著者
金 孝淑 ポター デビット サンパニュエン クンディダ
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.27-36, 2010

本稿では2004年発生したスマトラ沖地震と津波を事例として取り上げ,メディア報道におけるNGOの情報提供者としての役割を分析した.そのために,日本,アメリカ,韓国,シンガポールの4カ国で刊行されている代表的な日刊紙の記事を分析し,NGOによる情報提供の量と内容の比較分析を行なった.その結果,国別,新聞別NGOによる情報は,援助活動と現地状況に関する情報が圧倒的に多く,他組織に関するコメントは少数に留まるという共通の傾向が見られた.一方,NGOの所属と種類には,いくつかの国際NGOを除けば,新聞間でほとんど共通点が見られなかった.NGOによって提供される情報は,津波関連記事の中でより正確な現地状況を把握するための情報を提供するという一定の役割を果たしている.しかし,それはNGOによる情報の中でも少数に過ぎず,これまでの研究が指摘するように,津波関連記事に掲載された情報の多くは政府機関や国際機関に大きく依存していたことを確認した.<br>
著者
森 裕亮 新川 達郎
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.11-22, 2013 (Released:2013-07-11)
参考文献数
31

本稿は,自治会の全部または一部でNPO法人生成を選択し,地域コミュニティを再組織化する取組みに着目し,そのメカニズムと効果を明らかにする.自治会は地域コミュニティの中心的組織だったが,戦後の社会経済変化の中で衰退の傾向にある.しかし,昨今の地方財政逼迫の折,地域コミュニティの地域課題解決機能が政治的社会的に期待されるようになった.そうした状況で,幾つかの地域が自治会を基盤としたNPO法人設立を始め,地域課題解決に向けて自治会とNPO法人との関係を作ろうとしている.本稿は,事例研究を行うが,選んだ事例は二つである.一つは,自治会全世帯参加で,NPO法人システムが自治会システムに依存するタイプ,もう一つは,有志参加で,NPO法人システムが自治会システムに必ずしも依存せず独立的なタイプである.本稿の発見は,第1に,NPO法人生成は,地域コミュニティの組織(自治会)リーダーによって認知された「パフォーマンス・ギャップ」と既存資源によって促進されていること,第2に,2事例ともに自治会とNPO法人の連動・分担は達成されていたが,前者事例ではメンバー間の葛藤が生じていること,一方,後者事例では自治会とNPO法人との分離の潜在性があることを指摘する.
著者
馬場 英朗 石田 祐 奥山 尚子
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.101-110, 2010

NPO法人の財源については,事業収入のような自律した財源を伸ばすべき,寄付や会費などの多様な財源も確保すべき,といった様々な議論が行なわれている.本稿では,NPO法人の収入構造と財務的持続性の関係について,大阪大学NPO研究情報センターが公開するNPO法人財務データベースを用いて,計量モデルによる実証分析を行なった.その結果,短期持続性については事業収入を集中的に拡大することが有効であり,中長期持続性については寄付金や会費などの多様な財源を獲得することが有効であると判明した.現在,多くのNPO法人では日々の業務に追われ,ファンドレイジング活動に労力を割けないという実態がある.しかし,寄付などの幅広い財源を確保できなければ中長期的に疲弊して,NPO法人が活動を持続できなくなる可能性がある.パネルデータや寄付及び事業収入などの内訳情報を入手して引き続き研究成果を積み上げることにより,NPO法人がとるべき収入戦略を探る必要がある.<br>
著者
石田 祐
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.49-58, 2008 (Released:2009-03-19)
参考文献数
37

これまで日本では,非営利組織の自立性について,現場の実践的な見地からその重要性について指摘がなされてきた.アメリカを中心とした先行研究では,複数の財務指標を用いてNPOの脆弱性を評価したり,事例研究から団体の変化を記述したりしながら,理論的かつ実証的な分析がなされている.一方,日本においてはいまだそれらの議論や検証はほとんどなされていない.そこで本論ではNPO法人が資金獲得を行っている財源の多様性に着眼し,全国のNPO法人の財務データを用いてHHIを算出し,被説明変数として用いた.説明変数には,活動分野や団体の活動規模,活動年数や所在地などの団体属性や地理的条件を考慮した.トービット・モデルによる推定を行った結果,活動分野によっては資金獲得を行う財源の多様性が低くなっている一方,支出規模,活動年数,そして所在地特性によって多様性が高まっていることが示された.
著者
馬場 英朗 石田 祐 五百竹 宏明
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-10, 2013

利害関係者が重視する財務情報について,欧米では様々な実証研究が行われているが,日本では寄付者がどのような財務情報を選好しているか,実態が明らかで ないままに寄付の税制優遇拡大やNPO法人会計基準の導入が議論されている.本研究では,寄付者等が重視する情報項目をアンケート調査で明らかにするとと もに,模擬的な財務データを示して寄付者等が指向する財務情報の傾向を分析した.その結果,寄付者等は主観的には寄付金収入が重要であると考えても,実際には事業収入が大きい財務データを選択する傾向が有意に見られた.その一方で,人件費が少なく,事業費が大きな財務データを明確に選好するにもかかわら ず,寄付者等の主観的重要性との間には有意な関係が見られなかった.今回の研究では,サンプル数が少ないといった課題も残るが,寄付者が持つ潜在的な判断基準を明らかにすることは,非営利組織の経営方針を定め,適切な情報公開を行う上で有用である.Empirical studies regarding which financial information is preferred by stakeholders have been conducted in western countries. By contrast, there is no research to investigate this situation in Japan even though practical and policy discussions have occurred on expanding preferential tax treatment for contributions and the introduction of accounting standards for specified nonprofit corporations. This paper investigates a trend in which financial information is sought by donors and, using a questionnaire survey, reveals which information items donors emphasize. As a result, actually it was found statisticallysignificant that the donors prefer to choose the financial structure that has larger program revenue even though they subjectively consider revenue from contributions to be important. On the other hand, this paper could not find statistically consistent relationships between the donors’ subjective rating of importance on information items and their preference of financial structure, even though they precisely chose items such as smaller payroll costs and larger program expenses as their financial structure preferences. Although based upon a small data set, this paper reveals latent decision criteria that donors hold, which is useful in setting management policy in nonprofit organizations, and gives guidance on the disclosure of appropriate financial information.
著者
井田 淳 梅本 勝博
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.37-45, 2003 (Released:2004-01-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿の目的は,NPOにおける知識の重要性を指摘し,野中の組織的知識創造理論を基にNPOのナレッジ・マネジメントの枠組みを構築することである.NPOの知識創造とは,多数の個人の思いをはっきり言語化してミッションに表現し,それを正当化基準として,新たな知識を創造・実行する中で,社会にその有効性を認知させ,そのミッションを実現していくプロセスである.本研究から,生活者,専門家,利害関係者の持つ知識の活用,開放的な場の設計,ミッションの明確化,知識の蓄積および不足している知識の組織外からの獲得,リーダーに必要なソーシャル・キャピタル,交渉能力,説得能力などが示唆された.また,8項目からなるNPOのナレッジ・マネジメントの実践的方法論も提示した.