著者
出村 光一 久保 縁
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, 1961

1951年にWilkinsonは,chronic vesicular impetigo of the trunkという表題で,高令の婦人にみられた2症例を報告している.即ち躯幹,大関節屈側面に膿,水疱性の皮疹が群生し,次第に遠心性に拡大して連圏状,或いは不規則地図状になり,皮疹はやがて結痂を形成する.病変はその辺縁部に於て殊に著明である.自覚症状は特記すべきものではなく,全身状態も良好である.組織学的所見としては,角層下に水疱形成があつて,その中に多核白血球を入れる.真皮に軽度の炎症々状をみるが,その他に特記すべき所見は無い.水疱内容の培養を行つて,その1例にStaph. aureusを証明している.治療としてはD.D.S.或いはsulfapyridineが効果的であつたが,再発の傾向があつた.この報告に対してSneddonは,彼が矢張り全く同様の症例を1947年の国際医学会の席上に供覧したが,同席せる皮膚科医諸氏,何れもその診断を附するのに困難を覚えたことであつた,と追加発言した.その後1956年にSneddon and Wilkinsonは,この様な症例を6例集めて観察し,これ等は,在来の分類では,その位置付けが困難である,一つの独立疾患に属するものと見做さるべきであるとなし,そのclinical entityに対してsubcorneal pustular dermatosis(S.P.D.)なる名称を用いて詳細に報告した.かくして独立疾患としての本症の輪廓が次第に明かになるや,その後は相次いで類似症例の報告がみられ,現在に至る迄に欧米では27例,本邦では我々の症例の他に去る1959年9月の東京地方会に於て,横浜警友病院から1例の供覧患者が報告されている.我々の症例も1959年10月の第23回東日本連合地方会,並びに第155回日本皮膚科泌尿器科学会新潟地方会に於いて報告されたものである.
著者
野波 英一郎
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, 1958

著者は皮膚電気生理学的現象一般に就て概説し,此の方面の主な文献を整理したのち,勝木式皮膚直流電気抵抗器を用い,亜鉛―水銀アマルガム電極によつて健常者及び各種皮膚疾患々者に就て皮膚直流電気抵抗を測定した.健常皮膚に於て皮膚電気抵抗発生部位は恐らく表皮透明層乃至顆粒層と考えられ,此の部の連続性が断たれると抵抗は著しく低下する.健常人に於て,室温18~22℃では身体部位的に顔面,腋窩,手掌,足蹠は爾余の諸部位に比し,抵抗値が極めて低く,左右対称部位では抵抗値が殆ど等しい.1日中時刻的には抵抗は昼間に低く,夜間睡眠時に最高,季節的には夏季高温時には温熱性発汗部位の躯幹,四肢の抵抗は低下するが,腋窩,手掌,足蹠の如き所謂精神性発汗部位では殆ど変動せず,身体部位差は消失する.局所加温は抵抗を低下させるが,鬱血は抵抗に影響しない.ピロカルピンは抵抗を低下,アトロピンは上昇させるが,アドレナリンは抵抗に著しい影響を与えない.ヒスタミン及び生理的食塩水膨疹局所の抵抗は高い.各種皮膚疾患の病変部電気抵抗を当該個体の対称健常部及び健常成人の同一部位の夫れと比較するに,湿疹,膿皮症,痒疹,紅皮症,乾癬,エリテマトーデス,水疱症,火傷,多汗症の病変皮膚では抵抗低く,蕁麻疹,鞏皮症,皮膚萎縮,レントゲン皮膚炎,癩,睡眠剤中毒疹,瘢痕の夫れは抵抗高い.発疹の種類との関係では紅斑,丘疹,水疱,糜爛の如く表皮変化を伴うものは抵抗低く,膨疹,皮膚萎縮,瘢痕の如く表皮破壊のないものでは抵抗が高い.一般に病変部は発汗が減退しており,病変部及び対称健常部局所にピロカルピン発汗試験を行うと,対称健常部は著明に発汗し,抵抗が著しく低下するのに対し,病変部は発汗せず,抵抗も変動しない.紅斑,丘疹,水疱,膿疱,糜爛面で抵抗の低いのは,表皮の肉眼的乃至超肉眼的の破壊の存在する為で,膨疹,皮膚萎縮,瘢痕等に抵抗が高いのは表皮の破壊がなく,所謂electrical barrierの連続性が保たれると共に,発汗が減少又は欠如している為と考えられる.癩,睡眠剤中毒疹の抵抗の高値も同様の原因に帰することができる.即ち皮膚電気抵抗は表皮の状態と発汗に大きく支配され,疾患別の特殊性よりも皮疹別に意味を有すると考えられる.而して表皮に破壊のない場合,皮膚電気抵抗の面から病変局所の発汗機能を窺うことが出来ると共に,之等皮膚病変の病勢の状態を知ることが出来る.本論文の要旨は昭和30年4月2日第54回日本皮膚科学会総会,昭和31年5月5日第55回日本皮膚科学会総会並びに昭和31年10月13日第19回日本皮膚科学会東日本連合地方会に於て発表した.
著者
慶田 朋子 川上 理子
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.41-50, 2006

妊娠中にみられる皮膚病変の傾向を調べるために,過去5年間に皮疹を主訴に聖母病院皮膚科を受診した妊婦614人について,疾患別にRetrospectiveな統計学的調査を行った.結果は湿疹・皮膚炎群が約半数(52%)を占め,各種感染症があわせて22%,痒疹・蕁麻疹群が15%,皮膚腫瘍が7%であった.これらを別の観点で分類すると1)妊娠による生理的な変化が2例(0.3%),2)妊娠に特異的な皮膚病変が57例(9.6%),3)もともとある皮膚疾患の妊娠による変化が41例(6.6%),4)妊娠と無関係な皮膚疾患が妊娠中に出現したものが517例(84.2%)であった.今回の統計の結果,妊婦の皮膚疾患のほとんどが湿疹・皮膚炎群を主として日常診療上しばしばみる皮膚疾患であり,妊娠が関連する皮膚疾患は15%程度であることが確認できた.その治療に関しては妊娠中であることから制限を受けるため,妊婦における湿疹,痒疹などの瘙痒性疾患の治療は,外用剤が中心となる.それで不十分な場合に,妊婦でも可能な内服薬についても考察を加えた.
著者
市橋 直樹 中谷 明美 中野 一郎 鹿野 由紀子 前田 学 森 俊二
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, 1991

37歳,女性.左手に軽い瘙痒を伴う辺縁隆起性紅斑出現.遠心性に拡大し数日で消退.同様な紅斑が全身に出没するようになり,他に,関節痛,朝の両手指こわばり感,両眼瞼腫瘍出現,精査加療のため入院.抗核抗体高値,低補体血症,免疫複合体高値,抗SS-A抗体陽性,抗SS-B抗体陰性.Sjogren症候群などを考え,生検.表皮基底層に液状変性なく,真皮上層の血管周囲に核塵形成を伴ったリンパ球を主体とする細胞浸潤を認めた.同部の免疫蛍光染色は,真皮表皮境界部に沿って顆粒状に抗IgG抗体陽性.抗IgA抗体も同様に陽性.以上より蕁麻疹様紅斑で初発したSLEと診断.尿検査成績より腎障害を疑い腎生検を行ったところ,全体として基本構造の改築,メザンギアル領域の拡大を認め,びまん性糸球体腎炎の像を呈していた.腎組織の免疫蛍光抗体染色では,毛細血管からメザンギアル領域にIgGの沈着を認めた.
著者
比留間 政太郎
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.9, pp.1295-1302, 2006

皮膚糸状菌症(白癬)の臨床像は,菌種,病変部位,宿主の免疫状態などに影響され,微妙に異なる.診断で大切なことは,真菌症を疑ってみることで,次に直接鏡検によって菌を証明することである.頭部白癬は,菌が硬毛に寄生して生ずるので,毛の寄生形態を観察する.体部白癬は,多種の菌が分離され,それに伴い当然多彩な臨床像を呈する.足白癬は,全人口の4分の1を占めるとこが明らかにされ,その治療の大切さが再認識されている.爪白癬は,新しい経口抗真菌薬が開発され治療が容易となった.今後爪白癬のより良い臨床評価基準が作られることが望ましい.治療は,白癬の病型・病態また個々の症例によっても治療方針は異なる.治療薬剤の特徴を考慮して決定する.治療期間は,表皮,毛,爪のターンオーバーの期間を考慮して決める.生活指導は大切で,その感染経路を考慮して指導する.
著者
磯田 憲一
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.83-88, 2015

インターネットは専門家やマニアだけが使うものではなくなり,電子メールやTwitter,Facebook,LINE,ブログそしてWeb検索など日常の連絡手段や情報収集手段としてだれもが活用するツールとなっています.しかし近年,インターネットを利用した犯罪が急増する中,自己防衛の手段を学ぶ機会は非常に少なく,その専門家も少ないのが現状です.今回,皮膚科医向けにインターネットを安全に使うための基礎知識をご紹介いたします.
著者
川島 眞 沼野 香世子 石崎 千明
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.969-977, 2007

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)患者の乾燥皮膚における医療用保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤,尿素製剤及びワセリン)の有用性を評価するために,角層水分量,経表皮水分喪失量(TEWL),皮膚所見及び痒みの程度を指標として,ランダム化比較試験を実施した.ADの炎症が鎮静化した乾燥症状を主体とする左右前腕屈側部を対象とし,試験薬を1日2回3週間塗布し,その後1週間は観察期間とし,対象部位にはいかなる処置も行わなかった.その結果,全ての保湿剤において外用期間中は角層水分量の有意な増加が認められた.なかでもヘパリン類似物質含有製剤群は,尿素製剤及びワセリン群に比べ,より高い角層水分量を示し,観察期間においてもその効果は持続した.皮膚所見及び痒みも,全ての保湿剤で有意な改善が見られたが,TEWLは改善しなかった.以上より,今回試験した保湿剤は,いずれもAD患者の皮膚生理学的機能異常を改善することが確認され,さらに,ヘパリン類似物質含有製剤は尿素製剤及びワセリンよりも優れた保湿効果を有することが示された.
著者
本庄 三知夫 山口 修一 甲田 直也 森 吉臣 西村 洋
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, 1985

全身の被角血管腫,ガーゴイル顔貌,精神運動発達遅延,成長障害,脊柱の変形,爪甲の白色ろう様変化,易感染傾向および発汗減少を呈し,酵素学的にα-フコシダーゼ活性低下を示した14歳男子例を経験した.血管腫の組織学的所見には真皮上層の拡張した毛細血管と拡張しない毛細血管の2種類のものが存在し,前者の内皮細胞は扁平となるが,後者のそれはエックリン汗腺腺細胞や汗管細胞と同様に胞体が腫脹し泡沫状物質を胞体内に容れる.正常部皮膚の組織学的所見は血管腫の組織像と基本的に同一であった.爪の組織学的所見は真皮結合織の増加による肥厚と末梢神経の腫大が多数みられた.血管腫の電顕所見にてエックリン汗腺腺細胞,血管内皮細胞の胞体内に一層の膜に包まれた電子密度の低い小空胞と小顆粒を認めた.またエックリン汗腺筋上皮細胞とシュワン細胞内に層板状を呈するミエリン様構造物質を認めた.
著者
戸倉 新樹
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.959-962, 2007

中波長紫外線(UVB)は皮膚免疫に対して抑制的作用をもち,UVB誘導性免疫抑制として過去30年間,光免疫学の中心的研究テーマであった.UVBを予め照射しておくと,癌免疫も接触過敏症反応も抑制される.この機序は現在でいうところの制御性T細胞(regulatory T cell)が誘導されるために起こる.その誘導メカニズムは現在でも明らかになったと言い難いが,Langerhans細胞の数的・機能的減弱,ケラチノサイトからの抑制性サイトカインやプロスタグランディンE2産生などが関わっていると考えられている.
著者
佐藤 敬子 影下 登志郎 小野 友道 荒尾 龍喜
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.95, no.13, 1985

悪性青色母斑(MBN)は,極めてまれな悪性腫瘍で,Allenら(1953)が6例報告して以来,現在まで30例が報告されたに過ぎない.今回我々は,23歳男性のMBN例を経験した.出生時より左耳介後面から左側頭部に青黒色斑が存在,12歳時より帽針頭大小結節が多数出現し,22歳時その中の1個が急速に鳩卵大腫瘤に増大した.組織学的には,青黒色斑,小結節,及び急速に増大した鳩卵大腫瘤が,それぞれ普通型青色母斑(Com.BN),細胞増殖性青色母斑(Cel.BN),MBNの像を示し,また電顕でMBNの腫瘍細胞は多数の脂肪滴を有しているのが特徴的であった.さらに,抗ヒトメラノーマモノクローナル抗体による免疫組織学的検討を行い,類円形や楕円形の腫瘍細胞が胞巣を形成してる部位では,主に細胞膜に一致した特異蛍光が認められた.併せて自験例を含め,現在まで報告されたMBN31例について,若干の文献的考察を行った.
著者
久米井 綾 吉田 康彦 今西 久幹 中川 浩一
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.1881-1884, 2011-08-20

28歳女性.自宅で就寝中,突然の激痛で目が覚めた.翌朝の初診時,右前腕と左下肢の激痛・発汗過多が見られ,右前腕の疼痛部の紅斑も観察された.臨床所見からは診断できなかったが,帰宅後,ベッドの上でセアカゴケグモの死骸を発見し診断がついた.文献的考察を加え,刺咬部位以外の症状が診断上重要であることを強調した.
著者
花田 勝美 山本 雅章
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, 1980

中心静脈栄養施行中みられた後天的 Zn 欠乏症3例について,毛髪,爪甲内 Zn の経時的変化を観察し,併せて,患者毛髪の光顕的観察,健常人毛髪断面の Zn 元素分析を試みた.その結果, Zn 療法後,毛髪,爪甲の Zn は血清 Zn に平行して上昇する傾向がみられ,とくに爪甲では Beaus line の出現を境として上昇を示していた.患者毛髪では毛髄の消失が著明であったが,健常人毛髪における X 線分析では毛髄にとくに高い Zn 分布はみられず,Zn 欠乏症患者毛髪の Zn 低下が毛髄の消失によるものでないことが知られた.毛髪,爪甲内 Zn 測定は,Zn 欠乏症の生体内 Zn蓄積を知る上で簡便な非観血的方法と思われた.
著者
麻生 和雄 近藤 慈夫
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.91, no.9, 1981

61歳男子の顔,躯幹,四肢に赤褐色丘疹を生じ,肺,肝に病変をともない慢性の経過をしめした Histiocytosis X の症例を報告した.皮疹の病理組織像は,表皮下の組織球浸潤で,多核および巨核細胞移混んじた.電顕所見では,これらの組織球細胞原形質中に Birbeck 顆粒をみとめた.浸潤組織球は酸フオスフアターゼ陽性, EA ロゼット形成が30%にみとめられた.これまでの文献症例9例とともに,本症例を成人汎発既慢性に属する Histiocytosis X 症例として報告した.