著者
鈴木 幸久
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ポジトロン断層法(PET)を用いて,原発性眼瞼痙攣症例18例(男性5例,女性13例,平均年齢53.2±7.6歳)の脳内中枢性ベンゾジアゼピン受容体密度を測定した。正常人19例(男性9例,女性10例,平均年齢50.3±9.2歳)をコントロールとした。PET画像は,Automated Medical Images Registration(AMIR)プログラム(Ardekani 1995)を用いて三次元的に個々のMRIに合致させた。各症例のMRIを見ながら,正常人および眼瞼痙攣症例全例に対し PET画像に関心領域(ROI)を設定した。ROIは,両側の視床,尾状核,被殻,島皮質,弁蓋部,一次体性感覚野に設定し,各部位のベンゾジアゼピン受容体密度を半定量し,各値は各症例の全脳平均の値で補正した。各部位の値について,複合T検定を用いて検定した(P<0.05/12=0.0041)。両側の島皮質,弁蓋部,一次体性感覚野に有意なベンゾジアゼピン受容体密度の低下がみられた。眼瞼痙攣はジストニアの一型と考えられており,ジストニアの病因として,GABA抑制系の異常(Levy 2002)や体性感覚の異常(Odergren 1998)が提唱されている。中枢性ベンゾジアゼピン受容体は,GABA_A受容体と複合体を形成しており,中枢性ベンゾジアゼピン受容体密度の低下は,GABA抑制系の異常をもたらすと推測される。また,島皮質および弁蓋部は,視覚,体性感覚などの入力が存在し,二次の体性感覚野とも呼ばれている。そのため,島,弁蓋部および一次体性感覚野の中枢性ベンゾジアゼピン受容体密度の低下によって,GABA抑制系の異常や体性感覚の異常が引き起こされ,それが眼瞼痙攣発症の一因である可能性が考えられる。
著者
大竹 登志子 菊池 和則 前川 佳史 石井 腎二 菊池 和則 前川 佳史 石井 賢二
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高齢者の排尿障害に対して,現状では泌尿器科あるいは婦人科外来で対応しているが,まだ十分とはいえない.そこで当事者本人がアクセス可能な「さわやか(排尿)相談室」を導入し,その効果をみた.成果として,1)排尿状態の現状と本人の理解度と日常生活実態が分かりやくし,高齢者が記入しやすい冊子「さわやか日誌(排尿日誌)」と「高齢者排尿問題解決問診表(老研・大竹版)」を作成した.2)個別の面談ケアにより,高齢者の排尿問題解決に面談ケア方法という手法が開発され,このシステムを東京都老人医療センターに導入した.
著者
田中 康一
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

大脳皮質シナプスにおけるアセチルコリン合成活性やそのレベルには加齢変化はないものの、脱分極刺激によるアセチルコリン放出が老齢シナプスにおいて低下することが種の違いを超えて認められた。この老齢シナプスにおけるアセチルコリン放出低下は、放出のトリガーとなるカルシウムイオン流入低下によることがカルシウムイオン蛍光指示薬を用いた実験で明らかとなったため,シナプスにおける電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)の加齢変化を調べることを目的とした。大脳皮質シナプス膜のVDCCサブタイプの分布を各サブタイプに特異的なブロッカーを用いて調べたところ、L型チャネルが27%,N型チャネルが32%,P型チャネルが27%,Q型チャネルが23%であった。個体の老化によってP型チャネルの分布は全VDCCの16%となり,成熟期のラットに比べて著しく減少していた。さらに,シナプス膜への放射標識ブロッカーの結合実験によって,VDCC密度の加齢変化を検討した。その結果,25ヶ月齢では、L型,N型,Q型チャネルのBmax値,すなわち最大結合サイト数が6ヶ月齢に比べそれぞれ50%,35%,52%と顕著に減少していた。このVDCC密度の減少が、カルシウムイオン流入低下の直接の要因となっていることが推察された。また,L型チャネルブロッカー結合に対するKd値が老齢シナプスで成熟動物シナプスに比べて大きな値を示すことが認められた。この結果は、L型チャネルのブロッカーを結合するサブユニット(おそらく、α1サブユニット)の加齢による構造変化を反映している可能性を示唆していると思われる。以上,本研究の結果から、大脳皮質コリン作動性シナプスにおけるアセチルコリン放出低下とそれに伴うシナプス可塑性の加齢低下の根底には、電位依存性カルシウムチャネルの分布や密度の異常が関与していることが強く示唆された。
著者
浅川 理
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

(目的)痴呆患者の介護者における介護負担と医療機関へのニーズの実態を明らかにする。(対象・方法)東京都老人医療センター痴呆専門外来を、平成7年9月から平成8年2月までに受診した患者とその介護者のうち、精神科医が診察した28例を対象とした。患者背景、長谷川式知能スケール(改)(HDS-R)、問題行動評価尺度(TBS)、N式日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)、および介護者における受診理由、介護負担度、受診後の負担感の変化、満足度、自己評価抑うつスケール(SDS)などについてアンケート調査を行った。(結果・考察)受診理由は、診断確定35.4%、痴呆自体の治療31.3%で、精神症状などの問題行動の治療や応対方法の指導29.2%であった。介護負担度は、限界および負担ながらも家庭介護継続可能60.7%、十分家庭介護に余裕あり32.1%であった。診察後の負担感の変化は、減ったものが57.0%であったが、かえって増したものも7.1%であった。外来での診察・説明で、満足できたもの71.3%だったが、不満足としたものも28.5%であった。不満の理由には、患者診察のみで家族の悩みを聞いてもらえなかった、進行の見通しや具体的な応対方法についての説明がほしかった、診断が確定してかえって絶望感が増した、などがあった。介護負担度別にHDS-R、TBS、N-ADL、SDSを比較したところ、介護負担が高い群でHDS-R、N-ADLの点が低く、TBSの点が高かった。また、介護負担が高い群でSDSの点が高く、介護者に抑うつ傾向が強く現れていることもわかった。以上から、負担感の強い介護者のニーズは、診断や痴呆に対する治療以上に、精神症状の治療や具体的な応対方法の指導・心理的サポートであることが示唆された。今後さらに例数を増やし、適切な治療的アプローチを検討していく必要がある。
著者
佐久間 尚子
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

年をとると言葉が思い出しにくくなり、しばしばスムーズな会話ができなくなる。こうした加齢にともなう語想起困難のメカニズムがどのようなものかを検討する目的で、健常成人の各年代を対象に、単語を種々の条件下で想起させ、単語の発音までの時間(音読潜時)を指標とした縦断研究(5年間の継時的変化)を行うことを企画した。当初は、視覚刺激が1msec精度で提示でき、音声スイッチによって発音までの時間が計測できるAVタキストスコープを用いて音読潜時を測定しようとした。しかし、5年間の短い期間で健常成人の加齢変化を鋭敏に捉えるには、刺激提示の精度ばかりでなく、音読潜時の正確な測定も必要となる。従来は、発声にともなう音圧が一定レベルを越えた時点を発話開始の時点とみなし、この時間までを音読潜時としてきた。しかし、この方式では、発音の出だしから強い音声が出るものはうまく検出できるが、出だしが弱い音声は開始時点をうまく検出できない可能性があり、問題がある。そこで本研究では、最初に、音読潜時を正確に測定するシステムを作成し、次に、健常成人の実験データを得ることにした。今回は、従来の音声スイッチによる時間計測に加え、その前後の音声を録音し、後で音声解析を行って、正確な音声の開始時点を求める方法を用いた。若年成人10名に、平仮名1文字の音読潜時を求めたところ、出だしから強い音声が出る母音(あいうえお)は、音声スイッチと実際の発話潜時との差が平均20msec以内になるのに対し、出だしが弱い摩擦音(例:さしすせそ)はその差が平均100msec以上となり、音声の種類によって音読潜時が変わることが明らかとなった。以上より、単語の音読潜時を指標とする場合は、条件間で語頭をそろえる必要性が確認されたので、現在までに語頭を揃えた種々の刺激リストを用意した。今後は、各年代の健常成人を対象とした音読実験を行い、5年間の継時的変化を検討する予定である。
著者
權 珍嬉
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

今年度は,1)介入後6ヶ月間の追跡調査を行い,介入効果がその後,筋力維持,さらには筋力維持による生活機能の改善,食生活の改善,SF-36,血液検査の結果値,介護保険申請状况などを検討すること,2)介入前後,追跡調査結果の分析を行って筋肉減少症を予防することを目的とした3ヶ月間の栄養と運動の介入プログラムの実施による健康や栄養状態の改善維持に及ぼす影響について検討することを目的とした。「運動+栄養(29名)」「運動(27名)」,「対照群(28名)」の3群に分けて3ヶ月間の栄養と運動の介入プログラムを実施した後,平成19年3月22・23日に介入後の調査を行った。地域に在住する虚弱女性高齢者を対象に筋肉減少症を予防することを目的とした3ヶ月間の栄養と運動の介入プログラムの実施による健康や栄養状態に及ぼす影響について分析した。分析は,介入プログラム参加率の50%以上者を対象に行った(運動+栄養群25名,栄養群22名,対象群28名)。その結果,介入により「栄養と運動」群で食品摂取多様性が有意に高くなり,SF-36では日常役割機能(身体)体の痛み,日常役割機能(精神),心の健康が有意に改善されたことが明らかになった。血液検査ではPrealbuminが高くなり,身体機能では通常歩行速度や最大歩行速度が有意に速くなった。介入後6ヶ月間追跡し,平成19年10月8 9日に追跡調査を行い76名が参加した。調査内容は,面接聞き取り調査(健康度自己評価,転倒,食生活,SF-36など),身体計測および体力評価(体重,筋肉量,筋力(握力),バランス能力(片足立ち),歩行速度(通常・最大),採血検査である。追跡調査後,本研究の「非介入群」を対象に「運動+栄養群」に実施した栄養と運動プログラムを提供した。
著者
七田 恵子 矢部 弘子 巻田 ふき
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究の目的は、痴呆性老人のケアのための評価項目を探査することにある。看護婦は、痴呆性老人の身体的異常を早期に、的確に、察知し、対応しなければならないが、熟練した看護婦はあまり意識せずに適切に対処している。そこで、痴呆性老人の健康状態の変化を、看護婦がどのように察知し、どう判断するか、幾つかの方法により分析を試み、ケアにつながる評価項目を見出だそうとした。(1)老人専門病院の病歴から精神症状および身体症状が記載してあるものを探し、どう対処したか拾い出す、(2)臨床場面での看護婦の判断とその根拠について討議した、(3)老人専門病院の入院患者記録から入院時症状と確定診断名との関連を分析した。その結果、痴呆性老人の健康状態が悪い時は、表情、会話、意識状態、活動性、日常生活の変調といった全身状態として表現されることがわかった。ぼんやりしている、会話が少なくなった、日常生活での動きが悪くなったなど、身体症状というより、生活上に変調をきたす現れ方をした。痴呆群では、自覚的訴えができないためか、歩行困難、出血、発熱、喘鳴、黒色便、転倒、呼吸困難といった他覚症状で入院していた。家族は相当重い他覚症状が発現しないと受診しないようである。痴呆患者は、自覚症状の訴えが少なく、他覚症状、全身症状、生活上の変調に注意して観察し、評価しなければならないと結論された。
著者
沢辺 元司 村松 正明 田中 紀子 池田 仁子
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は遺伝子多型解析という最新の手法を用いて、心筋梗塞、脳血管障害などの基礎病態である動脈硬化症の発生に関係する遺伝子を同定する事である。対象症例はセンターで行われた約2,000例の連続病理解剖症例であり、冠状動脈、脳動脈などの全身10動脈の動脈硬化度と各種遺伝子多型の関連を解析した。その結果、炎症性サイトカイン、葉酸代謝に関係する酵素、リポタンパクの遺伝子が動脈硬化症に関係していることを見つけた。