- 著者
-
河内山 隆紀
- 出版者
- 株式会社国際電気通信基礎技術研究所
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
本研究は,複雑な手指運動学習課題における運動技能の両手間転移に関する神経機構の解明を目標としている。本年度は,主に昨年度構築した実験システムを用いて実験を行なった。被験者は,健常な男女40人であり,複雑な手指運動学習課題である健身球の回転運動課題を課した。両手間転移が評価できるように被験者を4群に分け,すなわち,右手から左手への転移を評価する群とその逆を評価する群に加え,それぞれに転移を生じない統制群を設けた。脳活動計測は,昨年来より共同研究を行っている生理学研究所の磁気共鳴画像装置(MRI)を用いた。MRIを撮像中に(1)ビデオ監視システムによる球の回転運動計測と(2)被験者の腕より導出した筋電図(EMG)計測を行ったが,解析の結果より被験者の行動は球の回転運動計測から評価することとした。その結果,行動学的には,学習に伴う,球の軌道分散が減少し,また回転角加速度の上昇が見られた。また脳活動計測データより,転移前では,運動学習に伴う,小脳、運動前野、補足運動野、体性感覚野、後上頭頂葉の活動減少が見られたが,転移後のデータにはそのような変化は確認されなかった。また,転移後の運動では,補足運動野と運動前野の活動が転移前に比較して上昇していることが確認された。以上の結果より,転移の成立は,転移前の補足運動野と運動前野で生じた運動学習がプライミング的な役割を持ち,それが転移後の当該領域の脳活動上昇を導き,さらには行動学上の促進効果の表出をもたらしたことが予想される。現在,行動学的データと脳活動計測データの相関分析などを継続中であり,それらの結果を踏まえた研究成果を今年度中に専門雑誌へ投稿予定である。