- 著者
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河野 昌仙
- 出版者
- 独立行政法人物質・材料研究機構
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
1次元の厳密解と鎖間結合が弱い極限からの近似法とを組み合わせた方法によつて、異方的2次元フラストレート系の磁場中で現れる準粒子について調べた。その結果、今回得られた準粒子は、通常の磁性体の準粒子として知られているマグノンや1次元系の準粒子とは異なる様々な特異な性質を示すことが明らかになった。特徴的は振る舞いとして、磁化に強く依存した波数におけるスピン密度波型の非整合秩序、複数の準粒子による磁場中のクロスオーバー、高エネルギー領域に現れる強いスペクトル強度をもつモードなどを挙げることができる。これらの振る舞いは、通常の線形スピン波理論では説明することができず、また、発現メカニズム、動的構造因子の形状、秩序化の有無、次元性、統計性などにおいて1次元系の準粒子とは異なる。これらの特徴的振る舞いは、その発現メカニズムに起因している。つまり、通常のスピン波理論では、マグノンは自発的対称性の破れによって安定化するのに対し、今回の準粒子は1次元準粒子の鎖間ホッピングによつて形成される結合状態とみなすことができる。したがつて、発現メカニズムはマグノンよりもむしろフェルミ液体で現れる集団励起のものに似ており、基底状態の対称性の破れに依らず、個別励起間の多粒子プロセスによつて生じる。この意味で、今回得られた準粒子は、異方的2次元のスピン液体または、1次元準粒子であるプサイノン、反プサイノン、2-ストリングの準粒子の液体とみなすことができると考えられる。また、今回得られた準粒子描像によって、異方的三角格子反強磁性体Cs_2CuCl_4の磁場中で観測されていた様々な異常な振る舞いを統一的かつ定量的に説明することに成功した。