著者
大木 幸子 星 旦二
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1+2, pp.25-35, 2006 (Released:2006-12-19)
参考文献数
25

本研究は都市での住民による健康な地域づくり活動を取り上げ,活動を担っている住民のエンパワメントの過程及びコミュニティの生成過程を抽出することを目的とした.その上で健康な地域づくり活動による公共性形成の可能性を考察した.調査協力者は2つのグループのボランティ14人であり,半構造化面接によりデータを収集し,修正版グラウンデッド・セオリーにより分析した.その結果,担い手のエンパワメント過程では〈地域の風景の存在〉,〈内なる対話〉,〈他者との対話〉,〈地域とつながる自己像の獲得〉のカテゴリーが得られた.他方,コミュニティの生成過程として〈他者との対話〉,〈地域のまなざしの醸成〉,〈地域のアクチュアリティの深化〉,〈地域の解決力の形成〉が抽出された.これらの2つの過程は〈他者との対話〉を結節として循環していた.またこのようなエンパワメントされた地域づくり活動は,縁側機能,対話,協働,交流を基軸にして小さな公共性を形成する活動として位置付けられる可能性が示唆された.
著者
申 斗燮
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.169-176, 2002 (Released:2003-04-23)
参考文献数
20

社会発展のためには,経済だけではなく,文化芸術,社会福祉,教育,宗教,政治などの分野の発展も重要である.韓国におけるNPO団体の活動は,1980年代の後半から始まり,いままで活発に行われてきたが,文化芸術分野においての活動は,他の分野に比べ,遅れてきたといわれている.しかし,90年代の後半からは,文化芸術分野の活動と関連産業にも力が注がれ,急速に発展してきたことがわかる.さらに,今日のように消費者の多様な欲求に応えるためにも,非営利文化芸術団体の活動は非常に重要である. 本研究では,NPOとしての文化芸術団体の活動と財政状況を考察する.特に,NPOの財政状況に大きな影響を与える税制を検討することで,韓国の非営利文化芸術団体の財政状況を論究する.
著者
田中 弥生 馬場 英朗 渋井 進
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.111-121, 2010

NPO法人数の財政的な持続性などの経営課題が顕著になっている.しかし,NPOなどの民間非営利組織の財政面に関する分析や評価手法は,1990年代に入ってようやく米国を中心に開発された分野である.また,日本ではデータベースが不在であったために,定量的な分析はほとんどなされてこなかった.そこで本研究では,NPO法人のパネル・データベースを構築し,財務的な評価ツールを開発することによって分析を行ない,NPOの持続性にかかる実態と促進・疎外要因を明らかにしようとした.ここでは,主たる収入要素及び持続性指標間における順位相関を算出した上で,持続性確保に至る道筋を,共分散構造モデルを用いて構築した.その結果,事業収入は収入規模の拡大に寄与するが,財務的持続性の向上にはあまり貢献しないこと,その一方で,寄付や会費などの社会的支援収入は収入規模の拡大には寄与しないが,財務的持続性の向上に貢献することが明らかになった.<br>
著者
澤村 明
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1+2, pp.37-45, 2006 (Released:2006-12-19)
参考文献数
14

本稿は,日本の経営学界でNPOおよび関連領域がどのように研究されているかについての,2005年までの先行文献のサーベイである.日本国内におけるNPOの経営学的研究の状況は,日本NPO学会を中心に何本かの論文が発表されているものの,あまり盛んとはいえない状況である.ただし,経営学系の大きな学会でもNPOをテーマとしたワークショップが開催されるほか,数点の論考も発表されており,決して無視されている状況ではない.注目すべき論者が数人登場しており,今後の展開が期待される.
著者
馬場 英朗 BABA Hideaki
出版者
日本NPO学会
巻号頁・発行日
2005-12

(C)日本NPO学会:このデータは、日本NPO学会から許諾を得て、J-stageから引用しています。Original text is available at : https://www.jstage.jst.go.jp/article/janpora/5/2/5_2_81/_article/-char/ja/
著者
藤井 敦史
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.107-115, 2021 (Released:2022-04-30)
参考文献数
17

本稿は,イースト・ロンドンのコミュニティ開発の現場で用いられている連帯の技法であるシティズンズUKのコミュニティ・オーガナイジング(以下,COと略)について取り上げ,その特徴と意義について論じることを目的としている.COのエッセンスは,人々の自己利益を明らかにし,共有できる集合的な利益を構築することで,人々の間の関係性,すなわち,信頼関係や協力関係を作り上げ,社会変革を可能にするパワーへと変換していくということにある.そして,実際のアクションの際には,抽象的で曖昧な問題を責任の所在が明確で,取り組み可能な具体的課題へと分解してターゲットを明確にした上で,試行錯誤と学習を続けながら漸進的に社会変革を目指す.このようなCOは,異質なものの間の連携を作り出すことが下手な日本の市民社会にとって重要な連帯の技法となるのではないだろうか.また,今日,「政治的疎外感」が蔓延している中で,COは,「分断のポピュリズム」を越えて,真の意味での「民主的なポピュリズム」の形成にとって資するものと言えるだろう.
著者
岩田 憲治
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-18-00020, (Released:2019-11-07)
参考文献数
27

活動分野別のNPO研究は,法定の20分野によるのが多い.しかし,活動実態を見るには,活動分野を更に分けるのが有効である.そこで本研究は,NPO法人の活動分野を細分して,収入構造の多様性を明らかにするとともに,小規模NPO法人の活動を概観した.その結果下記の3事象が分かった.なお資料は,東京都をはじめ7都府県の14,336法人の事業報告書等である.第1に,収入源が一般の印象と異なる場合がある.例えば,保健医療福祉分野の主な収入源は,障害者福祉制度の給付金であり,介護保険法の給付金は障害者福祉制度の41.5%に過ぎない.第2に,事業収入がないか,あるとしても少額な小規模法人が多い.しかし,少額な収入であっても,ミッションの実現に向けて活動を続けている.そのため,NPO活動全体の議論には,大規模法人に偏ることなく,小規模NPO法人を含めるのが妥当である.第3に,事業収入比率の多寡により全法人を区分すると,高率(80%以上)法人と低率(10%未満)法人の2極に分かれる.
著者
馬場 英朗 石田 祐 奥山 尚子
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.101-110, 2010 (Released:2011-08-06)
参考文献数
20
被引用文献数
2

NPO法人の財源については,事業収入のような自律した財源を伸ばすべき,寄付や会費などの多様な財源も確保すべき,といった様々な議論が行なわれている.本稿では,NPO法人の収入構造と財務的持続性の関係について,大阪大学NPO研究情報センターが公開するNPO法人財務データベースを用いて,計量モデルによる実証分析を行なった.その結果,短期持続性については事業収入を集中的に拡大することが有効であり,中長期持続性については寄付金や会費などの多様な財源を獲得することが有効であると判明した.現在,多くのNPO法人では日々の業務に追われ,ファンドレイジング活動に労力を割けないという実態がある.しかし,寄付などの幅広い財源を確保できなければ中長期的に疲弊して,NPO法人が活動を持続できなくなる可能性がある.パネルデータや寄付及び事業収入などの内訳情報を入手して引き続き研究成果を積み上げることにより,NPO法人がとるべき収入戦略を探る必要がある.
著者
小田切 康彦
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1+2, pp.33-45, 2019 (Released:2021-01-01)
参考文献数
31

本稿の目的は,政治学分野における「NPO研究」をレビューし,その動向と課題を明らかにすることにある.分析は,日本における1998年以降に刊行された16の政治学系学会誌に掲載されているNPO関連論文,および日本のNPO研究の専門誌であるノンプロフィット・レビューに掲載されている政治学関連論文の計115の論文を基に行った.分析の結果,政治学とNPO論とのインターフェースにあたる各理論間を接合する研究が不足していること,ボランティア,自発的結社,社会的企業,組合といったテーマの研究が不十分であること,質的研究に依存しており量的研究が少ないことなどが明らかになった.今後,「政治学におけるNPO研究」というアイデンティティを見いだす作業が,政治学・NPO論双方において求められる.
著者
新田 貴之
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1+2, pp.135-143, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
13

コロナ禍においてホームレス支援は,いかにして可能か.本稿は,ホームレス支援NPO仙台夜まわりグループが行ったホームレス支援活動を事例として,感染症拡大を避けなければならないという,これまで経験したことのない状況にあって,仙台夜まわりグループが,どのような決定を行ったのか,その決定に基づいてどのようにホームレス支援活動を行ったのかについて検討し,コロナ禍によって顕となったNPOの脆弱性と課題について考察した.その結果,万が一,ホームレスがコロナ感染症に罹患したとしても,また,「NPOスタッフ」やボランティアがコロナに感染したとしても,自己責任とされてしまい,感染症拡大において最もケアしなければならない社会的弱者に対する,そのケアの基盤は脆弱であることが明らかになった.
著者
田辺 大
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1+2, pp.71-80, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
35

本論文は,entrepreneurshipの日本語訳,さらにはsocial entrepreneurshipの日本語訳が日本では長年未整理のまま推移し,伴って,日本の起業文化にも影響が及んでいる課題を紹介している.本研究はsocial entrepreneurshipや関連する概念の日本語訳の検討を通じて整理を行い,ひいては日本の起業文化の進化への貢献を目的とする.研究方法の妥当性では,日本語訳の検証の確度を高めるため,対照言語学の視点を用いる.対照言語学は逆翻訳という手法を提供しており,日本語訳が正しかったのかを英語等に訳し直すことで,いわば翻訳の検算が可能になる.entrepreneurshipが「起業家精神」と日本語訳された課題として,起業は一連の過程(process)や仕組みでなく,「起業家は自己責任で孤独にがんばれ」と一個人の精神論に,つい誤解される向きが昭和以来の日本社会では支配的になってしまった.entrepreneurshipを「起業家性」,social entrepreneurshipを「社会起業家性」という日本語訳にする事を,その手法とともに本論文は提案し,日本の起業文化が精神論から脱却する貢献を目指している.
著者
田辺 大
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-21-00005, (Released:2022-03-10)
参考文献数
35

本論文は,entrepreneurshipの日本語訳,さらにはsocial entrepreneurshipの日本語訳が日本では長年未整理のまま推移し,伴って,日本の起業文化にも影響が及んでいる課題を紹介している.本研究はsocial entrepreneurshipや関連する概念の日本語訳の検討を通じて整理を行い,ひいては日本の起業文化の進化への貢献を目的とする.研究方法の妥当性では,日本語訳の検証の確度を高めるため,対照言語学の視点を用いる.対照言語学は逆翻訳という手法を提供しており,日本語訳が正しかったのかを英語等に訳し直すことで,いわば翻訳の検算が可能になる.entrepreneurshipが「起業家精神」と日本語訳された課題として,起業は一連の過程(process)や仕組みでなく,「起業家は自己責任で孤独にがんばれ」と一個人の精神論に,つい誤解される向きが昭和以来の日本社会では支配的になってしまった.entrepreneurshipを「起業家性」,social entrepreneurshipを「社会起業家性」という日本語訳にする事を,その手法とともに本論文は提案し,日本の起業文化が精神論から脱却する貢献を目指している.
著者
史 邁
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.55-65, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
55

本研究は,これまでのコ・プロダクション研究に残された課題を出発点とし,この概念が象徴する協働の意味と原理を理論の側面から考察している.結果として,第1に,利用者の生産的意義を積極的に捉え,それを協働の対象設定に包括したのは,コ・プロダクション概念構成上の最大の特徴であると言える.それは「協働」という行動を,利用者の自発的・非自発的関与を伴う個別のサービスからサービスシステム全体を対象とした,多様な次元に存在する一種の「属性」であることがわかった.第2に,社会サービスにおける協働の実践・実務に対して,コ・プロダクションは協働を「規範的価値」として主張するものではなく,また,生産的効率性の向上を一方的に追求するものでもない.この概念は,社会サービスの固有な普遍的・潜在的な属性として,従来の契約関係,ネットワーク,パートナーシップなどを統括したものであると考えられる.
著者
大西 たまき
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-10, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
41
被引用文献数
1

日本のフィランソロピーは近年著しい発展を遂げているが,フィランソロピーの概念と定義を包括的に整理した研究はまだ限られている.本論文の主たる目的は,フィランソロピーの定義を理解するための分析フレームワークを示唆し,日本のフィランソロピー研究を促す事にある.そのため研究の進む米国を中心としたフィランソピー研究のシステマティック・レビューを行い,定義を分析した.システマティック・レビューに際しては,近年の主要研究(Daly 2012, Sulek 2010a, 2010b)の他,各種文献データベース(ABI/INFORM, EBSCO, JSTOR)とインディアナ大学のPayton Philanthropic Studies Libraryを用い,フィランソロピー研究者の助言も得た.その結果,西洋のフィランソロピーの様々な定義と関連する社会的,政治的,文化的要因,そして時系軸と理論的観点からの類型化という2つの観点からフィランソロピーという概念がいかに捉えられてきたかを考察すると共に,この類型化と日本のフィランソロピー研究の発展との関連性にも触れる.
著者
馬場 英朗
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-92, 2005 (Released:2006-04-15)
参考文献数
38
被引用文献数
1

NPOは市民社会との関わりの中で活動を行っており,そのアカウンタビリティは法的なディスクロージャーに止まらず,広く社会に対して情報を公開することで果たされる.したがって,財務情報の公開が義務付けられていない現行の非営利法人制度では,アカウンタビリティが十分に果たされているとは言えないが,NPO法人制度の成立に伴い,NPOによる情報開示の重要性が明確化されたことは画期的である.その一方で,愛知県におけるNPO法人の財務データを分析した結果,NPO法人は社会からの資金的サポートを十分に受けておらず,実際には社会に対して大きな責任を負っているわけではないことが判明した.むしろ,補助金や委託事業を通じて行政から資金を得ている社会福祉法人や学校法人に対して,納税者に対する受託責任の観点から情報公開を義務付けるべきであり,アカウンタビリティとディスクロージャーとの間にあるミスマッチを解消する必要がある.
著者
坂本 治也
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-37, 2017

<p>本稿は,補助金や委託事業収入などの政府からの公的資金収入に財政面で依存することが市民社会組織によるアドボカシーにいかなる影響を及ぼすのかについて,日本の事例を題材に検討を加える.本稿では,「市民社会組織に対する政府の自立性の程度」と「政府への財政的依存がアドボカシーに与える非線形的影響」という2点に着目することにより,新しい理論枠組みを提起したい.独立行政法人経済産業研究所の「平成26年度日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」のデータを用いた定量的分析の結果,1)政府の自立性の高低によって政府への財政的依存がアドボカシーに与える影響の方向性は異なること,2)政府への財政的依存は,ある一定レベルまではアドボカシーに好影響を与えるが,一定レベルを超えると逆にアドボカシーに悪影響を与えるようになる,という逆U字型の影響をアドボカシーに与えること,が明らかとなる.</p>
著者
相藤 巨
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.45-53, 2015 (Released:2016-03-04)
参考文献数
11

本稿は,NPOに派遣された行政職員が,その派遣期間終了後に自らが所属している組織に対して,どのような手法で行政組織に協働の本質を伝えようとしたかについて,実例を交えて考察を行ったものである.派遣職員は行政組織へ戻った後,NPO及び協働への理解を広めるために様々な施策を展開し,NPOと行政それぞれがお互いの組織に対して抱いていた固定観念とでも言うべきものに対して,ある種の変化をもたらしたことが確認された.NPOへの派遣効果は,派遣された職員「個人」においては想定以上の効果があり,その個人が所属する行政組織内部における「集団」に対しても,一定の効果を確認することができたものである.今後は,職員「個人」としての変化をいかに「集団」を超えた「組織」としての変化に結びつけ,かつ,変化の永続性を担保していくのかに関する検証が,今後の研究における課題になると考えている.
著者
小川 大和
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-18-00006, (Released:2019-09-30)
参考文献数
23

協働における対等性は,和洋問わず,その基本理念・規範として謳われていることが多い.他方,実態としてそれは必ずしも確保されていないとの主張は多い.それでは,行政と市民セクターを対等に近づけるにはどうすればよいか.本論文では,協働における対等性に影響を与える要因に関する理論的モデルを提示した上で,無作為抽出した359の地方自治体の市民活動担当部署にアンケート調査を実施し,この問いに対して統計的に検証する.統計分析の結果,2007年との比較で両者の影響力の差は縮小傾向にあるものの,未だ両者を対等と言うことは難しいこと,そして,両者を対等に近づけるためには,行政は,①協働に関する条例を制定し,かつ,その中で対等性に言及すること,②市民セクターと頻繁に接触し,また,その信頼性を認識して,信頼関係を構築すること,③市民セクターとの協働の経験を蓄積すること,④両者の間で役割分担等を明確にしたパートナーシップ協定を締結しておくこと,⑤市民セクターがその得意分野を発揮することにより,両者の関係を対等に近づけていくことは可能であることが示唆された.
著者
永冨 聡 石田 祐 小藪 明生 稲葉 陽二
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-20, 2011 (Released:2011-12-20)
参考文献数
34
被引用文献数
2

これまでに個人の社会経済的属性と社会活動参加の関係,もしくは地域集団そのものの研究がなされてきたが,他者との対面でのつながりと社会活動参加の関係については必ずしも十分に明らかにされてこなかった.そこで本稿では,個人の生活空間における他者との対面でのつきあいが,地縁的な活動への参加に与える影響について定量的な分析から検討を行うこととした.全国を対象としたアンケート調査データを用い,ロジット・モデルによる推定を行った.その結果,次の2点が示唆された.一つは,地縁的な活動への参加には近所づきあいだけでなく,親戚・親類づきあい,スポーツ・趣味・娯楽活動を通じたつきあいの活発さが影響を与えている可能性があること,もう一つは,地縁的な活動への参加の影響要因と同様の対面づきあい要素が,ボランティア・NPO活動への参加の促進に対しても正の有意性を持つ可能性があることが示唆された.これらを踏まえると,今後は地縁的な活動,ボランティア・NPO活動への参加を一体的に高める取り組みの方向性を模索し,その制度化や具体化を進めていくことが一つの方向として望まれよう.
著者
野口 寛樹
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-33, 2012 (Released:2013-04-06)
参考文献数
24

NPOにおいてミッションはその根幹にあり,組織が存在する理由である.よってNPOにおいてミッションを知ることは重要となる.またミッションを語る上で,多くの質的研究が積み重ねられて生きた反面,実際にNPOで使われている言葉を使用した量的研究は散見した限り少ない.本稿の目的は探索的定量研究に基づきNPOにおけるミッションの全体像を描写することにある.本研究では京都府認証NPO法人を中心に(2009年11月時点,N=1036,解散を含む),その定款から目的の項にある文を抽出し,ミッションマネジメントの概念を中心にテキストマイニング,ネットワーク分析を行っている.抽出された頻出語の傾向から,仮説構築的にミッションが抽象化しすぎることの問題,またミッションにおける同型化の議論,そして他分野間における協働可能性の指摘を行った.本研究が量的研究の方法論,議論の更なる深化のための一つの嚆矢となることを願う.