著者
今間 俊博 斎藤 隆文 阿部 翔悟
出版者
Japan Society for Graphic Science
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.13-23, 2013-09-01
被引用文献数
2

本研究の最終目的は,労働集約型産業であるアニメーション制作の効率を上げ,映像としての作品の品質を向上させるために,作業のコンピュータ化を行う事である.これまでに,日本式アニメーションが持つ様々な要素を,モーションキャプチャと3DCGによって成立させるために,必要となる基礎的な研究を行って来た.その中で注目すべき点は,モーションキャプチャが捉える物理的な動きと,2次元セルアニメにおける視聴者への受け取られ方の問題がある.これは,物理的な真実である「リアル」と,人間が感じる真実味である「リアリティ」が必ずしも一致しない場合があるという問題でアニメーション制作において重要な要素のひとつである.さらに,映像上のリアリティを向上させるために施される,アニメーション映像における誇張表現の手法と適応度合い,および適用範囲についての取り組みとしての,モーションフィルター技術があげられる.また,現状のトゥーンシェーディングの品質と自由度の向上も重要な要素である. 本論文では,モーションキャプチャによって得られる動きをグループに分類分けし,各々の動きにおける誇張表現の方法と程度について,日本式2次元セルアニメに適用する方法を確定させる事を目的としている.
著者
朝倉 恵美 面出 和子
出版者
Japan Society for Graphic Science
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.11-18, 2013

受胎告知は,大天使ガブリエルがマリアに,主によるイエスの懐妊を告知する新約聖書中の教義である.しかし,受胎告知図は,典拠に具体的で詳細な説明がなかったため,画家によって様々に解釈され,創作されてきた.本研究では,中世から近代までに描かれた多くの《受胎告知》のうち,絵画を213点収集し,《受胎告知》における空間表現を年代別,地域別に分類した.さらに,それらの絵画空間を図学的に考察した.その結果,地域,時代によって表現は変化しており、ルネサンス以降のイタリアでは, アルベルティの理論の影響が大きかったと考えられる.また,一点透視図的に描かれた作品は153点あったが,画面上の消失点の位置を,イタリアと北ヨーロッパ地域の作品で比較すると,イタリアではマリアと同じような高さであり,北ヨーロッパでは下方にあって,情景全体を見下ろすような視覚で描かれるような異なった特徴が見受けられた.
著者
小山 清男
出版者
JAPAN SOCIETY FOR GRAPHIC SCIENCE
雑誌
図学研究
巻号頁・発行日
vol.32, pp.73-78, 1998

われわれが日常的に眼にし、また用いる漢字には、長い歴史があり、形の上で多様に変化して現在に至っている。漢字は本来象形文字であって、対象となる具象的なものの形を、線によって単的にあらわし、それが文字としての意味を担うようになった。形としてみれば、それらはすべて線の構成によって成り立っている。したがってこれを図学的にみることも、必らずしも不当なことではないと思われる。主として甲骨文では、写実的であったものが、しだいに形を変えて、金文、篆文となり、それが整理されて現在の明朝体の活字となった。その変遷の過程に、図形としての興味深いものがいろいろみられる。本研究では、まず平面図形としての漢字の特質を瞥見し、さらに図学的な視点から、漢字の原初的な形が、正投象における平面図、立面図、断面図、また透視投象的なものから、どのように現在の漢字が形成されてきたかをみるとともに、それらに関連する絵画作品と対置してみていこうとする試論である。なお、図学の分野を広げるとともに、それをいくらかでも親しみやすいものにしようとする、図学教育への想いも、ひそかに含まれているといえるかもしれない。
著者
安福 健祐 榎本 拓朗 阿部 浩和
出版者
Japan Society for Graphic Science
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.19, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
9

本研究は,建築空間の色彩と肌理をパラメータとして制御可能な没入型の仮想環境において,二つの住宅モデル(ル・コルビュジエ設計のラ・ロッシュ邸およびルイス・バラガン設計のヒラルディ邸)を再現し,被験者による空間スケールと印象評価実験から,色彩と肌理が空間認識に及ぼす影響を明らかにした.スケール評価テストおよび描画テストでは,被験者がVRヘッドセットを装着して,各住宅の実際のスケールの選択と平面図の描画を行った.その結果,ヒラルディ邸は実際のスケールと同じもしくはわずかに大きく認識されるのに対し,ラ・ロッシュ邸は小さく認識される傾向がみられた.さらに,VRヘッドセットを装着して各住宅の空間印象をSD法により評価した結果,色彩と肌理の違いによる印象の差に特徴がみられた.
著者
長 聖 佐藤 尚
出版者
JAPAN SOCIETY FOR GRAPHIC SCIENCE
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.57-62, 2005

本研究では、カメラから取り込んだ実写映像を元に非写実的な効果を生成することを目的とし、その手法を提案した。12世紀に描かれた鳥獣人物戯画などの絵巻物からわかるように、日本では昔から「アニメ的マンガ的」な絵が作られてきた。そして、現在ではセルアニメーションという非写実的な表現にスピード感などを与える手法としてカトゥーンブラーが頻繁に用いられている。そこでカトゥーンブラーによる強調表現に着目し、現実の映像に強調表現を付加することで視覚的な補助や、新たな映像表現としての効果を期待し、自動的に写実的な映像へ非写実的な強調効果を生成することにした。非写実的な強調表現の代表として「線」と「残像」の2種類の規則を定め、実装した。本研究における最大の特徴は3段階処理における残像輪郭線の生成である。残像輪郭線を生成するために時間的に連続した画像を3コマ用意し「フレーム差分二値化処理」、「共通部分抽出処理」そして「膨張・共通部抽出処理」の処理を施すことによって輪郭線を抽出、生成し残像輪郭線とした。残像輪郭線を利用することによって「残像」の描画を可能とし、残像輪郭線の時間経過による移動関係を求め、その移動位置を利用することによって「線」の描画を可能とした。しかしながら、実験により新たに「色変化が複雑な背景では正しく残像輪郭線が検出できない」、「映像として効果が不自然に連続的」そして「速い動きに対応できない」などといった問題が発生した。
著者
早坂 洋史 森田 克己 松岡 龍介
出版者
JAPAN SOCIETY FOR GRAPHIC SCIENCE
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.57-58, 2001

図形認識力における男女差は、よく知られているにも拘わらず、その理由は必ずしも明白ではなかったように思われる。A.Peaseらは、彼らの著書『話を聞かない男、地図が読めない女』の中で、人は性によって異なった構造の脳、いわゆる男脳と女脳を有しているとし、その構造の違いにより種々のシチュエーションでの行動パターンが異なっているとしている。例えば、一般的に女性は男性に比べ地図を読むのが苦手だったり、方向音痴だったりするのは、この脳の構造の違いによるものとしている。もしこれが本当ならば、特に図形を取り扱う図形科学系の授業でも、この男脳・女脳を考慮しての教授法の展開が必要となってくると考えられる。本報告では、A.Peaseらが提案している、男脳・女脳テストを紹介すると共に、男脳・女脳テストを著者らが所属する大学で実施した結果につき述べる。男脳・女脳テストの被験者数は、三つの大学で合計257名 (男109名、女148名) であった。テスト結果の点数により、男脳・女脳の分布図を作成した結果、男脳・女脳のオーバーラップ域 (150~180点) に約1/3の学生が含まれること、この範囲を男脳側に20点広げ、130~180点とすると、約半数が含まれること、男性のみの傾向としては、男脳側の130点と90点にピークを有すること、女性のみの傾向として、オーバーラップ上限値の180点と男脳域の100点の両方に二つのピークを有することなどがわかった。また、北海道大学社会工学系の学生 (男35名、女10名) の傾向と上述の全体傾向との比較の結果、約8割弱は男性であるにも拘わらず、オーバーラップ上限の180点にピークを有し、80~230点までの広範な学生層であることなどが明らかになった。今後の課題としては、男脳・女脳テスト結果と図形科学の成績や切断面実形視テスト (MCT) の点数などとの関連性、専攻の違いによる男脳・女脳テスト結果の違いや傾向、などについての詳細な検討は、今後の課題である。
著者
徐 弘毅 兼松 祥央 茂木 龍太 鶴田 直也 三上 浩司 近藤 邦雄
出版者
Japan Society for Graphic Science
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.11, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

日本のロボットアニメは長い歴史を持ち,多くの傑作が制作されている.また,戦闘シーンはロボットアニメにとって重要なシーンの1つである.本研究では,ロボットアニメにおける戦闘シーン制作のための構図設計支援システムを提案する.そのため,既存のロボットアニメ10作品から,2531の戦闘シーンを抽出し,ロボットの行動,カメラの動き,ショットサイズなどを分類した.また,これらの分類を用いてカメラワークや構図に関するデータのライブラリを開発した.このライブラリを用いることで,ユーザーは戦闘シーンを制作する際に,演出意図に合わせたカメラワークを検索可能である.開発したライブラリを用いた実験の結果,このライブラリは特に映像経験のないユーザーにとって有用であることが分かった.このことから,ディレクターなど映像制作ツールの取り扱いを専門としないユーザーでも容易に戦闘シーンの構図設計が可能である.