著者
森岡 真史
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済体制学会会報 (ISSN:18839797)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.33, pp.45-48, 1995-11-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
5

ソ連・東欧の体制転換は,社会主義システムにおける独裁と不効率とに対する徹底した批判者である現代オーストリア学派にとって有利な出来事であった.しかし同時に,これらの批判者は,そのように欠陥に満ちたシステムがなぜ数十年にわたって存続・成長しえたかという問題に説明を与える課題に直面している.特に,ミーゼスは,社会主義の不効率性だけでなく,実行不可能性をも主張してきたから,彼の社会主義批判と,ソ連・東欧などに見られた歴史上の社会主義の数十年間の存続とはどのような関係にあるのかという疑問が生じるのは当然であろう(Prychitko,1994,p.229).すなわち,もしもミーゼスが批判した社会主義と歴史上の社会主義とが同一ならばミーゼスの立場は破綻するし,逆に両者が全く交わるところがなければ,やはりミーゼスの社会主義批判の意義はおおいに減殺される.したがってミーゼスの社会主義批判に何らかの積極的意義を認めるならば,2つの社会主義がどの点で重なり合い,またどの点で異なるのかを,彼のソ連解釈の批判的検討を通じて明らかにすることが必要である.