著者
大西 三朗 西原 利治
出版者
高知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

自己免疫疾患発症の頻度には性差が存在すること、胸腺摘除動物がしばしば自己免疫疾患類似の病態を示すことなどより、その発症に性ホルモンと胸腺の関与が示唆されてきた。しかし、どのホルモンがどのような機序で、どの胸腺細胞集団の成熟や免疫応答を修飾しているかについての知見は乏しかった。ようやく近時、卵巣摘除動物を用いた検討により、免疫応答に大きな変動をもたらす性ホルモンがエストロゲンであることが明らかになった。この事実はエストロゲンが蓄増する第二次性徴の発現以後に発症が増加することや、環境ホルモンが免疫系に作用して自己免疫疾患発症のリスクを高めているとの、提唱に合致する所見である。従来この領域の研究では、卵巣摘除動物やエストロゲンレセプター欠損動物が用いられてきた。しかし、卵巣摘除ではその機能廃絶があまりに多方面に影響を及ぼすため分子機構の解明には使用できなかった。また、エストロゲンレセプターは二種類存在し、その主体内分布も組織特異性が強く、エストロゲン欠落時の免疫系の変化を検討することしかできなかった。そこで、我々はエストロゲン合成酵素であるアロマターゼ欠損動物(ArKO)を作成(J Clin Invest 105:1619-1625,2000)し、内因性のエストロゲンが欠落した状態・生理的濃度内のエストロゲンを外因性に投与した場合・大量のエストロゲンを投与した場合について、詳細にその作用を解析した。今回の研究は生理的濃度内のエストロゲンが、どのような細胞集団にどのような機序で作用して免疫系を修飾するか、その機構を個々の細胞レベル、分子レベルで解明したもので、その解明により家族歴のある発症後間もない症例でのimmunomodulationをより容易とすることができ、臨床に耐える治療法の開発につながると考えている。
著者
林 和俊
出版者
高知医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

抗性腺作用を有するメラトニンと思春期発来との関連が注目されているが未だ明確ではない。我々は、メラトニンのゴナドトロピン分泌抑制作用は、Gn-RHのpulse generatorに作用し、LHpulseの発現を減弱させる機序に基づくことを明らかにしてきた。また、松果体のメラトニン産生能は、初回排卵後、排卵周期の確立過程で減少すること、さらに、このメラトニンの産生能動態に対して卵巣より分泌の増量がみられるエストロゲンが強く関与していることを明らかにしてきた。思春期のメラトニン産生能に及ぼすエストロゲンの作用機序を明らかにするためにラットを用いて卵巣摘除モデル、エストロゲン負荷モデルを作製し、メラトニン産生酵素である松果体内N-acetyltransferase(NAT)とHydroxyindole-O-metyltransferase(HIOMT)に注目し、検討した。NAT活性は、腟開口期の6週には有意に増量し、排卵周期確立過程の8週では減少、以後、同一レベルで推移し、メラトニンと全く同一の変動パターンを示した。一方、HIOMT活性は、4週より6週にむけて著増し、12週まで漸増する変動パターンであった。初回排卵が認められる6週に卵巣摘除を行うと、NAT活性は8週での減少は見られず、逆に有意の増加を示した。一方、HIOMT活性は正常群との差は見られなかった。6週に卵巣摘除し、エストロゲン(E2 benzoate)を連日皮下投与した群では、NAT活性は0.1μg投与群では、卵巣摘除で認められた増量を有意に抑制し、正常群と同一のパターンを示した。一方、HIOMT活性は0.1μg投与では正常群と同一のパターンを示した。1.0μg投与群では両酵素活性ともに正常群より有意に低値であった。以上の結果より、思春期から性成熟期にかけてのメラトニン産生能は、卵巣より分泌されるエストロゲンが主にNAT活性を強く規制することで調節されていることが示唆された。また、エストロゲンのメラトニン産生抑制作用はNAT、HIOMT活性を抑制することに基づくことが示されたが、その感受性には両酵素間で明らかな差があることも示唆された。
著者
椛 秀人 奥谷 文乃 佐藤 隆幸
出版者
高知医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

われわれは、数年に渡って、雌マウスに形成される交尾相手の雄の匂いに対する記憶のメカニズムを研究してきた。この匂いの記憶は妊娠の維持に不可欠である。この記憶の形成過程は、副嗅球へ投射する青斑核ノルアドレナリン神経の交尾刺激による活性化によって駆動される。われわれは、この記憶の神経・シナプス・分子のレベルのメカニズムを明らかにしてきた。この一連の記憶システムは、この系だけにとどまらず、母子の絆形成にも当てはまる性質のものであるとの考えで、検討を加えた。嗅球へ薬物の注入が可能なようにステンレス管を前もって植え込んでおいた妊娠21日目の雌ラットに、薬物の連続注入を開始し、これらのラットが分娩後に行う母性行動を観察した。行動の観察は主に母性行動の基本型である子運び動作、子なめ動作、授乳姿勢を計測した。興奮性アミノ酸受容体アンタゴニストであるD-AP5を注入しても、上記の母性行動に有意な変化は認められなかった。本結果は、妊娠の維持に不可欠な匂いの記憶の成立にNMDA受容体が関与しないことと一致していた。さらに、non-NMDA受容体アンタゴニストのCNQXの知果を目下、検討中である。ウレタン麻酔下の雌ラットを用いて、嗅球内情報伝達に対する青斑核の電気刺激の影響を検討した。青斑核の刺激は、顆粒細胞による僧帽細胞のフィードバック抑制を感じた。目下、この効果にかかわるアドレナリン作動性受容体のタイプを検討中である。さらに、青斑核と外側嗅索の連合刺激によって、このフィードバック抑制に可塑的変化が誘導されるか検討を加える予定である。
著者
川井 八重 住田 優子 土屋 紀子
出版者
高知医科大学
雑誌
高知医科大学紀要 (ISSN:13430793)
巻号頁・発行日
no.18, pp.101-110, 2002-12
被引用文献数
1

高知県N市の高齢者教室において,介護を要しない高齢者(N=51,男性:N=7,75.4±3.0才,女性:N=44,75.0±5.0才)を対象に,投影法及び自尊感情尺度を用いて,高齢者の介護意識について検討を行った。調査方法は,調査者が「要介護者を介護者が介護している絵で,2人のそれぞれに漫画の吹き出しがある絵」を提示し,吹き出しの中に自由に言葉を記載してもらう方法であった。さらに,調査者は被験者に「父・母・夫・妻・息子・娘・嫁・ホームヘルパー」の記載のある用紙を渡し,その中から要介護者を1者,介護者を1者,それぞれ選び出してもらった。同時に,被験者はRosenberg, M.の自尊感情尺度表を自記式で記載し,調査者はそれにもとづいて得点を算出し,関連性を検討した。検討の結果,以下の項目が考えられた。(1) 被験者は,介護者として「嫁・妻・娘」を想定していた。それは,従来の介護規範と同様であった。しかし80才程度以上の被験者では,従来の介護規範以外の介護者を想定していた。すなわち,「息子・ホームヘルパー・夫」を介護者として想定していた。(2) 被験者は,要介護者と介護者の関係を「痛苦を訴える要介護者を,激励しながら世話する」という形態で想定していた。また被験者は,要介護者が要求したことを介護者が無茶件に行うという想定をしていた。(3) 被験者のうち,年齢が高い被験者は自分を要介護者と想定し,若い被験者は介護者と想定する傾向が見られた。(4) 被験者のうち,自尊感情尺度得点の低い者は,悲観的な要介護状態を想定しやすい傾向が見られた。(5) 上記の(1)〜(4)の項目は,要介護者が依存的態度になり易いという傾向を示唆していた。
著者
宮原 正信 高橋 正彦
出版者
高知医科大学
雑誌
高知医科大学一般教育紀要 (ISSN:09123083)
巻号頁・発行日
no.1, pp.47-54, 1986-03-31

Mitochondrial dysfunction due to oxygen deficiency was studied in the systems of in vivo and in vitro using rat livers, and the following results were obtained The decrease in oxidative phosphorylation in mitochondria exposed to oxygen deficiency in vitro was improved by treating them with membrane stabilizing agents such as chlorpromazine and cepharanthine. The oxygen deficiency induced membrane deterioration involved in barrier function and the sensitivity to lipid peroxidation of the mernbranes. The agents protected the membranes from the above lesions without giving any effects on adenine nucleotide degradation in the absence of oxygen. Previous intravenous injection of cepharanthine (0.4mg/100g body weight) protected the mitochondria from the dysfunctions due to hepatic ischemia. From these results, in addition to our previous results, the mechanism of mitochondrial dysfunction due to oxygen deficiency was discussed.
著者
守屋 文夫
出版者
高知医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

尿中濫用薬物の簡易スクリーニングキットであるトライエージ(フェンシクリジン、ベンゾジアゼピン類、コカイン代謝物、アンフェタミン類、オピエイトおよびバルビツール酸類を同時に検出可能)を溶血液にも応用可能な試料の前処理法を考案した。本前処理法は、血液1mlにスルフォサリチル酸50mgを加えて除蛋白後、上清に酢酸アンモニウム25mgを加えて中和するといった極めて簡便かつ迅速な方法であり、僅か5〜10分で透明な除蛋白液を得ることができる。本前処理法を応用したトライエージスクリーニング法によるフェンシクリジン、ジアゼパム、ベンゾイルエクゴニン、メタンフェタミン、モルフィン、フェノバルビタールおよびセコバルビタールの最小検出限界は、それぞれ50ng/ml、900ng/ml、600ng/ml、1,000ng/ml、600ng/ml、900ng/mlおよび900ng/mlであり、中毒レベルのそれら薬物を検出するに十分な感度を有していた。但し11-カルボキシ-テトラヒドロカンナビノールの場合、除蛋白処理操作中に薬物が蛋白と共に共沈してしまうため、十分な検出感度を得ることはできなかった。腐敗試料では、細菌の代謝により産生されるフェネチルアミン等の腐敗アミンによりアンフェタミン類偽陽性となるため、結果の判定に際し注意が必要であった。なおフェネチルアミン単独では、5,000ng/ml以上の濃度でアンフェタミン類偽陽性となった。本スクリーニング法を法医解剖48例の溶血液および混濁尿に応用した結果、薬物検出感度および特異性にやや問題があるものの、法医学実務上非常に有用であることが確認された。
著者
阿部 真司
出版者
高知医科大学
雑誌
高知医科大学一般教育紀要 (ISSN:09123083)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1a-40a, 1988-12-10

In Koziki and Nihonsyoki we find out some genealogies and legends about Kibi province and Kibi Family-group. As their genealogies and legends are subject to the influence of Kasa-no-Omi family, one of Kibi Family-group, I suppose, they were written by Kasa-no-Omi family's original data which had been tendered to the Imperial Court. As the result of studying the meaning of 'Kasa (Hat) ', I conclude that the name of Kasa-no-Omi was derived from likening themselves to Kasatori family whose duty was to be a follower of Emperor and a guardian of the exorcising 'Kasa'.
著者
佐藤 隆幸 RAICU Valerica 川田 徹
出版者
高知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

開発に関する基礎研究シャイ・ドレーガー症候群では、延髄を中心とした神経変性のため血管運動中枢が冒される。そのため、動脈圧反射失調となり重度の起立性低血圧になる。そこで、圧センサー→人工的血管運動中枢→電気刺激装置→交感神経刺激装置→交感神経からなるフィードバックシステムを試作開発した。シャイ・ドレーガー症候群様の動脈圧反射失調を呈するラットでは、head-up tiltにより、数秒以内に動脈圧が60mmHgまで低下するが、本装置を埋め込んだラットでは、head-up tiltによる動脈圧低下を検知した人工的血管運動中枢から、自動的に電気刺激の頻度が増加し、動脈圧の低下が防止された。さらに、その機能的ダイナミクスは、生体固有の動脈圧反射と類似していた。すなわち、本装置が、生理的な血管運動中枢の機能を代行できたことになる。以上のようなことから、シャイ・ドレーガー症候群の起立性低血圧を克服するバイオニック動脈圧反射装置の開発は可能であると結論づけられた。ヒト動脈圧反射のダイナミクスの同定法の開発バイオニック動脈圧反射装置を臨床応用するためには、まず、ヒトの動脈圧反射のダイナミクスを同定する必要がある。しかし、その同定方法が未確立であった。そこで、新しく同定方法を開発した。健常男子(20-30歳)の撓骨動脈をトノメータ法で測定しながら、チルトベッドのチルト角を0か30°に4秒毎にランダムに変えた。ついで、動脈圧反射を開ループにするために、トリメタファンを持続投与しながら同様の計測を行った。チルト角変化が動脈圧変動に与える影響を伝達関数として記述した後、動脈圧反射の開ループ伝達関数を推定した。開ループ伝達関数の定常ゲインは5.4±2.1で、入力周波数の増加とともに、ゲインが減衰する低域通過特性を示した。遮断周波数は、0.02Hz付近であった。