- 著者
-
小川 健二
- 出版者
- 株式会社国際電気通信基礎技術研究所
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2011
ヒトは,自らの身体状態のイメージ(身体像)を脳内で動的に推定しており,さらに自己の身体像は他者認知の基盤ともなっていると考えられる(ミラーニューロンシステム仮説).また身体像は,日々変化する環境,あるいは身体や道具の特性に適応する必要があり,このためには運動指令や環境変化を予測可能な脳内の内部モデルの学習が不可欠である.そこで本研究は,このような身体像の基盤となる内部モデルの神経表象を明らかにするため,ヒトが2種類の感覚運動変換に適応した後の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(functional MRI)で計測し,それぞれの変換条件を表象する脳部位の特定を試みた.先行研究から,ヒトは複数の運動スキルを同時並行的に学習可能な点が示されているが,これは個々のスキルに対応した複数の内部モデルが脳内に獲得されているものと考えられる.実験ではジョイスティックを使った視覚トラッキングを用い,実験参加者は2種類の相反する回転変換(+90度または-90度)に同時適応した.そして,運動中のfMRI活動に対してマルチボクセルパターン分析(MVPA)を用い,変換条件が識別可能か検討した.また回転変換条件と,低次の運動キネマティクスとの違いを明示的に区別するため,2種類のターゲット軌跡パターンを設け,異なる変換条件と軌跡パターンの組合せに対する識別器の汎化精度を調べた.結果から,感覚運動野,補足運動野,および小脳前部の活動パターンを使って回転変換の識別が可能であった.本研究から,感覚運動関連野および小脳で異なる感覚運動マッピングが表象されていることが明らかとなった.