.さらに近年の分子生物学実験により,この阻害作用の実体がオーキシンの奪い合いであることも示され,葉序パターン生成機構の枠組みはかなりの程度明らかになっている.この枠組みを前提にすれば,個々の葉序パターンについて,形態的特徴の解析から当該パターンの決定要因を探ることも可能と考えられる.本稿では,この新しいアプローチの提案を主題とし,まず葉序パターンの形態特徴量とその測定法について述べ,葉序パターン生成機構の数理モデルについて概説した後で,形態特徴量から数理モデルのパラメータを推定する方法について論じる.
著者
永田 典子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.25-33, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
56

細胞質遺伝の最初の報告は,オシロイバナにおける母性遺伝と,ゼラニウムにおける両性遺伝の同時掲載であった.母性遺伝の成立には,花粉の雄原/精細胞から物理的にオルガネラが排除される「物理的排除」に加えて,オルガネラDNAが選択的に分解される「選択的消化」のシステムが特に重要である.色素体とミトコンドリアが,母性遺伝するか両性/父性遺伝するかの運命の分岐点は花粉第一分裂直後であり,雄原細胞内のオルガネラ内のDNAは分解されるか増幅するかのどちらかに二極化する.本稿では,被子植物にみられる細胞質遺伝の複雑さと多様性を念頭において解説する.
著者
佐藤 繭子 若崎 眞由美 後藤 友美 豊岡 公徳
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.25-29, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
11

電子顕微鏡の試料固定には,大きく分けて化学固定法と凍結固定法がある.凍結固定法の利点として,化学固定法で起こる物質の流出や変形を防げること,生命現象を高い時間分解能で固定できること,免疫金染色法での抗原の保持が良いことなどが挙げられる.凍結固定法にはいくつかの方法があるが,大きな細胞をもつ植物試料には高圧凍結法が適している.我々はこれまでに,シロイヌナズナ,タバコの各種組織・培養細胞の他,単細胞藻類などについて高圧凍結/凍結置換法で電子顕微鏡解析を行ってきた.これまでに得られた技術的知見や課題について,実例を挙げて紹介する.
著者
森山 陽介 河野 重行
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-9, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
40

動物や植物,原生生物を含む多くの真核生物において有性生殖の際にミトコンドリアの母性遺伝(片親遺伝)現象が普遍的にみられる.これは生殖細胞が同型であるか異型であるかを問わない.母性遺伝について最も受け入れられている仮説は,受精前あるいは受精後にオルガネラDNAが選択的に分解されるというものであった(Kuroiwa et al. 1982, Kuroiwa 1985).我々が真正粘菌を用い,片親由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)が接合子の形成後に選択的に分解されることを明らかにしたことは,この仮説の直接的な証明となった.また,粘菌の性(接合型)は二極に収斂しておらず複数存在することから,性依存的にmtDNAが選択的に分解される機構について多くの手がかりが得られる.本総説では真正粘菌を用いることで明らかになったミトコンドリアの母性遺伝の機構について紹介したい.
著者
武田 征士
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.95-99, 2013 (Released:2014-09-26)
参考文献数
44

植物にとって,花は次世代へ遺伝情報を伝える重要な生殖器官である.雄しべと雌しべは生殖そのものに関わる一方,萼(がく)は花器官を外環境から守り,花びらは虫や鳥などの花粉の運び屋を惹き付ける.花びらはこの役割を果たすため,最も多様性に富む植物器官に進化してきている.モデル植物のシロイヌナズナの研究を中心に,花器官作りのメカニズムが遺伝子レベルで明らかにされてきた.最近の報告を含め,植物にとって重要な「花びら作り」に関わる遺伝子とメカニズムについて述べる.
著者
水多 陽子 栗原 大輔 東山 哲也
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.25-30, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
24

生命現象を生きている状態,かつ生体内で観察することは極めて重要である. 近年,生命科学の分野では,様々な蛍光プローブを用いたイメージング技術の発展や,撮像機器の開発により,細胞や組織内外における分子のリアルタイムな挙動が次々と明らかになってきた.2光子励起顕微鏡は深部到達性,低浸襲性といった,生体深部のイメージングに適した特性を持つ顕微鏡である.我々は植物の深部で起こる生命現象を「生きたまま」解析するため,2光子顕微鏡を用いて植物組織の深部イメージングに挑戦してきた.本稿では,最新の2光子励起顕微鏡を用いた植物深部のin vivoイメージングについて,その特徴と利点を簡単に紹介したい.
著者
栗原 大輔 水多 陽子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.81-86, 2017 (Released:2018-04-06)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

蛍光タンパク質を用いることにより,一細胞レベルだけではなく,オルガネラ,あるいは一分子レベルでの蛍光観察が可能となってきている.しかしながら,植物には,不透明なからだ,内部に気相を含む器官構造,クロロフィルを初めとする自家蛍光物質という,多くの障害が存在する.そのため,切片などを作製することなく,外部から直接,植物の内部形態を蛍光観察することは困難であった.近年,内部を均一な溶液で満たし,またクロロフィルを除去することで,からだを透明にし,丸ごと植物組織を蛍光観察する透明化技術が開発されてきた.本総説では,各種透明化技術の長所・短所を紹介し,実際に透明化技術を用いて蛍光観察する上で注意する点について解説する.
著者
山口 貴大
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.79-85, 2009 (Released:2011-12-26)
参考文献数
23

被子植物の葉は,一般に向背軸の極性を持ち,光受容に適した平たい構造をしめす.一方,単子葉植物では,単面葉という,葉身が背軸面だけで構成される葉を持つ植物が多く見られる.この単面葉は,単子葉植物における葉の極性制御機構を解明するための独自の発生学的研究材料となりうるとともに,繰り返し進化や収斂進化といった,生物進化の過程で広く見られる現象の機構を明らかにするための,優れた進化学的研究材料にもなりうる.私は単面葉の発生進化機構の研究モデルとして,葉の形態が多様で,分子遺伝学的研究に適しているイグサ属植物に着目し,独自の分子遺伝学的研究基盤を整備するとともに,その発生進化機構に関し,新規な知見を得つつある.本稿では,被子植物における葉の向背軸の極性制御機構に関する最新の知見を概説するとともに,単面葉の発生進化機構に関する研究の進展状況,そして今後の研究の展望および可能性を議論したい.
著者
豊岡 公徳 若崎 眞由美 武田(神谷) 紀子 佐藤 繭子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.3-9, 2020 (Released:2021-03-29)
参考文献数
21

走査電子顕微鏡(走査電顕 scanning electron microscope: SEM)は,細く絞った電子線で試料表面を走査させることで生じる反射電子や弾き出された二次電子などを検出し, 像を得る電子顕微鏡である.これまで医学・生物学分野においてSEMは, 光学顕微鏡(光顕)の分解能では捉えられない表面微細構造の観察に用いられてきたが,その利用は主に試料の表面解析に限定されていた.近年,SEMの検出器や電子銃といった機器の高度化, そしてオスミウムコーティングや固定法など試料調製法の改良により,様々な観察法にSEMを活用できるようになってきた.本稿では,切片 SEM法や光-電子相関顕微鏡法(CLEM),イオン液体観察法,凍結割断法など,表面解析に限らないSEM による組織・細胞の新しい捉え方を示し, それにより得られた知見を紹介する.
著者
竹内 美由紀
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.19-23, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
33
被引用文献数
1 3

二次イオン質量分析法(SIMS)による元素イメージングの生物試料分析への利用が近年広がっている.元素の検出感度が高くすべての元素が検出可能であり,また高い二次元分解能を持つSIMS装置であるNanoSIMSを用いたイメージングでは,電子顕微鏡での形態観察に近い高分解能で元素あるいは同位体分布を分析することができる.そのため安定同位体による標識物質の利用と合わせて,動物細胞や微生物内での物質移動や代謝の定量解析等において様々な成果を挙げている.本稿ではNanoSIMSについて装置の概要と元素イメージングの生物試料への応用について紹介する.
著者
藤浪 理恵子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.47-52, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
41

維管束植物の根頂端分裂組織(RAM)の構造は,種子植物でみられる開放型や閉鎖型,シダ植物大葉類の1つの頂端細胞をもつものなど,多様性に富む.根の多様性がどのように獲得されてきたのか,根の進化過程を解明するために,現生の維管束植物で原始的なグループと考えられているシダ植物小葉類のRAM構造を明らかにすることとした.小葉類はイワヒバ科,ミズニラ科,ヒカゲノカズラ科から構成され,それらのRAMは4つの構造に分けられることが示唆された.ヒカゲノカズラ科は2タイプのRAM構造をもち,1つは始原細胞群が中央で共通し,被子植物の開放型に似た構造をもつタイプ(type I),2つ目は原表皮の始原細胞群が1細胞層で,その他の組織の始原細胞群と区別されるタイプ(type II)であった.ミズニラ科はtype IIと似たRAM構造であるが,原表皮と根冠の始原細胞群が共通する点でtype IIと区別された(type III).そして,イワヒバ科のRAMは1つの頂端細胞をもつことから頂端細胞型とした.細胞分裂動態解析から,type Iのヒカゲノカズラは種子植物の静止中心(quiescent center, QC)の分裂動態によく似たQC様領域をもつことが明らかとなった.一方,type II, type III, 頂端細胞型のRAMにはQC様領域はなく,真葉類とは異なる特徴を示した.小葉類のRAM構造は多様に進化しており,真葉類との比較が可能であると推測される.本稿では,維管束植物の根の形態進化について,現生の小葉類のRAM構造と分裂動態から議論する.
著者
野村 真未 石田 健一郎
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.47-51, 2017 (Released:2018-04-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1

細胞が細胞としてあり続けるため,また自己増殖するためには,エネルギー生産や細胞分裂は欠かすことができない機能であり,これらの機能はすべての細胞が持ち合わせている.一方,主に単一の細胞のみで生活する微細藻や原生生物に目を移してみると,各々の細胞は実に多様で,特殊な機能を有していることが分かる.例えば,珪藻の細かくて精巧なガラスの殻形成や,ハプト藻のハプトネマの急速なコイリング,渦鞭毛藻のベールを使った捕食,そして,有殻アメーバの細胞外での殻形成など,これまでの細胞研究から得られた知見では説明できない現象が多数存在する.本稿では,有殻アメーバの殻形成という現象に焦点をあてた.有殻アメーバは,仮足以外の細胞質を殻の外に出すことはなく,殻を細胞分裂に先立って新たに構築し,新規殻へ娘細胞を送り込むという分裂様式を持っている.驚くべきことに,新規殻は細胞外の鋳型のない空間に,レンガ状の鱗片を仮足を使って積み上げることで構築される.Paulinella chromatophoraは,安定した培養系の確立された数少ない有殻アメーバの一種である.我々は,P. chromatophoraを材料として,有殻アメーバによる被殻構築という現象が,細胞のどのような構造や機能により引き起こされるのかを理解することで,細胞が持つ機能の可能性を探ってきた.
著者
中山 北斗 山口 貴大 塚谷 裕一
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.89-94, 2013 (Released:2014-09-26)
参考文献数
30

Asparagus(アスパラガス)属植物は,鱗片葉となった葉の代わりに,本来は側枝が発生する葉腋の位置より,仮葉枝と呼ばれる葉状器官が発生する.またこの器官は,属内で形態が多様化していることが知られている.しかしながら,その発生位置と葉状の形態のために,これまで仮葉枝の起源は不明であった.そこで私たちは,このアスパラガス属における新奇葉状器官の獲得とその形態の多様化の過程を明らかにすることを目的として研究を行なってきた.属内の系統関係において,最基部に位置する種であるA. asparagoides(クサナギカズラ)を用いて解析を行なった結果,仮葉枝は,側枝に葉の発生に関わる遺伝子群が転用されることで,葉状の形態となった器官であると考えられた.加えて,形態の多様化の過程を明らかにするために,クサナギカズラよりも派生的な種で,棒状の形態の仮葉枝を有するA. officinalisにおいても解析を行なった.その結果,棒状の形態の仮葉枝は,形態学的および遺伝子発現レベルにおいて,背軸側化していることを明らかにした.そのため,属内の種分化の過程で,転用された遺伝子群のうち,向背軸極性の確立に関わる遺伝子群の発現パターンが変化することにより,形態が棒状に変化したと考えられた.本項では,このアスパラガス属の仮葉枝の進化を例に,植物の新奇器官の獲得とその形態の多様化の過程について述べたい.
著者
大田 修平 河野 重行
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.19-23, 2019
被引用文献数
1

<p>植物や藻類のカロテノイドは光合成のアンテナ色素や抗酸化作用などの役割をもつことで知られている.単細胞緑藻の一種であるヘマトコッカスはβカロテンを前駆体としてアスタキサンチンと呼ばれる赤いカロテノイドを産生し細胞内に蓄積する.最近の研究によりこのアスタキサンチンは油滴に含まれ,βカロテンやルテインなどのカロテノイドと異なり葉緑体の外側に存在していることが明らかになった.このことからアスタキサンチンは葉緑体に局在するカロテノイドとは本質的に異なる機能を有することが示唆される.タイムラプスイメージング解析を行うと,油滴に含まれるアスタキサンチンは光に応答して細胞内を能動的に移動し,強光を遮断している現象が見られた.ハイパースペクトルカメラやフリーズフラクチャーレプリカ法によるイメージング解析の結果,ヘマトコッカスはアスタキサンチンを用いて光の強弱に対する巧妙な適応戦略を発達させ,強光を回避していることが明らかになった.</p>
著者
広瀬 侑 池内 昌彦 浴 俊彦
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.41-45, 2017

<p>シアノバクテリアは,1990年代に光合成生物として初めてゲノムがシークエンスされ,光合成のモデル生物として利用されてきた.一方で,シアノバクテリアは多様性の大きな微生物群であり,我々は,シアノバクテリアの光合成アンテナが補色的に調節される光応答(補色順化)の分子機構の多様性について解析を進めている.これまでの解析により,シアノバクテリア門において,補色順化が緑・赤色光感知機構を持つフィトクロム様受容体に制御されていること,補色順化のシグナル伝達経路が2種類存在すること,光色調節を受ける光合成アンテナ遺伝子セットは4種類以上存在することを明らかにしている.さらに,これらの光色感知機構の分布は16Sリボソーム配列に基づく系統樹との相関関係が低いことから,水平伝播による進化が示唆される.今後,より大量の塩基配列情報に基づいた解析を行うことにより,シアノバクテリアの多様な光合成機構の実態が明らかになっていくことが期待される.</p>
著者
西村 芳樹
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-16, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
26

ミトコンドリア(mt)や葉緑体(cp)の遺伝子は多くの生物において母親のみから遺伝する(母性遺伝).これまで母性遺伝は,父母の配偶子(精子・卵子)の大きさが異なり,mt/cpDNA量に差があることが原因と考えられてきた.これに対し,雌雄同形の配偶子で生殖をおこなう単細胞緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)では,接合後60分以内に雄の葉緑体(cp)DNAが積極的に分解されることで母性遺伝が引き起こされる.本レビューでは,この雄葉緑体DNAの急激かつ選択的な分解を明らかにしてきた生化学,細胞学,顕微分子生物学的研究の数々について俯瞰し,さらに母性遺伝の分子機構に迫りつつある遺伝学的な挑戦について述べる.
著者
大井 崇生 山根 浩二 谷口 光隆
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.19-25, 2020 (Released:2021-03-29)
参考文献数
26

試料を薄切片にして透過観察すると,組織や細胞の内部構造を平面像として捉えられる.二次元の平面像の解釈は研究者の知識や経験に基づく想像力に補われて三次元の全体像が理解されてきたが,複雑に入り組んだ構造や,切断方向によって異なる断面像を示す構造を精確に把握することは困難であった.しかし,試料を何十,何百枚という連続切片にして一枚ずつ撮影し,それらを画像解析ソフト上で順々に積み上げる三次元再構築法を用いることで,細胞やオルガネラを立体的に捉えることが可能となる.本稿では,走査型電子顕微鏡(SEM)に集束イオンビーム加工装置(FIB)を内蔵した装置内において切削と観察を繰り返すことで精確に連続切片像を取得できるFIB-SEMを用いた三次元解析について,イネ(Oryza sativa L.)葉身の葉肉細胞の解析例を紹介する.細胞の端から端までを超薄切して三次元再構築することで,イネの葉肉細胞のような複雑に入り組んだ細胞の外形や,その内部の葉緑体などのオルガネラの構造を立体的に捉えることが可能となることに加え,二次元の断面像からは精確な推定が難しかった体積や表面積の定量も可能となる.対象の一部分のみを見る断面観察だけではなく,全体を包括的に捉える三次元解析を行う意義についても議論したい.
著者
根本 知己 川上 良介 日比 輝正 飯島 光一郎 大友 康平
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.31-35, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
15

2光子励起レーザー顕微鏡(2光子顕微鏡)は,低侵襲性や深い組織到達性といった特徴のため,神経科学を中心に,免疫,がんなどの他領域にもその使用が爆発的に広がっている.植物の研究領域においても,葉緑体の自家蛍光を回避することが可能であるため,2光子顕微鏡の利用は増加している.我々は2光子顕微鏡の開発とその応用に取り組んで来ているが,最近,生きたままでマウス生体深部を観察する“in vivo”2光子顕微鏡法の,新しいレーザー,光技術による高度化に取り組んでいる.特に共同研究者の開発した長波長高出力の超短パルスレーザーを励起光源として導入することで,生体深部観察能力を著しく向上させることに成功した.この新規“in vivo”2光子顕微鏡は,脳表から約1.4 mmという世界最深部の断層イメージング,すなわち,生きたマウスの脳中の大脳新皮質全層及び,海馬CA1領域のニューロンの微細な形態を観察することが可能になった.一方で,我々は超解像イメージングの開発にも取り組み,細胞機能の分子基盤を明らかにするために,形態的な意味での空間分解能の向上にも取り込んでいる.特に,我々は新しいレーザー光「ベクトルビーム」を用いることで,共焦点顕微鏡や2光子顕微鏡の空間分解能の向上にも成功した本稿では,我々の最新の生体マウス脳のデータを紹介しつつ,2光子顕微鏡の特性や植物組織への可能性について議論したい.
著者
栗原 大輔
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-89, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
46

細胞周期の中でも細胞分裂期はダイナミックな染色体動態を伴う過程であり,その動態の美しさは古くから研究者たちを魅了している.安定した遺伝情報の継承のために必須な染色体動態は,様々な分子が関わる精巧なメカニズムによって制御されている.染色体分配に失敗すると直接異数染色体につながり,遺伝情報のバランスに狂いが生じ,細胞死やガン化を引き起こすため,動物の研究では医薬の分野も含めて精力的に研究が行われているが,植物ではほとんど明らかになっていない.著者らはこれまで,シロイヌナズナ,タバコを用いて染色体動態を制御する分裂期キナーゼ,オーロラキナーゼの同定および機能解析を進めることによって,植物における染色体動態制御機構を明らかにすることを進めてきた.本稿では,近年次第に明らかになりつつある染色体動態の制御機構とともに,植物における染色体動態研究の現状と展望を解説する.